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第五章 アイルランドの女海賊と海賊団結成
5-1.ダイナマイトでドカン
しおりを挟む多くの人に見送られ、私の乗る帆船は、ケーニヒスベルクの港を出港することになった。
思い出の詰まった街並み、大聖堂とケーニヒスベルク城は、他の街と比べても引けを取らないぐらい美しいと思う。
しかし、この美しいケーニヒスベルク城も20世紀になると、ソ連がダイナマイトで破壊してしまった。
そして、破壊した後には、奇妙奇天烈なビルが建っており、とても優雅で気品のある城跡とは言えない。
その証拠に、知事からは「街の恥。撤去しなくてはいけない」とまで言われているようだ。
さて、私たちは、このバルト海をコペンハーゲンを通り、デンマークの最端の岬のスカーイエンを通り、ロッテルダムへ行く予定になっている。
ロッテルダムにアインス商会の支店があるようだ。
ロッテルダムは、ライン川の下流になるので、ここから陸路で帰宅するのも良し、ボン辺りまで、船で上っても良しだ。
「私たちは、ロンドンとエディンバラに行く用事があるのだけれど、ミーナちゃんはここから帰るでしょう」とエマリーが聞いてきた。
「エディンバラ?」
この街の名前に、何かピンとくるものがあった。
無論、知り合いなどいないし、街の事情を知っているわけでもない。
ただ、スコットランド王がフランスの傀儡となっているのは知っていたので、きっと廃れた街なのだろうと思っている。
それと、行くなら、今後、チャンスは無いと思う。
領地に引きこもって、帝国の行事に出る程度だろう。
「エマリー、私も行きたいわ」
「危ないわよ」
「そうなんだ……」
「帰るなら、うちの商隊が護衛できるけど」
「でも、行きたい。行かないといけないような気がする」ということで、私もエマリーの商売の見学をすることになった。
なので!
また、変装をする。
女水夫に変装できるように、一式買っておきましたよ。
あまり、女性がズボンを履くのは、特別な事情が無いとありえない時代だ。
女がズボンを履くと男装に見られるからで、またも「悪魔的」らしい。
ヤスミンもズボン姿が多いが、鍛冶屋の仕事は火を使うので、スカートだと引火することを防ぐために、ズボンにしているとのこと。
ズボンに革のエプロンの様なもので作業しているわ。
さて、私は女水夫に変装して、いたるところに潜り込んで、仕事を見学していく。
「それ、やらせてちょうだいな」という見学があるのかどうかはわからないけど、少しは船が動く仕組みが分かってきたような気がする。
そして、この船は近海航行をしているので、あまり食料には問題がないのだけれど、遠洋航海は水と食料は大きな問題だと聞いている。
いわゆる、壊血病だ。
歯ぐきから血が出始めると、あれよあれとと身体がおかしくなっていく。
ビタミンC不足と判明するまで、様々な仮説が立てられた。
「酸味が解決するのでは?」と言う仮説が有名だ。
イギリス的解決策が、“レモンとライム”だ。
21世紀ではレモンとライムではライムの方が高かったりする場合もあるが、16世紀では、レモンは高価だったのでライムを支給する。
ライムとラム酒のカクテル、“グロック”は、発案したグロッグ提督の名前から拝借している。
ライムはレモンよりビタミンCは少ないのだけれど、壊血病には治療が出来るぐらいの効果がある。
一方、ドイツ的解決策は酢だ!
酢の酸味は酢酸なので、クエン酸の接種には良いのだけれど、ビタミンCはない。
だが、ザワークラウト、つまりキャベツを酢に漬けていたので、若干、ビタミンCがキャベツに含まれており、壊血病の発生を遅らせることは出来たようだが、治療には至らなかった。
なので、1か月に1度は陸に上がり、陸の食事をさせる必要があった。
おそらくドイツ系の国家が大航海時代に遅れたのは、これも原因の一つかもしれないと思う。たぶん。
まあ、この船は近海を通ってきているので、陸で食事もとれている。
が、お昼は水夫として、食事をすると、かの有名な塩肉だった。
塩肉と固パンだ。
それだけだ。
野菜?
ヨーロッパでは基本的には食べない。
果物は貴族や裕福層が食べる。
地べたや地中の中に出来るものは、食べてはいけないという風習があり、地上より上に出来る果物などを食べるのである。
イタリアはトマトが有名になるけれど、最初は果物として、この時代に入って来たのだ。
だから、ザワークラウトは庶民の食べ物なのだな。
あと、海の上だから、魚を食べるというのは、近海にいる時だけだ。
遠洋では、釣りなど、そんなことをしている暇が無いし、船の速度も速いので魚が追い付けない。
また、魚が豊富にいる海域でしか、釣れないということね。
まあ、しいて言えば、亀を食べる。
ウミガメだ!
21世紀では絶滅危惧種だそうで。
我々、16世紀人が、食べ過ぎたのか?
そのウミガメは、まあ、味は肉だ!
マグロを捕まえるより、簡単で、そこそこの味をしているから、海の男達に好まれている。
17世紀のイギリス人が世界中の食の本を出してヒットし、21世紀ではマンガにもなっているようだけれど、ろくな死に方をしていないのは、変なものばかり食したせいだと思うわ。※1
※1 ウイリアム・ダンピア 『ガリバー旅行記』の冒頭に出てくる従兄弟のダンピアは、この人。
無一文、有罪判決、海軍解雇など、さんざんな人生を送り、最後の冒険で成功を収めるも、分け前を分ける前に死亡。植物学に多大な影響を与えた海賊。
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