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3.バルト海を並び行く幽霊たち

3-15.お頭の正体は言えない

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3-15.お頭の正体は言えない


「これはどういうことだ?」と、伯父の公爵の言葉は、私に言ったものだろう。
「何故、海賊をしているのか?」と。

 しかし、漁村組合をはじめ、世間は公爵の姪が海賊のお頭など、思いもしない。

 だから、そこにいた漁村組合の職員は、
「領主様、領主様が討伐を依頼した海賊団が、幽霊船を捕獲しました。領主様ありがとうございます。これで安心です」
「あッ、ああ、それは良かった。そ、それは良かったな……」
「はい」
 領主の存在に気が付いた人々は、またも万歳三唱が始まった。
「公爵様、万歳ッ」と口々に喜んでいる。

 さすがに、これでは、私に対する怒りも引っ込めるしかない。

「領主様、こちらへ」とある女性が伯父を呼んだ。
 そして、呼ばれた伯父は、私たちの横へ。
「お嬢様もご一緒に」と、アンナも呼ばれた。

 呼ばれて着いた先は、私の横だ!
 赤い船長服の私と海賊刀を腰にしたイリーゼとエルメンヒルデが待っていた。

 つい、数日前には、ドレスの私と護衛隊の制服姿のイリーゼとエルメンヒルデと応接間で会ったというのに……

 人々は、「公爵様万歳、海賊令嬢様万歳」と、繰り返されていた。

 すると、ある商人から、「領主様、キーナ船長とは、どこでお知り合いになられたのですか?」と、聞いてきた。

「えっ? あッ、その……」

 余計なことを聞くのではない、そこの商人。
 伯父が困っているので、「いえ、私たちはイギリスから毛織物を、ケーニヒスベルクまでよく運んでいるのです。そこで領主様に先日、ご挨拶させていただいたのです。その際、幽霊船の話を聞いたのですよ。おほほ」

「そうだったのですか」と、商人も納得した様子だ。

 すると、今まであまり話さなかった伯父が、
「キーナ船長、是非、今夜は我が屋敷に来てください。パーティーをしましょう」
「!?」
「それが良いわ。お話をたくさん聞けそうだし」と、従姉妹のアンナが、しっかりとダメ押しをしてくれた。

 トホホ!

 さて、執事から正式な招待状が届き、時間等が指定されていたが、困ったな。
 ヴィルヘルミーナとして行くべきか?
 キーナ・コスペル海賊団の船長として行くべきなのか?
 それによって、着る服も違ってくる。

 そして、公爵家の皆さんが聞きたいことって、決まっているじゃない。
 我が一族から、何故、海賊の船長がいるんだと。

 しかし、私が早く決めなくてはいけない。船員たちが困ってしまう。

 貴族令嬢……
 海賊の船長……
 海賊令嬢万歳……

 うん? 海賊令嬢!

 これだよ!
 貴族でも海賊服でもない、海賊令嬢のスタイル。

「おい、皆、聞いてくれ。今から、街でドレスを買いに行く。全員の分だ。仕立ては無理だが……」
「お頭、私もドレスアップするの?」
「そうだ! おしゃれも必要だ。いつもの海の上の格好でなく、ドレスアップしておしゃれを推奨する。これが我が海賊団の方針にする」

「お頭、100人分のドレスなんて、この街が」
「儲かるだろう」と、答えると、質問をしたイリーゼは黙ってしまった。
 儲かった分は伯父への税金となるのだから、伯父も私に強く言えまい。

「よし、船から銀を出せ! 街に行くぞ」というと、
「わぁい、私もドレス欲しい」と、クライネスが躍っていた。
(先日、訪問した時のドレスで良いでは?)と、けち臭いことを考えてしまった、私である。


 その頃、公爵家では、アンナが熱を出して寝込んでしまったようだ。
 アンナは、ひ弱だなぁ、ははは!



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