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3.バルト海を並び行く幽霊たち
3-8.公爵の危機
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3-8.公爵の危機
「ヴィル! 聞いて!」と、従姉妹のアンナが駆けてきた。
「どうしたの? アンナ?」
「実は、実は、私たち公爵家と付き合うと、『騎士団に殺された者の幽霊が領地に入り込むから、私たちとお付き合いしてはいけない』って、他の貴族たちが噂しているのよ」
「何ですって!」
間に合わなかった!
恐れていたことが、起きてしまった。
私は、頭が白くなってしまったが、一呼吸して落ち着くことにした。
そうなのだ。あまりにも噂が早すぎる。
ほんの数日で、領地を超えて、他の貴族まで伝わるのだろうか?
私たちが着いた、一週間前までは、幽霊船が出るらしい程度の噂だったはず。
「アンナ、落ち着いて中でお話を聞きましょう。伯父さまも中なのでしょう?」と言うと、アンナは落ち着いたせいか、クライネスの存在に気が付いたようだ。
「あら、これは可愛いお客様ね。貴女はどなたなの?」
おい、クライネス。
教えた通りに、ご挨拶するんだよ。でないと、クッキーは無しだからな!
「あわわ、おかし……ら、いや、お嬢様のふふふねで……」
「おかし??? お菓子が、どうしたのかしら」とほほ笑むアンナ。
ダメだ!
フォローしておこう。
「紹介いたしますわ。うちの商船で飼っている、仔犬ですわ」
「「ええっ!?」」
「エルメンヒルデ! このワン子の面倒を見ておやり。後のことは任せました」と、クライネスをエルメンヒルデに任せて、伯父のいる部屋にアンナと向かうことにした。
頭を下げているが、エルメンヒルデが笑っているのが分かったわ。ふふふ。
「伯父様、アンナから聞きましたわ。他の貴族が良からぬ噂を立てていると」
「ヴィル……」と言うと伯父は黙ってしまった。
「アンナ、その噂は誰から聞いたの?」
「王妃様よ。そして、言っている本人も王妃様よ」
なんと、自分で噂を流し、自分で忠告してきたのか?
根性が悪すぎる。
やはり、ハプスブルクの連中は始末するに限る。
「伯父様、今回の一件は、誰かが糸を引いているはずです。あまりにも事の進展が早すぎます。黒幕がいるはず。だから、黒幕を捕まえない限り、収まらないわ」
「ヴィル!」
「幽霊船は、捕まえるまで、ここから離れないわ。だから、安心して」
「分かったわ。ヴィル」
「だから、陸のことは任せますわ。私は、海の方をします」
「ありがとう」
「助かるよ。ヴィル」
私は、早速、バルト海へ巡回に行きたかったので、お暇させて頂くことにしたが、クライネスがいない。
「エルメンヒルデ、クライネスは?」
「はい、先ほどから、公爵様がご試走してくださっています」
伯父が気を利かせて、あの後、クライネスの相手をしてくださったようだ。クッキーで。
伯父の顔は鷹の様で恐ろしいんだけど、よくクッキーを食べれたよな。クライネス。
「エマリー、もう時間がないようだ。実は……」
「それって、相手の術中にはまっているじゃない。相手が動いてからでは手遅れね」
「ああ、この狭いバルト海に隠れる場所などあるのか?」
「というか、入り江だらけなので、一つ一つ調べるのも手間よ」
そして、東に行けば行くほど、ポーランドやリトアニアなど、ドイツ騎士団に恨みを持つ連中が多い場所になる。
だから、その辺りが隠れ家ではないかと思っている。
では、最もドイツ騎士団に恨みを持っているところはどこだろうか?
ドイツ騎士団が皆殺しをしたという、ゴットランド島だろうか?
ここは、ドーバー港のとある酒場の個室。
黒船のキャプテンが、例の設計図を広げていた。
「ホーキンスの親父さん、これをどう思う?」
「うん。これは危ない。放置は出来ん。フランシス、お前もそう思うだろう?」
「あぁ、これを放置していると、イギリスは攻め込まれる」
「ボスに報告が必要だ。ボスには儂から伝えておく、バーナー」と、ホーキンスが答えた。
ホーキンス!
この時代を代表する海賊で、誰もが認めるナンバーワンだ。
その従兄弟がドレイクで、後継者的存在だ。
その海賊のボスとは誰だろうか?
「女王陛下も苦労が絶えないな」
女王陛下?
そうなのだ。海賊たちの頂点に立つのは、エリザベス一世なのだ。
海賊と海軍を仕切るボス、それがエリザベス女王ということになる。
「しかし、この巨大戦艦。大砲を積み過ぎではないのか? バラストはこれで良いのか?」
「儂もそう思う。船首ヘビーなガレオン船を、さらにヘビーにしている。かなり船速も遅いだろうし。バランスが悪い上、横転でもするんではないか?」
(改良が必要か? となると腕の立つ技師も必要か? この船をバーナー・シュバルツ海賊団の旗艦にしたいのだが)と、黒ずくめのキャプテンは思っていた。
「ヴィル! 聞いて!」と、従姉妹のアンナが駆けてきた。
「どうしたの? アンナ?」
「実は、実は、私たち公爵家と付き合うと、『騎士団に殺された者の幽霊が領地に入り込むから、私たちとお付き合いしてはいけない』って、他の貴族たちが噂しているのよ」
「何ですって!」
間に合わなかった!
恐れていたことが、起きてしまった。
私は、頭が白くなってしまったが、一呼吸して落ち着くことにした。
そうなのだ。あまりにも噂が早すぎる。
ほんの数日で、領地を超えて、他の貴族まで伝わるのだろうか?
私たちが着いた、一週間前までは、幽霊船が出るらしい程度の噂だったはず。
「アンナ、落ち着いて中でお話を聞きましょう。伯父さまも中なのでしょう?」と言うと、アンナは落ち着いたせいか、クライネスの存在に気が付いたようだ。
「あら、これは可愛いお客様ね。貴女はどなたなの?」
おい、クライネス。
教えた通りに、ご挨拶するんだよ。でないと、クッキーは無しだからな!
「あわわ、おかし……ら、いや、お嬢様のふふふねで……」
「おかし??? お菓子が、どうしたのかしら」とほほ笑むアンナ。
ダメだ!
フォローしておこう。
「紹介いたしますわ。うちの商船で飼っている、仔犬ですわ」
「「ええっ!?」」
「エルメンヒルデ! このワン子の面倒を見ておやり。後のことは任せました」と、クライネスをエルメンヒルデに任せて、伯父のいる部屋にアンナと向かうことにした。
頭を下げているが、エルメンヒルデが笑っているのが分かったわ。ふふふ。
「伯父様、アンナから聞きましたわ。他の貴族が良からぬ噂を立てていると」
「ヴィル……」と言うと伯父は黙ってしまった。
「アンナ、その噂は誰から聞いたの?」
「王妃様よ。そして、言っている本人も王妃様よ」
なんと、自分で噂を流し、自分で忠告してきたのか?
根性が悪すぎる。
やはり、ハプスブルクの連中は始末するに限る。
「伯父様、今回の一件は、誰かが糸を引いているはずです。あまりにも事の進展が早すぎます。黒幕がいるはず。だから、黒幕を捕まえない限り、収まらないわ」
「ヴィル!」
「幽霊船は、捕まえるまで、ここから離れないわ。だから、安心して」
「分かったわ。ヴィル」
「だから、陸のことは任せますわ。私は、海の方をします」
「ありがとう」
「助かるよ。ヴィル」
私は、早速、バルト海へ巡回に行きたかったので、お暇させて頂くことにしたが、クライネスがいない。
「エルメンヒルデ、クライネスは?」
「はい、先ほどから、公爵様がご試走してくださっています」
伯父が気を利かせて、あの後、クライネスの相手をしてくださったようだ。クッキーで。
伯父の顔は鷹の様で恐ろしいんだけど、よくクッキーを食べれたよな。クライネス。
「エマリー、もう時間がないようだ。実は……」
「それって、相手の術中にはまっているじゃない。相手が動いてからでは手遅れね」
「ああ、この狭いバルト海に隠れる場所などあるのか?」
「というか、入り江だらけなので、一つ一つ調べるのも手間よ」
そして、東に行けば行くほど、ポーランドやリトアニアなど、ドイツ騎士団に恨みを持つ連中が多い場所になる。
だから、その辺りが隠れ家ではないかと思っている。
では、最もドイツ騎士団に恨みを持っているところはどこだろうか?
ドイツ騎士団が皆殺しをしたという、ゴットランド島だろうか?
ここは、ドーバー港のとある酒場の個室。
黒船のキャプテンが、例の設計図を広げていた。
「ホーキンスの親父さん、これをどう思う?」
「うん。これは危ない。放置は出来ん。フランシス、お前もそう思うだろう?」
「あぁ、これを放置していると、イギリスは攻め込まれる」
「ボスに報告が必要だ。ボスには儂から伝えておく、バーナー」と、ホーキンスが答えた。
ホーキンス!
この時代を代表する海賊で、誰もが認めるナンバーワンだ。
その従兄弟がドレイクで、後継者的存在だ。
その海賊のボスとは誰だろうか?
「女王陛下も苦労が絶えないな」
女王陛下?
そうなのだ。海賊たちの頂点に立つのは、エリザベス一世なのだ。
海賊と海軍を仕切るボス、それがエリザベス女王ということになる。
「しかし、この巨大戦艦。大砲を積み過ぎではないのか? バラストはこれで良いのか?」
「儂もそう思う。船首ヘビーなガレオン船を、さらにヘビーにしている。かなり船速も遅いだろうし。バランスが悪い上、横転でもするんではないか?」
(改良が必要か? となると腕の立つ技師も必要か? この船をバーナー・シュバルツ海賊団の旗艦にしたいのだが)と、黒ずくめのキャプテンは思っていた。
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