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3.バルト海を並び行く幽霊たち

3-6.黒船屋

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3-6.黒船屋

「マリーネッ、マリーネ」
「はい、キャプテン」

 マリーネという金髪の女を呼んだのは、黒ずくめで雲を突くような大男だ。

「マリーネ、今、バルト海に貴族令嬢が海賊として、商船の航行の自由を邪魔していると聞いた」

「まあ、なんと」と、答えたマリーネは、少し怒っているようだ。
 その理由は、彼女の出自が男爵家だからだろうか。

「航行の自由を阻害するものは、我らの敵だ。黒船海賊団、二時間後に出港するぞ」
「はい、ハインリッヒ副キャプテンにも連絡しておきます」

 そして、黒ずくめの五隻のキャラック船が、ドーバー港から出撃して行く。
 その時、彼らが目にしたものは!

「キャプテ~~~~ン。スペイン艦隊です」
「なんだと」


 その頃、大西洋方面基地の提督を乗せた艦隊は、イギリス海峡をドーバーへ向けて航行していた。
「提督、間もなく南ネーデルランドです」
「そうか。早いものじゃないか」

 その時、
「提督、正面にイギリスの私掠船が五隻航行しています」
「どかせろ。どかないと沈没させるとな」


「キャプテン。通信士からスペインが『どけ!』と手旗信号を……」
「キャプテン、奴らの航路は、このドーバー海峡を通り、南ネーデルランドへ行くと思われます」

「では、バルト海に行くには、この先も邪魔になるということだ。やるぞ!」と、キャプテンが言うと、「戦闘配置につけ! 対海軍態勢を取れ!」と副キャプテンのハインリッヒが叫んだ。

「対海軍態勢だ!」と口々に船員たちが言っている。
 そして、ラッパが鳴った。
「スペインは、手漕ぎが五隻、キャラベルかキャラックが五隻です」
「よし、キャラベルとキャラックに対し、半カルバリン砲を一斉砲撃」とキャプテンが言うと、五隻の船から砲撃が放たれた。

 しかし、これで沈没する船は無かった。
 無かったが、明らかに様子がおかしい。

 いつの間にか、キャラベルやキャラック船は、帆がボロボロで航行できなくなり、海流の速いドーバー海峡に流されている。

「残るは手漕ぎ船か」

 ガレアス船は、先ほどのキャラベルよりも四苦八苦していた。
 海流の速いドーバー海峡を手漕ぎで進路を変更などできない。

 帆もあるではないか? と思うかもしれない。しかし、帆船と手漕ぎと、どっちつかずのガレアス船に、そんな実力はなかった。
 流されるまま流れ、揺らされるまま揺れていた。

「よし、乗り込むぞ。砲弾は頂く」

 そして、黒船海賊団は、スペイン船から頂けるものは頂いた。
「キャプテン、自称:提督と名乗る者を見つけました」
「ほう、会いに行こう」

「ごきげんよう、提督殿」
「貴様。ドイツ人のくせに何故。イギリスの味方をする?」
 海賊団から苦笑が起きた。儲かるからに決まっているからだ。

「おい、何か貴重なものが見つかるかもしれない。お宝は頂いて行く。すべてだ」
「「「了解」」」

 そして、見つかったものは!?

「キャプテン、これは!」と部下に渡され、黒ずくめの男は、驚いた。
「なんだ、この禍々しい……」

 男たちは、一体、何に驚いているのだろうか?
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