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第2部 第ニ章 黄金郷を求めて
2-2-38.宝の山
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第三十八話
宝の山
私とアガーテは、この修行施設に分かれを告げ、一度、京の都へ戻ることにした。
都から西へ向かい、住職に挨拶をして、帰国する旨を伝えようと思ったからだ。
「ご無沙汰しております。ご住職。
お陰様で有意義な時間を過ごせました。ありがとうございます」
「それは良かった。顔つきが変わったように思いますよ」と、住職が頷いている。
そうか、変わったのだな。
「では、マルとは何でしたかな?」
「すべてはひとつ、つまり同じだと。すべては金色に輝いていると、感じました」※1
「そう、それこそが、貴女がこの国で見つけた宝でしょう。
宝の山に入りて、心空しう帰るなかれ」※2
「ありがとうございます。では、私達はこれで。お達者で、ご住職」と言うと、私達は住職に一礼をして、宝の山から旅立つことにした。
アンの先導で桂川へ行き、そこから船で浪速港へ向かうことにする。
浪速港に着けば、バーナーに会えるな。
淡水真珠の競りのとき依頼だ。
あの時は、私が短髪にしたのを、えらく驚いていたが、今では、肩まで伸びてきた。
しかし、まだ、巻けるところまでは、伸びていないな。
アンのご自慢の歌を聞きながら、淀川を下って行く。
今の淀川とは、かなり様子が異なるのだけれど、淀川から大和川の間にある河内湖は何度も干拓工事が行われており、陸地もこの数百年で増えていた。
大坂城を横目に下っていく一行。
ついに、浪速港に着いた。
「おーい、こっちだ」と、手を振るのはバーナーだ。
こちらも、にこやかに手を振る。
「バーナー、出迎えご苦労さまですわね」
すると、バーナーが笑っている。
「いきなりお嬢様みたいな挨拶とは思わなかったよ。てっきり海賊団のお頭で挨拶すると思っていたから」
「うん?」
そう言われると、何故たろうか? と思う。
しかし、アガーテは、「クスクス」と笑っていた。
私がアガーテの方を見ると、
「嫌ですよ。お嬢様」と言い、その場を立ち去ってしまった。
「ミーナ。山の修行はどうだった?」と、バーナーが聞いてきたので、「うん、上々かな」と返答しておいた。
するとだな、やはりだ。
人工衛星が飛んできたのだな。
人工衛星の癖に、バーナーの腕を取り、「ミーナちゃんのいないうちに、もう私達は、“あれ”ですのよ」と言うのは、人工衛星と書いて、従姉妹と読む女だ。
で、“あれ”なのか?
「そう、“あれ”なの?」
「そう、“あれ”なのですわ」
「ほうほう、“あれ”なんだ」
「ええ、そうよ」
そして、放置する。
「バーナー、帰り道も村上殿の屋敷に寄れないかな?」
「それは、大丈夫だと思う。船頭に話してみるよ」
「お願いするわ」
私は、村上元信殿に確認したかったのだ。
私の手に入れた宝の山が、村上海賊衆のそれと同じなのか、どうかを。
次回の女海賊団は、ヴィルヘルミーナは自分の宝を確かめに、再び屋代島に行きます。
※1 『無量寿経』四十八願の第三願
※2 元は「宝の山に入りて、手を空しくして帰ることなかれ」。
住職は源信の『往生要集』を引用したのだが、敢えて「手を」、「心」と入れ替え、ヴィルヘルミーナの宝が物品ではないことを称えた。
宝の山
私とアガーテは、この修行施設に分かれを告げ、一度、京の都へ戻ることにした。
都から西へ向かい、住職に挨拶をして、帰国する旨を伝えようと思ったからだ。
「ご無沙汰しております。ご住職。
お陰様で有意義な時間を過ごせました。ありがとうございます」
「それは良かった。顔つきが変わったように思いますよ」と、住職が頷いている。
そうか、変わったのだな。
「では、マルとは何でしたかな?」
「すべてはひとつ、つまり同じだと。すべては金色に輝いていると、感じました」※1
「そう、それこそが、貴女がこの国で見つけた宝でしょう。
宝の山に入りて、心空しう帰るなかれ」※2
「ありがとうございます。では、私達はこれで。お達者で、ご住職」と言うと、私達は住職に一礼をして、宝の山から旅立つことにした。
アンの先導で桂川へ行き、そこから船で浪速港へ向かうことにする。
浪速港に着けば、バーナーに会えるな。
淡水真珠の競りのとき依頼だ。
あの時は、私が短髪にしたのを、えらく驚いていたが、今では、肩まで伸びてきた。
しかし、まだ、巻けるところまでは、伸びていないな。
アンのご自慢の歌を聞きながら、淀川を下って行く。
今の淀川とは、かなり様子が異なるのだけれど、淀川から大和川の間にある河内湖は何度も干拓工事が行われており、陸地もこの数百年で増えていた。
大坂城を横目に下っていく一行。
ついに、浪速港に着いた。
「おーい、こっちだ」と、手を振るのはバーナーだ。
こちらも、にこやかに手を振る。
「バーナー、出迎えご苦労さまですわね」
すると、バーナーが笑っている。
「いきなりお嬢様みたいな挨拶とは思わなかったよ。てっきり海賊団のお頭で挨拶すると思っていたから」
「うん?」
そう言われると、何故たろうか? と思う。
しかし、アガーテは、「クスクス」と笑っていた。
私がアガーテの方を見ると、
「嫌ですよ。お嬢様」と言い、その場を立ち去ってしまった。
「ミーナ。山の修行はどうだった?」と、バーナーが聞いてきたので、「うん、上々かな」と返答しておいた。
するとだな、やはりだ。
人工衛星が飛んできたのだな。
人工衛星の癖に、バーナーの腕を取り、「ミーナちゃんのいないうちに、もう私達は、“あれ”ですのよ」と言うのは、人工衛星と書いて、従姉妹と読む女だ。
で、“あれ”なのか?
「そう、“あれ”なの?」
「そう、“あれ”なのですわ」
「ほうほう、“あれ”なんだ」
「ええ、そうよ」
そして、放置する。
「バーナー、帰り道も村上殿の屋敷に寄れないかな?」
「それは、大丈夫だと思う。船頭に話してみるよ」
「お願いするわ」
私は、村上元信殿に確認したかったのだ。
私の手に入れた宝の山が、村上海賊衆のそれと同じなのか、どうかを。
次回の女海賊団は、ヴィルヘルミーナは自分の宝を確かめに、再び屋代島に行きます。
※1 『無量寿経』四十八願の第三願
※2 元は「宝の山に入りて、手を空しくして帰ることなかれ」。
住職は源信の『往生要集』を引用したのだが、敢えて「手を」、「心」と入れ替え、ヴィルヘルミーナの宝が物品ではないことを称えた。
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