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第2部 第ニ章 黄金郷を求めて

2-2-33.村上海賊衆 弐

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第三十三話
村上海賊衆 弐


 屋代島に着いた。

 ここの領主の村上元信殿は、1500石の領地を主君から与えられているとのことだ。

 1500石とか言われても、さっぱりわからん。
 まあ、この辺りの島は、ここの領主のものなんだろう。

 さて、屋敷に着くと。
 なんと、子供の割合が多い。
 あちこちに、子供がいる。
 何故だろうか?

「わぁ~~」と、子供が走ってくる。
「これ、お客さんだよ。走るんじゃない」と、使用人らしき女性が注意をしている。

 すると、バーナーを見た子供が、
「おっきぃ」
「背が高い」と言っている。

 うん、バーナーは背が高いよね。

 すると、背後から男の子が、
「お姉ちゃん、デカい」

 なんで、バーナーが“おっきぃ”で、私が“デカい”なんだ?
 おかしいだろう?
 バーナーの方が、デカいだろう?

「わぁ、南蛮のデカおんなだ!」
「ヽ(`Д´)ノプンプン」
「わぁ、怒った。鬼の様に怒った」と言って駆けていった。

「お客様、申し訳ございませんでした。あの子たちは、最近、うちの子になったばかりでして」
「最近、うちの子?」
 この女は、何を言っているのだろうか?
 逆を言えば、最近まで、別のうちの子供だったのか?

 さて、領主殿からは、丁寧なご挨拶を頂いた。

 大坂、堺、京の都の行程で買い付けに行く。
 もちろん、そこで買った商品は運搬可能とのことだ。
 やはり、バーナーに来てもらって良かった。話しが、スムーズだ。
 こちらは、ボンベイのジンをお土産にと、献上させていただいた。

 そして、夜は歓迎会だ!

 なんと!
 魚を生で出された。
 ビックリだな。
 それと、この醤油とかいう調味料、持って帰れないか?


 さて、元信殿に気になることを、聞いてみた。
「領主殿、何故、ここは子供が多いのでしょうか? この様な領地は、世界中でも、見たことがありません」

「うん?」と、バーナーがこちらを向いた。
アガーテもだ。

「しかも、『最近に、ここの子供になった』とも聞きました。となると以前は…」どうやら、元信殿には、私が『人さらいをしている』とでも思っていると勘違いされたかもしれない。

「いやいや、里から島に連れてきたのではないです」
 すると、側近らしき男性が補足してくれた。
「我らは海難事故や戦争で孤児となった子供を養子としているのです」
「そうでしたか。一族で子供を育てると言うことですね。部下の子供を育てると」

 すると、この屋敷の人たちが首を傾げている。
 そこに、ある女が口を挟んだ。
「私の生まれた家は、村上海賊衆の敵でしたが、元信様の養子になり、今、ここにいるのです」

「はへぇ」と、私は、久しぶりに間抜けな声を上げてしまった。

「敵の子を養子にする?」
「はい」


「護るためだ」と言ったのは、元信殿だった。
「護るため?」
「そう、瀬戸内の海を護るためだ」
「それは、法律か何か? それとも宗教上の?」と、私は訪ねた。
 そう、うちのクルーは、時に法律に、時に宗教に、はたまた家柄に、縛られてきた。
 なら、時には、法律や宗教が人を救ってくれてもよいじゃないか!

「別にその様な縛りはない」
「え?」
 私は困惑した。
 行動の指針となるはずの法律や宗教ではない。また、それらに裏打ちされた道徳ではないのか?

 村上海賊の行動の指針とは何だ?



 ここは瀬戸内の海。

 京の都、大坂から太宰府、長崎、そして、海外へ繋ぐ海。
 この国の重要な水路だ。

 この瀬戸内を護ることは、この国の繁栄、そのものなのだ。

 だから、あの“海賊停止令”も受け入れた。
 海賊停止令により、自由な海運活動が出来る。自由な商売が出来る。
 つまり、この国が繁栄すると思ったからだ。

 自分達のことより、多くの人の繁栄のため、引いたのだ。

「敵も味方も無く、子供は我等が育てる。そして、また、その子が海を護る。海を護る者がいれば、永遠に海は繁栄する。敵もまた海を護るものなのだから」

 敵も味方も無く……
 そんな考えは、ヨーロッパには、聞かないな。
 汝の隣人を愛せよ……ということなのだろうか? ※1
 それも、何か、違うとも思った。

 

 次回の女海賊団は、上方へ!

※1 『旧約聖書』レビ記第19章第18節には、

  あなたはあだを返してはならない。
  あなたの民の人々に恨みをいだいてはならない。
  あなた自身のようにあなたの隣人を愛さなければならない。
  わたしは主である。
(日本語訳は『聖書 [口語]』日本聖書協会、1955年旧約聖書 より)
とある。

 また、『新約聖書』マタイの福音書第5章第44節には以下の通り。

  『隣り人を愛し、敵を憎め』と言われていたことは、
  あなたがたの聞いているところである。
(日本語訳は、『口語 新約聖書』日本聖書協会、1954年より)
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