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第2部 第ニ章 黄金郷を求めて

2-2-27.反撃のベネディクタ

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第二十七話
反撃のベネディクタ


 私は、目を大きく見開いた後、グッと強く目をつぶっていた。

 あぁ、幼い頃から、恋い焦がれていた“シュベルツさんの孫”が、こんな、こんな、とんでも無い無礼な奴だとは!
  

 その時、アガーテは怒り狂っていた。

「やはり、無礼者だ!
 ヴィルヘルミーナ伯爵令嬢様に向って、『美人ではない』だと! 家士として聞き捨てならんッ」

「若旦那ッ、そうだよ。訂正しなよ。早く」
「あぁ、そうだな。ヴィルヘルミーナ嬢。大変、申し訳ない事を言ってしまい……」

 その時、
「お嬢様ッ、お嬢様! お気をシッカリと」と、アンナが叫ぶように言ったのだ。

 今の私は、周りから見ると、どんな状況だったのだろうか?
 見苦しい姿を晒しているのだろうか?

 どうやら、聞いた話では、ヨーゼフさん以外は、皆、『あわわ。あわわ』と、あたふたしていたようだ。
 しかし、そこに、その私の状況を喜んでいるヤツが現れた。

 ベネディクタだ!

 なんと、ドレスアップして現れたのだ!
 いつの間に、ドレスアップなど?


「まあ、お転婆令嬢のミーナ従姉妹さまより、ワタクシ、ベネディクタが正当なお祖母様の孫ですわ」

 はあ?
 こいつ何を、言っているんだ?

 そうだった!
 ベネディクタもシュベルツさんの孫を狙っていたのだ。

 だから、ボンベイに着く前から、姿を消し、ドレスアップしておいたのだなッ。
 いつ、シュベルツ商会の関係者にあっても良いようにと。

 ドレスアップしたベネディクタを見た、武装集団員は、声を上げた。
「「「オオォォォ」」」
「ご令嬢だ」
のご令嬢だ」と、男たちの顔に明るさが戻ってきた。

 えっ、なんと言うことなんだ。

 ベネディクタが、『ご令嬢が来た』と、男たちから歓待を受けているではないか!

 私は、ベネディクタのために、10ヶ月もの航海をしていたのか?
 まだ、社交界デビューすらしていない、この小娘に……
 頭がクラクラしてきた。

 そうこうしていると、ふと気が付いた。私は、いつの間にか椅子に座っていたのだ。

 横には、アンナがいた。どうやら、アンナが彼らに椅子を用意させ、上手くやってくれたようだ。
 そして、ハッと正気に戻った。

 それは、ヨーゼフさんが、話をしている最中だった。

 何の話か?
 この船がレプリカでは無い証拠についてだ!

「そして、儂は先代キャプテンのヴィルヘルミーナ伯爵から、この船だけの創芸品があることを聞いている」


 なんだと?
 そんな物があるのか?
 聞いてはないぞ!


 そもそも、イリーゼからは、レプリカと聞いていたのだから。

 ヨーゼフは、私に「ヴィルヘルミーナ嬢、船に上がることを承諾してもらえるかな?」
「えっ、ええ、もちろんですわ」と、返答した。
 私自身、気になるからだ。

 そして、向かったのは、船長室だった。
 奥の本棚の後ろには、大型の隠し扉があり、開けると!

 無数の鍵が吊るされていた。

「なに? これは」
「ヴィルヘルミーナ嬢、よく見てご覧なさい。何と書いてある?」

 ハッ! と気付いたのだ。

 名前が書かれてある。
 そう、一本の鍵にクルーひとりの名前が書かれてあった。

 そして、この扉には、

  皆の輝ける未来のため、
  私は、道を照らす灯台となろう。

 と、書かれてあった。

 お祖母様の字だ!

 これは、お祖母様の鍵。
 これは、エマリーさんの鍵。
 さらに、これはイリーゼさんの鍵、
 これは、ヤスミンさん、ローズマリーさんの鍵だ。

 その中に、聞き慣れない名前があった。

 エルメンヒルデ?

 誰だろうか。この鍵の持ち主は?

「この古い鍵を見て、まだ、レプリカと言うのかね?」

「いえ、とんでもありません。
 先代クルーたちの鼓動を感じました。ヨーゼフさん、ありがとうございます」と言うと、目に涙が滲み出してきた。

 すると、エルハルト氏から、
「私から、新しい鍵の素材を提供しよう。今のクルーの名前を入れて欲しい」と申し出があった。
「ボンベイに来られたお祝いだと、思ってくれ」と言う。

 お祖母様が“あのシュベルツさん”に恋していた訳が、どことなくわかった。

 なので、
「喜んで、お受けさせて頂きます」と、返答しておいた。

 そして、我らの白い船は、無事、ボンベイ港に入港することが出来た。



 すると!

 そこには、すごい野次馬で溢れかえっていた。
 まあ、港のすぐそこで、大演習を行ってきたのだからな。

 ああ、それから、ベネディクタ!
 君は、もうこの船には、乗せんからな!


 次回の女海賊団は、伯爵令嬢は伊達ではないのだ!
 小娘とは違うのだよ、小娘とは!
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