38 / 58
第2部 第ニ章 黄金郷を求めて
2-2-25.許すまじ!
しおりを挟む
第二十五話
許すまじ!
「許すまじ! 出撃だ」と、若旦那と呼ばれる男は言い放った。
そんな頃、私たち女海賊団は、初めて見るインドの都市に興奮していた。
「遂にインド! 遂にボンベイ! 遂に、遂に、私のお婿さんのいるぅ。インドだ」
「お頭、港からスループ船です。武装している可能性があります」と、頭上のロイヤルマストの見張りから声がした。
「なんだ? こちらに向かってくるぞ」
すると、
「敵艦発砲ッ」
我がガレオン船の左水面が、大きく飛沫を上げた。
「どういう事だ? こちらは国の許可書を持って入港するのだぞ」
しかし、相手は発砲を続けている。
「『停戦せよ』と、取り敢えずは信号で伝えろ。しかし、このまま港へ入っても、そこで発砲されたら、船に傷をつけられる。ジャスミン! 戦闘用意ッ」
「お頭、待ってました!」
そして、私は団員を鼓舞するためにも大声を張り上げた。
「甲板のカルバリン砲は撃てるように準備せよ!
手の空いているものは、海賊刀、マスケット銃、クロスボウで武装せよ」
「若旦那ッ、奴ら『停戦せよ』とか言っています。しかも、『キーナ・コスペル海賊団』を名乗っています」
「何だと! ふざけるなッ。伯爵様がお亡くりになったと言うのに、悪ふざけが過ぎる。沈めても良い。やってしまえ」
スループ船が高速で向かってくる。
高速のガレオン船より、さらに速いスループ船である。
スループ船は、機動力を活かして、ガレオン船を包囲殲滅するのが得意だ。
だが、それは通常のガレオン船の話だ。
重武装のこの船とすれ違うことは、スループ船としてハイリスクなのだ。
船側には、片側、合計17門ものカノン砲と半カノン砲を、後部には3門ずつ、カノン砲と半カノン砲を装備している上、甲板にもカルバリン砲を装備している。
さて、すれ違うということは、お互い腹を見せて殴り合うわけだ!
船側に大砲を貼り付けているのだから。
しかし、相手が、まだ正面を向けている攻撃力の弱い時に、取舵で船側を向けて、全力攻撃をする。
「アンナ、取舵だ」
「とぉりかぁじッ」と、アンナが舵輪を回す。
「撃てぇ!」と言うジャスミンの声が甲板まで、聞こえる。
半カノン砲が効いている。
一隻、付いてこれないようだ。
こちらが取舵を取ったため、スループ船4隻が、こちらの後方に付く形だ。
スループ船に取っては、願ってもない。
普通、スループ船の方が速いのだから!
しかし!
それは、普通の話だ!
この白いガレオン船は、超高速船なのだ。
イギリスからインドまで、12ヶ月から18ヶ月掛かるところを10ヶ月で航行する速さなのだ。
「あのガレオン船、まったく追いつけない」と、スループ船のクルーがぼやいていた頃。
ジャスミンが甲板に上がってきた。
「お頭ッ、半カルバリン砲を二門用意できる。後方甲板で使って欲しいんだ」
???
「半カルバリン砲?」
「威力は皆無だが、カルバリン砲より、さらに射程が長い。今なら、後ろのスループ船のマストを狙えるッ」
「わかったッ! やってくれ」
「了解だ!」
半カルバリン砲とは、カルバリン砲が18ポンドの砲弾を使うのに対し、半カルバリン砲は9ポンドと半分の砲弾なので、威力は無いが、6キロを超える有効射程距離は使い道があるというものだ。
「よし、私の合図で、左右交互に撃って行くぞ」
「了解! ジャスミン砲術長」
「てぇー!」
ドオーーン
「てぇー!」
ドォーーン!
そして、また一隻、スループ船が脱落していった。
「若旦那ッ!」
「見ていられん。ガレオン船を出す。BKG号を出撃させる」
その頃、港のシュベルツ商会の事務所では、エルハルト・シュベルツが立ち上がった。
「また、やっているのか? 白いガレオン船のレプリカでも寄港してくるのか?」と、エルハルトは、若旦那達が戦っているガレオン船を見た時、なにか違和感を感じた。
そこに、60歳代の男が、慌てて駆け込んでくる。
「会長ッ、あれはレプリカではない。本物の白いガレオン船、つまり、“Der Schlüssel zur Zukunft”号だ」
「ヨーゼフさん、本当なのですか?」
「間違うものか! あれは、ヴィルヘルミーナさんの“Der Schlüssel zur Zukunft”号だ。それにあの時計と反対にまわり、カノン砲で仕留めるやり方は、キーナ・コスペル海賊団の戦い方だ。
あれでスペインの戦列艦と戦ってきたのを何度も見ている」
「となると息子たちが危ない」
「止めさせないと死傷者が出るぞ! 会長ッ」
次回の女海賊団は、なんと、お前があのシュベルツさんの孫なのか?
許すまじ!
「許すまじ! 出撃だ」と、若旦那と呼ばれる男は言い放った。
そんな頃、私たち女海賊団は、初めて見るインドの都市に興奮していた。
「遂にインド! 遂にボンベイ! 遂に、遂に、私のお婿さんのいるぅ。インドだ」
「お頭、港からスループ船です。武装している可能性があります」と、頭上のロイヤルマストの見張りから声がした。
「なんだ? こちらに向かってくるぞ」
すると、
「敵艦発砲ッ」
我がガレオン船の左水面が、大きく飛沫を上げた。
「どういう事だ? こちらは国の許可書を持って入港するのだぞ」
しかし、相手は発砲を続けている。
「『停戦せよ』と、取り敢えずは信号で伝えろ。しかし、このまま港へ入っても、そこで発砲されたら、船に傷をつけられる。ジャスミン! 戦闘用意ッ」
「お頭、待ってました!」
そして、私は団員を鼓舞するためにも大声を張り上げた。
「甲板のカルバリン砲は撃てるように準備せよ!
手の空いているものは、海賊刀、マスケット銃、クロスボウで武装せよ」
「若旦那ッ、奴ら『停戦せよ』とか言っています。しかも、『キーナ・コスペル海賊団』を名乗っています」
「何だと! ふざけるなッ。伯爵様がお亡くりになったと言うのに、悪ふざけが過ぎる。沈めても良い。やってしまえ」
スループ船が高速で向かってくる。
高速のガレオン船より、さらに速いスループ船である。
スループ船は、機動力を活かして、ガレオン船を包囲殲滅するのが得意だ。
だが、それは通常のガレオン船の話だ。
重武装のこの船とすれ違うことは、スループ船としてハイリスクなのだ。
船側には、片側、合計17門ものカノン砲と半カノン砲を、後部には3門ずつ、カノン砲と半カノン砲を装備している上、甲板にもカルバリン砲を装備している。
さて、すれ違うということは、お互い腹を見せて殴り合うわけだ!
船側に大砲を貼り付けているのだから。
しかし、相手が、まだ正面を向けている攻撃力の弱い時に、取舵で船側を向けて、全力攻撃をする。
「アンナ、取舵だ」
「とぉりかぁじッ」と、アンナが舵輪を回す。
「撃てぇ!」と言うジャスミンの声が甲板まで、聞こえる。
半カノン砲が効いている。
一隻、付いてこれないようだ。
こちらが取舵を取ったため、スループ船4隻が、こちらの後方に付く形だ。
スループ船に取っては、願ってもない。
普通、スループ船の方が速いのだから!
しかし!
それは、普通の話だ!
この白いガレオン船は、超高速船なのだ。
イギリスからインドまで、12ヶ月から18ヶ月掛かるところを10ヶ月で航行する速さなのだ。
「あのガレオン船、まったく追いつけない」と、スループ船のクルーがぼやいていた頃。
ジャスミンが甲板に上がってきた。
「お頭ッ、半カルバリン砲を二門用意できる。後方甲板で使って欲しいんだ」
???
「半カルバリン砲?」
「威力は皆無だが、カルバリン砲より、さらに射程が長い。今なら、後ろのスループ船のマストを狙えるッ」
「わかったッ! やってくれ」
「了解だ!」
半カルバリン砲とは、カルバリン砲が18ポンドの砲弾を使うのに対し、半カルバリン砲は9ポンドと半分の砲弾なので、威力は無いが、6キロを超える有効射程距離は使い道があるというものだ。
「よし、私の合図で、左右交互に撃って行くぞ」
「了解! ジャスミン砲術長」
「てぇー!」
ドオーーン
「てぇー!」
ドォーーン!
そして、また一隻、スループ船が脱落していった。
「若旦那ッ!」
「見ていられん。ガレオン船を出す。BKG号を出撃させる」
その頃、港のシュベルツ商会の事務所では、エルハルト・シュベルツが立ち上がった。
「また、やっているのか? 白いガレオン船のレプリカでも寄港してくるのか?」と、エルハルトは、若旦那達が戦っているガレオン船を見た時、なにか違和感を感じた。
そこに、60歳代の男が、慌てて駆け込んでくる。
「会長ッ、あれはレプリカではない。本物の白いガレオン船、つまり、“Der Schlüssel zur Zukunft”号だ」
「ヨーゼフさん、本当なのですか?」
「間違うものか! あれは、ヴィルヘルミーナさんの“Der Schlüssel zur Zukunft”号だ。それにあの時計と反対にまわり、カノン砲で仕留めるやり方は、キーナ・コスペル海賊団の戦い方だ。
あれでスペインの戦列艦と戦ってきたのを何度も見ている」
「となると息子たちが危ない」
「止めさせないと死傷者が出るぞ! 会長ッ」
次回の女海賊団は、なんと、お前があのシュベルツさんの孫なのか?
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる