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38 珈琲屋にて
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僕たちは電車に乗って街に行き、とあるコーヒーショップに入った。
僕は注文の仕方がよく分からなかったからキヨに注文と会計をしてもらって、あとからお金を手渡した。
端数はいらないと言ってくれるキヨは優しい。
こういうところが女の子にモテるんだろうな、と思った。
そのことをキヨに伝えると。
「別にこんなんじゃモテないよ? モテる奴はいいよ奢るよって、お金すら受け取らないんじゃないかな。俺は単に、端数まで請求するのはせこいかなって思って」
「別に全然せこくないよ、当然の要求じゃん。ふうん、モテる男は奢るのかぁ……」
月にお小遣いどんだけ貰ってるんだろう。
あ、バイトとかしてるのかな。それにしてもコーヒー、いい香り。
僕はブラックは飲めないからホイップクリームやチョコレートの入ったうんと甘いのを頼んで貰ったけど、全部飲んだら身体に悪そうだ。飲むけど。
「別に俺、全然ミチオには奢っていいしむしろ奢りたいんだけど、そうしたら絶対嫌がるだろ? だからしないだけだよ」
「なんでキヨが僕に奢る必要があるの?」
「ほらね」
キヨはバイトしてないから、僕に奢ったら自分が欲しいものも買えなくなるのに。
もしかして2年になってお小遣いが増えたのだろうか。
「ところでミチオ、さっき少し学校で暗い顔してたけど何かあったの?」
「え? 別に何かあったってわけじゃないけど……」
「けど?」
言ってもいいんだろうか。
いや、言おうとしていたことだけど、急に振られると緊張する。
キヨは、僕とこのまま偽りの関係を続けてていいのかってこと。
でも言わない限りキヨは聞くのを諦めないだろうし、それにキヨは優しいから悩んでいる僕に対してひどいことは言わないだろう。
ずるいかもしれないけど、僕はキヨに悩みを打ち明けることにした。
「あ、あの……キヨは僕とこんな、みんなに勘違いされたままで本当にいいの? 僕はいいんだけど、逆に大変になってないかなって」
「ぜんぜん?」
「あ、そう……」
一言で解決した。
あっさりしすぎてて逆に拍子抜けだ。
「ミチオ、そんなことで悩んでたの? 大体俺が言いだしっぺなのに、自分から嫌になるわけないだろ?」
「で、でも僕ばっかりみんなに優しくされてさ、いい目にあってるなぁって思って」
「たしかにそれはちょっと妬けるけど。俺だけのミチオだったのにな」
「妬ける?」
「付き合ってるってみんなに言わない方がよかったかな」
「そ、そんな今更……!」
僕がひどく焦った風に言うと、キヨはあははと笑って嘘だと言った。
「嘘だよ、うそ。俺は全然気にしてないって言ったばかりだろ?」
「そうだけど……」
本気でそう思ってたらどうしようって思ってしまう。
僕はこの件に対して、あくまで受け身なのだから。
というか僕達は一言も『付き合ってる』と肯定はしていない。
あくまで否定していないだけで。
キヨはいつのまにか本気で付き合ってるつもりになってるのだろうか。
それはそれで別に問題はないけど……今のところは。
「ミチオ、明日休みだし今日は俺んちに泊まりにおいでよ。今日母さんいないから」
「え、でも……晩御飯はどうするの?」
「コーヒー飲んだらちょっと遊んで、ファミレスがどっかで何か食べて帰ろう。いいだろ?」
「いいけど……じゃあお母さんに電話する」
「うん」
僕はいつもキヨに流されてると思う。
でも特に断る理由がないからまあいいか、とも思う。
そもそもこれは流されているのだろうか?
よく分からない。自分自身のことなのに。
「ミチオ、口にチョコレート付いてるよ」
「どこ?」
「ここ」
自分の顔を指して教えてくれたらいいのに、キヨは少し身を乗り出すと向かいに座っている僕の唇の横辺りをついと撫でた。
そして、その指を自分の口に持っていってぺろりと舐めた。
「……甘いね」
そりゃそうだよ、チョコレートだもん。
なんて言うのは突っ込みどころが違う気がして、僕はきまり悪げに俯いてキヨから目を逸らした。
僕は注文の仕方がよく分からなかったからキヨに注文と会計をしてもらって、あとからお金を手渡した。
端数はいらないと言ってくれるキヨは優しい。
こういうところが女の子にモテるんだろうな、と思った。
そのことをキヨに伝えると。
「別にこんなんじゃモテないよ? モテる奴はいいよ奢るよって、お金すら受け取らないんじゃないかな。俺は単に、端数まで請求するのはせこいかなって思って」
「別に全然せこくないよ、当然の要求じゃん。ふうん、モテる男は奢るのかぁ……」
月にお小遣いどんだけ貰ってるんだろう。
あ、バイトとかしてるのかな。それにしてもコーヒー、いい香り。
僕はブラックは飲めないからホイップクリームやチョコレートの入ったうんと甘いのを頼んで貰ったけど、全部飲んだら身体に悪そうだ。飲むけど。
「別に俺、全然ミチオには奢っていいしむしろ奢りたいんだけど、そうしたら絶対嫌がるだろ? だからしないだけだよ」
「なんでキヨが僕に奢る必要があるの?」
「ほらね」
キヨはバイトしてないから、僕に奢ったら自分が欲しいものも買えなくなるのに。
もしかして2年になってお小遣いが増えたのだろうか。
「ところでミチオ、さっき少し学校で暗い顔してたけど何かあったの?」
「え? 別に何かあったってわけじゃないけど……」
「けど?」
言ってもいいんだろうか。
いや、言おうとしていたことだけど、急に振られると緊張する。
キヨは、僕とこのまま偽りの関係を続けてていいのかってこと。
でも言わない限りキヨは聞くのを諦めないだろうし、それにキヨは優しいから悩んでいる僕に対してひどいことは言わないだろう。
ずるいかもしれないけど、僕はキヨに悩みを打ち明けることにした。
「あ、あの……キヨは僕とこんな、みんなに勘違いされたままで本当にいいの? 僕はいいんだけど、逆に大変になってないかなって」
「ぜんぜん?」
「あ、そう……」
一言で解決した。
あっさりしすぎてて逆に拍子抜けだ。
「ミチオ、そんなことで悩んでたの? 大体俺が言いだしっぺなのに、自分から嫌になるわけないだろ?」
「で、でも僕ばっかりみんなに優しくされてさ、いい目にあってるなぁって思って」
「たしかにそれはちょっと妬けるけど。俺だけのミチオだったのにな」
「妬ける?」
「付き合ってるってみんなに言わない方がよかったかな」
「そ、そんな今更……!」
僕がひどく焦った風に言うと、キヨはあははと笑って嘘だと言った。
「嘘だよ、うそ。俺は全然気にしてないって言ったばかりだろ?」
「そうだけど……」
本気でそう思ってたらどうしようって思ってしまう。
僕はこの件に対して、あくまで受け身なのだから。
というか僕達は一言も『付き合ってる』と肯定はしていない。
あくまで否定していないだけで。
キヨはいつのまにか本気で付き合ってるつもりになってるのだろうか。
それはそれで別に問題はないけど……今のところは。
「ミチオ、明日休みだし今日は俺んちに泊まりにおいでよ。今日母さんいないから」
「え、でも……晩御飯はどうするの?」
「コーヒー飲んだらちょっと遊んで、ファミレスがどっかで何か食べて帰ろう。いいだろ?」
「いいけど……じゃあお母さんに電話する」
「うん」
僕はいつもキヨに流されてると思う。
でも特に断る理由がないからまあいいか、とも思う。
そもそもこれは流されているのだろうか?
よく分からない。自分自身のことなのに。
「ミチオ、口にチョコレート付いてるよ」
「どこ?」
「ここ」
自分の顔を指して教えてくれたらいいのに、キヨは少し身を乗り出すと向かいに座っている僕の唇の横辺りをついと撫でた。
そして、その指を自分の口に持っていってぺろりと舐めた。
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そりゃそうだよ、チョコレートだもん。
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