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「そのジンクスってもともとは、最初の花火を見ながら願い事を唱えるとその願いが叶うってものだったんだって。だけど恋人同士が願うことって"ずっと一緒にいられますように"とかでしょ?だからいつの間にか今のジンクスが有名になっちゃったんだって」

物知り顔で湊は瀬那に説明する。
ふーんと相槌を打って、瀬那は問いかけた。

「それどこ情報?」
「おばあちゃん情報。昨日教えてくれた」
「お前ほんとおばあちゃん好きだよな」
「大好き、瀬那の次にね」

にこりと笑う湊に不意を突かれて、瀬那は顔を背ける。

「…あっそ」
「瀬那が一番だから安心して」
「うっせ」

夏の暑さが原因ではない熱が、体を支配していくのを瀬那は感じていた。
耳まで赤くなった顔を見られたくなくて、湊から顔を逸らし続ける。
それを阻むように、大きな手のひらが瀬那の頬を包んで、強制的に引き寄せた。

自分に触れる手のひらに、抵抗したくなる。
けれど、熱を帯びた瞳に見据えられたら、もうそれも叶わなかった。

「好きだよ」

湊と瀬那の間に隙間がなくなる。
甘い言葉が鼓膜を揺るがして、くらくらとする。
このまま一つになれたらいいのに、なんて馬鹿な考えが頭を過ぎった。

息がし辛い。

「なぁ、お前は、さ…」
「瀬那?」

瀬那の言葉は最後まで形にならず、代わりに乾いた呼吸音が口から零れた。
息が上手く出来なくて、肩を上下に動かして酸素を求める。
瀬那の額から冷や汗が滲んで、アスファルトに落ちていった。

「ごめ…、すぐ、おさま…っ」
「ちょっと、瀬那!」
「少し…待っ…」

そのまま地面に倒れかける瀬那を湊は慌てて支える。
さっきまでの余裕じみた顔と打って変わった表情に、瀬那は笑ってやりたくても上手く出来ない。

「瀬那、大丈夫!?」
「休めば、大丈夫だ、から」

湊は落ち着かせるように背中を優しく撫でた。
瀬那はそれが心地よくて湊に体重を預けたまま目を閉じる。

どれくらいそうしていただろう。
時間にしてはそこまで長くなかった気がする。
呼吸も落ち着いてきて、そっと瀬那が体を離せば、湊は眉根に皺を寄せて瀬那を見ていた。

「ごめん」
「なんでお前が謝るの」

安心させるように笑ってみせても、湊は表情を変えない。

「オレはね、瀬那が苦しんでる姿は見たくないよ」

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