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「もちろんお前の為にではないけどなッ!」
「わかってるよーお兄様の為でしょ?」
「フン」

 ドロは私の胸に箱を押し付けて向こう行っちゃって、抱っこした箱は重量感があるから、後で皆で食べるのでいいのかな。

 タツミはピヨと丸焼きにした鳥捌いてて、ピクニックに行く時は必ず持って行くハーブスパイスが今日も役に立った。
 お皿には、唐揚げと鳥の焼いたのとおにぎり(具が鳥そぼろ)とゆで卵って……。

「何かピヨのパーティーみたいになってない?!」
「「ピィイイヨッ!!!!」」
 イエーーーイ!! ってご飯を前に羽でラブ! ってしてるけど、まあいいか。

 タツミの所にお皿持って行って胡坐をかく真ん中に座った、見上げれば頬でスリスリしてくれるから、私もする、ちゅうして大好きって言って頷いてくれて笑って、うわーん本当に好き。エッチしたい、でもできないからタツミの両手を取って。

「いただきます」

 手の平を合わせて、タツミが持つお握りを交互に食べあった。

「私が作ったって言っても、炊いてあるご飯にタツミが作ってくれたそぼろ入れて握って、下味付けてある鳥肉を揚げただけなんだよね。卵なんて誰でも茹でられるし、サラダだって詰めただけ、フルーツは丸ごとだし、ドーナツも昨日タツミが作ってくれたもの……」
ちょっと口を膨らませて尖らせたら、タツミは優しく頬を撫でて、

「一生懸命小さい手でおにぎり握って、油怖いのに鶏肉揚げて、時計とにらめっこしなごら卵茹でて、苦手なサラダと庭からフルーツ取ってきて可愛いトッピングしたドーナツ詰めてくれた。凄い頑張ったねネネ。恐い恐いって泣きながら唐揚げ揚げる所、見てた」

 お尻尾勝手にくるんくるん巻き付いて、ほっぺじんじん赤くなってしまうからぁ!

「もうタツミ大しゅき」
「俺も大好き。こんな美味しい夕飯初めて食べた、な? ドロ」
「ん? 俺は兄さんが作ってくれたご飯の方が好きですけど」
「何でドロに聞くの?! 答え分かってたでしょ!!」

 そうかなって首傾げてるけど、そうでしょ!! 一気に気分下がっちゃったじゃん! 案の定この鳥の丸焼きが一番美味しいです!! ってニコニコで食べてるし。

 ピヨは相変わらす食欲に身を任せた野性味溢れる食べ方で、特に今日はお腹凄い減ってたみたいでお椀に体入る勢いで顔突っ込んでる。

 タツミは隣にいたピピの嘴や顔を拭いてやって、その隣にいるヨヨの顔を拭く為に、ドロにタオルを渡した、ドロは顔を上げろって顎で合図してヨヨの眼鏡を外して拭いてあげてる。うん、やっぱりドロは優しいよね? 

 特別なお外ご飯の時くらいしなくていいのに、今日もタツミお父さんの野菜食べなさい攻撃は健在で、数時間前に自分で茹でたブロッコリーを呪った。

 
「ネネあーんして」
「や」

「ネネ」
「やあだ」
「どうして」
「味が嫌いよ、これ食べなくても大きくなれるもん」
「? 味なんてある?」
「え」
「俺はネネと一緒に作ったりネネが作ってくれたものは美味しいと感じるけど後は特に美味しいとかはない」
「え」
「作ってくれた人で味覚が生まれると言うか、ブロッコリーに対して美味しいとか不味いとか思ったことがない。でもこれはネネが茹でてくれたから凄く美味しい」
「変わってるね」
「そう?」
「兄様は天才肌だからな、お前にはこの気持ち分かるまいよ」
「あなたの弟も変わってるね」
「それはよく言われる」

 そしたらピヨがよちよち歩いて来て、

「じゃあこれはどうピヨ?」「ボク等が剥いたピヨー」ってゆで卵渡しに来て、ヒヨコ臭い! って言われてた。あ、味……。

 意外やピヨはお酒を飲むので、さくらんぼのお酒をお猪口一杯飲んで、顔を真っ赤にしていた。
 ポンポンになったお腹を空に向けて二人でひっくり返ってる、一緒に体揺らしながら上機嫌に歌ってて楽しそう。

 私達もお酒を飲んお話ししていたら、突然私の肩にポポが少女の姿で現れて頬を叩いて空を指差した。
「あれ、ポポどうしたの?」
「ネネ時間だよ」
 その一言だけ告げると彼女は私の首に抱き付いて、そのままシュウと姿を消した、仰向けになっている二人が羽をバタつかせてピヨピヨ騒いでる。

 皆で見上げた空に、大きな火球が一筋流れて、そして……。

「あ、流星……」

 豹座を放射点として、次々と流星が飛び始めた。
 速いの遅いの光が強いの弱いの、色んな光が空一面を走り抜ける、眼鏡に光が反射して見上げたタツミの眼鏡にも流星が走ってる。
 わああ、凄い! ってそんな子供みたいな感想しか思い浮かばなかったけど、夜空に踊り駆け回る流星は魔法みたいだった。

 流星を観測できる時間は一時間あるから、タツミは私をそのままゆっくり寝かせて膝枕してくれた。

 私が右膝に乗れば黒い耳をした人もじっと見てくる訳でタツミが左膝を叩いたら、別に嬉しくなんかないんだから、みたいな顔して膝に頭を預けていた。
 いつも間にかピヨはタツミの肩に乗ってくつろいでる。

 皆で見上げた空はタツミの瞳孔より真っ黒で、音もなく光がたくさん飛び交う。
 会話もしないで、じっと空を見ていた。
 流星はどこに向かって飛んでるんだろう、何で流れるんだろう、どれくらい遠いい所にあるんだろうって思ってタツミに聞いて天文学的な数字を言われて、理解できる訳ないし、でもこの目で見ているしで変な気分になってきた。

 目の前に輝く星が何千年前の光……何千年前、私達のいるここはどうなってたんだろう、よく分からなくなってきて、私達の悩んでることって何なんだろうって、自分がすごくちっぽけに思えてくる。

 皆はどんな気持ちでこの流星を眺めてるのかなって気になって…………それで、ずっと思ってた事、胸に引っかかっていたあれを口に出してみた。

「ねえタツミ」
「うん」
「気になる事ある」
「言って」

「シャム爺さんってタツミを呪っているお爺さんなの? 私にはそんな人には見えなかったんだけど」

 目線は夜空の流星に向けて、あえてタツミとは目を合わせなかった、タツミも私を見たりしないで空を見ながら私の頬を撫でて、落ち着いた声で言う。

「ちょっと違う、呪いの【引き金】になった人」
「引き金……」
「ねえ、ネネ。ネネは前に帝都に行った時に言った」
「うん?」
「強い人が弱い人を守るものなんじゃないのって」
「うん、言った」

「俺もそう思ってる、この力豹の力は弱い人を守る為にあるべきだった」

 頬を撫でていたタツミの手の平が緑色に淡く光って、さっき夢中で鳥を食べた時に怪我した口端の小さい傷が温かく痺れて痛みが引いて塞がっていく。

「猫が突然人になれたのも豹だけに強大な力が宿ったのも、理由なんてない。理と同じだ、人が海の中で生きていけないように、魚が土から生まれないように、当然の摂理として今現実にある。ある日突然そうなった、理由もなく神が授けてくれたものだとして、俺達は試されていたんだ」
「うん、まだ難しくない」
「豹が、力をどう使うか。結果俺達の祖先は道を誤った」
「そっか」
「人間は平等だ、身分や体格や知恵の話じゃない。愚かさの上で平等だ、どんな人間でも学があっても金持ちでも貧乏でも差別や嫉妬や怒りや、負の感情を平等に持っている。豹は人間になってその愚かさを手に入れた。野生の純粋で真っ当な弱肉強食ではない愚かな人の心。他人を蹴落としたり踏みにじったり支配したり、そしてその上に立つ優越感。足場になる犠牲も考えず頂点に立った。人を傷付ければ必ず自分も傷付く日が来る事も知らないで。だからそれは強さの頂点ではなかった。けれど今更引き返せない、謝るには無碍に殺した命と犯した罪が大きすぎる、ならば反発は力を持ってねじ伏せるしかない。標的になったのは町にある善良な眼鏡屋、皇族にゆかりのある由緒正しいこの店でも気に入らなければ潰すと世界に知ら締めるつもりだった。でもそれは、豹の心が力に負けた弱さの頂点だった。何の罪も落ち度もない彼を生贄にして、その命を痛ぶり殺した瞬間に全てが崩れて、この世の痛みが呪いとなって牙を向いた」
「それで何で豹は止まらないの、その時こそ、ごめんなさいって言えばいいのに」
「謝った。産声を聞いただけで周囲にいる人間を全滅させるような呪いの子でも母親は自分の子が可愛いし、あの眼鏡屋の跡地に許してくれと頭を下げた母豹もいた。でもそんな自分勝手な話ない、今まで散々人を苦しめておいて自分の子供だけは助けて下さいなんて、更に呪いは深まって母豹は子供の目を介し殺された。どうにもならないと踏んだ豹はその呪いさえも利用するようになった。卑しい心は何も変わってない」

 そんな話をしていても空はずっと綺麗で、深呼吸すれば優しいタツミの匂いがするし握った手は温かいし、この人がそんな愚かだとか卑しいとか呪われてるようになんて感じないのに。

 ドロは手のひらを空に向けるとその手を紅い眼帯に当てた。

「今までの忌み子は僕と同じように完全に目を潰し塞いだ。僕は潰してはないけど、でも完全に視界を塞いでる。でも兄さんは……ちゃんとその目で世界を見る事に成功した初めての忌み子なんだ。僕らにとっては希望の目だ」

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