【R18】黒猫彼女を溺愛中【著 CHIYONE】

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私の眼鏡

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「ピピピ!」
「ヨヨヨー」
 まあやっぱりピヨ達は店に着くなりここぞと遊びだして、私も一緒に色んな眼鏡をかけてみる、鏡の前に立って三人であれもこれも! ってして楽しい。
 おじいさんはシャムネコのふさふさな立派な耳と立派なおひげを生やしていた。顎から先端までの長いおひげを撫でながらどっしり椅子に座って、モノクル越しに蒼い瞳で私を見てくる。

「珍しい…………というか初めてじゃないかね、誰かを連れてくるなんて……で? ソレは血統付き?」
「ついてない、色を求めすぎて近親交配させ過ぎた」
 タツミは私の後ろに立って顎を掴むと、くいっと優しくおじいさんの方に私の顔を向けた。
「目がやられて、視力が落ちてる」
「赤茶目か……黒猫の絶対条件は漆黒の毛に瞳だったかねえ、無理させると弱い所の色が落ちる……どこだか東の小さな島国にしかいないって特別な血は何年経っても人気だね。捨てられてたのか?」
 タツミは何も答えなかったけど、僅かに顎が動いた気がした。

「これ以上視力が落ちないように矯正したい」
「じゃあまずは視力を計らなきゃいけねえな。よしお嬢ちゃん」
「?」
 私って首を傾げれば、おじいさんは湯呑を傾けながら頷いて、
「真っ直ぐその鏡を見てみな」
「鏡?」
 さっきから遊んでた目の前にあった鏡に向き直って、鏡越しにタツミと目が合う、直に笑ってくれる。タツミの笑った顔大好きで私もにぱってしてしまった。
 だけならよかったんだけど、体うずうずして後ろ向いて抱き付いてお腹に顔擦りつけて、ぎゅってしてぎゅってしてって抱き締めてもらって、頭ヨシヨシしてよおってお尻尾で訴えて、そのままテンション上がってちゅうは? って上向いたらしてくれた、あんタツミしゅき。
 そしたら、ガタン! って音がして、おじいさんが何か見てもた! って言いながら湯呑持って震えてた。
「どうしたんですか?」
「あ?」
「いや、早く前向けよ」
 そうだった、視力? を計るんだっけ? 言われた通り背筋を伸ばして前を向いたら鏡の私と目が合う。
 合って、じっと見てたら、ひえ! 鏡の私が笑ったよお!! 瞬きしてたら鏡のネネの目から蒼い閃光が放たれて、真っ直ぐ鏡の中から光が伸びてくる、避けようと思ったけど目の中にぃ!!
「あ、熱いよぉ」
 耳も尻尾も下がりまくりでタツミィってしたら後ろから抱き締めてくれて、大丈夫だから目開けてって…………タ、タツミが言うならってうっすらと開けたら、視界が真っ青に染まる、怖い……!! けど、
「ん、なるほどな、まだそんなに視力は悪くないな」
 おじいさんが目を瞑りながらモノクルを凝らしてて、そうか、この蒼いのっておじいさんの目と通じてるのか。
 と考えたら、怖いのも少しは和らいだ。
「おお、記憶力の強い良い目だよ」
「ネネは天才」
 おじいさんが関心したように言えばタツミは真顔で返してるんだけど、恥ずかしいな?
「あらら、こんな小さい子にずいぶんと激しい事してんだな。毎晩毎晩って……若いってい」
「記憶を覗くな」
タツミがベルトに刺さった剣に手を伸ばせば、
「へいへい」
 おじいさんは目を閉じたままニヤッてして、ピピとヨヨが私の目を隠してくれた。
「んじゃあ、レンズは特別いいのを作ろう、後はフレームだな。こればっかりは好みだから好きなもんを選ぶといい」
 ピヨ! って二人が離れて薄目を開ければもう鏡の私は蒼い光を出していなかった、おじいさんはレンズの厚いモノクルに替えると机に向き合って両手でまん丸の水晶を温めている。
「あれがレンズになる、今は魔法や薬で視力を矯正するのが主流だけど、ネネには余計な魔法も薬も使いたくない」
「そっか、タツミと眼鏡お揃い、楽しみ! 素敵なのができるね」
「こんな灰被った店で嬉しい事言ってくれるね」

 さて、どんなのが私に似合うのかなって店内を見ていたら「ヨヨヨヨ~ッ!!」「ピピピ!!」また二人が何かやってて、見ればグルグル眼鏡を掛けたヨヨが文字通りグルグル回転してて、ピピがその周りであたふたしてる。
「もう! お店でうるさくしちゃいけません」
「ピピ! ピピ!」
「だってだって、じゃないの、ヨヨもふざけないの!」
「ヨヨヨヨヨ~」
 フラフラしててタツミが眼鏡を取ればヨヨはようやく動きを止めて尻餅をついた、目が回ってるみたいで頭クルクルしてる。
「これは強い魔力が込められた眼鏡だから、ヨヨは混乱してた」
「魔力?」

「ここに置いてある眼鏡の全てに大なり小なり魔力が込められてる、どの眼鏡を誰が掛けたって顔にフィットするように眼鏡が形を変える」
「ああそっか、だからピヨ達でも眼鏡掛けられるんだね」
「透視や顔を変えたり、魔力を増幅させたり。高度な技術で高価な物だけど犯罪に使われるという理由で今は魔眼鏡の製造加工は国で禁止されてる」
「え? じゃあこの店は……?」
 タツミは眼鏡を直して言った。
「ドアノブの握れるのは限られた一部の人間だけ、一般人はこの店に入る事もできないし、決まった時間しかこの店は外からも見えない」
「へえ凄いお店!」
 そっかだから、時間気にしてたんだ、そんな一部に人間に属してるタツミ何者? なんだけど、タツミは尻尾を揺らしながら丸いフレームが置いてある棚の方に行ってしまって、私も何か力を試してみたいなって、並べられていた一つの眼鏡を手に取った。
 特にこれといって特徴のない眼鏡だった。掛けてみて、特に変わった様子はない、これはどんな魔法が掛かっているのかなって思って、窓の外を見てみたら、突然視界がギュギュってズームを始めて望遠鏡みたいに奥の奥の遠くまで見える。
 おお、これは遠くが見える魔法の眼鏡なんだ! しかもあっちのここが見たいって思うだけで拡大されて面白い。
 さっきいた広場でボールが蹴られなくて泣いてる男の子が見える、クレープを分け合って食べてるカップル、犬を散歩させてる獣人、おしゃべりしてる女の人、色々見えて口元を凝らせば声まで拾えそうだった。
 もっともっとって町の奥を覗いていった、活気のあった露店街を抜けて民家があって、民家があって……そしたら、突然道が朽ちる。
 そう、さっき直ぐに立ち去った、この町の最下層にまで眼鏡を凝らした。
 広場の住人とはうって変わってくたびれた街並みが続く。
 痩せこけた住人に穴の開いた服、煤けた肌に何かを訴えて泣いてる子供……華やかな町もいいけど、私はこっちの方が気になって…………。
 町を追っていけば、獣人の女の子が無理矢理男の人数人に手を引っ張られてて、これ今起こってる事だよね? って心臓バクバクして、どうしようって手を握り込んでいたら、頭がクラってした。
「あ……」
 急に体が言う事利かなくなって、何で? って倒れそうになったら、「ネネ」とタツミが体を支えてくれた。
 眼鏡を外されて、体に力が入らない。
「大丈夫? 魔眼鏡は魔法を発動するのに体力が必要なんだ、こんなに一気に消耗するなんて随分遠くまで見ていたね」
「そうなんだ…………ああ、えっと……そうだ、タツミ!!」
「うん?」
「女の子が! 女の子が変な人に襲われてたの! 助けてあげないと!!」
 出せる力で服をぎゅって引っ張ったけど、タツミは頷いただけでそれは難しいって……。
「どうして?」
 行ける事なら私が行きたい、けど今は体が動かないし、でもピヨもいつの間にか行かせまいと私の袖を二人で掴んでる。
 そしたらおじいさんがこっちを向いた。蒼い光が両手を包んでて、まるでパンの生地を捏ねるみたいに柔らかそうに水晶を二等分してレンズの形に成形させてる。
「その場だけ救ってもどうにもなんないって事だよ。その彼女を救って、逆に彼女の家族が報復を受けたらどうする? 居たたまれない気持ちは分かるけど、根っこの部分がどうにかならにゃあ現状を繰り返すだけさ」
「でも…………」
「身分階級だ人種の差別だ、簡単に片付く話じゃないんだなあ、こればっかりは。何百年とその時の皇帝は公約として階級、差別撤廃を掲げてるけど、帝都が町の吹き溜まりを放置してんだもん。なくなりゃしねえよ。まあ今の皇帝の息子はそこそこ頑張ってるって聞くけどどーなる事やら……」
「難しいタツミ」
「大きくなったら分かる」
「仕方ないっていう風には分かりたくないかも」
「うん」

 額にちゅってされて、あの眼鏡の力がどれ程体に負荷をかけていたのかは知らないけど、どんどん視界が歪んできてしまって思考が鈍くなってしまって、抗えない睡魔に私の瞼は勝手に閉じてしまった。
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