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思春期

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「ねえタツミ」
「なあに?」
「私ってもう赤ちゃんじゃないよね?」
「そうだね、幼女と少女の間? くらいかな」
「でもミルクくれるの何で?」

 何で聞いたかというと、朝ご飯に美味そうなフレンチトーストがあったのに「ネネはまずこっちだよ」ってミルク飲まされて、美味しくっていっぱい飲んじゃてフレンチトースト食べられなかったんだ。

 タツミの家に来て、数日が経った、ブカブカだったワンピースも、膝の高さでちょうど良くなって私は少し大きくなった。

「ミルク大好きだからお腹いっぱい飲んじゃうのタツミ知ってるでしょ? でもあれしちゃうと眠くなっちゃうし何も食べられなくなっちゃうの」
「うん」
「うん、じゃなくてえ」
 ソファーで本読み始めちゃって、なんだよおーって背中に飛び付く、大きな体を抱き締めて、聞いて聞いて? ってほっぺにいっぱいちゅうしたら、タツミはボソッと。
「ミルクは止めない」
「え?」
「ネネが可愛いから」
「!!」
 わ、私としては猫でも赤ちゃんじゃないのに、タツミと目合わせながらミルクちゅうちゅうするの恥ずかしいんだけど、でも栄養とかじゃなくて、タツミが好きでしてるなら仕方ないか…………私だって、嫌いな訳じゃないし……。
「あれ、ミルクだけじゃない、色々入ってるから成長にい」
「わかったよもういい、毎日飲む」
「うん」
 目合ってキスして、頬を擦り合わせた。
「でも他の猫にも可愛いからってミルクあげちゃダメだよ」
「うん」
「あんな風にされたら皆好きになっちゃうから、ネネ以外にしちゃダメ」
「うん」
「約束」
「する」
 抱き締め合って匂い確かめ合って、自分以外の匂いがこんなに安心するなんて知らなかった。

 最近ではそのまま抱っこしてもらって本読んでもらってる、文字や数字や……物の名前? たくさんの事をタツミは教えてくれる。
 時計も読めるようになって、文字は下手だけど、ネネとタツミとすきは書けるようになった、後ありがとうも。
 だから冷蔵庫とか、洗濯機とか色んな所に毎日豹の絵描いてありがとうって手紙貼っておくの、毎日奇跡みたいだから。


 それで、勉強は知れば知る程、教われば教わる程、知りたい事が増えた。
 ここはどこなの? タツミは何をしてる人なの? 森には何がいるの? 


 どうして私は捨てられたの。


 でも基本の基本、当たり前の常識や知識がない私は、例えばここはパンテーラ帝国だよって言われてもその意味も名前も知らないし、どこに位置するのかも、他に国があるのかも知らない。
 職業だって、うんんっと……えっと、そうだこのワンピースを作る人や、ランプやフライパンを作る仕事をしてる人がいるんだろうなってくらいで、その職業の名前だってわからないや。
 何もかもが無知すぎて、でも一番気になるのは……。


 最近タツミの匂いを嗅いでると、安心と好きって気持ちと、他に何かソワソワするのを感じるんだ。
 嗅いでると胸の奥から、ムズムズして体おかしくなって、耐えられなくなって体をくねらせてると撫でてくれるけど、それじゃあ収拾つかない位心臓の音うるさくて、頭可笑しそうになる時がある。
 それの意味が分からない、でもちょっとすると落ち着くし、またきそうになると頭混乱する。

 タツミの私にだけ見せる頬を緩ませた笑いも、優しい指先も、息が詰まりそうなくらいキュンときて胸が痛いんだ。
 深呼吸して、何て言葉で現していいのかわからなくて、キスしたり体撫でてもらったり、でもそんなんじゃ治まんないから苦しくて、喉たくさん鳴らすと抱き締めてくれるんだけど、それが頻繁にあるからしんどい。

 気持ちだけじゃない、体だって身長が伸びたのだけなら良かったけれど、なんでだろう、胸がチクチクして血管が痛い? って思ったら少し掴めるくらいのお肉が付いていたんだ。
 こないだまでタツミとお揃いでぺったんこだったのに、ちょっと見せるの恥ずかしい気持ちして、所構わず人になるの……裸になるの躊躇してるパンツもはかないと不安。

 お風呂は変に意識したら負けかなって思って洗われてるけど、そもそもタツミのタオルの下にある凄いのってなんだよ!!! って気になって、じっと見ちゃうし。
 温かいお湯の中で良い香りのお花とタツミに寄りかかってると、もう体中可笑しくなりそうなんだ。
 上向いて好きだからキスしたら止まらなくなって、金髪掴んでいっぱいしちゃう、勝手に喉の唸ってるしタツミが落ち着かせてくれないと、いつか私がタツミを食べてしまいそうだ。


「はあああ~このままじゃ情緒不安定で嫌われちゃうよお」
 鶏さん柵の前でコテンと額を寄りかからせて溜め息だ。
 そしたら鶏さんは柵の隙間から顔を出して大丈夫か? って鶏冠でスリスリしてくれた。

 あ、そうだあの突かれ事件の後も何度も何度も諦めずに小屋に行ったら鶏さんは少しづつ私を受け入れてくれたんですよ、というよりも…………。
 今朝も卵収拾のカゴと彼女らのご飯を持ってやって来たら、先に出て来たのはピヨピヨって黄色い羽根をばたつかせるヒヨコだった。
 なんと、鶏さん達が気が立っていた理由は卵を温めるからだったらしく、奥でこっそり温めていたんだと。
 それで雨の日に、まさかの突風で小屋が少し傾いて、鶏さんの悲鳴を聞いた私は急いで駆けつけた、板の下敷きになりながらも必死に卵を守る鶏さんを、一生懸命助けたんだ。
 後に来たタツミがまさかの魔法? 指先一本で崩れた屋根を吹き飛ばして助けてくれたけど、それから鶏さんは私を信用してくれた、気がする。

 タツミと鶏さんとの関係はさ? なんて言うか力の差で従ってるって感じするしね。
(以前、ほっぺを鶏さんに引っ掛かられて、タツミが鶏さん食べようとしてたの必死に止めるエピソードあって絆深まる)

 それにしても……卵から返ったヒナは4匹いて、内2匹はちゃんと鶏になってるのに…………。
「ピヨピヨピヨピヨ」
「何で君ら二人はヒヨコのままなんだろうね?」
 ご飯あげて、もつろん兎さんにも、卵貰ってとりあえずヒヨコのままの二匹を肩に乗せて帰ってきた。
 だって、一緒に生まれた二人お母さんと同じ大きさになって卵産んでるのに?

「タツミー」
「ん?」
「このピヨちゃん達何で大人にならないのかな?」

 言葉はわかるのか、テーブルに乗せたた二人ともすんませんって頭下げてて、タツミは一匹づつ掴んで眼鏡を直しながら、くまなく見てる。
「何かわかった?」
「体に異常もないし、不思議だね。でも太古の人間から見たら俺等猫人も異質な訳だし、これが成人なのかもしれない。とりあえずオスだから卵も産まないし、だったらこのまま食」
「「ピ?!!!」」
 ヒヨコは鳥肌立てて二人で抱き合ってて。
「待って待って待って! これはこれで小さいっていうのがプラスになっていい働き者になったり? しないかな!?」
「そうかな、ヒヨコって柔らかくって美味しいって」
「ダ、ダメ!!」
 タツミが牙見せながら舌なめずりしてきたから、思わず二人を取り上げて胸に抱いた。
「この家にいる命は大事にして? タツミ」
「わかった」
「ピヨー」
 二人は泣きながら、胸にすり寄って来て、その返しお家のお手伝いするんだよってお約束した。
「ならさ、タツミ」
「ん?」
「生きる事になった彼らに名前を付けてあげようよ」
「ああ……」
 鳥肉を免れた二人はもう遊び出していて、テーブルに置かれた人形がかけていたミニチュアの眼鏡を掛けて、タツミの真似して短い足組んだりしてピヨピヨやってる。
「何にする? ジョバンニ……?」
「えっと、こっちのアホ毛立ってる方がピピで」
「ピ?」
「こっちの眼鏡掛けてる方がヨヨ」
「ヨ!」
 二人は嬉しそうにピヨピヨやって、うん、可愛いね!!!!













 って、ん? あれ?
 ピヨだから、ピピとヨヨ???
 え?

 


 じゃあ猫だから…………私……?!!!!
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