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生と死と12
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遮光の薄いカーテンから朝日が透ける。記憶がないから少し寝ていたみたいだ。隣を見たら桜はいなかたった、白杖もない。時計を見たら九時って……?!
慌ててトイレに行って顔を洗ってキッチンに向かったら、広めのシンクの前に瀬戸さんと桜が並んで立っていた、僕の足音に気がついて桜が振り返りる。手には緑色の何かを持ってて、
「おはようおにいちゃん、見て! ダビデの星だって」
「おはよう……おう、何だよそれピーマン?」
「おはよう梧君、ピーマンじゃなくてオクラだよ」
「うちの畑で取れたんだ」
っと、ドアの影に隠れていた父さんがフライパンを持って顔を出した。
「おはよう、父さん」
「おはよう梧、久しぶり」
眼鏡を直しながら笑う父さんは少し痩せてたけど、顔色は悪くない。昨日僕から話しかけるって言った癖に寝坊ってめっちゃ恥ずかしいな。 僕がいない間に三人は仲良くなっていて、ちょっと気まずさを感じる中、瀬戸さんは笑顔で続ける。
「朝、桜ちゃんに畑の紹介をしたの、あっちもこっちも見せてあげたくなって、しまって今からご飯を作るところ、ちょっと待っててね」
「美鳥さんが色んな野菜を触らせてくれたよ」
「よかったな」
昨日まで少し警戒気味だった桜が瀬戸さんを名前で呼んでて、距離が縮んでいるのに焦りを感じつつ、僕もキッチンに立った。
四人並んだ台所、僕が火の前に立ったら父さんがこれ炒めておいて、と鶏肉の入ったフライパンを渡してきた。
隣では桜がダビデの星なるオクラをスライスしてる、このくらい? と美鳥さんに聞いて美鳥さんはもう少し薄く、と手を取って切り方を教えていた二人は姉妹のように見えて、母さんがこの姿を見たらどう思うんだろうと一瞬よぎったけれど、頷きながら微笑む父さんを見たら、なぜか悲しい気持ちになった。
美鳥さんは言ってなかったけど、父さんはきっと余命が決まってる。だからもしかしたら、これが最後の会話になるかもしれないし、これが最後の笑顔になるかもしれない。
僕は何をしたらいいのか、何を優先順位の頂点においたらいいのかわからなくなった。
美鳥さんと父さんの最後の時間に僕等が割り込んでいいのだろうか。
山菜のお味噌汁とオクラのお浸し、鶏肉と可愛い丸い形をしたズッキーニの炒め物、押し麦の入ったご飯。
朝から豪華で箸が進んだ、父さんはあまりご飯を食べなかった。洗い物を終えて、美鳥さんは定食屋さんに出勤するって、というかあのお店は美鳥さんの実家だった。
三人で送り出して、父さんと桜と僕、さて何をしようか、何を話そうかとなった。
そういえば、桜は接骨院で働いているけど、今日は大丈夫なのかな、そして僕も昨日警察に行かないままここまで来てしまった。
携帯の充電はとっくになくなってる。最後に携帯を使ったのは、桜のメールの後、恩田さんに「また会えるのを楽しみにしてるね」とメッセージを送ったきりだ、返信も見ていない。
「行きたい所があれば連れて行くよ」
と父さんが車のハンドルを握るジャスチャーをしながら言う。
「お兄ちゃんが来た時は何をしていたの」
「僕? が来た時は……特に何もしてないかな、家の周りを散歩して、ちょっと森に入って」
「そうそう、ブラブラしてご飯食べて、次の日もブラブラして帰ったんだよな」
「へえ、じゃあそのプランでいいよ」
玄関を出て、昨日は気が付かなかったけど、扉の脇に車いすが置かれていた。
「父さんが乗るの?」
「治療中ね、ちょっと歩けない時もあったから、でも今日は大丈夫」
「じゃあ私が乗ろうかな」
「若いんだから歩きなさい」
父さんは桜のお尻を叩いて、三人で笑って外に出た。
さっき話した通り、ただブラブラと家の周りを歩く、父さんの歩幅に合わせてゆっくり山道を進む、桜は父さんの肘をしっかり握りながら白杖を動かしてる。
始めて聞く鳥の声に、東京の道端には咲いていない花。桜に今どんな所を歩いてるのか、父さんと一緒に説明してあげる。
「この先は緩い上り坂になるよ」
父さんが桜の手をそっと叩いて、桜は頷く。
「デコボコの道、大変だけど楽しいね。人がいないから頭も痛くならない」
「昔来た時は考えなかったけど、コンクリートの道がないって不思議」
「逆だよ、都会のコンクリートの道しかないのが不思議なんだよ。何でも補整しないと気が済まない。街路樹も桜並木も、東京の自然は不自然な自然だよ」
開けた場所に出て、大きな石に座ってまた来た道を戻って、一時間程散歩して家に戻って来て、今度は縁側に腰を降ろす。
父さんがお茶を持って来た。娯楽もない、音楽もない、携帯もない、静かな空間でお茶を飲みながら三人で畑を眺めていた。
父さんは、何で僕等が突然長崎に来たのか聞いてこない、僕が今何をしているのかも知りたがらない、病気の話もしない。いつまでいるのかも言ってない。母さんの話もしてない。
ただ、時間を共有するだけ、きっとそれが父さんの答えで、僕等が来た理由も病気も母さんの事も、もう父さんには必要がない情報なんだ。未来がないから。
僕もいずれ死ぬ、桜は一度死にそうになった、父さんは目の前に死が迫ってる。
「死ぬって何?」
あ、しまった、勝手に口から出てしまった、もちろん二人に聞こえてて、父さんが首を傾げた。
「死んだことないからわからない」
「ごもっとも」
「私はね死後の世界は無がいいな。もう何も感じない所でゆっくりしてたい」
「そんな風に考えるなんて、今の若い子は苦労してるんだね」
そうかな、皆そう思ってるよ、と言いながら桜はトイレに行くと立ち上がった。父さんと二人きりになって風が吹いた。
「桜がこういう所で暮らしたかったって言ってた」
「そうか? 東京の方が便利で楽しいだろ?」
「それは……」
父さんの横顔が、あの日の悲しそうにしていた顔と重なる、こっちを向いて困っような顔で、
「お前はそう言ってたよ。覚えていないだろうけどな」
「うん……いや、うん……どうだったかな」
視線を逸らして、胸が痛くなって深呼吸した。覚えている癖に、何だよ今の返事は。またこのまま言えずに終わるのかな。
前回はもちろん父さんの死なんて考えてなかったけれど、今回はさよならが最後のさようならになってしまう、またねが続かないバイバイだ。お腹に力を入れて息を吸う、このままでいいわけない。
「ねえ、父さんさ」
慌ててトイレに行って顔を洗ってキッチンに向かったら、広めのシンクの前に瀬戸さんと桜が並んで立っていた、僕の足音に気がついて桜が振り返りる。手には緑色の何かを持ってて、
「おはようおにいちゃん、見て! ダビデの星だって」
「おはよう……おう、何だよそれピーマン?」
「おはよう梧君、ピーマンじゃなくてオクラだよ」
「うちの畑で取れたんだ」
っと、ドアの影に隠れていた父さんがフライパンを持って顔を出した。
「おはよう、父さん」
「おはよう梧、久しぶり」
眼鏡を直しながら笑う父さんは少し痩せてたけど、顔色は悪くない。昨日僕から話しかけるって言った癖に寝坊ってめっちゃ恥ずかしいな。 僕がいない間に三人は仲良くなっていて、ちょっと気まずさを感じる中、瀬戸さんは笑顔で続ける。
「朝、桜ちゃんに畑の紹介をしたの、あっちもこっちも見せてあげたくなって、しまって今からご飯を作るところ、ちょっと待っててね」
「美鳥さんが色んな野菜を触らせてくれたよ」
「よかったな」
昨日まで少し警戒気味だった桜が瀬戸さんを名前で呼んでて、距離が縮んでいるのに焦りを感じつつ、僕もキッチンに立った。
四人並んだ台所、僕が火の前に立ったら父さんがこれ炒めておいて、と鶏肉の入ったフライパンを渡してきた。
隣では桜がダビデの星なるオクラをスライスしてる、このくらい? と美鳥さんに聞いて美鳥さんはもう少し薄く、と手を取って切り方を教えていた二人は姉妹のように見えて、母さんがこの姿を見たらどう思うんだろうと一瞬よぎったけれど、頷きながら微笑む父さんを見たら、なぜか悲しい気持ちになった。
美鳥さんは言ってなかったけど、父さんはきっと余命が決まってる。だからもしかしたら、これが最後の会話になるかもしれないし、これが最後の笑顔になるかもしれない。
僕は何をしたらいいのか、何を優先順位の頂点においたらいいのかわからなくなった。
美鳥さんと父さんの最後の時間に僕等が割り込んでいいのだろうか。
山菜のお味噌汁とオクラのお浸し、鶏肉と可愛い丸い形をしたズッキーニの炒め物、押し麦の入ったご飯。
朝から豪華で箸が進んだ、父さんはあまりご飯を食べなかった。洗い物を終えて、美鳥さんは定食屋さんに出勤するって、というかあのお店は美鳥さんの実家だった。
三人で送り出して、父さんと桜と僕、さて何をしようか、何を話そうかとなった。
そういえば、桜は接骨院で働いているけど、今日は大丈夫なのかな、そして僕も昨日警察に行かないままここまで来てしまった。
携帯の充電はとっくになくなってる。最後に携帯を使ったのは、桜のメールの後、恩田さんに「また会えるのを楽しみにしてるね」とメッセージを送ったきりだ、返信も見ていない。
「行きたい所があれば連れて行くよ」
と父さんが車のハンドルを握るジャスチャーをしながら言う。
「お兄ちゃんが来た時は何をしていたの」
「僕? が来た時は……特に何もしてないかな、家の周りを散歩して、ちょっと森に入って」
「そうそう、ブラブラしてご飯食べて、次の日もブラブラして帰ったんだよな」
「へえ、じゃあそのプランでいいよ」
玄関を出て、昨日は気が付かなかったけど、扉の脇に車いすが置かれていた。
「父さんが乗るの?」
「治療中ね、ちょっと歩けない時もあったから、でも今日は大丈夫」
「じゃあ私が乗ろうかな」
「若いんだから歩きなさい」
父さんは桜のお尻を叩いて、三人で笑って外に出た。
さっき話した通り、ただブラブラと家の周りを歩く、父さんの歩幅に合わせてゆっくり山道を進む、桜は父さんの肘をしっかり握りながら白杖を動かしてる。
始めて聞く鳥の声に、東京の道端には咲いていない花。桜に今どんな所を歩いてるのか、父さんと一緒に説明してあげる。
「この先は緩い上り坂になるよ」
父さんが桜の手をそっと叩いて、桜は頷く。
「デコボコの道、大変だけど楽しいね。人がいないから頭も痛くならない」
「昔来た時は考えなかったけど、コンクリートの道がないって不思議」
「逆だよ、都会のコンクリートの道しかないのが不思議なんだよ。何でも補整しないと気が済まない。街路樹も桜並木も、東京の自然は不自然な自然だよ」
開けた場所に出て、大きな石に座ってまた来た道を戻って、一時間程散歩して家に戻って来て、今度は縁側に腰を降ろす。
父さんがお茶を持って来た。娯楽もない、音楽もない、携帯もない、静かな空間でお茶を飲みながら三人で畑を眺めていた。
父さんは、何で僕等が突然長崎に来たのか聞いてこない、僕が今何をしているのかも知りたがらない、病気の話もしない。いつまでいるのかも言ってない。母さんの話もしてない。
ただ、時間を共有するだけ、きっとそれが父さんの答えで、僕等が来た理由も病気も母さんの事も、もう父さんには必要がない情報なんだ。未来がないから。
僕もいずれ死ぬ、桜は一度死にそうになった、父さんは目の前に死が迫ってる。
「死ぬって何?」
あ、しまった、勝手に口から出てしまった、もちろん二人に聞こえてて、父さんが首を傾げた。
「死んだことないからわからない」
「ごもっとも」
「私はね死後の世界は無がいいな。もう何も感じない所でゆっくりしてたい」
「そんな風に考えるなんて、今の若い子は苦労してるんだね」
そうかな、皆そう思ってるよ、と言いながら桜はトイレに行くと立ち上がった。父さんと二人きりになって風が吹いた。
「桜がこういう所で暮らしたかったって言ってた」
「そうか? 東京の方が便利で楽しいだろ?」
「それは……」
父さんの横顔が、あの日の悲しそうにしていた顔と重なる、こっちを向いて困っような顔で、
「お前はそう言ってたよ。覚えていないだろうけどな」
「うん……いや、うん……どうだったかな」
視線を逸らして、胸が痛くなって深呼吸した。覚えている癖に、何だよ今の返事は。またこのまま言えずに終わるのかな。
前回はもちろん父さんの死なんて考えてなかったけれど、今回はさよならが最後のさようならになってしまう、またねが続かないバイバイだ。お腹に力を入れて息を吸う、このままでいいわけない。
「ねえ、父さんさ」
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◆◇◆◇◆
執筆2023.11.17〜12.25
公開2023.12.31
本編
『10年後の君へ』
著・雑魚ぴぃ
番外編
『10年前のあなたへ』
著・桜井明日香
挿入歌
『Akaneiro』『光が見えるとき』
著・桜井明日香
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