前略、僕は君を救えたか

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君。2

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 僕はそんなクラスの奴らが大嫌いになったし、スーパーマンだった桔平が委縮していく姿を見るのが苦しくて、帰り道では無理にでも明るくして色んな話を振ったよ。
 それである日、いつもの帰り道でその日あったテストの話題になった。
 案の定、桔平は満点取って僕は桔平のテストを頭上でヒラヒラさせながら自分の事のように得意気になってた。まぁ僕は30点だったんだけど、

「すげーすげーっ!!」って連呼したら桔平は「そうでもないよ」って愛想笑い。
「そんな事ないって!! だって抜き打ちだったじゃん! やっぱお前は天才だよ!」
「天才じゃないよ」
「お前は天才だって!」
「止めてよ」
「何でだよ、天才だろ」
「違う!」

 突然風が吹く、桔平の体が強張って、

「俺は天才じゃないってばっ!!」
「なっ!?」

 指先が震えた。
 否定するからむきになったのは悪かった、でも間違ってないだろ、お前は頭いーじゃん天才じゃん。でもあの温厚な桔平が唐突に声を荒げたからビビった。黙っていると桔平は語気を強めたまま。

「だって……、だって! 高い塾行ってるんだからこんな点数、当たり前だ!!」
「……」

 掲げたテストが渇いた風に靡く、茶化したつもりなんてなかったけど、謝らないといけないよな。桔平はランドセルの肩ひもを強く握って下を向いた。怒らせたかなって焦った、桔平を覗き込んで、

「あのさ…きっ」
「ってお母さんだったら言うと思う……」

 顔を上げた桔平はいつもの苦笑いだった。
 その顔に一時の安堵感を得たけど、なんだか僕は凄くムカついた。
 あぁ、何に? って聞かれても具体的にはわからないんだけど、そう、わかんないからどうにかしたくて、そのまま答案用紙持って母さんがパートしてるスーパーに行ったんだ。
 桔平は急に走り出した僕にどうしたの? と言いながら追いかけてきた。
 息を切らして到着したスーパー、店内を見渡すと品出ししてる母さん発見、僕は一目散に駆け寄った。

「母さん!!」
「ん? あら梧、おかえりーと言いたいけど、なぁに? い! ま! 仕事中ッ!!」
「どうせ暇だろ?!」
「ちょっと、どうゆう意」
「これ見てよ! ほらッ! テスト! 満点ッ!」
「ん?」

 言葉を遮ってテストを掲げると、母さんは屈んだ。桔平は僕の隣でビクッと体を反応させる。

「あれー? おぉ!! 凄い!! 凄いじゃん!! ……ってあれ? 凄いけど、これアンタのじゃないじゃん!!」
「わかってるよー! だけど、ヤバイだろ?」
「ヤバイて言葉は使っちゃダメって言ってるでしょうが」
「はいはいうるさいな、でもヤバいもんはヤバイんだって」
「ハハハ…」

 興奮する僕の横で桔平はきっとまた苦笑いしてたと思う。母さんは呆れた目で、

「自慢するなら、自分のテスト自慢してよ、一瞬驚いちゃった」

 フンっと大きく鼻息をついて、テストから視線を逸らすと桔平の頭に手を乗せた。

「ヤバイのはこっちの子か」
「え? あ、……ありがとう……ござい、ます?」

 桔平は小さな声でそう言った気がする、母さんは優しく数回手を上下させると、その手を今度は僕の頭に置いて、ご利益ご利益って乱暴に擦ってきた。

「やめろよ!」
「はいはい、じゃあこれ」

 恥ずかしくなって僕が手を振り払うと、母さんは首にかけたネームプレートの裏に忍ばせてあった500玉を握らせて笑う。

「次はあなたも自慢できる点数をお願いします」
「え? いいの?!!」
「お友達に感謝ね?」
「うん! 桔平ありがとー!!」
「え? べ、別に……」

 500円玉と他人の満点のテストを振りかざし歓喜する僕を桔平は照れながら見ていた。そりゃそうだ、だって店中に響き渡る声で叫んでいた気がするもんな。
 僕達はそのままスーパーで普段じゃ買えないようなお菓子を買って飛鳥山まで行くと二人で分け合って食べた、冗談をたくさん言った、好きな人の話もした、桔平は教えてくれなかった、怒った、笑った、恥ずかしくなって、また笑う、遊ぶ、走る、隠れて、話して、また走る、お菓子を食べる、手を繋いだりもした、また笑った。
 すげえ楽しかった、きっと……桔平も楽しかったと思う。

 それで、話を学校に戻すんだけど、相変わらず中山の体罰は続いていた。
 少し整列が乱れただけで足蹴っ飛ばしてきて校庭10周とか、露骨に無視とか、給食食べさせてもらえなくて、最後の3分で全部食えって怒鳴って、チャイムが鳴ったら強制終了。もちろん食べきれるはずない、本当マジ意味わかんね……まぁ大半が桔平絡みだったけど。

 そんな中、図工の時間に紙粘土で好きな物作るって授業があって僕は犬を作って桔平は手の模型を作った。
 僕は図工が好きだった、そこだけは桔平にも負けない自信があった。
 出来上がった作品を見てクラスの皆も上手いって褒めてくれたよ、桔平の作品はお世辞にも上手とは言えないけど、いつもの苦笑いを浮かべながら「ご利益あるかもよ?」なんて、作った手で僕の頭を撫でてきた。

 唯一の僕の見せ場ってやつだな、それが勉強の必要のない図工なんて格好悪いかもしれないけどさ、でも桔平はバカにしたりしないで耳の形や色の塗り方を褒めてくるんで、逆にこっちが恥ずかしくなったくらいだ。
 それで皆で笑って楽しい時間だったのに事件が起きたんだ。
 握り込めないような大きな引き金が突然音もなく引かれた、それは掃除の時間だった。
 出来上がった粘土の作品は教室の後ろにあるロッカーの上に置いてあったんだけど、ロッカーの上を掃除する時落としちゃったんだよ。


 桔平の作品を……。
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