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おしまいの後
夢、嘘、現実、妄想1
しおりを挟む仏頂面で道を歩いていたら避けられるような外見は社会不適合者かもしれないけれど、こう見えて勉強だって頑張ってるし(ちゃんとした学歴ないと絵夢ちゃん養えないから)歌だって頑張ってる(こっちで有名になったら絵夢ちゃんが振り向いてくれるかもそれないから)料理だって出来るし(小さい頃から絵夢ちゃんの手伝いしてたから)家を出たって生きていく術は身についてる。
でも家出なんかしたら、絵夢ちゃんが悲しむから、できないけど。
熱いシャワーを浴びて、思い出すのは毎日絵夢ちゃんと一緒に入ってたお風呂だ、壁にお湯で付くシートを貼ってひらがなを教えてくれたり九九を教えてくれたり、パチパチする入浴剤やアヒルの人形に水鉄砲、体を洗うだけじゃなくて、一時間位入って遊びつくしたのを覚えている。
俺の背中流す時に、向こうにあったシャワー取るんで押し付けられた胸の感触も、抱っこされながら一緒に浸かった湯船も、優しく拭いてくれた体も、毎日風呂に入れる度に昨日の事みたいに蘇ってくる。
そしてその後に続く、寝かしつけの絵本の声もお休みのキスも、全部全部覚えてる。
覚えていて、俺にとっては初恋も混じった嬉しいような恥ずかしい思い出だけど、絵夢ちゃんにとっては、手のかかる甥の子守だったんだろうか。
いや、優しい絵夢ちゃんのことだ、手のかかる甥の子守じゃなくて可愛い甥の子守くらいに思っていてくれてるかもしれない。
けれど、確実に言える事は、その思い出に、【恋】って単語が入ってる訳ないって話。
俺はいつも考えてるよ。
この体が子供じゃなければ、絵夢ちゃんが困っていた時に俺が救ってやれたのにって。
寂しそうな顔で突然コスプレをしなくなったあの日も、唇を噛みながら家を出るって言ったあの日も、泣きながら会社が辛いって言っていたあの日も、絵夢ちゃんの抱えた苦しみに俺は虚しい位に何もできない無力なクソガキだった。
母親でもないのに、弟でもないのに、あんなに可愛がって支えてくれた人に俺は何も手を差し伸べる事もできず、見ているだけだった。
わかってるんだ、そんな俺でも恩返しができる事があるとすれば、それはあの眼鏡との結婚を心から祝福してやる事だ。
俺を心配してる絵夢ちゃんにさ、満面の笑みでおめでとう!! て拍手を送ってやる、そしたら絵夢ちゃんも安心して、よかったって心底和む笑顔で返してくれるだろうよ。
で も さ !!!
そう簡単に認められて拍手できないのが、青春な訳よ。
このまま大きくなって、大学行って就職してさ、ああ音楽で成功してる俺でもいいよ?
どっちにしても、家に帰ってきたら、絵夢ちゃんがキッチンに立ってんの、俺に気が付いて振り返って「今カレーできるからね」って大好きな慣れ親しんだ絵夢ちゃんのカレーを作ってくれてる、その背中に赤ちゃんおぶってたら最高だよなって変な妄想してしまう。
もちろん、その横の暖簾潜ってあの眼鏡が出て来て「おかえりなさい、らいおん君」って絵夢ちゃん
キスする未来じゃねえぞ? 歴とした俺の子!
と、そっかそうなると、俺絵夢ちゃんとえっちしてるのか、って変な所まで想像してしまって下半身が反応してしまう前に顔を叩いた。
いつもは学校が終わればバイト先である、ライブハウスに行くのだが今日は家への帰路を急いでいた。
何故ならば、夕方、絵夢ちゃんから電話があったからだ!! 家もお姉ちゃんも繋がらなかったからって、電話が掛かってきた。
私の部屋のクローゼットの中身いじってないよね? って聞いてきて俺の知る限りでは、物を捨てたりはしてないよと答えた。
絵夢ちゃんはヨッシャ!! って言って、今日家に行くからって言って電話を切った。
へえ、クローゼットに用があるのか、エロ本? 何にしろ絵夢ちゃんと会えるのは楽しみなので勝手に早歩きしてしまう。
が、一応隣にセーラー服のオカマが歩いているのもお伝えしておこう、だって電話口で眼鏡の声がしたんだもんよ、吾輩一人じゃ心細いのである。
茶色い髪を靡かせてありあは言う。
「どうしたのかな、コスプレ衣装でも取りに来るのかな」
「さあな? コスプレ関連は引っ越しの時に全部箱で持って行った気がするけど」
マンションについて、一時的な来客用の駐車場に真っ赤な高そうな外車が停まってて、ボンネットに黒猫のぬいぐるみとか置いてあるから、アイツのだなクッソー札束チラつかせやがって、何?! 絵夢ちゃんお金で落とされたの!? って思いたくないけど、アイツすっげーいい時計してんだよな!
「おい、ありあ、もうきてるぞ眼鏡。十円パンチでもしたろか」
「止めときなよ、それ器物破損罪、犯人バレバレだしこんな車傷つけたら十円の何倍だよってくらい修理代請求されるよ」
「言ってみただけだし」
チクショウ! 勝てそうな所が見当たらねえ。
それで玄関ついて、鍵開いててそのまま二人で入った。
「ただいまー絵夢ちゃん」
「おかえり、らーいちゃん」
昔みたいな返事が帰って来てにやけて安心したのに、何だよ声の割に玄関まで来てくれたのはロミオ(飼い犬)だけで涙が出るな?!
「はいはい、ロミオただいまただいま」
「ロミオ君久しぶり」
軽く愛犬を受け流そうと思ったら(後でモフモフしてやるけど、今は傷がでかいんだよ)、
「あらららら、らいちゃんってばまた髪の毛真っ白に戻して綿毛ちゃんだね?」
「え」
「ありあちゃんも相変わらず美少女!!」
「ん?」
ハ、ハ、ハ、と舌を出してお座りしてるロミオから絵夢ちゃんの声がすんだけど??!
と思ったら首輪の所が何か動く、モゾモゾこっちの上がって来て。
「どうも、小さくなってみました」
「ええ……」
「嘘、まさかあの人気コスプレイヤーにゃんにゃんさんのフィギュア!?!」
二人で驚いてたら、冷静で静かな声が廊下に響く。
「じゃないですよ、本人です」
ドアの向こうから、眼鏡光らせて男が出来きて「お邪魔してます」って頭下げてきた。
「それじゃあ行こうロミオ、ああ家で会うのは初めてだねありあちゃん」
「え、あ、はい」
ロミオの額に乗った絵夢ちゃんは右の耳をクイクイっと引っ張って、それに合わせてロミオは立ち上がると回れ右してリビングに歩き出した。
「凄いですね尾台さんロミオ君とばっちり意思疎通できてるじゃないですか」
「当然ですよ! ロミオはいつだって私の言うことは絶対聞いてましたから」
絵夢ちゃんはそのままロミオに乗って行ってしまって、ありあとポカーンってしながら取り残されてしまった。
え? 絵夢ちゃんが小さいって?? 意味わからんそれ、現実か? 現実じゃないな? そうかよかった、絵夢ちゃんがあの眼鏡と結婚するのも夢って事かよかったぁあああああ!!
「んぐうう!!」
万歳してたら、みぞおちありあの肘鉄を喰らってしまった。
「ここまできて逃げ出すんじゃないよらいおん。あのカメコと結婚だって嘘みたいなことが起きてる現実なんだ、にゃんにゃんさんが小さくだってなるだろうよ」
「そ、そうか」
ちくしょおお! 現実なんだとしたら、何て可愛いだよおお! 小さい絵夢ちゃん! 早く見に行こう!!
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