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おしまいの後
会社に来てみたエムエッティ
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自分の人生を呪ったりなんかしない、そんなのは時間の無駄だから。
と、言うよりも自分の人生が不幸だと知ったのは、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが死んでからだった。
遺言書に書かれていた弁護士さんに電話して、相続の手続きをしていた時に言われたんだ。
「若いのに大変な修羅場を経験されましたね。お二人が残されたお金で、どうか幸せになって下さい」
と、そこで初めて、自分の人生は他人にとって修羅場といわれるものなんだと知った。
ああ、ちょっと嘘かな、私は不幸じゃないって見てみぬふりしてた面もあると思う、その弁護士さんはお祖父ちゃん友達で、私の生い立ちも身にあったこともお祖父ちゃんとの関係も全部知っている人だった。
そうか、他人から見たら、私は不幸なのか、と通帳に振り込まれた多額の遺産と私の名前に変更された土地の登記簿を見て思った。
祖父母にはお母さんの以外にも子供がいたけど、財産は全て私にあげると書いてあった。
親戚からはお金欲しさに老人に取り入っただの、泥棒だと暴言の嵐で、まともな話し合いは出来なかった、でもそんな事よりも、親のお葬式にも顔を出さないんだなって私の成人式もだったけど、全く連絡をくれないお母さんの事を考えて、寂しかったかな。
遺産相続で揉めて殺されたって言えば、あのお母さんも私のお葬式には来てくれるかな、なんて思って…………やだ、無意識にその言葉がポツリと口から出てて、私に視線が集中して話し合いの場が一瞬しんっとなった。
弁護士さんが慌てて取繕って、例え裁判をしてもあなた達に勝ち目はないですよ、と言ってくれて、親戚は私を怒りと憐れんだような目で見て帰っていった。
その目は知ってる、児相に迎えに来てくれたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが、ごめんね、家に帰ろうね、って手を握ってくれた時もそんな顔だったから。
友達に聞かれた、恵って悟りでも開いてるの? って開いてないよ、悟ったつもりなんてないけど、怒ったって泣いたって縋ったって、どうにもならない現実を私は知ってるから、達観してるしかないんだよ。
だって、わかる? お母さんが私を捨てたんだよ? 親でも子供を捨てるのに、他人なんてもっと信じられないよ。
だから、彼氏がどうの友達がどうのって悩んでる人を見ると、当り前じゃんっとしか思えなかった、初めから期待しなきゃいいのに、信じなきゃいいのに。
所詮、人は見返りがないと動かないだって、私が生まれて一番深く学んだのはそれだ。
感謝がないと、報酬が、価値が、恵みがないと人はこっちを見てくれないんだよ、そういうもんだよ。
いくら綺麗事言ったてさ、駅でホームレス抱き締めてる人なんて見た事ないよ。
ああ、そっかいつの間にか悟ってたな。
そして、そんな私でも生きていくしかないから、前向きに生きましょって話。
だって私まだ若いし? 可愛いし? そこまで悲観的になる必要ないてないはずよ。
こんな私でも好きだって言ってくれる人だっていたもん。
でも、真正面から好きになって貰えるとは到底思えなくて、綱渡り状態のこのままでいいかなって思ってる。
だから、私を求めてくれる唯一無二の存在が欲しいのかなって、そう赤ちゃん。
うん、私も自分を認めてくれる人が欲しいんだって、世界で一番自分勝手な人間だ。
神様は悪戯で、嬉しいやら苦しいやら、偶然にしてはできすぎてることばっかり起こしてくる。
止めてよ、頑張ってるけどさ、私だってこう見えて感情的なのよ、焦らせないで? と新しく入った会社は震えながら息を吐かないといけない、深呼吸の毎日だった。
そんな中で変な人が一人。
まあ、私を担当してくれた上司なんですけど、よく言えば面倒見良くて優しくていつも笑顔、悪く言えばお人好しでお節介で八方美人。
床に落ちてたゴミを、やっぱりちょっと待ってて!! と何メートルも過ぎた後に拾いに戻るような人。
朝礼で、前の人の肩に着いてる糸くずをほっときゃいいのに、息殺しながら慎重に摘まんで、ふう! とかやってる意味わかんない人。
とりあえず貧乳。
うん、そんな所くらいしかダメなとこないけど、貧乳好きもいるから欠点にはならないか、まあ要は凄い良い人。
私にないものだらけで、嫉妬しそうになるけど、捨て身で他人を守ろうろする癖に打たれ弱いから、気になって仕方ない。
きっとあの日は少しお酒に酔っていたんだ、話したって仕方のない、同情しかしてもらえない過去を初めて人に話した。
今更可哀想な子だって思われて、どうしたいんだろうって話だけど、もうそろそろ限界だったんだ。
自分から別れを告げようとお願いしたのに、いざその時が近付いてきたら、寂しくなって離れたくなくて、でも迷惑もかけたくなくて。
やっぱり他の誰かに、私は間違ってないって私は何も悪くないよって言って欲しかったんだと思う。
でも、彼女の出した答えは、そんな上辺だけの言葉じゃない、全てをすっ飛ばしての、まさかの
結婚しようだった。
意味が分からなくて開いた口が塞がらなかった、でも彼女は本気みたいで家族だ、ファミリーだ、大好きだ愛してるって迫って来て、頬にキスして口にまでしてこようとするから、そういやコイツ処女だったな? と思い出して(袴田先輩チキンだから、あれこれはどうせ未遂だろうなと推測)私が初めてを取っちゃったら先輩に怒られると気を使って頭掴んで胸に埋めといた。
というか、話してなんかスッキリしたし。
依存していた心の関係じゃなくて、こんな私でも本気で好きだって言ってくれる人いるんだと、見返りがどうとかじゃなくて、そういうのを大事にしてみてもいいのかもしれないって思った。
そして、そんな私の人生観変えてくれた尾台先輩は、今日も今日とて破天荒を発揮してくれて、私は言葉を失った。
いつもは私より先に出勤してきているはずなのに、今日はその姿がない。
どころじゃない、「おはようございます」って袴田君が眼鏡直しながら言ってきて、それに続いておはよう、めぐちゃんっていつもの声が聞こえたから、後ろにでもいるのかと思ったら、まさかの手の平の乗って出勤してきたのだ。
「パイセン、何ですかこの小動物は」
「さすが久瀬さんはこの姿を見ても驚かないんですね」
「驚いてますよ、でも騒いでも仕方ないでしょう」
机に降ろされたえったんはワイシャツにスカート姿で、PCつけなきゃ! ってPCに走って電源押して、起動するまで腕組みながらディスプレイの上に貼ってある付箋を見上げてる、今日一日のフローチャート確認して頷いて。うん、いつも出勤してきてやってる行動と同じ。
「会社に行くと、きかないもので」
「へえ? 同じように仕事できるとは思えないんですけど?」
えったんと袴田君を交互に見れば、向こう側から声がして。
「ひゃ! なななな、なんですか! 尾台さんちっちゃくなってるじゃないですか! エッチのしすぎですか?!」
「そうなのかなあ? 寧々ちゃんも気を付けてね!」
八雲さんが眼鏡カチャカチャしながら、えったん観察して、またしょうもない会話してる。
「この小人をここに置いていくつもりですか袴田先輩」
「連れて帰りたいので」
すが、と言う前に遠くの席から「袴田くーん? どこぉ!」って呼ばれて本人は舌打ちすると、えったんは「行きな行きな! 私は大丈夫だから、帰りに迎えに来てね!」って両手で見送ってるんだけど? 無理ないか?
が、どういう訳か起動したPCを前にメールボックス開きながら、急ぎの案件はないよねえ~ってマウス操作して、まさかこのまま馴染むつもりじゃなかろうか、という程に普通に仕事始めたんだけど。
あ、これは定型文で返せるって、メールも返信してるし、寧々ちゃんこのティーバック何杯分飲めるかなあって呑気に八雲さんと話してる。
それで、周りは尾台さん不在? 位な感じで気付かれず、始業のチャイムが鳴った所で、課長のお出ましだ。
「おはよう久瀬さん今日も可愛いね、ん? あれ、尾台は?」
「いますよ」
「給湯室?」
「いや、席に」
「え?」
指差せば、えったんは肩に印鑑担ぎながら契約書にハンコ押してて、綺麗に押せた印を見て、ふうって汗を拭った後桐生課長に振り返った。
「おはようございます桐生さん、ちょっと小さくなってます、すみません」
「…………!!!」
おーおー驚いてるのぉ、冷静を顔に張り付けようと必死に声出さないようにしてるけど、書類持った手震えてるし、瞬き尋常じゃないし、唇噛んじゃってるじゃないですか。
「自分で出来る所はしたいそうなので、本人が言うまで特に手を出したりはしてません」
「桐生さん? 何か急ぎの用事ですか?」
「ん、まあそこそこに……」
動揺しないようにしてるけど、顔真っ赤じゃないですか、わかるよ、私もやああああ可愛い!! としか思わなかったし。
桐生さんは見てもらいたい資料共有できるようにしてあるからいいかなってえったんのイス引いて座ってPC操作して、えったんはディスプレイの前で正座してる。
そしたら、
「これ、僕鼻炎持ちで皮膚も強くないから保湿ティッシュ使ってるんだけど、普通のティッシュより柔らかいから下に敷けば」
「わあ、フワフワ」
桐生さんはティッシュを折りたたんで座布団みたいにしてあげて、えったんはそこに落ち着いてる、はあはあしてる八雲ささんからお菓子貰って、うう、私だって頭の一つでも撫でてみたいのに。
桐生さんはページを開いて、真面目に仕事の話をしてて、えったんもいつも通り意見を言って、書類覗い込んで、うんうん頷いて、楊枝使って説明までしてるから何だか初めからそういう人だったのかって錯覚したよ。
話が一段落ついて、
「そうだ、この後の商談って確か尾台……」
「ああ、私が同席する約束でしたよね」
「だよな、キャンセルしとくからそっちの資料も読み込んでおかなきゃだな」
「え、何言ってるんですか出ますよ、普通に話せるし」
「でも」
「まあ、この状態でウロウロされると気になるでしょうから、胸ポケットかなんかに入れといてもらえれば遠隔操作で動いてる尾台さん人形みたいにならない」
「ならないだろ」
「そっか」
「でもまあ、今からお前分の知識頭詰め込むには時間なさすぎるから、一度僕の席来てもらっていい?」
「はいはい」
胸ポケットってここか? って桐生さんはポケットからポケットチーフとペンを抜いて、少し体を屈めればポケットを覗き込んだえったんは、あ、いけそう! って入っちゃったよ。
立ち上がって自席に戻る桐生さんに一応手を引っ張って睨みながら言っておく。
「私のえったんに変な事しないで下さいよ?(私後で遊びたいんだから)」
「変な事って何だよ、仕事中だぞ?」
やれやれって首傾げてるけど、持って帰りたいって顔に書いてあるんだっつーの。
それでまあ、昼には会社中の注目の的になってたけど、皆一様に可愛い! という感想しかなく、帰りにはちゃんと袴田先輩が迎えに来たのだった。
と、言うよりも自分の人生が不幸だと知ったのは、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが死んでからだった。
遺言書に書かれていた弁護士さんに電話して、相続の手続きをしていた時に言われたんだ。
「若いのに大変な修羅場を経験されましたね。お二人が残されたお金で、どうか幸せになって下さい」
と、そこで初めて、自分の人生は他人にとって修羅場といわれるものなんだと知った。
ああ、ちょっと嘘かな、私は不幸じゃないって見てみぬふりしてた面もあると思う、その弁護士さんはお祖父ちゃん友達で、私の生い立ちも身にあったこともお祖父ちゃんとの関係も全部知っている人だった。
そうか、他人から見たら、私は不幸なのか、と通帳に振り込まれた多額の遺産と私の名前に変更された土地の登記簿を見て思った。
祖父母にはお母さんの以外にも子供がいたけど、財産は全て私にあげると書いてあった。
親戚からはお金欲しさに老人に取り入っただの、泥棒だと暴言の嵐で、まともな話し合いは出来なかった、でもそんな事よりも、親のお葬式にも顔を出さないんだなって私の成人式もだったけど、全く連絡をくれないお母さんの事を考えて、寂しかったかな。
遺産相続で揉めて殺されたって言えば、あのお母さんも私のお葬式には来てくれるかな、なんて思って…………やだ、無意識にその言葉がポツリと口から出てて、私に視線が集中して話し合いの場が一瞬しんっとなった。
弁護士さんが慌てて取繕って、例え裁判をしてもあなた達に勝ち目はないですよ、と言ってくれて、親戚は私を怒りと憐れんだような目で見て帰っていった。
その目は知ってる、児相に迎えに来てくれたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんが、ごめんね、家に帰ろうね、って手を握ってくれた時もそんな顔だったから。
友達に聞かれた、恵って悟りでも開いてるの? って開いてないよ、悟ったつもりなんてないけど、怒ったって泣いたって縋ったって、どうにもならない現実を私は知ってるから、達観してるしかないんだよ。
だって、わかる? お母さんが私を捨てたんだよ? 親でも子供を捨てるのに、他人なんてもっと信じられないよ。
だから、彼氏がどうの友達がどうのって悩んでる人を見ると、当り前じゃんっとしか思えなかった、初めから期待しなきゃいいのに、信じなきゃいいのに。
所詮、人は見返りがないと動かないだって、私が生まれて一番深く学んだのはそれだ。
感謝がないと、報酬が、価値が、恵みがないと人はこっちを見てくれないんだよ、そういうもんだよ。
いくら綺麗事言ったてさ、駅でホームレス抱き締めてる人なんて見た事ないよ。
ああ、そっかいつの間にか悟ってたな。
そして、そんな私でも生きていくしかないから、前向きに生きましょって話。
だって私まだ若いし? 可愛いし? そこまで悲観的になる必要ないてないはずよ。
こんな私でも好きだって言ってくれる人だっていたもん。
でも、真正面から好きになって貰えるとは到底思えなくて、綱渡り状態のこのままでいいかなって思ってる。
だから、私を求めてくれる唯一無二の存在が欲しいのかなって、そう赤ちゃん。
うん、私も自分を認めてくれる人が欲しいんだって、世界で一番自分勝手な人間だ。
神様は悪戯で、嬉しいやら苦しいやら、偶然にしてはできすぎてることばっかり起こしてくる。
止めてよ、頑張ってるけどさ、私だってこう見えて感情的なのよ、焦らせないで? と新しく入った会社は震えながら息を吐かないといけない、深呼吸の毎日だった。
そんな中で変な人が一人。
まあ、私を担当してくれた上司なんですけど、よく言えば面倒見良くて優しくていつも笑顔、悪く言えばお人好しでお節介で八方美人。
床に落ちてたゴミを、やっぱりちょっと待ってて!! と何メートルも過ぎた後に拾いに戻るような人。
朝礼で、前の人の肩に着いてる糸くずをほっときゃいいのに、息殺しながら慎重に摘まんで、ふう! とかやってる意味わかんない人。
とりあえず貧乳。
うん、そんな所くらいしかダメなとこないけど、貧乳好きもいるから欠点にはならないか、まあ要は凄い良い人。
私にないものだらけで、嫉妬しそうになるけど、捨て身で他人を守ろうろする癖に打たれ弱いから、気になって仕方ない。
きっとあの日は少しお酒に酔っていたんだ、話したって仕方のない、同情しかしてもらえない過去を初めて人に話した。
今更可哀想な子だって思われて、どうしたいんだろうって話だけど、もうそろそろ限界だったんだ。
自分から別れを告げようとお願いしたのに、いざその時が近付いてきたら、寂しくなって離れたくなくて、でも迷惑もかけたくなくて。
やっぱり他の誰かに、私は間違ってないって私は何も悪くないよって言って欲しかったんだと思う。
でも、彼女の出した答えは、そんな上辺だけの言葉じゃない、全てをすっ飛ばしての、まさかの
結婚しようだった。
意味が分からなくて開いた口が塞がらなかった、でも彼女は本気みたいで家族だ、ファミリーだ、大好きだ愛してるって迫って来て、頬にキスして口にまでしてこようとするから、そういやコイツ処女だったな? と思い出して(袴田先輩チキンだから、あれこれはどうせ未遂だろうなと推測)私が初めてを取っちゃったら先輩に怒られると気を使って頭掴んで胸に埋めといた。
というか、話してなんかスッキリしたし。
依存していた心の関係じゃなくて、こんな私でも本気で好きだって言ってくれる人いるんだと、見返りがどうとかじゃなくて、そういうのを大事にしてみてもいいのかもしれないって思った。
そして、そんな私の人生観変えてくれた尾台先輩は、今日も今日とて破天荒を発揮してくれて、私は言葉を失った。
いつもは私より先に出勤してきているはずなのに、今日はその姿がない。
どころじゃない、「おはようございます」って袴田君が眼鏡直しながら言ってきて、それに続いておはよう、めぐちゃんっていつもの声が聞こえたから、後ろにでもいるのかと思ったら、まさかの手の平の乗って出勤してきたのだ。
「パイセン、何ですかこの小動物は」
「さすが久瀬さんはこの姿を見ても驚かないんですね」
「驚いてますよ、でも騒いでも仕方ないでしょう」
机に降ろされたえったんはワイシャツにスカート姿で、PCつけなきゃ! ってPCに走って電源押して、起動するまで腕組みながらディスプレイの上に貼ってある付箋を見上げてる、今日一日のフローチャート確認して頷いて。うん、いつも出勤してきてやってる行動と同じ。
「会社に行くと、きかないもので」
「へえ? 同じように仕事できるとは思えないんですけど?」
えったんと袴田君を交互に見れば、向こう側から声がして。
「ひゃ! なななな、なんですか! 尾台さんちっちゃくなってるじゃないですか! エッチのしすぎですか?!」
「そうなのかなあ? 寧々ちゃんも気を付けてね!」
八雲さんが眼鏡カチャカチャしながら、えったん観察して、またしょうもない会話してる。
「この小人をここに置いていくつもりですか袴田先輩」
「連れて帰りたいので」
すが、と言う前に遠くの席から「袴田くーん? どこぉ!」って呼ばれて本人は舌打ちすると、えったんは「行きな行きな! 私は大丈夫だから、帰りに迎えに来てね!」って両手で見送ってるんだけど? 無理ないか?
が、どういう訳か起動したPCを前にメールボックス開きながら、急ぎの案件はないよねえ~ってマウス操作して、まさかこのまま馴染むつもりじゃなかろうか、という程に普通に仕事始めたんだけど。
あ、これは定型文で返せるって、メールも返信してるし、寧々ちゃんこのティーバック何杯分飲めるかなあって呑気に八雲さんと話してる。
それで、周りは尾台さん不在? 位な感じで気付かれず、始業のチャイムが鳴った所で、課長のお出ましだ。
「おはよう久瀬さん今日も可愛いね、ん? あれ、尾台は?」
「いますよ」
「給湯室?」
「いや、席に」
「え?」
指差せば、えったんは肩に印鑑担ぎながら契約書にハンコ押してて、綺麗に押せた印を見て、ふうって汗を拭った後桐生課長に振り返った。
「おはようございます桐生さん、ちょっと小さくなってます、すみません」
「…………!!!」
おーおー驚いてるのぉ、冷静を顔に張り付けようと必死に声出さないようにしてるけど、書類持った手震えてるし、瞬き尋常じゃないし、唇噛んじゃってるじゃないですか。
「自分で出来る所はしたいそうなので、本人が言うまで特に手を出したりはしてません」
「桐生さん? 何か急ぎの用事ですか?」
「ん、まあそこそこに……」
動揺しないようにしてるけど、顔真っ赤じゃないですか、わかるよ、私もやああああ可愛い!! としか思わなかったし。
桐生さんは見てもらいたい資料共有できるようにしてあるからいいかなってえったんのイス引いて座ってPC操作して、えったんはディスプレイの前で正座してる。
そしたら、
「これ、僕鼻炎持ちで皮膚も強くないから保湿ティッシュ使ってるんだけど、普通のティッシュより柔らかいから下に敷けば」
「わあ、フワフワ」
桐生さんはティッシュを折りたたんで座布団みたいにしてあげて、えったんはそこに落ち着いてる、はあはあしてる八雲ささんからお菓子貰って、うう、私だって頭の一つでも撫でてみたいのに。
桐生さんはページを開いて、真面目に仕事の話をしてて、えったんもいつも通り意見を言って、書類覗い込んで、うんうん頷いて、楊枝使って説明までしてるから何だか初めからそういう人だったのかって錯覚したよ。
話が一段落ついて、
「そうだ、この後の商談って確か尾台……」
「ああ、私が同席する約束でしたよね」
「だよな、キャンセルしとくからそっちの資料も読み込んでおかなきゃだな」
「え、何言ってるんですか出ますよ、普通に話せるし」
「でも」
「まあ、この状態でウロウロされると気になるでしょうから、胸ポケットかなんかに入れといてもらえれば遠隔操作で動いてる尾台さん人形みたいにならない」
「ならないだろ」
「そっか」
「でもまあ、今からお前分の知識頭詰め込むには時間なさすぎるから、一度僕の席来てもらっていい?」
「はいはい」
胸ポケットってここか? って桐生さんはポケットからポケットチーフとペンを抜いて、少し体を屈めればポケットを覗き込んだえったんは、あ、いけそう! って入っちゃったよ。
立ち上がって自席に戻る桐生さんに一応手を引っ張って睨みながら言っておく。
「私のえったんに変な事しないで下さいよ?(私後で遊びたいんだから)」
「変な事って何だよ、仕事中だぞ?」
やれやれって首傾げてるけど、持って帰りたいって顔に書いてあるんだっつーの。
それでまあ、昼には会社中の注目の的になってたけど、皆一様に可愛い! という感想しかなく、帰りにはちゃんと袴田先輩が迎えに来たのだった。
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