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おしまいの後
体、嘘、好き、苦しい
しおりを挟む「気持ち良かった?」
「うん、残念ながら大和君のエッチは最高なんだよね、残念ながら」
「二回言わなくていいよ、素直に気持ちいーでいーじゃん」
桐生君のエッチがどれくらいのものなのかは知らないけど、俺もそこそこ自信があってヤルならヤルで相手最優先で優しく抱いてる。きっと、とっかえひっかえでも悪く言われないのは、乱暴なヤリ捨てみたいな行為はしなからだ。
それぐらいしか自信持てるとこないし、ワンナイトって割り切った相手から電話が掛かってくると、無性に嬉しくなる、自分が存在してるんだなって実感が湧く、そんなとこでしか自分を見出せない俺様、相変わらずカスいな。
「ちなみに大和君ってさ、本当に好きになった人っているの」
「は?」
昔は彼女、今はセフレ? なのかな、たまに連絡きて飯食ったら、何か家に来るんだよなこの子。
で別に誘ってなくても夜なったら、することはする、みたいな。
事後だ、別に彼女じゃないし、気を使わなくてもいいだろって早々風呂入って出て来たらその子はこの前撮ったプリクラを眺めながら言った。
「これ今の彼女?」
「さあ? 嫌いじゃないし、あっちは好きだって言うし今一番連絡取ってるかな」
「私とこういうことしてるの悪いと思わないの?」
「何言ってんの? だったらお前が来るなよ、いつも連絡してくるのそっちだろ? そのプリクラだって隠さずそこに置いてあったし」
「そう、じゃあ私もいっぱい連絡したら大和君の一番になれるの?」
「一番ってなんだよ、そんなもんいないから。初めに言っただろ、俺は皆と仲良くやってたいから面倒臭いのはやだよって」
「ふぅん」
首に掛かったタオルで髪を乾かして、正直こういう話ってスゲー嫌い、プリクラを置いて彼女は携帯を弄りだして、携帯には昔買ってあげたストラップがまだぶら下がっていた。
この子とは何で別れたんだっけな、ああそうだ、束縛がきつかったんだ。
もう他の子と連絡しないでほしいって言われて彼女の方を切った。
自分勝手だよな、告白は確か「可愛くて人気者の大和君が好きになっちゃいました、付き合って下さい」だっけ?
人気者の俺が好きだった癖に付き合ったら私のものになれって、何だよ人気者の俺が好きだって言ったじゃないのかよ、人気者じゃなきゃ俺じゃないんだよばーか。
こっちだって努力して人気保ってんのにお前一人のために、全部それ放棄しろって気安く言うなよ。
先月課金して遊んでたゲーム、もう新しいのに乗り換えて神アプリなんて言ってる、君の一生好きなんて言葉信用できなんだっつーの。
俺他の子とも遊んでるよって言ったらそれでもいいって言った癖に最後はやっぱり、やだって。
泣くほど、別れるの嫌なら初めから黙ってりゃいーのに、一緒にいる分には優しくしてやったろ。
でも本心は笑顔でねじ伏せて、別れはちゃんと俺のせいにしておいた。
「俺こんな性格だからさ、一人とか絞れないんだ。でも君を嫌いになった訳じゃないから、本当ごめんね」
って。
で、番号も変えないから、少し経ったら連絡が来て今みたいな関係に落ち着いた。
携帯画面を見ながら唇を擦り合わせる彼女を見て、何となく会話を続けていたくなくて先に言った。
「ああ……と、バイク……家まで送るよ支度するからちょっと待って」
「え」
「だって泊まらないだろ、っつか何がしたいのか良くわからないだけど、寂しいなら彼氏作ったらいーじゃん。もしかして俺の性格が変わるとでも思ってる?」
「別に……そんなふうには……」
察することを察したくないって察してくんねーかな本当にさあ。
その「……」の間合いに俺への色んな感情があるんだろうけど、一回気を使えば以後ずっと気を使わなくちゃならなくなるし、そんな関係続けてられない。
「言いたいことがあるなら口で言って?」
「じゃあもう一回エッチする?」
「はあ?」
「だって大和君……エッチの時は優しい……から」
俺を見上げる顔にぽろっと涙が零れて、動揺した。
でも二秒後にはイラだってしまった俺は地球上で最強の最低男かもしれない、が、こんな時こそ笑顔でカバーだ。
女の涙なんて幾度も見てきた、大抵もうコイツとは終わりだなって時に泣く。
しかも二回目、もう飯食いに行くのも止めよう。
内心溜め息漏らしながら、彼女の隣に座って肩を抱き寄せてあげた。
尾台ちゃんの肩はもっと細いなって一瞬過って顔をブルブル振った。
「大和君」
「そんな泣きながらしたって気持ち良くないよ、それじゃあ楽しめないじゃん? 落ち着いたらさ、家まで送るから……」
「ごめん」
「それでもう俺とは会わない方がいいよ。俺は君の気持ちに答えられないし」
「待って? もう会えなくなるなんてやだ、私とエッチするの嫌い?」
「いやいや、そういうことじゃなくてさ。だってまたお風呂入るの面倒臭いし」
「そのまま寝ればいいじゃん、昔はそうだったよ」
「えっと……明日会社だしさ」
そうだな、無意識に尾台ちゃんと会う前は体綺麗にしてから会社行ってたな……。
尾台ちゃんが俺のネクタイ直してくれた時に鼻をスンスンさせて「営業さんってー皆いい匂いしますよね。有沢さんの匂い好きです」って言われてから…………。
自然と口元が笑ってしまって、あ、ヤベって思って鼻を擦って誤魔化したけど、彼女は俺の行動を察した。
「嘘つき…………」
「え」
「いるんじゃん、好きな人」
肩に置かれた俺の手を振り払って彼女は唇を噛んでまた泣いて。
「あの子でもない、私でもない、携帯に入ってる子でもない。いたんじゃん会社に好きな子!」
「好き……」
振り払われた手が痛む、急に焦る、一人になったようで怖くなる。
すると彼女は立ち上がって上着を掴むと床に置かれたバッグに荷物を突っ込んだ。
「わかった、さようなら、もう二度と大和君には会わない」
「それは、まあ……ありがたいけど」
「ッ」
唇を噛んだ彼女から絶対平手が飛んでくると思ったし覚悟してたけど、鞄をぎりぎり握りしめる手が振り上がることはなかった。
涙は拭ってあげられない、あげても何もできないから。
それに彼女は俺のこと死んでほしいくらいに思ってるはずだから触ってほしくないだろうし。
「…………ない」
「何?」
「絶対にその人は大和君のことを好きにならない! 私が今の関係に縋ったのは大和君の言う通り、何かきっかけでもあれば、もう少し大人になれば大和君も変わってくれると思ったから大和君は人気者だから皆に優劣つけられない優しい人だもんね」
「……」
「そう、優しい人。自分の臆病を隠すため優しいを演じる人だもんね。全部こっちに委ねて自分は知らんぷり、それでも私は好きだったけど。大和君は今、好きな人がいるのにこんなことしてるんだ、私とその人重ねたりした?」
「してねえよ」
彼女は自分の袖で涙を拭った後、眉頭を寄せて初めて俺を睨んだ。
「もう手遅れだよ」
「は?」
「大和君の嘘つきの好きなんて誰も信用しないから、本当は皆分かってたんだよ? 大和君が遊んでる時も全然楽しそうにしてないって、こっちが付き合ってあげてたんだよ」
「お前さ、自分に好意が向けられなかったからっていい加減ウザイよ。未練がましいこと言ってないで帰れよ」
女の子に対して、初めてこんな荒い言葉を使った、それくらい、早く出て行ってくれないと困るくらい彼女は俺の心を抉った。
知ってるんだ、本当にこの子は……好きだったんだ、本当の俺を。本気でずっと見てくれてたんだ。
こんな嘘だらけの俺のこと。
そんな俺を知った彼女は掠れた声で言う。
「罰が当たればいい」
「…………そうだな」
続けて。
「嫌い……大和君が嫌い」
「うん」
震えながら息を吸って、最後に。
「それでも大和君が好きな自分がもっと嫌い!」
またボロボロ涙を流して彼女は家を出て行った。
ドアが閉まった、床に涙が落ちていた、触っちゃいけないような気がして乾くまで拭かなかった。
こんなことをしていたら、いつか罰が当たるって俺もどこかで思ってた。
それから彼女からの連絡は一切こなくなった、共通の友人の話では海外に行ったって。
携帯に入ってる好きだよって言った女の顔が急に浮かんで、怖くなって突発的に俺はメモリーを全部消去した。
涙がこみ上げて苦しいから、また笑う。
口に手を当てる、心臓が痛む。
尾台ちゃんに好きと言うのが怖い、この口は嘘しか吐けないから。
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