総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

文字の大きさ
上 下
112 / 154
おしまいの後

桐生君と尾台ちゃん1 

しおりを挟む
 社会人になってからを省いて、人生で一番頑張った時期なんてのを聞かれても全く思い浮かばない。

 勉強もそこそこ、運動もそこそこ、熱中する趣味もないし、これって指針はないけど、何せ顔もそこそこだったから男女問わず友人、環境に苦労することはなかった。

 楽しいのも好きだし騒ぐのも好きだし、男も女も来る者は拒まず去る者は名前すら覚えずって感じで流されながら、淡々と生きてきた。

 あれは俺が大学三年生の時だ。
 もう授業の出席日数がやべぇなって久しぶりに出た授業、遅刻したのもあって講堂は満席で、ゲッ落としたって思ってたら、体格のいい茶髪の男と目が合って隣の椅子の荷物をどけてくれたのだ。

 どうもって頭を下げたら。

「ちょうど、出席とってる所」

 って名簿渡されて、一つ前の名前は桐生 陸と綴られていた、続けて俺も有沢 大和って書いて次に回す。

 まあそれっきり会話はない、授業が終わって荷物を持ってもう一度どうも、と頭を下げたら。

「実は僕、去年この授業落として崖っぷちなんだけど、今年も今日が初めてでノートかなんかない?」
「いえ……」
「そっか」

 会話終了、そのまま俺は外に出て、まあこれっきりだな。

 だって見た目が違いすぎるから、仲良くなれそうにない。
 明らかスポーツの推薦できました感あるソイツとひょろくて小さいチャラついた俺。
仕方ないだろ、この童顔に声変わりを忘れた声が女子共に受けてるんだ。
 中性的で可愛いとか、女の子みたいとか言って勝手に俺の中身まで、そういうもんだと勘違いして、少し恋愛相談に乗ればヤれるので、そっち系に磨きがかかっちゃって見た目が男から離れてしまっている。
 桐生とは相容れない感じだ。


 それで、翌週。
 なんともまあ、また桐生と席が隣だった、もう欠席の後がないから早めに行ったら奴はいた。
 俺を見て、あ、みたいな顔するから仕方なく隣の席に座った。

「これ、今までの授業のノート、去年のだけど友達から貰っといた、いる?」
「え? マジ」
「僕もうコピーしたからあげるよ、友達もいらないみたいだから」
「ども」

 で出席簿が回ってきて名前書いて、桐生に渡したら、奴は口を開けて俺を見た。

「大和? え? 君、男なの?!」
「は? ああ、そうだけど」
「へえ……」

 それは……その反応はなんかアレ……思わず笑いがこみ上げて、口を手で覆ったけどダメだった。

「何、お前俺が女だと思ってたの?」
「う」
「ごめんごめん、あ! 男だからノート返してとか言っちゃう?」
「言わないよ」

 何か可愛くて、ああ、きっと先輩なんだけど面白しろくて顔を近付けたら逸らしちゃうし、そんな桐生君が可笑しくて授業は毎回隣の席で受けることにした。

 三年の後期から始まるゼミも行きたいとこもなかったし何となく桐生君と同じ。


 ふと感じた、ない物ねだりってあるんだなって……。
 いつも見ないようにして生きてきたんだよ、俺は俺でいいって思ってたんだ。
 俺が俺を否定したら始まらないだろ? だから可愛い俺でいいじゃんって。
 皆もそれがいいって言うし。

 でもな、やっぱり、俺だって男らしくなりたかったんだって桐生君を見て思った。
 だって格好いいじゃん、女の子守れそうな体。

 俺にはない筋肉と骨格と、努力で培う人脈と。
 面倒見が良くて明るくてさ、生まれて初めて憧れの先輩みたいなのが出来た。

 そう、俺はさ皆が好きって言う俺を演じてるだけなんだな、皆に嫌われない俺。
 自分にまで嘘ついて格好悪いな、でも、もう治んないよ。
 俺にはきっとこの生き方しかないと思う、素直な自分になる方がきっと苦しい。


 それでね、誘われて行ったアメフトの試合、桐生君はマジで格好良かった。

 クォーターバックってアメフトの花形ポジション。
 要はオフェンスの司令塔だ、パスを投げたり、時には自分でボールを持って走ったり、オフェンスはクォーターバックを中心に展開していく。卓越したリーダーシップにディフェンスを的確に読む頭脳、桐生君の一瞬の判断で試合が左右されるんだ。

 ああ……きっと尾台ちゃんも桐生君のこの姿見たら惚れただろうにな。







 ある日のゼミの飲み会で、彼女その3とメールしてたら、そういうの僕は良くないと思う! なんてキッショいこと言ってきたから桐生君は彼女いないのって聞いた、そしたら。
「好きな人はいるよ」
 って、誰って聞いたら部活のマネージャー、そして彼氏(先輩)がいるって。

「何でそんなの好きになるんだよ」
「知らないよ。でも、いい子なんだよ一生懸命で優しくて可愛くて、好きな人って言われたら今の所その子しか頭に思い浮かばないかな」
「でもヤれないんでしょ?」
「それが全てじゃないだろ」
「ふーん? 意味不明」

 その後その恋がどうなったか聞かずに桐生君は卒業してしまった。

 それで、俺は就職もダリーしこのままグダグダ生きていこうかなって寝っ転がってた頃に桐生君から、やることないなら、うちの会社にこないかって誘われたんだ。
 離職率ヤバくて人いなくてさ、とりあえずバイトからでもいいって、僕じゃ開けない窓口お前ならイケそう、だそうだ。

 そんで、やりたいもんもないし、そのまま入社した会社、まあまあ桐生君が言う通り、気分を害す雰囲気作り出すジジババ共が権力振るってのさばってて、うげぇっと思った。

 でもそこはそれ、色んな川に流され長いものはにはクルクルで、その上、中々の顔面偏差値誇っちゃってる俺は幅利かせてるババーに太鼓を持って取り入ることに成功、そしたら危害もなくて思いの他、居心地は悪くなかった。

 いびられてる子に優しくしたらそっこーヤレちゃうし、んで面倒臭くなる前に辞めちゃうしね。

 一応、手付ける前に桐生君にあの子イケそうだよって言うけど、桐生君は見向きもしなくて変わってるよな。

 そんでズルズル二年経って仕事も居場所も確立してきて、でも別にこれといって仕事が楽しくもないから、いつでも辞めるくらいの気持ちで働いてた頃に尾台ちゃんはやってきた。

 正直、その頃営業部は死んでたね、横領や不作為パワハラで桐生君は週末に飲んでは最後にはどうにかしたいって爪を噛んでたよ、俺は何とも思わなかったけど、っでそんな中に明らかに今までとは違う子が入ってきたんだ。







【尾台 絵夢です笑顔の笑むで頑張ります!】





 主役を思わせる背景の花に、俺は言葉が出なかった、きっと皆も同じだったと思う、そしてお局やその取り巻きが一番嫌いなタイプだろうなとも思った。

 桐生君はどうだろうと思っていたら。

「大和」
「ん? 何」
「ああ、有沢」
「だから何」
「可愛いね、尾台さん……」
「え」

 それは何年ぶりに聞いた桐生君の異性を意識する言葉だった。


 そんでもって、やだよ……あえてここでときめかなくてもいいじゃないかって思うけど、俺も可愛いって思っちゃったし、ヤリてーって思ったけど、それは先輩の手前口には出さなかった。
 っつか、久々の桐生君のあの言葉だ、俺は応援してやるべきだろ。


 しかしながら、相変わらず桐生君はありえない程奥手だった。

 昔、言ったんだよ、そんなに好きなら寝取っちゃえばって、そしたら乾いた笑いの後、桐生君は言った。
「でもそれってさー全てを裏切るじゃん? 尊敬してる先輩を裏切って、彼女もそれで落ちるなら性に負けたって僕が慕っていた誠実を失う、何より僕が本当に好きなんだって本心を裏切るだろ。そんな手段、手に入れたって絶対上手くいかない」

 初めから彼女を性で落とせる前提って桐生君、エッチにそんな自信あんの?! って疑問は置いておいて。
 まあもう本人がそういうなら、それ以上はないもんで、それでも尾台ちゃんモテるから、気抜かしたら変な奴に絡まれるし、守ってやるのに必死だった。

 気になって仕方ない癖に見てないふりして、すげー見てるし。尾台ちゃんも桐生君見てるし、陰でコソコソなんかやってし、さっさと告れよ。

 ああ、もうそんで俺は桐生君の為だって安易に近づいていたのが悪かったんだ。
 ほんとに可愛いんだもん、俺のスケジュール全部把握してんの、疲れたぁーって外から帰って来たら。


「お疲れ様です、後は私がやっておきますよ」

 って俺の席にコーヒー持って来て、広げたおしぼりまで出してくれんの、好きになるからやめてぇ!!
 そんなのにさ、やっぱり好きだからか勝手にちょっかい出しに行っちゃうんだよな、尾台ちゃんが高い所の資料取れなくて俺が取るよってやって、身長変わらないから取れないっていうのが俺達のお決まりのパターン、台を使って結局尾台ちゃんが取る。
 たまに桐生君が取ってくれちゃって笑顔になる二人を見れば、ずきっときて、切ない気持ちは嘘の笑顔で引っ込めた。

 桐生君さ、飲みもん渡すばっかで何も言わないから、俺がおちゃらけて尾台ちゃんの気持ちが少しでも和らぐならって思ったけど、あれは失敗だったな。もっと彼女が好きになる、無謀な好きが重なっていくばっかりだ。

 俺は何がしたいんだって思ったけど、案外桐生君も分かってるもんで、「有沢は尾台が好きなの?」って直球に聞かれた日には固まったよ。
 俺を見て桐生君は、「そうだよな、お前最近遊んでないもんな。そっかーあの有沢を本気にさせちゃうのか尾台って。でもわかるよ可愛くていい子…………うん、絶対助けるからお前も協力してくれよな」
「ええっと……でも」
「どうしたんだよ、お前が尾台好きなのと僕達との関係は別だろ?」
 声なく頷いて、着々と進められる準備と俺の焦り。


 これが終わったら尾台ちゃん桐生君と付き合うのかなって、俺は陰でコソコソ動いていただけで、こんな仕事いつ辞めてもいいって言ってた癖に、桐生君みたいに命張ってまでの行動を起こす度胸はないよ。
 正直元カノとか、桐生君知らないだけで、その頃も相手見付けちゃ適当にヤッてたし……尾台ちゃん手ー出せないから、ああ最低、でも俺から連絡した試しはないけど、来る者拒まないんだって言ったろ。




 そんでさ総務ができちゃったんだよ。
 しかも、トップはいけ好かない眼鏡だった。





 あの司令塔だった、僕達の最後の砦だった桐生君が一歩引いた、俺には分かった。







 広いフィールドで、桐生君はボールを持ったまま支持も忘れ立っていた、その先には袴田君がいた。




しおりを挟む
感想 360

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

勘違いで別れを告げた日から豹変した婚約者が毎晩迫ってきて困っています

Adria
恋愛
詩音は怪我をして実家の病院に診察に行った時に、婚約者のある噂を耳にした。その噂を聞いて、今まで彼が自分に触れなかった理由に気づく。 意を決して彼を解放してあげるつもりで別れを告げると、その日から穏やかだった彼はいなくなり、執着を剥き出しにしたSな彼になってしまった。 戸惑う反面、毎日激愛を注がれ次第に溺れていく―― イラスト:らぎ様 《エブリスタとムーンにも投稿しています》

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。