総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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おしまいの後

オレの上司の袴田さん。

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「うぉおおおおおなぜだ!!」

 おっぱいの所が3Dになってるアニメのマウスパッドのおっぱい部に顔を叩き付けて午前10時、特大の独り言。
 気にされたいから言ってみたんだけど、でも気にしてくれるのは残念ながら隣のこの人だけなんだよなぁ。


「うるさいよお前そろそろこの温厚な俺も我慢の限界です。三回目の注意はありませんよ黙って仕事して下さい」

「袴田さんもっと可愛い部下を構ってくださいよ~」
「お断りです、そもそも俺お前の事嫌いだから必要以上に話したくないんですよ。いや尾台さん以外好きな人ってこの世に存在しないから例え君が明日死んでも全く悲しくないの、そんな間柄だって肝に銘じて? 人間への価値観がその位の人が上司だって覚えておいて下さい。残酷な現実を受け入れましょう。沖田君なんて正直どうでもいいから」
「ハイハイ分かってますよ! パワハラクソ上司! こんな暴言ばかり吐かれても泣かないで明日もちゃんと出勤してくるのオレ達位だってそっちこそそろそろ理解してくんねーかな」
「無駄口叩いてなきゃ俺だってなんも言わねえんだよ。ハイハイって返事するなら初めから黙っとけよゴミが、俺の邪魔しやがって死ね」
「もう止めましょうよ袴田さんも翔も」
「新井君は息吸わなくていいと言ったでしょう」
「オレと袴田さんの会話に口を挟むなこの甘ったれた平成生まれが!」
「お前もだろ!! 何なんだよ僕止めに入ったのに!」

 この殺意を濁したやり取りも二年目となると全く傷付かない。
 仲良いですねって言われるのは心外だけれどもな。

 初めは、何だこの猫かぶりさっさと化けの皮剥がれろよ位に思っていたんだけど、素の顔がレアすぎてオレ達だけが知ってる袴田さん~って一日一度はわざとキレさせる。
 ハイジはだいたい素でキレられてる。
 死ねって言われてほくそ笑むオレキモくねえか。

「それで袴田さん、オレが何に悩んでるか気にならないんですか」
「なりませんね一ミリも、DA PUMPってISSA以外の初期メンバーどうしちゃったの? くらい気になりません」
「どうしちゃったんですか袴田さん! 急にあんな増えてメンディ位しかわかりませんよ」
「それもっと人数多い人達だから。悲しい結末を迎えてたら涙が出るので調べていません」

 全然仕事する気が起きないのでマウスパッドに頭を預けながら携帯弄る、怒られると思ったら。

「どうでしたか沖田君」
「えっと、結論から言うとそれぞれ自分の道を歩いていますよ職場で号泣するのは免れたって感じ」
「良かったです。で? また叫ばれたら本当に手が出ちゃうから簡潔にどうぞ」

 そしたら袴田さんの向こうでハイジがバカみたいに口開けて言った。

「あ、そっか翔、今日誕生日じゃないの」
「そーだよ! 今頃気付いたか廃人!! お前なんて大嫌いだよ」
「だから何ですか、俺におめでとうって言われて君は嬉しいですか」
「誰も何もくれないんですよ!」
「いいですよあげてもキスか蹴り、どちらにします?」
「どっちも罰ゲームじゃないですか!」
「僕の仕事あげるよ」

 丸めたゴミを幼馴染みに投げ付けて誕生日って昔はもっとワクワクしたの、いつの間にかオレの童貞歴が更新されるだけの平日に成り下がってしまったな、とため息だ。

 結局午前中はハイジが捌けなかった分の仕事を手伝って昼飯の時間がくる。
 誕生日だっつーのに雨が降ってたから朝コンビニで昼飯買ってしまったんだよなぁタバコも切らしてたし。

「オレの大事なお誕生日なのに、コンビニのパンだなんてー」
「何、お前今日一日中それやるつもりですか? うっぜーな」
「去年も一昨年もこうだったじゃないッスか。翔君童貞で彼女もいないからイベント誕生日しかないもんね」
「はぁああ……何でかなぁ髪型でも変えたら彼女できんのかなぁ」
「ああ、いいんじゃないんですか、イメチェン大事ですよ。俺も髪型変えたら性格も変わったし彼女も出来たし身長も二センチ伸びて宝くじも大当たり病気がちだったおばあちゃんも健康になって迷子だった犬も帰ってきましたよ全部このブレスレットのおかげです」
「ハイジ~なんか袴田さんが変なの売り付けてくるぅ」
「買っとけよ誕生日なんだから」

 味気ないコンビニのパンをかじりながら、ふと見れば袴田さんは美味しそうな愛妻弁当食ってて、いいなあ! いいなあ!
 そしたら、ナゼか一緒に買いに行ったわけじゃないのに同じコロッケパン食いながらハイジが言った。

「でも本当に袴田さん髪型変えて眼鏡にしただけで、人生変わりましたよね。明るくしたならわかるけど地味にイメチェンして運気が好転するって凄くないッスか」
「だから草食系がキテるっつったろ」
「また髪型変えたりするんですか」
「予定はないですよ、何か流行りありましたっけ」
「もっとこう眼鏡の形も変えて髪型もカッチリしてみたらどうッスか」
「そうそう服装も黒で統一して、うんいいんじゃないですか! 草食系男子の次は総書記系男子で」
「ふざけてんのか、全然流行ってねぇだろ。やった所で俺とあのお方以外いないだろうが」

 ご飯食べ終わって袴田さんタバコ吸いに行こうとしたら、
「あの……沖田さん」
 か細い声で呼ばれて振り返ったら八雲さんがいた。

「あの、これ……」
「え、何ですか」

 A4サイズの茶封筒渡されて。

「お誕生日おめでとうございます、ルノワールとお誕生日が一緒だってこないだ話されていたので」
「え、そんな話してたっけ」

 八雲さんは眼鏡を直しながら続ける。

「ちなみに903年に菅原道真が病死した日でもあります享年59歳でした」
「ネガティブな情報いらないです、昔の人は短命だね!」
「では私はこれで」
 ペコってされちゃったんだけど、
「え、ちょっと待って下さいコレなっ」

 袋を覗いたら【childhood friend lover】って書かれた薄い本が……。

「ハイかけ推しです、いつもありがとうございます。失礼します」
「ちょっと待っていらないですよ!!」

 八雲さんはスタスタ行っちゃって物陰から尾台さん出てきて頭撫でられてる。
「意外と緊張しませんでしたシラフで生沖田」
「良かったねぇ」
 って二人は消えたけど。

「ちょっと袴田さん! 初めて貰った誕生日プレゼントがオレのホモ本って!!」
「さらに新井君にキスのプレゼントもしてもらえば一生心に刻まれる日になるんじゃないですか」
「これからもお二人がずっとずっと……仲良しでいられますようにって何だか泣けるぞ翔、主役が僕とお前じゃなければ良いお話なのになぁ!!」
「ああ、そうですよ。八雲さんのお話は心温まるハッピーエンドばかりです、愛は総じてお尻で受け止めるスタイルですけどね」
「そこが一番ダメなとこ!」
「袴田さん読んでるんスか」
「夜な夜な尾台さんが朗読してくるんですよ」

 ハイジ勝手に読んでううぉおおおお! とか言ってるけど絵うっめーなオイッ!!

「止めてくれって言いたいんですけど、尾台さんが隣にいるから何も言えね」
「尾台さんにケンカ売るって事は俺にケンカ売ってんのと同じだから宜しくね」
「その物事を何でもケンカを売ってるか売ってないかで判断するの止めて下さいよ。僕達の寿命が縮まっちゃうの、知ってた? 人間はね? 無駄な争いを避けるために知能が発達したんだよ? わかる? 袴田君」
「こないだの飲み会でもちょっと尾台さんがちやほやされてただけで、あいつら俺にケンカ売ってるよな? な?! って目光らせて灰皿持って立ち上がってマッジこえ―からぁあ! 営業部何人いると思ってんの?! 皆体育会系で部長が謎の外国人で課長が桐生さんで三課にはボブサップみたいな奴もいんのに、よく殴り込みにいけるよね! 営業トップの頭本気でかち割りに行くとかドン引きだから」
「だから何だよあんな輩に全く脅威なんて感じないけど? 平和ボケしてんなよ、この世には自分に対して敵か味方かしかいないんだよ。敵と判断した以上牽制して当然です」
「何ッスかその考え、あなただけ戦国にお生まれになったの?」
「で? オレ達にとって袴田さんって敵ですか? 味方ですか?」

 袴田さんは眼鏡を直した。

「敵も味方もないでしょう、俺は君達の支配者です」
「総書記系男子じゃないですか!」
「痺れるぅ!! ずっと付いてく!」


 そんでそれ以上の奇跡は見込めないと思っていたけど、帰り際袴田さんがこれもう使わないからあげるってすっげ高そうなジッポのライターをくれた。
 家に帰ったらハイジがいて「ほらお前のためにクソたけー肉買ってきてやったぞ」って松坂牛掲げてた。
 オレの家族withハイジですき焼き食べた、すっげー旨かった。
 そっか彼女がいたらこれ食えなかったかと思ったら仕方ないから来週くらいまでは童貞でもいいかなと思った。
 風呂上がりに読んだオレ主演のホモ本は正直泣けた、自分のホモ本で27才初泣きをしてしまった、そんな誕生日だった。

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