総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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「コンテンツアグリゲート、ファイルエンコード、オペレーションアウトソーシング、コンテンツ管理……マスターデータにメタデータ? ちょっと袴田さん御茶ノ水って何やってる事業所なんスか、っつか何で僕までこの仕事を?」
「新井君暇そうだから」
「ええ!! 僕仕事頑張ってましたけど」
「だって俺友達いないし黙って言う事聞けよ、まあ仕事的には映像の権利持ってる会社と配信事業者の間に入って営業代理してるって感じだろ。後新しい企画出せって言われて所長のポケットマネーで始めたアプリ事業が上手い事波に乗ってそっちの部署も立ち上げたって営業も自社で出来るしうちのグループ会社の中で安定の黒字経営続けてるとこだね」
「ふぅん……独立しないんスね」
「しないだろ、動画売ってる方も買ってる方もバックにうちの会社の名前があるからその信頼性で契約してるわけで」
「ああ、なるほど」





 あの後、じーちゃんは頷きながら黙って話を聞いていた。
 そして桐生さんの肩を叩いて「話してくれてありがとう」と声を掛けた。
 駆け寄った警備員に大丈夫だからと返して、俺に彼を会長室に通すように言った。
 そして誰かに電話を掛けて、初めて聞く低い声で今直ぐ本社に来いと話していた。


 いつも寝っ転がってる黒い革張りのソファーに桐生って男は座って、せっかく出したお茶も飲まずに黙ってる。
 もう三十分以上、背筋を伸ばして部屋の隅を見つめていた。

 何なんだよ、遺書? 社内の環境改善? 土下座してまで大の大人が何言いに来てんだって疑問しか湧かばなかった、ドラマじゃないんだからさ。
 そんな嫌なら会社辞めりゃーいーじゃんって。



 しばらくしてじーちゃんと御茶ノ水事業所の所長が現れた。
 桐生さんは立ち上がると、二人に深々頭を下げてじーちゃんが声を掛けるまでその頭を上げることはなかった。








 二人が帰った後、じーちゃんと煙草を吸った。
「反乱分子は即座に消すの?」
「何言ってんだ、あれのどこが反乱分子だよ。うちの会社潰したいなら頭下げる前にあんだけ証拠あるんだから告発すればいいだろう」
「ふぅん」
「彼はさ、本当に御茶ノ水を立て直したくて来たんだよ」
「うん」

 まあ何となく言いたい事はわかるような、煙をゆっくり吐く。

「誰かのためにだな、自分が嫌なら退職すりゃいいんだから、彼にはあそこを守らないといけない大事な人がいるんだな」

 それって言うのは何だ? 好きな人……? とかそれ相応の人のためにあんな事したって?
 意味が分からない、だって仕事は生活をするためにお金を得る手段だろ? なんだよ遺書って頭可笑しくないか。






 桐生さんと所長の話をじーちゃんの隣で聞きながら、言いたい事はわかるよ不正があるパワハラがある、でもそれをなんでお前が命懸けてまで言いに来るんだって最後まで理解できなかった。


 フィルター近くまでジリジリ煙草を吸い上げて白い煙を吐いたって疑問は消えない。
 じーちゃんは煙を見て頷きながら言った。

「雄太」
「何」
「御茶ノ水の一件、お前が全部解決してこい」
「は? 秘書は?」
「そんなの毛ほども役に立ってねえよ」
「はあ?! 少しは評価しろよ! すげー頑張ったろ!」
「評価に値しないと言ってんだよ。評価っていうのは他人がつけるものなんだよ、自分からしろだなんて言ってる間は真摯に仕事に向き合ってない証拠だな。だってお前は評価のために仕事をしているんだろ? 何にも変わってないな雄太は。お前も他人から感謝される存在になれ、そうだないい機会だ。会社がどうなるとダメになるのかどうしたら会社が立ち直るのか自分の目で見てこい」
「見てこいって……」
「総務部、お前が立ち上げて会社全体の事務を担って窓口をして、どうやって会社ができているのか考えろ」
「やだ」
「じゃあ沖縄に強制送還だな」
「クソジジー」
「住む場所と足は用意しとくから」
「本気かよ」

 クソ! クソ!! 正直今となっちゃこっちの生活のが楽な訳で。


「とりあえず社内調査からだな、一人じゃ無理だろうからいくらでも人員はお前の判断で使っていいよ」
「営業でも?」
「ああ、うちは急に人が抜けた位で仕事回らなくなるなんて体勢とってないから、どこの営業でも誰でも何でも持ってけ早急に御茶ノ水事業所の立て直しを優先」
「………………承知しました」





 で、まあ 御茶ノ水がいかがなもんか調べてメール作って送信して、隣見たら新井君は。
「マジッスか! 僕御茶ノ水行くんスか! ホームページ見たらめっちゃビルボロいんスけど! 彼女に渋谷勤務って言ってるのに!」
って反発してた。

「確かお前法学部だろ? なんか上手い事やれば眠ってる資格も役に立つんじゃないの。ここにいたんじゃ日の目を見なかったお前もあっちじゃ引くて数多かもよ、確実に給料だって上がるしモテモテにな」
「付いて行きます!」
「他誰連れてこっかな……」


 そんな軽い気持ちだった、でも調査の返答を見て、俺達は二人じゃ無理だって直ぐ新井君の同期だってシステム課の沖田君(何となく数字強いヤツが欲しかった)を呼び寄せて三人でメールの処理をした。

「まあ分かってはいたけど御茶ノ水ドロドロ過ぎて手つけらんないっスよ、なんスかコレ不倫、恨み嫉妬……」
「隔離されてたしね、見えないからやりたい放題だった訳だ。しかも部長の顔連ねてる面々が団塊の一番ヤバイ年代だな」
「それで、魔の温床営業部はどうなってるんですか」
「うん、いい感じに皆キレてるよ。死んだらどう責任取るんだって上司からの圧力に今にも圧死しそうなんだって」
「オレそんな所に行くんですか、絶対システム回りしかやりませんからね」

 沖田君は口ではそう言いながらも昼休み明けに簡単な組織図を作ってくれた。

「まあ要するに、この葛西さんが事業所発足時からいる人で所長にも顔が利くから皆ビビって言いなりって感じみたいですね。横領や窃盗なんかも日常茶飯事みたいで営業も事務も離職率が高いです、でもこの数年ピタっと止まっています」

 沖田君はホワイトボードに張られた組織図に、新たな名前のプレートを置いた。

「この尾台絵夢さんが入社してから誰も辞めてまいせん」
「尾台絵夢……」
「可愛い名前っスね!」

 手元にあるプリントアウトしたメールの返信を見返して溜め息が出た。

「あれだろ、一人だけ何の不満もないって書いてた人だよね、こんな明らかに書かされてるみたいな返信……よく辞めないで続けられるよな」
「この人他の上司からの評価は高いけど、始末書かなり書いてますね」
「だから書かされてるんだろ。伸び代黒く塗り潰されて上には話がいかないように仕組んでる。上部だけみたら、出来ない部下に困る上司の図だな。契約書も見た? 彼女ほとんどこの葛西さんの仕事肩代わりしてるよ」
「そーなんスか」
「ハンコの跡、葛西って押されてても彼女が押したってわかるよ綺麗に真っ直ぐに押してる。葛西さんなんか領収書のハンコ逆さでもはみ出してても平気で出してるし」
「それでこの彼女が死にそうなんですか」
「さあ……本人に直接聞いてみないとわからないな。でも死ぬ前に何とかしないとな」













 この人を助けに行こうって思ったんです。







 だなんて、格好つけすぎだよな。
 本当は御茶ノ水には行きたくなかった、なんて知ったら尾台さんは失望するだろうか。




 他の部署も大方同じような上下関係で桐生さんの話もあったし現在御茶ノ水を取り巻く環境は理解できた。
 後は個別でどう対応をとるか、不正を働いていた社員にはどう懲罰を課すか一人一人資料を作成してそれをうちの人事に見てもらったり、じーちゃんに判断を仰いだり初めて人のために仕事という仕事をした。

 三人で残業して御茶ノ水に出向する準備を着々と整えていった。
 じーちゃんからは顔付きが変わったと言われた。

 そうかもしれない、楽しいとはまた違うけど俺達が始めるこの改革で苦しんでいる人が救えるなら。
 そう考えたら何か仕事に対して初めてやる気みたいなものを感じた。






 出向の朝、御茶ノ水駅で新井君と沖田君と待ち合わせをした。

「おっはよーございまーす、袴田さ……あれ、眼鏡なんスか」
「そうですよ、人事が目付き悪いってあまり良くないと思いましてカモフラージュです」

 眼鏡を直して言ってみたら二人は苦笑いしてんだけど。

「敬語気持ち悪いですねどうしたんですか、緊張して頭可笑しくなったんですか」
「あ? 心機一転ですよ」
「続くといいっスね」
「二日で終わるに五百円」
「ケンカ売ってんのか」
「あ、五秒で終わった」
「ほら、こういう草食系って今流行ってるじゃないですか大人しそうな方が皆さん話しやすいかなと」
「そうっスね、仕事しろって背中に蹴り入れてくる上司には見えないっスね」
「それは新井君が仕事中に惰眠を貪っていたから渇を入れたまでですよ。私の印象が悪くなるような情報流したら殺しますからね、では気合い入れていきましょうか」
「何なんですか、そのキャラ」

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