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告白
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体引き寄せられてスーツの腕の中に収まる、顔を上げたら袴田君は笑った。
直した眼鏡の奥の瞳が穏やかに細くなって、ああキス……って勝手に脳が判断して目を閉じたら柔らかい唇が優しく重なった。
ちょっとだけ触れて、額がぶつかって私から顔を傾けて深く唇を交わる。
こんな状況なのにもっとしたくて、少し口を開けたら袴田君は唇を離して親指を咥内に滑り込ませた。
「ぅんふ……」
「これで我慢して」
欲しいのと違うって思うけど、素直に私は親指に舌這わせて舐め回してる。
「尾台さんが好きだって気持は否定しないけど、それと同時に彼女にも感情があってそれが誰に向けられているのかを冷静に見ないといけないよね。その制服、俺も同じ高校だったから分かるけど君勉強できるんだろ? だったらもう少し相手の気持ちも客観的に考えないと」
「んんッ……袴田君指はヤ」
上顎いっぱい擦られてぞぞぞってするのいやで、口から離した。
らいちゃんは下唇を噛んで赤い瞳を一巡させると鞄から何かを取り出して私に押し付ける。
「何?」
「金曜にやるライブのチケット」
「ライブ……?」
「絵夢ちゃんの気持ちなんて知らない!」
ぶっきら棒な口調から急に語気を強めてらいちゃんは続ける。
「そんなの待ってられるかよ、だって絵夢ちゃんはオレより十も年上なんだオレが大人になるまでなんて待たせられないだろう。絵夢ちゃんがお前が好きだからなんだよ。でもお前は所詮他人だ! 今すげー好きだっていずれ恋なんて終わるだよ。どんなに好きだって別れた瞬間泡みたいに一瞬で消えるんだ。愛だって終わる、情だのって言って残りの人生惰性で寄り添うだけだ。でも俺達は消えない、少しくらい離れたって血は一生消えない、死ぬまで絵夢ちゃんの中にはオレと同じ血が流れ続ける。だからオレ達は永遠に愛し合える、お前とは違ってな!」
「彼女への愛情を終わらせる気なんてありませんけど」
「っせーな、パッと出が十七年の想いを簡単に遮れると思ったら大間違いなんだよ、引っ込んでろ」
「ねえらいちゃん、私がこういうの嫌いって知ってるよね」
「ケンカしてねぇだろ、殴っていいなら殴るけどさ」
「俺だって殴っていいなら顔掴んだ瞬間ぶん殴ってますよ」
「何だよコイツ全然草食ってるタイプじゃないじゃん」
「年上に対してお前とかコイツとかそろそろ止めませんか」
「止めませんよ、お前なんか大嫌いだ!」
「気が合うね、君調子乗りすぎだよ大人舐めてる?」
「あ? やんのかモブ眼鏡」
「童貞がしゃっしゃってんじゃねえぞ」
「う!! お前なんでそれ」
「ちょぉおおっと!! もう本当に怒るよ?」
じりじり近寄る二人を引き剥がしたららいちゃんは舌打ちをした。
「まあいいや、オレ今からバイトだから明日はバンドの練習に勉強あるし金曜にまた来るわ」
言い終えた瞬間こっちの話は聞きませんとばかりにヘッドフォン装着して行ってしまった。
背中見えなくなって。
「ごめんなさい、らいちゃん今反抗期で……」
「お疲れ様です」
フラッとした体を胸で受け止めてくれて、目合ったのに袴田君は笑ってくれなかった。
「袴田君……あの……」
「尾台さん、こないだもした、一緒に寝たって話は俺と関係を持つ前の話ですか」
「えっと……」
「最近の話なんですね、ずっと隠して?」
「違うよ、うぅっ……一昨日! ああ、あの……急に来て……本当に何もなかったから袴田君には言わなくて」
「何もない人とキスして結婚の約束をするんですか」
「待って、待って待って違うの待って」
「待ちます」
道路がしんとして、私は袴田君の胸に抱かれたままで、でも腰にある手がいつもより力がない気がして不安になる。
いつもなら、もっとぎゅってされてる気がするのに。
いやだ、袴田君に嫌われるのが嫌だ。
なのに、色んな事隠してる、私も隠されてる。
「ねえ尾台さん」
「はい」
袴田君は私の首の所を爪でカリっと擦った。
「これ、上書きしたけど桐生さんと何があったんですか」
ああ、そこキスマーク……。
袴田君は私の肩を持つと正面に来るように体を離した。
「さっきの様子、有沢さんともあの後何かありましたよね」
真っ直ぐ目を見られて隠れられなくて、いや、隠すのもおかしくて、でも動揺で胸がいっぱいで嫌われたくなくて早く取り繕わなくちゃって焦る。
さっき整理したはずなのに結局頭の中ごちゃごちゃだ。
勝手に言葉が溢れて。
「あのね袴田君、待ってあの……有沢さんの今日の告白はあれは嘘だって……えっとよくわからないけど、やっぱり嘘って言われて。だから何でもなくて、それでおしまい? みたいです。それでらいちゃんは……はい、ごめんなさい私小さい時結婚するって言いました。軽い気持ち……でもキスしたり一緒に寝たりは小さい頃の話だったから……ああ、いや違うの、こないだ家出したって来て、家泊めてしまったけど本当に泊めただけ……あっキス……してしまった、けど……無理矢理されて、うう……でも本当にそれだけなの。ああ、やだキスは特別なものだけど、きっとらいちゃんは小さい時私がお世話してたからそのせいで良い人に見えてるんだと思うの、後若いから…………若い時ってそういうのある……よね? そうだ後男子校だから、女の子いなくて……私が気になるの、かなうん多分そんなんだから何でもないの。後……桐生さんは……あの、うん。助けてもらっていつも見てて……ああ昔の話。でもほら関係ないよ、だって桐生さんはねあの……処女……えっと純粋な子が好きみたいだから……私は……さ? そういうのしてるし、だから桐生さんの恋愛対象外だよ。だから、だから全部全部……全部! 関係ないから、あの袴田君……私を…………その、私の事き、…………嫌いにならないで下さい!!」
一息で言って見上げたら袴田君は目を逸らして眼鏡を直した。
「尾台さんの胸にあるのは拒絶される事への恐怖だけですか」
「え……」
「やっぱり俺を好きにはなれませんでしたか?」
“尾台さんは俺を好きになれませんか”
昔言われた言葉が頭に浮かんで……。
袴田君は髪かき上げて大きく息を吸って、私の方へ向き直って、そして。
「尾台さんは……処女ですよ」
「え……」
「あなたの体は綺麗なままです」
「何? 待って袴田君、だって私達」
「だから、俺は尾台さんとセックスはしてないです。そういうの大事だからいつか尾台さんが俺を受け入れてくれたら、その時一緒に繋がる時間迎えようと思って最後まではしていません。充分それに近い行為はしてましたけど、肝心な所はとっておいてあります」
「…………そう、なの?」
「それで、尾台さんは処女ですが、桐生さんはどうしますか」
「えっと……」
「ねえ尾台さん……皆さんの想いをきちんと正面から受け止めてあなたの正直な気持ちで答えて下さい。適当な言葉で逃げないで下さい。真っ直ぐ返事をしないから相手も納得しないし尾台さんにもずっと後ろめたさが残る、甥の彼にしても有沢さんも桐生さんも、今尾台さんがしている態度は断るよりも残酷だ」
「ごめんな、さい……」
「ねえ尾台さん……尾台さん本当は桐生さんが好きでしたよね。俺尾台さんをずっと見ていたから分かります。あなた達は心のどこかで繋がって寄り添って仕事してました」
「…………」
「隠していた訳じゃないから言います、桐生さんはあなたのために命を掛けられる人です」
「な……何の話ですか」
「覚えていませんか、御茶ノ水の環境待遇改善を求めて本社に直訴しに来た人間がいたって、あれは桐生さんです。あの日の朝、桐生さんはその体一つと封書を持って本社にやって来て会長の前で封書を置いて地面に額を付けました。組織風土の改善と自分達の置かれている職場環境を見直して下さいと彼は人目を憚らず大きな声叫んで頭を下げたんです。異例なんて言葉で片付く行為じゃなかったです、だって桐生さんが差し出した封書は退職願でも要望書でもない、遺書でしたから。聞き入れてもらえないなら死ぬ覚悟だとそう言って顔を上げた桐生さんの目は真剣でした。窃盗に横領にパワハラに全ての証拠は揃えてある、これを言うために自分は営業のトップまで登り詰めたと、了承してくれないなら今自分が抱えている取引先全てにうちの会社の内情を暴露し賛同者とストライキを起こし身を投げると、半ば脅迫めいてましたけど、それくらい危機迫った状況にあって有余がないのを窺わせました。狂気じみた行動でしたけど、その原動力はただ一つ、尾台さん、あなたのためですよ。だから、そう……俺達はね尾台さん、桐生さんが居なければ出会えなかったんです」
袴田君は咳払いをして、大きく上下する私の肩を撫でると続ける。
「その顔はやっぱりこの事知らなかったんですね。桐生さんはそういう人です、飲み会の帰りにあなたを家まで送るよう指示したのも桐生さんでした。俺が一番尾台さんから遠いい存在だから、もし自分が送って尾台さんが気付いたら凄く気を使うだろうから接点のない君が送ってあげてって、ねえ尾台さん」
「はい」
「俺は嘘ついてまで尾台さんを自分のモノにしようとした卑怯な人間なんです。きっと尾台さんの隣には桐生さんこそ相応しいのだと思います。桐生さんと尾台さんの相愛関係を壊したのは他でもない俺なんです。あなたの他人を思いやる善意を利用して、少しお酒にだらしない所につけ込んで……」
肩を掴む指が震えてて、私も呼吸の仕方がわからなくなる位心臓がおかしくなってて、ごめんなさいって袴田君が私の目尻を擦るから私はきっと泣いている。
「でも、もうこれ以上尾台さんを騙してあなたに俺を好きだと言わせるのは暴力に近い行いだと思いました。本当は…………本当は初めからあなた達の……好きな人の幸せを見守ってあげくちゃいけなかったのに、それができなかった。二人の関係を壊してしまって本当にごめんなさい」
瞼を伏せて謝る長い睫毛に滴が光って苦しくて。
「袴田く」
「あなたに触れてしまったあの日、あなたがこの現実世界に生きていたと知ってしまったあの日、抑えられない欲が出た」
ぎゅって抱きすくめられて、袴田君は震えた吐息と高い鼻を私の頭に沈めた。
「ずっとずっと好きでした、幸せになって下さい」
僅かな掠れた声が髪を分けて脳を痺れさせる。
「にゃんにゃんさん……」
直した眼鏡の奥の瞳が穏やかに細くなって、ああキス……って勝手に脳が判断して目を閉じたら柔らかい唇が優しく重なった。
ちょっとだけ触れて、額がぶつかって私から顔を傾けて深く唇を交わる。
こんな状況なのにもっとしたくて、少し口を開けたら袴田君は唇を離して親指を咥内に滑り込ませた。
「ぅんふ……」
「これで我慢して」
欲しいのと違うって思うけど、素直に私は親指に舌這わせて舐め回してる。
「尾台さんが好きだって気持は否定しないけど、それと同時に彼女にも感情があってそれが誰に向けられているのかを冷静に見ないといけないよね。その制服、俺も同じ高校だったから分かるけど君勉強できるんだろ? だったらもう少し相手の気持ちも客観的に考えないと」
「んんッ……袴田君指はヤ」
上顎いっぱい擦られてぞぞぞってするのいやで、口から離した。
らいちゃんは下唇を噛んで赤い瞳を一巡させると鞄から何かを取り出して私に押し付ける。
「何?」
「金曜にやるライブのチケット」
「ライブ……?」
「絵夢ちゃんの気持ちなんて知らない!」
ぶっきら棒な口調から急に語気を強めてらいちゃんは続ける。
「そんなの待ってられるかよ、だって絵夢ちゃんはオレより十も年上なんだオレが大人になるまでなんて待たせられないだろう。絵夢ちゃんがお前が好きだからなんだよ。でもお前は所詮他人だ! 今すげー好きだっていずれ恋なんて終わるだよ。どんなに好きだって別れた瞬間泡みたいに一瞬で消えるんだ。愛だって終わる、情だのって言って残りの人生惰性で寄り添うだけだ。でも俺達は消えない、少しくらい離れたって血は一生消えない、死ぬまで絵夢ちゃんの中にはオレと同じ血が流れ続ける。だからオレ達は永遠に愛し合える、お前とは違ってな!」
「彼女への愛情を終わらせる気なんてありませんけど」
「っせーな、パッと出が十七年の想いを簡単に遮れると思ったら大間違いなんだよ、引っ込んでろ」
「ねえらいちゃん、私がこういうの嫌いって知ってるよね」
「ケンカしてねぇだろ、殴っていいなら殴るけどさ」
「俺だって殴っていいなら顔掴んだ瞬間ぶん殴ってますよ」
「何だよコイツ全然草食ってるタイプじゃないじゃん」
「年上に対してお前とかコイツとかそろそろ止めませんか」
「止めませんよ、お前なんか大嫌いだ!」
「気が合うね、君調子乗りすぎだよ大人舐めてる?」
「あ? やんのかモブ眼鏡」
「童貞がしゃっしゃってんじゃねえぞ」
「う!! お前なんでそれ」
「ちょぉおおっと!! もう本当に怒るよ?」
じりじり近寄る二人を引き剥がしたららいちゃんは舌打ちをした。
「まあいいや、オレ今からバイトだから明日はバンドの練習に勉強あるし金曜にまた来るわ」
言い終えた瞬間こっちの話は聞きませんとばかりにヘッドフォン装着して行ってしまった。
背中見えなくなって。
「ごめんなさい、らいちゃん今反抗期で……」
「お疲れ様です」
フラッとした体を胸で受け止めてくれて、目合ったのに袴田君は笑ってくれなかった。
「袴田君……あの……」
「尾台さん、こないだもした、一緒に寝たって話は俺と関係を持つ前の話ですか」
「えっと……」
「最近の話なんですね、ずっと隠して?」
「違うよ、うぅっ……一昨日! ああ、あの……急に来て……本当に何もなかったから袴田君には言わなくて」
「何もない人とキスして結婚の約束をするんですか」
「待って、待って待って違うの待って」
「待ちます」
道路がしんとして、私は袴田君の胸に抱かれたままで、でも腰にある手がいつもより力がない気がして不安になる。
いつもなら、もっとぎゅってされてる気がするのに。
いやだ、袴田君に嫌われるのが嫌だ。
なのに、色んな事隠してる、私も隠されてる。
「ねえ尾台さん」
「はい」
袴田君は私の首の所を爪でカリっと擦った。
「これ、上書きしたけど桐生さんと何があったんですか」
ああ、そこキスマーク……。
袴田君は私の肩を持つと正面に来るように体を離した。
「さっきの様子、有沢さんともあの後何かありましたよね」
真っ直ぐ目を見られて隠れられなくて、いや、隠すのもおかしくて、でも動揺で胸がいっぱいで嫌われたくなくて早く取り繕わなくちゃって焦る。
さっき整理したはずなのに結局頭の中ごちゃごちゃだ。
勝手に言葉が溢れて。
「あのね袴田君、待ってあの……有沢さんの今日の告白はあれは嘘だって……えっとよくわからないけど、やっぱり嘘って言われて。だから何でもなくて、それでおしまい? みたいです。それでらいちゃんは……はい、ごめんなさい私小さい時結婚するって言いました。軽い気持ち……でもキスしたり一緒に寝たりは小さい頃の話だったから……ああ、いや違うの、こないだ家出したって来て、家泊めてしまったけど本当に泊めただけ……あっキス……してしまった、けど……無理矢理されて、うう……でも本当にそれだけなの。ああ、やだキスは特別なものだけど、きっとらいちゃんは小さい時私がお世話してたからそのせいで良い人に見えてるんだと思うの、後若いから…………若い時ってそういうのある……よね? そうだ後男子校だから、女の子いなくて……私が気になるの、かなうん多分そんなんだから何でもないの。後……桐生さんは……あの、うん。助けてもらっていつも見てて……ああ昔の話。でもほら関係ないよ、だって桐生さんはねあの……処女……えっと純粋な子が好きみたいだから……私は……さ? そういうのしてるし、だから桐生さんの恋愛対象外だよ。だから、だから全部全部……全部! 関係ないから、あの袴田君……私を…………その、私の事き、…………嫌いにならないで下さい!!」
一息で言って見上げたら袴田君は目を逸らして眼鏡を直した。
「尾台さんの胸にあるのは拒絶される事への恐怖だけですか」
「え……」
「やっぱり俺を好きにはなれませんでしたか?」
“尾台さんは俺を好きになれませんか”
昔言われた言葉が頭に浮かんで……。
袴田君は髪かき上げて大きく息を吸って、私の方へ向き直って、そして。
「尾台さんは……処女ですよ」
「え……」
「あなたの体は綺麗なままです」
「何? 待って袴田君、だって私達」
「だから、俺は尾台さんとセックスはしてないです。そういうの大事だからいつか尾台さんが俺を受け入れてくれたら、その時一緒に繋がる時間迎えようと思って最後まではしていません。充分それに近い行為はしてましたけど、肝心な所はとっておいてあります」
「…………そう、なの?」
「それで、尾台さんは処女ですが、桐生さんはどうしますか」
「えっと……」
「ねえ尾台さん……皆さんの想いをきちんと正面から受け止めてあなたの正直な気持ちで答えて下さい。適当な言葉で逃げないで下さい。真っ直ぐ返事をしないから相手も納得しないし尾台さんにもずっと後ろめたさが残る、甥の彼にしても有沢さんも桐生さんも、今尾台さんがしている態度は断るよりも残酷だ」
「ごめんな、さい……」
「ねえ尾台さん……尾台さん本当は桐生さんが好きでしたよね。俺尾台さんをずっと見ていたから分かります。あなた達は心のどこかで繋がって寄り添って仕事してました」
「…………」
「隠していた訳じゃないから言います、桐生さんはあなたのために命を掛けられる人です」
「な……何の話ですか」
「覚えていませんか、御茶ノ水の環境待遇改善を求めて本社に直訴しに来た人間がいたって、あれは桐生さんです。あの日の朝、桐生さんはその体一つと封書を持って本社にやって来て会長の前で封書を置いて地面に額を付けました。組織風土の改善と自分達の置かれている職場環境を見直して下さいと彼は人目を憚らず大きな声叫んで頭を下げたんです。異例なんて言葉で片付く行為じゃなかったです、だって桐生さんが差し出した封書は退職願でも要望書でもない、遺書でしたから。聞き入れてもらえないなら死ぬ覚悟だとそう言って顔を上げた桐生さんの目は真剣でした。窃盗に横領にパワハラに全ての証拠は揃えてある、これを言うために自分は営業のトップまで登り詰めたと、了承してくれないなら今自分が抱えている取引先全てにうちの会社の内情を暴露し賛同者とストライキを起こし身を投げると、半ば脅迫めいてましたけど、それくらい危機迫った状況にあって有余がないのを窺わせました。狂気じみた行動でしたけど、その原動力はただ一つ、尾台さん、あなたのためですよ。だから、そう……俺達はね尾台さん、桐生さんが居なければ出会えなかったんです」
袴田君は咳払いをして、大きく上下する私の肩を撫でると続ける。
「その顔はやっぱりこの事知らなかったんですね。桐生さんはそういう人です、飲み会の帰りにあなたを家まで送るよう指示したのも桐生さんでした。俺が一番尾台さんから遠いい存在だから、もし自分が送って尾台さんが気付いたら凄く気を使うだろうから接点のない君が送ってあげてって、ねえ尾台さん」
「はい」
「俺は嘘ついてまで尾台さんを自分のモノにしようとした卑怯な人間なんです。きっと尾台さんの隣には桐生さんこそ相応しいのだと思います。桐生さんと尾台さんの相愛関係を壊したのは他でもない俺なんです。あなたの他人を思いやる善意を利用して、少しお酒にだらしない所につけ込んで……」
肩を掴む指が震えてて、私も呼吸の仕方がわからなくなる位心臓がおかしくなってて、ごめんなさいって袴田君が私の目尻を擦るから私はきっと泣いている。
「でも、もうこれ以上尾台さんを騙してあなたに俺を好きだと言わせるのは暴力に近い行いだと思いました。本当は…………本当は初めからあなた達の……好きな人の幸せを見守ってあげくちゃいけなかったのに、それができなかった。二人の関係を壊してしまって本当にごめんなさい」
瞼を伏せて謝る長い睫毛に滴が光って苦しくて。
「袴田く」
「あなたに触れてしまったあの日、あなたがこの現実世界に生きていたと知ってしまったあの日、抑えられない欲が出た」
ぎゅって抱きすくめられて、袴田君は震えた吐息と高い鼻を私の頭に沈めた。
「ずっとずっと好きでした、幸せになって下さい」
僅かな掠れた声が髪を分けて脳を痺れさせる。
「にゃんにゃんさん……」
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