総務の袴田君が実は肉食だった話聞く!?

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ほろよい

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「処女……厨?」
「言葉の意味は?」
「知ってるよ、知ってる……けど」
「経理の子達にね合コン誘われてさ、あれ? でも桐生さん狙ってませんでしたっけ? 聞いたの、そしたら」
「うん」

 めぐちゃんはお酒をくっと煽ると咳払いをして、ブリブリな声真似で始めた。

「【それがそれが~こないだの飲み会で~桐生さんが送ってくれるってゆーからマジキター頂かれまーすって思ってめっちゃ寄り添って雰囲気作ったのにぃ家まできて入らないってゆー訳~何でデスカー? ってきーたら「ごめんね僕、自分の体しか知らない女性じゃないと愛せないんだ」ってマジキンモー! 三十にもなって処女求めてるとか有 害 物 質 か よ 死 ね!】ってご立腹だったよ」
「おお……」
「まあ桐生さんは人望があって頼れる兄貴肌で誰にでも良い顔するけど誰にでも同じ顔だからね、平等よ平等。要は誰にも興味ないよあの人」
「そ、なんだ……」
「だからまあ、全く誠意はないけれど、どうしても言う言葉が見付からないなら、私非処女なんですみませんって言えば?」
「非処女なんですみませんってなんか凄い言葉だね」
「でも間違ってないじゃん。付き合ってもない男とエッチするし職場でも隙あらばイチャイチャしたいふしだらな女なんです。実はあなたの大嫌いなタイプの女です、すまんって言え」
「ちょっと何で言葉増やすの」
「まあえっちゃんは桐生さんの恋愛対象外って事よ」

 今度は麦飲もう~ってめぐちゃんはお酒足して、うーん、何かそれうーん。

「不服か?」
「いや、不服っていうか、その処女云々って私が処女だと思ってて私が好きだからそれを断るため」
「うんまあそうだよ、その通りだろうけど、ハッキリ袴田君のチンコが好きなんですって言って断れないなら私ヤリマンビッチなんですって断りなって言っただけ」
「ブフッ!」

 あーあーまた吹くんだからこの人はほんとにーってめぐちゃんは机拭きながらお酒飲んでて、

「でもさ、わかんないじゃん。本当に処女が好きなのかも知れないじゃん。えっちゃんが好きで処女っぽくてそれ言ってんのか、そもそも処女っぽいからえっちゃんが好きになったのかなんて分かんなくない?」
「う、うん?」
「五年も月日が流れればね、自分の気持ちなんて思い出補正されるものよ。しかもえっちゃんが聞いた桐生さんの話は告白の経緯でしょ、それは誰だって処女が好きだからなんて言わないよ、純粋そうとか無垢とかさ、そういう言葉使って綺麗な物語にするってもんよ。でも結局は男知らない感じがいいみたいな、そう言いたい訳。好きになった理由はそれだけじゃないだろうけどね。皆そうだよ男に独占欲や支配欲、縄張り意識なきゃそれはそれで問題だと思うし」
「私も男性に性欲があるのはいいと思いますふふふふふ」
「あ、酔ってきたね。えっちゃんもさ、好きになってなきゃ袴田という総務に最低な男がいた……みたいな話になるけど、今袴田君好きだからあれはうんめーの出合いだったのでちゅキラみたいになってるわけじゃん」
「………………結果論って事だね。はぁああ、もう考えたら考えるだけ、自分がダメダメで……気がある素振りして困らせて、しかももうどうしたらいいのか分からなくなって、職場で自分から袴田君に関係迫ってさ。私二十七歳とは思えないなははははは……」
「何才だったら許されるって話じゃないと思うけどね。経験とか価値観とか世の中には今のえっちゃんの状況利用する人だっていると思うよ。若い甥っ子とやり手の営業マンと本社から来た袴田君とさ、三股かけたら楽しそうじゃん」
「楽しくないよ!! でも正直個々が嫌いって訳じゃないから、もっと違う時代とか? に出会えてたらよかったのになって思うよ。もっと真剣に向き合いたかったな、だって皆好きだしね」
「クソビッチ発言キタ!」
「え? だって嫌いって言ったら嘘になるよ、ラブとライクは紙一重でしょ」
「そうね、でもここは現実の日本だからね一夫一婦制よ。まあえったんにとっては魔の金曜日かもしれないけど、ハッキリできていいじゃん袴田君だっていつまでも御茶ノ水いる訳じゃないし、このままダラダラしてたら袴田君帰っちゃうよ」
「え!!!」

 シロちゃんのお耳のとこかいかいしてたんだけど、不意に大きな声が出て膝から降りてしまった。
 甘えた声でめぐちゃんの膝に乗ったシロはそのままのびのびしてうっとりしながら体を撫でられてる。

「だって袴田君は御茶ノ水の職場環境を改善するために出向して来た人だよ。業績上げに来たんじゃないんだし、環境が整備されたら代役立てていずれは本社に戻るでしょ。確か元は営業の人だよね袴田君って」
「そ…………そっか……」
「むしろ最近本社の仕事多いし秘密裡に引き継ぎでもしてるんじゃないの? たまに見た事ないスーツ組が来るじゃん」
「ええ…………」
「ああ……えっちゃんから聞かされてないんだね?」
「ひぃ!!」

 椅子にもたれ掛かって死んでしまうからあ!!!

「もう単純って言うか本当単細胞、言われた事に直ぐ反応しちゃうんだからさぁ。袴田君がえっちゃんに私つけさせたの分かる気がするわぁ。面接の時仕事も内面もフォローしてあげて下さいって言われたんだよねぇ」
「ん? なあに? へへへ、めぐたんってもしかしてすっごい頭いいの? 大学は? 何のおべんきょーしてたの?」
「めぐたんは法学部だよ」
「魔法学部?」
「京都大学法学部出身、アルバイトの恵ちゃんだよ宜しくね☆」
「寝る」
「ちなみに袴田君は私の大学の先輩で工学部だよ、地球工学だったかな」


 ちょっと待ってよ、なんだっけきょと? もういいや寝よう。
 そりゃ物覚えいいはずだよ、私と素頭が違うモノ!
 すみません初心者のエクセルの本なんて教えて!!

 ガンって机に頭突っ伏したらめぐちゃんは笑いながら肩を起こしてくれた。
「もうしっかりしてよ、今日は袴田君お迎えに来ないんだから部屋まで頑張って?」
「はい」
 和室の部屋まで歩いて行って、そこには既にシロが待っていた。
「気味悪い?」
「んーー酔ってるから? ううん、違うな関係ないと思う、お仏壇のある部屋って守られてそうじゃん好きだよ。でも初めてのお家はトイレ怖いから一緒に行って?」
「はいはい、いつでも起こして」
「なら快適です」
「良かった、私毎日ここで寝てるから、お風呂とか……とりあえず明日でいいよね」
「うん、まあもう明日休んでもいいかな!! ふふふ仕事も世界の全ても! 何にもやりたくない納期全部ブッチしたいあははははは」
「最悪」
「すいません」

 昨日は全くそんな事なかったのに結構酔いが回ってまして、布団を敷いてくれるめぐちゃんを目で追いながらシロを撫でていた。

「明日は私が畳むからねふふ」
「宜しくお願いしまーす」

 敷いてもらって服脱いでパジャマ借りて、私はいそいそ布団に入る気持ちいい。
 めぐちゃんはテーブルに出されていた惣菜をちゃちゃっと片付けると飲みかけだったお酒を持ってこっちに来た。

「はい、尾台先輩」
「やぁあだ、それ三秒で終わった呼び方!!」




【尾台絵夢です。わからない事は何でも聞いてね】
【久瀬 恵です。宜しくお願いします尾台先輩】
【え、 やだやだ~そんな呼び方慣れてないから、もっとフランクにして下さい】
【んじゃ宜しくネ☆ えったん!】
【お、おぅ…………(若い子やべぇ)】




 思い出して笑って、もう一回乾杯して、ああ私は何に悩んでたっけなってふわふわした頭で思った。

「昔……」
「うん?」

 えのき茸の焼酎を口にしながら昨日? 一昨日? の記憶が甦る。


「好きな子に影で悪口を言われていたの」
「うん」
「影口なんて誰にでもあるけど、直接そういう場面見るのって初めてだったからショックなのと寂しい気持ち……でも一番は」
「うん」
「心配だった。その子が、私には好きだって言うのに裏では嫌いって言う二面性が、何でそうなっちゃうんだろうって心配だった。でも私に消えてほしいって言ってたから、彼女が少しでも楽になればって一番直ぐできる対処法を選んだ。私もそんな彼女を見てるの辛かったし、ごめんねって心の中で謝って一瞬で消えた」
「そう」
「こういう気持ち、良い子ぶってるって言われちゃうから言わないんだけど、私は今もアリアちゃんが幸せになってますようにって思ってる、私に知り合う前より今が楽しいといいなって」
「うん」
「同じ、桐生さん……明らかに私に無理を強いるし袴田君も私に何も言ってこない、甥っ子も大事にするって言うわりに追い詰めてくるしさ。でも三人をそうさせてしまった私が悪いって、そういう所謝りたい、もう恋愛感情なんていいから元通りに何もなかった昔に戻りたいって思う、皆を楽にさせたい。あれ支離滅裂……何の話だったかな」
「えったんは明日死にます」
「え」
「って言われたら誰の顔が一番最初に思い浮かぶの」





「袴田君……」 
「じゃあそれでいいじゃん」

「ああ……」
「目の前から無くなったってさ、どうせ悩むんだよ。えっちゃんがそれを手放さない限りずっと続くよ。そのアリアちゃんだってえっちゃんは消して終わらせたつもりだろうけど、今だって悩んでるんでしょう、無くしたって意味ないよ亡くなるまで悩むんだよ、亡くなったら悩んでも意味がないからその内気持ちも薄れてくし、もう終わった事って踏ん切りつけるけどさ。そんなもんだよ、悩める相手がいるのっていいね」
「うん」
「アリアちゃんだっけ? もし私がえったんの立場だったらすげームカつくなんだコイツってなるよ。なんなら、こそこそしてないで面と向かって言えって軽く喧嘩になってるかもしれない、だから自分を悪く言う相手の幸せを願えるなんてえったんは立派だよ。怒りや恨み、己を蝕む悪しき心を自分の中に生ませないってそれ釈迦の域だと思う。でもえったん人だから自分は守れても触れ合う人全てを救済する事はできないよ。傷つくよ、絶対必ず、誰かは。でもそれでいいんだよ、だって私達は人間だから」
「うん」
「おやすみえったん」
「うん」

「大丈夫、今日より明日は明るいよ」

「ありがとう」
 布団から細い手が伸びて来て力強く握られて、おやすみって返した所で私の記憶は途絶えた。

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