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連載
恥ずかしいモノ
しおりを挟むマンションを出て直ぐ。
これだけは、恥ずかしがらずにちゃんと伝えないとって、袴田君を植え込みの隅に追いやって出来るだけ頭を下げた。
「いつもいつも本当にすみません」
袴田君は肩に手を置いて頭上げてってしてくる。
「いいんですよ、これは慈善事業じゃないですから。俺が個人的にしている事です」
「けど」
「って事はイコール」
眼鏡を朝日にキラってさせて。
「下心ありありです!」
「袴田君!!」
「ふふふふふ」
せっかく素直に言ったのに!
胸板叩こうと思ったら振り上げた手をあっさり捕まえられて平にキスされた。
「だからもうその対価は昨夜たっぷり貰ったので気にしないで下さいね?」
ぺろってされて、
「ヒッ」
「ああ、口にされたかった?」
ちゅって唇が触れて、もうやだ! やだ!! 怒るどころか前髪が靡いた瞬間目瞑ってしまった私やだ!
「朝からマックス可愛いな、今日会社休みましょうか」
「行く!」
「イク?」
「もう袴田君なんて嫌い!!!!」
「尾台さん~!」
けしからん! けしからんよ!! この男は本当にもう!!!
「あっちに行って!」
「でも尾台さんここから会社に行く道知らないでしょ? あ、でも迷子になって袴田く~んってしてる尾台さん見たいかも」
「うるさい!」
「怒ってる尾台さん大好き」
怒りを宿す頬に優しくキスされて、こっちですよって袴田君が先を歩いた。
マップ見るのも面倒臭いし後に付いて行く、袴田君はそんな私を見てクスってした。
「むしろ何もお構いできなくてすみませんでした」
「へ? 何言ってるの! こっちが急にお邪魔した立場なのに」
「でも尾台さんなら急な訪問でも朝ご飯出してくれるでしょ? 部屋だっていつも綺麗だし」
「ああ……部屋はもう片付けてくれる人いないから、手付けられなくなる前に片付けてるだけです。ご飯は、作るのストレス発散になるしそれくらいしか楽しみがないから……私外食一人でする勇気ないので、お店で見た食べたいモノ自分で作ってるんです。それに色々レシピ見るのもスーパーで悩むのも好きで」
「いいですね、今度俺も一緒に見たいです」
「エッチな事してこないならいいですよ。あれ? でも袴田君も家綺麗ですよね男性ってもっと散らかってるのかと思ったのに」
「んー俺は……綺麗って言うより物がないですからね。物に執着もないし、家って寝たり体休すませる場所だと思っているので、そこがゴタゴタ汚かったら、帰ってきてうわーってなるじゃないですか」
「ああ……それは何となくわかるかも」
人と話しながら歩くってあまりなくて、袴田君は時より私の腰に手を回して体自分の方に寄せたりして、何? って思ったら前から自転車がきたり人が来たり赤信号だったり……。
別にされてなくても、ぶつからないし渡らないけど何かドキドキする!! デートじゃなくても袴田君ってこーゆーイケメンな動きするんだ!
信号待ちをしていたら、力強く腰を引き寄せられた。
「でも俺は尾台さんが待っていてくれるならどんな家でも喜んで帰りますよ」
「もう袴田君近いからぁ!」
「近いのイヤ? 昨日はもっと密着してたのに」
むってしてたらキスされて青信号になった。
そしたら、先を歩いていた袴田君が唐突に言う。
「部屋と言えば……そうだ尾台さん、あの玄関に置かれていた段ボールってどうしたんですか?」
「へ???」
信号の真ん中で私は足を止めた。
えっと…………そう、あの段ボール……袴田君とのデートの前日にベランダに出したのだ。
新しい私になろうって、このコスプレしてた私とは決別だってゴミに出そうと思ったんだけど、衣類関係はまとめて出すなら資源の日だったので翌日が不燃ごみの日で出せなかった。
だから仕方なくベランダに置いた、しかも結局捨ててない。
まさかそれを聞かれるとは……でもそっか私を家まで送る度あったもんね、え? 嘘!! 中見て?!!!
「どうしたんですか、そんな所で止まって、危ないですよ渡りましょう?」
「は、袴田君、あの中見ました??!」
「そんなのいいからこっち来て下さい」
「いいから! 引かれてもいいから! 中見ました?」
朝から必死になっちゃって恥ずかしいな私。
「引かれてもいいなんて何言ってるんですか」
袴田君の声色がちょっと怖かったでも謝らなかった。
「袴田君答えて」
自分でもなんでこんなおっきな声出してるのか分からない。
いや嘘、分かる……袴田君の家には……何だろそういうオタク趣味なもの置かれてなくて、キッチンの本棚も経済誌にベストセラーになった恋愛小説に自己啓発本に誰もが好む様な本ばかりだった。
私がどっぷり浸かっていたそれとは全く別次元のものだった、それがまた私を臆病にさせた、私にはまだあの世界を袴田君に話せそうにない。
袴田君は渡り切った信号から引き返してきて私の手を握った。
「尾台さん危ないから」
「見ました…………?」
声が掠れて手引かれても足が地面に張り付いて。
バカじゃないの見ましたって言われたらどうするの、言われたとして私はどんな顔して袴田君を見るの、そんな答えもでないまま問い詰めて何の意味があるんだろ、泣きそうになってるし、もうやだそうしたら袴田君は、
「見てないですよ」
と言った。
その一言を聞いて私は手を引かれるがまま信号を渡った。
「俺は尾台さんに言われない限り自分から部屋のもの見たりしてないです。いつも置かれていたのにこないだなかったから気になっただけです」
「そっか」
「何が入ってたんですか」
「…………」
「無理して言わなくていいよ」
「無理はしてないです! 思い出? うん過去の物……あるでしょ? そういう他人に見られたら恥ずかしい物って…………いや、普通はないのかな? いつだって一生懸命生きてるのに……そんな自分が恥ずかしいだなんて可笑しいですね」
「可笑しくないですよ」
袴田君が笑って頭を撫でてきて促されて私も笑った。
こんな上辺だけの笑い方大丈夫かなって思ったけど、散歩中の犬に突然足を舐められて話題が逸れた。
袴田君から貰った紅茶を飲みながら、やっぱり制服って気合いが入っていいよなって思った。
今日みたいにもやもやしてる時に自分で気持ちを切り替えなくても、袖を通すだけで仕事だ! ってなるもの。
思い起こせば幼稚園から制服だったし、小中って公立だったんだけど私の所は珍しく一貫校で制服だった。
で高校も制服だったから私って大学くらいしか私服着てないんだ。
幼稚園の前なんて自分で服選んでないしね、そっかそう考えたら私人生ってほとんどが制服じゃん。
学生の時なんて、うちの制服を着たら自分が学校の看板だと思いなさい、だなんて言われてたし。
コスプレも……まあその話はいいか、いい年していじいじしてみっともないもんね、ごめん。
パソコンで今日の予定をチェックしていたら、首にふわっと何かが舞って。
「ん?」
「おはよ、えったん」
見上げたらめぐちゃんがスタバのコーヒー片手に出勤してきた。
首に置かれたのはスカーフで、
「おはよ、昨日はありがとう」
「あら、もう次からは気を付けますって言わないんだ」
「実現できない事は口に出さないタイプ」
「ふぅん」
「で、これ何?」
肩に乗った淡いピンク色のスカーフ摘まんだら。
「こないだも言ったけどさ、別にえっちゃんが見せたくて出してるなら構わないけど襟足にキスマーク超着いてるよ」
「え? やだ! 首に着いてたのは朝コンシーラーで消したんだけど」
「意味ないから、えっちゃん大体座ってるんだから皆が見るの、まずうなじだし。ああそっかだからこっちに着けてんのかやるな袴田、私のえっちゃんに」
そ、そうですか。
黙ってコンシーラーとファンデーションめぐちゃんに渡して塗ってもらってる間、袴田君に「キスマーク着けるの止めて!」ってライン送ったら「なら着けてる時に言って下さい(眼鏡キラ)」って返ってきた。
わかったよ! 今度絶対言ってやるよ!!!
覚えとけ眼鏡!
は口に出すの止めておいた。
紅茶とチョコレートを摘まみながら営業さんのスケジュールを見ていたら、うわ……今日は桐生さんが朝から絡みにくいとこ行く日だ。
まだ時間あるしコーヒー……じゃなくてココアとか? 何か買ってこようかな。
ってゆうか……何気なく営業成績の管理データ見てみたら。
何だか今月桐生さんの成績今一なんだけどどうしたのかな、セーブしてる? このままだと有沢さんに抜かれそうだけど。
とりあえず頑張って下さいの気持ちを伝えようと、自販機まで行ってみたら誰もいない休憩スペースのベンチに桐生さんが座っていた。
丸い背中が何だか項垂れているようにも見えた。
そっとその肩を叩いた。
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