【R18】モブキャラ喪女を寵愛中

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寧々ちゃんまだまだ寵愛中

神父様、代打俺

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 おい聞け、俺は今、猛烈に動揺しているぞ。
 久しぶりのスーツに息が苦しいからじゃない。

 心が! 頭が! 混乱してて、意識と言葉がちぐはぐになりそうで、それを総じて動揺していると表現してるんだ。

 数分前の事だ。兄貴はベッドに座っていた俺と目が合うと、まさかのハグして頬に軽くキスと顔面顔負けな外国人挨拶をしてきたのだ。

 そんなの八億年ぶりぐらいだった俺は慌て慄いて、なななななんななんあなんなんあ何?! ってクッソ気持ち悪い反応しながら、キスされた右頬耳の下を両手で抑えて狼狽えていた。
 したら、兄貴が俳優かよって突っ込みたくなる笑顔で歯を光らせて、ジャケットの内ポケットから紙を取り出したのだ。
 んで、紙にもキスして、

「愛しているよドロ。世界でたった一人の僕の弟、君にこれを読んでほしい」

 って言ってきやがった……(十億回頷く)。

 これだけ聞いたら、はいはいブラコン様の妄想乙っで話は終われるんだけどさ!
 勘弁してくれ! 俺は手紙を広げて震えたし、現実だから泡吹いた。


 いやね、あのさ、何となくは分かっていたよ。
 兄貴が最近じじーの家から年代物のミシン引っ張り出してきて裁縫に凝ってたのも、あんのクッソ眼鏡(姉)が「ウェスト引き締めたいんですぅ」って眼鏡(兄)のアブローラー勝手にやって顔面強打して、見た事もねえ大喧嘩して、結局眼鏡(姉)がすねて眼鏡(兄)がご機嫌取りに行くみたいな現場、くだらねえな爆発しろ!! って思ってたんだよ。
 そんな日が多々あった。(筋トレ方法は変わっても結末は同じ)

 んでよ、兄貴に今度の誕生日何買ってあげようかなって考えていた矢先だ(40歳で節目だから豪華なパーチ―しちゃい)。
 そう今週の土曜日、大事な用事があるからうちに来てって兄貴からお誘いがあった。

 常々母さんに「お前は存在が邪魔だからロシアに帰ってこい」って言われてたのは昨日の話(今直ぐ日本に行ってにーちゃんの様子見て来いって言った一週間後には戻って来なさいって言われてた)。
 ので、ほら! やっぱ俺兄貴に大事にされんじゃん! って「いけるよ!」って即答したら「スーツで来て」って。
 そんなもんないって答えれば、なら僕のあげるよって言うから、色んな「?」を思い浮かべながら、家に行った。

 余談だが、なぜだかその日は異様に…………うん! 異様にな!!(眠れなかったわけじゃない)
 早く目が覚め、約束の時間の七時間前に家に着いてしまって、玄関に現れた兄貴は呆れ顔でコタツで寝かせてくれた。
 一睡もしてなかったのもあって、爆睡してたら。笑い声で意識が戻った起きると和室は賑やかでいつの間にか客が来てる。

 何だよ、じいちゃんはいいけど、眼鏡(姉)の兄までいて、その隣には初めましてな女の人までいる、しかも赤ちゃん抱っこしてて、ふわふわのプニプニにやられてバブバブしてしまった(おめえ誰だよ可愛いな攫うぞ)。
 んで、皆きちんとした格好してるし、俺だけおかしくね?! って恥ずかしくなって急いで兄貴の部屋に駆け込んだ。

 開け放った扉の向こうには兄貴がいて、俺を見ておはようって笑ってて(黒いタイプの笑顔だよこええな)襟を整えながら言う。
「良かった、さっきまで裸の寧々ちゃんがいたから、それを見られていたら殺す所だった」
「血も涙もねえな! は?! 何?? 今日何があんの? どうしたのその服! まさかけッ」
「結婚式だよ」
 断言されて、俺は瞬きを二十億回した後にメドゥーサに睨まれたが如く硬直して動けなくなってしまった。したら好都合と言わんばかりに兄貴がパパッと着替えを済ませてくれた。

 事態を飲み込めずベッドに座り込む俺を兄貴は抱き寄せてキスしてきたのだ。そしてクソ見たくもねえ紙を渡される。今日は人生最悪の厄日だな。

 そんな弟の気持ちも知らずに大好きな兄貴に手引かれて、行きたくもない結婚式を行う場所は、何でそこだよって言いたくなる屋根裏。

 いや、うちでこの客人(三人)座れる場所もっとあるだろって言いたいけど、久しぶりに上がった屋根裏は綺麗に整理されてて、真っ赤な一本の絨毯に可愛らしいミント花のアーチでヴァージンロードが築かれていた。

 中央の天窓から一直線光が降り注ぐ場所には父さんが使ってた書斎机が置かれてて、ここを花嫁と歩くのかなって思えば、先に上にいた姉はひまわりのブーケで赤ちゃんをあやしてて緊張もせずばっかみたいに笑ってた。

 むしろここまで俺の引っ張って来た兄貴は手の感触から緊張してたのが伝わってた。だからもしかして上には大人数いんのかなってビビってたんだよ。
 でも、屋根裏にあんま人いれらんねえよなとも思って、したらじーさんと眼鏡と兄と兄嫁(+天使)しかいない。
 兄貴は気の抜けた花嫁のだらしない顔見て、俺を掴む手を緩めた。
 温もりが離れて、寂しくなる。兄貴は白いタキシードのネクタイを正すと、遅くなってごめんねって花嫁の名前を呼ぶ。
 庭に咲いた花冠を付けたクッソ眼鏡は名前に反応して顔を上げて、俺に目もくれず辰巳しゃん格好いいぃい!! っって兄貴に飛びついた(俺だって抱き着きたい)。
 当然だろ、俺の兄貴だぞ二十九年前目にした瞬間から格好いいんだよ!
 兄貴は純白のドレスを着た花嫁を軽々片腕で抱き上げて、二人で何か話してる。
 すっげーーーーーーーー聞きたくないから、ズカズカきたねえ親父の机の裏側に行って、さっき兄貴から渡された紙を開いた。

 じじい達は二人を見て笑ってる。俺ばっかイライラしてるの大人げない気がして深呼吸して、狭い屋根裏を見渡した。

 ここは何も面白くなかった場所だった。保育園から帰って来て駆け寄っても両親共に会話はいつも上の空だった、常に言語や物語の言葉ばかり考えてる二人だった。

 もちろん人並みには遊んでくれてたよ、でもやっぱりその片手には本があって、俺はその本が正直憎かった。
 でも兄貴は字が読めるからか本が大好きで、だからここに来ざるおえなかったんだ。皆ここにいたから。

 腹が立つ、愛情や兄貴を奪ったはずなのに、改めて整理された本棚を見れば目に着く本は全て知っている本だった。
 絵本から小説、参考書まで一度は読んだ本。

 兄貴がよく俺を膝に乗せて読んでくれた本、時系列に並んでる。
 ロシア語も英語も全部兄貴が教えてくれた。褒められたくて必死に単語を覚えた。
 たくさん読んだ絵本の背表紙が見えて、もう一度読み返したいなって思ったら目の前に、見たくもない新郎新婦が現れてしまった。

 花嫁はじっと花婿の顔を見上げてて、その兄貴は俺を見て「ほらドロも読んでごらん?」ってあの日の英語の勉強してた時と同じ笑顔で言うから、俺は無意識に文字を目で追った。
 兄貴は花嫁に額を擦りつけて、好きだよってロシア語で言ってる、それにやつは頷いて答えた。

「Я тоже люблю тебя, больше всего на свете.」

 何だよコイツ、ついにロシア語まで手出してきたか、本気だな。いや本気か本気なのか、そうなのか。
 納得いかない事山の如しだけど、もう今にもキスしそうで、おい待てよ俺のいる意味ねえじゃねえかって咳払いして自分達の世界に入っちゃってる二人をこっちに向かせると、それを読み上げた。

 不思議と声は震えなかった、そんな事より泣きそうになるのを止めるのに必死だったぞ、何でだよムカツク。
 兄貴を真っ直ぐ見て、言ってやる。

「あなたは今寧々さんを妻とし 神の導きによって夫婦になろうとしています」

 兄貴が深く頷いて死にたいです。でもここまできたら引けないので続ける。

「汝、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し敬い慰め遣え共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい 誓います」
「誓わなくていいから」
「ドロ、変なアドリブいれないで」
 仕方ねえだろ、勝手に出ちゃったんだよ。睨まれたから花嫁の方を向けば眼鏡はくすくす笑ってて兄貴のお陰だろうが、無駄に綺麗になってるのが腹立つ。
 兄貴に怒られそうだから、なるべく冷静に奴にも言う。

「あなたは今エロフェイさんを夫とし 神の導きによって夫婦になろうとしています。汝、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し敬い慰め遣え共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい! 誓います!!」
「うるせえよ、ぶん殴るぞ」
「ドロッ……」
「う」

 低い威圧的な声出されて、だってえ!! って涙目になる俺を見て姉はうふふふふって目を伏せる、そしたら後ろでじーちゃんがパン! っと手を叩いてさっさと誓いのキスしろよって言った。
 指輪は薬指にもうしてた、何でも一回外したら外れないんだそうで、指輪の交換はできないって(後に聞けばいくら結婚式でも寧々ちゃんが一度した指輪を外すなんてあってはならないって兄貴はサラッと言ってた)。
 んで、眼鏡が今更「え、恥ずかしいですう!」って顔赤くしたら、兄貴は細い腰を抱き寄せて顎を掴んで、それ結婚式でするのと違くない? ってレベルのふっかいキスしてた、すげえ長いヤツ。
 三人が拍手して、赤ちゃんも笑って手を叩いてたから、俺もしてやった。唇が離れて兄貴が観客に背を向けて花嫁を強く抱き締めた。




 俺にだけ見えた、眼鏡の奥で翡翠の瞳が閉じた瞬間、長いまつ毛を伝って涙が一粒零れてた。




 この胸の痛さの意味が俺にはわからないけど、兄貴は人一倍頑張ってきたんだから、もう幸せになっていいと思う。


「あん苦しいです、どうしたの? これからも私はずっと一緒いますよ」
「うん、ありがとう寧々ちゃん」

 小さな会話が聞こえて、二人は見つめ合って、薄いピンクの唇が兄貴の両頬に軽くキスをした。
 兄貴は嬉しそうに頷く。花嫁は俺に振り返るとひまわりのブーケにもキスして、お次にどうぞって小さな花束を手渡してくれた。

 じじいはニヤニヤしてて、兄夫婦は良かったって笑ってる、赤ちゃんはひまわりのしおり? みたいのかじって遊んでる。

 今、いいタイミングかなって携帯出してインカメで皆を被写体に収めた。写真を送れば直に母さんから返信がきた。




「Поздравляю со свадьбой!! :)」


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