上 下
8 / 42
第1章 王子は私を追いかける

何を仰っているのですか?

しおりを挟む

「殿下は婚姻をどのようにお考えですか?」



 ジルフォード殿下の目を真っすぐに見て聞きました。殿下は少し思案した後、ゆっくりと、そしてハッキリと言いました。



「家と家の繋がりを強化するもの、かな。でもそれだけじゃ息苦しいから、気に入った子と一緒になりたいとは思うけど、一番は政略的なものが大きいんじゃない?」



 殿下はそう告げる前、穏やかに微笑んだから、私は僅かに期待してしまいましたが、期待した私が馬鹿でした。殿下は、あくまでも「殿下」で、最も王子らしい回答だったと思います。それに比べて私は侯爵令嬢としての自覚が足りないのかもしれません。

 貴族令嬢は政略的な結婚は当たり前ですが、私はそれは出来れば避けたいのです。それを許してくれている、寧ろそれを推してくれている両親に甘えているのも十分に本当は分かっています。

 それでも私は―――。



「……殿下。わたくしは殿下のご期待通りの令嬢ではございません。どうかわたくしを候補から除名してくださいませ」



 声に色を乗せないように、表情を変えないように、淡々と紡ぐ。
 でも言葉を発する度に私は心が痛むのです。

 ―――そんな顔をしないで下さい。

 殿下の顔が悲しそうに歪み、その手にはきつく拳が作られていたのです。
 俯いたジルフォード殿下は先ほどよりも小さな声で、どこか強がったような、そんな声色で言いました。



「……リズはどうしたら私の婚約者になってくれるの?」



 顔を上げた殿下の瞳は少し鋭い。



「リズは婚約って何だと思う?」

「わたくしは……」



 深呼吸をした私は殿下にひるむことなく目を合わせました。



「わたくしは、婚約に関しては殿下と同様、只の約束であり、家と家同士の結びつきの為に親が決めたものだと考えております。……しかし、結婚は違うと思います。お互いに信頼し、打算的な考えは抜きにして相手を思いやれる時に、初めてそれは成立したと言えるのです。……どちらかがずっと嫌な思いをしながら一生を過ごすのは嫌なのです」

「婚約もダメ、とは、どういうこと?今のじゃ矛盾するよね」

「殿下。殿下は結婚が、家同士の結びつきであるとおっしゃいました。ですが私は違いました」

「……」



 ジルフォード殿下は聡明です。今の私の言葉で全てを理解したようでした。苦虫を噛み潰した様に顔を歪め、左斜め下を見ています。殿下は固い声色で、つまり、と言いました。



「つまり、結婚の概念が違うのが分かった以上、わざわざ婚約を結びたくはない、ということか」

「……」

「そうか」



 言葉で肯定するのではなく、私はあいまいに微笑みました。明言していなくても無言というものは肯定として受け取られます。

 結婚に対する思いというのは私は少し珍しいのかもしれません。
 でもこれは私にとって二番目に重要な事。(殿下の場合は)

 一番目は、「王族にならないこと」だ。
 よって殿下の婚約者には、例え隕石や槍が空から降ってきても、あべこべな世界になっても1000パーセントあり得ないのです。心の中で「ごめんなさい」と謝りました。

 暫く沈黙の時間が流れます。さわさわと柔らかな風が私達の間を通り抜け、木々を揺らしました。

 すると殿下はいつも通りの笑みを浮かべました。私はそれにほんの少し驚きつつも、黙って殿下の言葉を待ちます。



「なるほどな。じゃあ――――――――――」

「……っ?!?!な、な、な」

「ふふふっこれからも末永くよろしくね、リズ」



 私は絶句してしまい、浮かべていた笑みが外れてしまいました。
 それ程、ジルフォード殿下の言葉は衝撃でした。































『なるほどな。じゃあ、私にその結婚についてリズが教えてよ。まずは、友達兼婚約者として。そうすれば、私と結婚してくれるしね。……絶対落としてみせるよ』






 








************


怖い……w

次話、ジルフォード殿下視点です。


「何故私が王子妃候補なのでしょう?」を読んで下さり、ありがとうございます!

想像以上に沢山の方々に読んで頂き、とても嬉しいです。

これからもよろしくお願い致します‪(*ˊᵕˋ* )


柊月

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【完結】婚約者が竜騎士候補に混ざってる

五色ひわ
恋愛
 今回の竜騎士選定試験は、竜人であるブルクハルトの相棒を選ぶために行われている。大切な番でもあるクリスティーナを惹かれるがままに竜騎士に選んで良いのだろうか?   ブルクハルトは何も知らないクリスティーナを前に、頭を抱えるしかなかった。  本編24話→ブルクハルト目線  番外編21話、番外編Ⅱ25話→クリスティーナ目線

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。

BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。 しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。 その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...