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第1章 王子は私を追いかける
何を仰っているのですか?
しおりを挟む「殿下は婚姻をどのようにお考えですか?」
ジルフォード殿下の目を真っすぐに見て聞きました。殿下は少し思案した後、ゆっくりと、そしてハッキリと言いました。
「家と家の繋がりを強化するもの、かな。でもそれだけじゃ息苦しいから、気に入った子と一緒になりたいとは思うけど、一番は政略的なものが大きいんじゃない?」
殿下はそう告げる前、穏やかに微笑んだから、私は僅かに期待してしまいましたが、期待した私が馬鹿でした。殿下は、あくまでも「殿下」で、最も王子らしい回答だったと思います。それに比べて私は侯爵令嬢としての自覚が足りないのかもしれません。
貴族令嬢は政略的な結婚は当たり前ですが、私はそれは出来れば避けたいのです。それを許してくれている、寧ろそれを推してくれている両親に甘えているのも十分に本当は分かっています。
それでも私は―――。
「……殿下。わたくしは殿下のご期待通りの令嬢ではございません。どうかわたくしを候補から除名してくださいませ」
声に色を乗せないように、表情を変えないように、淡々と紡ぐ。
でも言葉を発する度に私は心が痛むのです。
―――そんな顔をしないで下さい。
殿下の顔が悲しそうに歪み、その手にはきつく拳が作られていたのです。
俯いたジルフォード殿下は先ほどよりも小さな声で、どこか強がったような、そんな声色で言いました。
「……リズはどうしたら私の婚約者になってくれるの?」
顔を上げた殿下の瞳は少し鋭い。
「リズは婚約って何だと思う?」
「わたくしは……」
深呼吸をした私は殿下にひるむことなく目を合わせました。
「わたくしは、婚約に関しては殿下と同様、只の約束であり、家と家同士の結びつきの為に親が決めたものだと考えております。……しかし、結婚は違うと思います。お互いに信頼し、打算的な考えは抜きにして相手を思いやれる時に、初めてそれは成立したと言えるのです。……どちらかがずっと嫌な思いをしながら一生を過ごすのは嫌なのです」
「婚約もダメ、とは、どういうこと?今のじゃ矛盾するよね」
「殿下。殿下は結婚が、家同士の結びつきであるとおっしゃいました。ですが私は違いました」
「……」
ジルフォード殿下は聡明です。今の私の言葉で全てを理解したようでした。苦虫を噛み潰した様に顔を歪め、左斜め下を見ています。殿下は固い声色で、つまり、と言いました。
「つまり、結婚の概念が違うのが分かった以上、わざわざ婚約を結びたくはない、ということか」
「……」
「そうか」
言葉で肯定するのではなく、私はあいまいに微笑みました。明言していなくても無言というものは肯定として受け取られます。
結婚に対する思いというのは私は少し珍しいのかもしれません。
でもこれは私にとって二番目に重要な事。(殿下の場合は)
一番目は、「王族にならないこと」だ。
よって殿下の婚約者には、例え隕石や槍が空から降ってきても、あべこべな世界になっても1000パーセントあり得ないのです。心の中で「ごめんなさい」と謝りました。
暫く沈黙の時間が流れます。さわさわと柔らかな風が私達の間を通り抜け、木々を揺らしました。
すると殿下はいつも通りの笑みを浮かべました。私はそれにほんの少し驚きつつも、黙って殿下の言葉を待ちます。
「なるほどな。じゃあ――――――――――」
「……っ?!?!な、な、な」
「ふふふっこれからも末永くよろしくね、リズ」
私は絶句してしまい、浮かべていた笑みが外れてしまいました。
それ程、ジルフォード殿下の言葉は衝撃でした。
『なるほどな。じゃあ、私にその結婚についてリズが教えてよ。まずは、友達兼婚約者として。そうすれば、私と結婚してくれるしね。……絶対落としてみせるよ』
************
怖い……w
次話、ジルフォード殿下視点です。
「何故私が王子妃候補なのでしょう?」を読んで下さり、ありがとうございます!
想像以上に沢山の方々に読んで頂き、とても嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します(*ˊᵕˋ* )
柊月
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