11 / 21
いざ、初デート!
しおりを挟む
あれから、3日が過ぎた。
「今日もアッシュ様は、いらっしゃらないのかしら……」
つい大量に作ってしまった山盛りスコーンを前に、ロージーは深くため息を吐く。
『すまない。しばらくそちらに行けなくなった。また連絡する』
と、そっけない伝言を貰って。
それでも『今日こそは?』と、待ちわびていたのに。
「わたしが『地面の蓋』なんて、余計な事を言ってしまったせいで……気を悪くされたのかしら?」
ふーっと、また大きなため息を吐いたその時、
コンコン――窓を叩く音。
はっと顔を上げると、そこには
「きみがロージー? アッシュに聞いてた通り、可愛いね?
わたしはエルム・コリンズ。アシュトンの友人だよ」
にっこりと微笑む、美しく整った顔。
ゆるくウェーブの付いた金髪に、鮮やかな青い瞳。
まるで天使のような、軍服姿の男性が立っていた。
「はい、これ――アッシュから」
キッチンのコーナーに通し、お茶を入れたロージーに、差し出された手紙。
「アシュトン様から、ですか?」
ドキドキしながら封を開くと、
『来週の水曜日、店の定休日に。きみの都合が良ければ、街を案内したい。朝10時に迎えに行く』
と素っ気ない、でも飛び上がるくらい嬉しいメッセージが。
「『叔父上には、許可をもらっているから』だって。
ったく――あの根性無し!
大事な大事な初デートの誘い! 直接言わなくてどーする……!」
優雅にティーカップを運ぶ形の良い唇から、ぶちぶちと毒舌があふれ出た。
「デート……?」
かっと熱くなった頬を、両手で押さえるロージーに、優しく目を細めるエルム。
「かーわいい! あのね、ロージーちゃん? あいつの好みは『真っ白なドレス』だよ」
こそっと告げられた、重要機密情報。
『白いドレス? そんなの持ってない! どうしよう……』
上の空でいつものように、山盛りにしたスコーンをテーブルに出すと、
「うわっ、美味そう――でもアッシュじゃないから、こんなに食べられませーん……って、聞いてる?」
けらけらと、楽しそうに笑われる。
「あっ――ごめんなさい! つい、いつもの癖で」
慌てて取り皿を用意する、ロージーの姿を目で追いながら、
「あのさ……どこかで会ったこと、なかった?」
ふとエルムが真顔で、首を傾げた。
「えっ……? いえっ、お会いしたのは初めてです!」
『まさか――男爵令嬢時代に、ワードロウで? でもこんな目立つ方、一度でも会ったら忘れる訳ないし!』
どぎまぎしながら、否定するロージー。
「だよねー! わたしは半年前に、この国に来たばかりだし。あ、マルト王国から」
「そう、なんですね?」
「うわっ――このスコーン、めちゃめちゃ美味しいー!」
「ありがとうございます……! お口にあって良かったです!」
元男爵令嬢はやっと、安堵の笑顔を見せた。
さて当日。
空は晴れ渡り、絶好のデート日和。
口笛を吹きながら弾む足取りで、『薔薇の名前』に着いた警備隊長。
はやる気持ちを押さえて、コンコン――キッチンの扉をノックした。
いつもの軍服では無く、襟や袖口に金の縁取りが入った、黒いスーツに淡いベージュのベスト、白いシャツに細身のネクタイ姿。
エルムのアドバイス通り髪もきちんと整え、靴だってぴかぴかだ。
「はーい!」
声と同時にドアが開いて
「おはようございます……アッシュ様」
はにかんだ笑みと一緒に、ロージーが顔を出した。
胸元をレースで飾った、細身の白いドレス姿。
ふんわり膨らんだ袖には薄手のシフォンが重ねてある、流行りのスタイル。
いつもは一つにしばっている髪は、ハーフアップに編み込んで、ドレスに合う髪飾りを付けている。
ぽかんと口を開いて見つめた後に、はっと気が付き、慌てて小さな箱を差し出すアッシュ。
「これ、いつものばあさん――こほんっ! ご婦人に、作ってもらったんだ」
中には、白い野薔薇と小花を淡いピンクのリボンでまとめた、小さな花束が入っていた。
「可愛い……! ありがとうございます」
ブーケホルダーに付いていたピンで、胸元に留めてみる。
「いかがですか?」
「すっごくいい! そのドレスも良く似合ってる!」
「あっ、ありがとうございます!」
ルイーズ叔母さんとメイジー姉さんと一緒に、街のドレスメーカーに出かけて。
あれこれ皆で相談して、急いで作ってもらったドレス。
『白いドレスなんて汚れたら大変!って、最初は反対したけど……これにして良かった!』
「あの――アッシュ様も、その、ステキです!」
「ありがとう」
もじもじと、褒め合う二人に
「お似合いだよ、お二人さん!」
「楽しんで来てね!」
「日が暮れる前には、帰ってくるんだよ」
料理人と店主二人が、笑顔で声をかけ。
「お土産、待ってるねっ! いってらっしゃーい!」
「みゃーっ!」
子猫の前足に添えた手を、ディビーが振る。
「はい! 行ってきまーす」
「行ってくる。帰りはちゃんと、送り届けるから」
見送る皆に手を振って、二人はいざ初デートに。
差し出された左の肘に、レースの手袋をはめた右手をそっと添えて、少しぎくしゃくと出かけて行った。
「この前、『もうプロポーズしたのかい!?』って、ついからかったくらい。
ものすごーくお似合い、だけどね」
「アシュトン様、とても気さくな良い方だけど……ご実家は確か、『公爵家』よね?」
「そう、リード公爵家のご次男。この国きっての高位貴族だ。
仮にお嬢様が『男爵令嬢』のままだったとしても、『身分違い』と即座に断られるほどの」
「こーいきぞく?」
きょとんと、首を傾げたディビーの横で、
『ロージーの保護者』三人は、そろって深いため息を吐いた。
「今日もアッシュ様は、いらっしゃらないのかしら……」
つい大量に作ってしまった山盛りスコーンを前に、ロージーは深くため息を吐く。
『すまない。しばらくそちらに行けなくなった。また連絡する』
と、そっけない伝言を貰って。
それでも『今日こそは?』と、待ちわびていたのに。
「わたしが『地面の蓋』なんて、余計な事を言ってしまったせいで……気を悪くされたのかしら?」
ふーっと、また大きなため息を吐いたその時、
コンコン――窓を叩く音。
はっと顔を上げると、そこには
「きみがロージー? アッシュに聞いてた通り、可愛いね?
わたしはエルム・コリンズ。アシュトンの友人だよ」
にっこりと微笑む、美しく整った顔。
ゆるくウェーブの付いた金髪に、鮮やかな青い瞳。
まるで天使のような、軍服姿の男性が立っていた。
「はい、これ――アッシュから」
キッチンのコーナーに通し、お茶を入れたロージーに、差し出された手紙。
「アシュトン様から、ですか?」
ドキドキしながら封を開くと、
『来週の水曜日、店の定休日に。きみの都合が良ければ、街を案内したい。朝10時に迎えに行く』
と素っ気ない、でも飛び上がるくらい嬉しいメッセージが。
「『叔父上には、許可をもらっているから』だって。
ったく――あの根性無し!
大事な大事な初デートの誘い! 直接言わなくてどーする……!」
優雅にティーカップを運ぶ形の良い唇から、ぶちぶちと毒舌があふれ出た。
「デート……?」
かっと熱くなった頬を、両手で押さえるロージーに、優しく目を細めるエルム。
「かーわいい! あのね、ロージーちゃん? あいつの好みは『真っ白なドレス』だよ」
こそっと告げられた、重要機密情報。
『白いドレス? そんなの持ってない! どうしよう……』
上の空でいつものように、山盛りにしたスコーンをテーブルに出すと、
「うわっ、美味そう――でもアッシュじゃないから、こんなに食べられませーん……って、聞いてる?」
けらけらと、楽しそうに笑われる。
「あっ――ごめんなさい! つい、いつもの癖で」
慌てて取り皿を用意する、ロージーの姿を目で追いながら、
「あのさ……どこかで会ったこと、なかった?」
ふとエルムが真顔で、首を傾げた。
「えっ……? いえっ、お会いしたのは初めてです!」
『まさか――男爵令嬢時代に、ワードロウで? でもこんな目立つ方、一度でも会ったら忘れる訳ないし!』
どぎまぎしながら、否定するロージー。
「だよねー! わたしは半年前に、この国に来たばかりだし。あ、マルト王国から」
「そう、なんですね?」
「うわっ――このスコーン、めちゃめちゃ美味しいー!」
「ありがとうございます……! お口にあって良かったです!」
元男爵令嬢はやっと、安堵の笑顔を見せた。
さて当日。
空は晴れ渡り、絶好のデート日和。
口笛を吹きながら弾む足取りで、『薔薇の名前』に着いた警備隊長。
はやる気持ちを押さえて、コンコン――キッチンの扉をノックした。
いつもの軍服では無く、襟や袖口に金の縁取りが入った、黒いスーツに淡いベージュのベスト、白いシャツに細身のネクタイ姿。
エルムのアドバイス通り髪もきちんと整え、靴だってぴかぴかだ。
「はーい!」
声と同時にドアが開いて
「おはようございます……アッシュ様」
はにかんだ笑みと一緒に、ロージーが顔を出した。
胸元をレースで飾った、細身の白いドレス姿。
ふんわり膨らんだ袖には薄手のシフォンが重ねてある、流行りのスタイル。
いつもは一つにしばっている髪は、ハーフアップに編み込んで、ドレスに合う髪飾りを付けている。
ぽかんと口を開いて見つめた後に、はっと気が付き、慌てて小さな箱を差し出すアッシュ。
「これ、いつものばあさん――こほんっ! ご婦人に、作ってもらったんだ」
中には、白い野薔薇と小花を淡いピンクのリボンでまとめた、小さな花束が入っていた。
「可愛い……! ありがとうございます」
ブーケホルダーに付いていたピンで、胸元に留めてみる。
「いかがですか?」
「すっごくいい! そのドレスも良く似合ってる!」
「あっ、ありがとうございます!」
ルイーズ叔母さんとメイジー姉さんと一緒に、街のドレスメーカーに出かけて。
あれこれ皆で相談して、急いで作ってもらったドレス。
『白いドレスなんて汚れたら大変!って、最初は反対したけど……これにして良かった!』
「あの――アッシュ様も、その、ステキです!」
「ありがとう」
もじもじと、褒め合う二人に
「お似合いだよ、お二人さん!」
「楽しんで来てね!」
「日が暮れる前には、帰ってくるんだよ」
料理人と店主二人が、笑顔で声をかけ。
「お土産、待ってるねっ! いってらっしゃーい!」
「みゃーっ!」
子猫の前足に添えた手を、ディビーが振る。
「はい! 行ってきまーす」
「行ってくる。帰りはちゃんと、送り届けるから」
見送る皆に手を振って、二人はいざ初デートに。
差し出された左の肘に、レースの手袋をはめた右手をそっと添えて、少しぎくしゃくと出かけて行った。
「この前、『もうプロポーズしたのかい!?』って、ついからかったくらい。
ものすごーくお似合い、だけどね」
「アシュトン様、とても気さくな良い方だけど……ご実家は確か、『公爵家』よね?」
「そう、リード公爵家のご次男。この国きっての高位貴族だ。
仮にお嬢様が『男爵令嬢』のままだったとしても、『身分違い』と即座に断られるほどの」
「こーいきぞく?」
きょとんと、首を傾げたディビーの横で、
『ロージーの保護者』三人は、そろって深いため息を吐いた。
25
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
愛しているのは王女でなくて幼馴染
岡暁舟
恋愛
下級貴族出身のロビンソンは国境の治安維持・警備を仕事としていた。そんなロビンソンの幼馴染であるメリーはロビンソンに淡い恋心を抱いていた。ある日、視察に訪れていた王女アンナが盗賊に襲われる事件が発生、駆け付けたロビンソンによって事件はすぐに解決した。アンナは命を救ってくれたロビンソンを婚約者と宣言して…メリーは突如として行方不明になってしまい…。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
呪われ令嬢、王妃になる
八重
恋愛
「シェリー、お前とは婚約破棄させてもらう」
「はい、承知しました」
「いいのか……?」
「ええ、私の『呪い』のせいでしょう?」
シェリー・グローヴは自身の『呪い』のせいで、何度も婚約破棄される29歳の侯爵令嬢。
家族にも邪魔と虐げられる存在である彼女に、思わぬ婚約話が舞い込んできた。
「ジェラルド・ヴィンセント王から婚約の申し出が来た」
「──っ!?」
若き33歳の国王からの婚約の申し出に戸惑うシェリー。
だがそんな国王にも何やら思惑があるようで──
自身の『呪い』を気にせず溺愛してくる国王に、戸惑いつつも段々惹かれてそして、成長していくシェリーは、果たして『呪い』に打ち勝ち幸せを掴めるのか?
一方、今まで虐げてきた家族には次第に不幸が訪れるようになり……。
★この作品の特徴★
展開早めで進んでいきます。ざまぁの始まりは16話からの予定です。主人公であるシェリーとヒーローのジェラルドのラブラブや切ない恋の物語、あっと驚く、次が気になる!を目指して作品を書いています。
※小説家になろう先行公開中
※他サイトでも投稿しております(小説家になろうにて先行公開)
※アルファポリスにてホットランキングに載りました
※小説家になろう 日間異世界恋愛ランキングにのりました(初ランクイン2022.11.26)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる