8月のサバイバー~ヘンゼル&グレーテルのお留守番チャレンジ~

壱邑なお

文字の大きさ
上 下
18 / 20

【番外編5】待降節 前編

しおりを挟む
 12月14日。クリスマスイヴを10日後に控えた、良く晴れた土曜日。
 立花大雅たいがと佐々木陽太ようたは、自宅のある有川駅からJRに揺られ、2駅先に降り立った。
 改札を通るとすぐ目の前に、7階建てのファッションビルが現れる。
 入口前に鎮座ちんざするのは、高さ5メートル以上ありそうな、白と銀色、ブルーを基調にしたクリスマスツリー。
 その周囲は、キラキラした指先で楽しそうにスマホを構える、女子たちであふれていた。

「いくぞ、陽太」
「おうっ!」
 後ずさりしたくなる気持ちを奮い立たせて、自動ドアから足を踏み入れれば。
『クリスマスコフレ』を展開するコスメショップから、ふわわんと甘やかな香りが誘う様にただよって来て。
 男子中学生2人はあわててエスカレーターに飛び乗った。

『あのさ――クリスマスプレゼントとか、よくね?』
『プレゼント? ……って、お前が俺にか?』
 数日前の放課後、図書室で受験勉強をしている最中、陽太に小声でたずねられた大雅は、きょとんと首を傾げた。
『ちげーよっ! 俺ら2人でプレゼント交換って、どこの幼馴染おさななじみBLだよ!? うっかりボケてると、薄い本のモデルにされっぞ!』
『は? 「薄い本」?』
『そこはいいから! そうじゃなくて――お前と俺が、咲花はなちゃんとあんちゃんにだよ!』
 きっぱり言い切った陽太に、杏の兄でもある大雅が眉根を寄せる。
『陽太、おまえ……まさか、まだ中一の杏に「指輪」とか?』
『贈んねぇしっ! そーゆー重いんじゃなくて、ちょっとだけ……』
「杏ちゃんの笑顔という、潤いが欲しいんだよー!」と、連日必死に詰め込んでいる、英単語やら方程式やら溶解度曲線やらが飛び出さないように、両手で耳を押さえながら、泣き言をこぼす限界受験生。
 元男子バレー部キャプテンの魂の叫びに、元副キャプテンはうっかり「分かる」とうなずいてしまった。

 というわけで、高木咲花と立花杏――幼馴染兼、彼女未満――の女子それぞれに、クリスマスプレゼントを買う為に。
 2駅分首都圏に近い、学生から大人女子にまで人気らしい駅ビルまで、やって来たわけだが。
「何階で降りたらいいんだ?」
 フロアガイドを見上げながら、デニムカーゴパンツとロゴ入りスウェットに、ベージュのフード付きコートを合わせた大雅が首を傾げ、
「えーっと――あっ! この階、スリ〇があるぞ!」
 グレーのジョガーパンツとカラフルなバックプリント入りパーカーに、黒のダウンジャケットを羽織った陽太が、弾んだ声を上げる。
「いやいやス〇コなら、有川の駅ビルにもあるし。『地元、特にうちの商店街界隈でプレゼント買うのは、ぜってーイヤだ! 一瞬でウワサになって、永遠にいじられる』って、お前が拒否ったんだろ、陽太!?」
「……ですよねー?」
 大雅にぴしりと返されて、東駅前商店街鮮魚店の次男坊は、『てへっ』と首をすくめた。

 服やバッグを選ぶ女子やカップル達でにぎわうフロアで、2人が恐る恐るのぞいたアクセサリーショップ。
「こんにちはーっ! 彼女さんにプレゼント!?」
「うわっ、どっちもイケメンじゃん!」
「高校生? えっ、中学生なの!? 背ぇ高ーい!」
「予算は!? これとかこっち、オススメだよ!」
 笑顔でぐいぐい来る、店員さん達に囲まれて、
「えっと――すいませんっ!」
「また後で来ますっ!」
 男子中学生たちは早々に、戦線離脱した。

 ぐったりと、上の階までエスカレーターを昇り、
「やった、本屋だ!」
「すげぇ静か――!」
 階下の喧騒けんそうが嘘のような。
 数人の客がひっそりと、書棚を眺めている店舗に辿り着いた2人は、ほっと息を吐いた。

「あっ、これ――杏が好きな作家さん!」
「どれどれ……へぇ面白そう! 発売日が今日って事は、まだ買ってない?」
「だよな! この人の本、確か咲花ちゃんもハマってるって言ってたし」
「よしっ!    プレゼントは、これで決まりだな?」
 ライトノベルの新刊コーナーで、王子か騎士みたいなイケメンヒーローと、ドレス姿の可愛いヒロインが寄り添う表紙の文庫本を手に、安堵の笑みを浮かべる男子たち。
 弾む足取りで、レジに向かおうとした2人の背中を、

「チョット待ったぁーっ!」
 どこか聞き覚えのある声が、まるでバックアタックのように、勢い良く呼び止めた。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜

四片霞彩
キャラ文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞にて奨励賞を受賞いたしました🌸】 応援いただいた皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました! ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. 疲れた時は神様のおにぎり処に足を運んで。店主の豊穣の神が握るおにぎりが貴方を癒してくれる。 ここは人もあやかしも神も訪れるおむすび処。メニューは一択。店主にとっての思い出の味のみ――。 大学進学を機に田舎から都会に上京した伊勢山莉亜は、都会に馴染めず、居場所のなさを感じていた。 とある夕方、花見で立ち寄った公園で人のいない場所を探していると、キジ白の猫である神使のハルに導かれて、名前を忘れた豊穣の神・蓬が営むおむすび処に辿り着く。 自分が使役する神使のハルが迷惑を掛けたお詫びとして、おむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりをご馳走してくれる蓬。おにぎりを食べた莉亜は心を解きほぐされ、今まで溜めこんでいた感情を吐露して泣き出してしまうのだった。 店に通うようになった莉亜は、蓬が料理人として致命的なある物を失っていることを知ってしまう。そして、それを失っている蓬は近い内に消滅してしまうとも。 それでも蓬は自身が消える時までおにぎりを握り続け、店を開けるという。 そこにはおむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりと、かつて蓬を信仰していた人間・セイとの間にあった優しい思い出と大切な借り物、そして蓬が犯した取り返しのつかない罪が深く関わっていたのだった。 「これも俺の運命だ。アイツが現れるまで、ここでアイツから借りたものを守り続けること。それが俺に出来る、唯一の贖罪だ」 蓬を助けるには、豊穣の神としての蓬の名前とセイとの思い出の味という塩おにぎりが必要だという。 莉亜は蓬とセイのために、蓬の名前とセイとの思い出の味を見つけると決意するがーー。 蓬がセイに犯した罪とは、そして蓬は名前と思い出の味を思い出せるのかーー。 ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. ※ノベマに掲載していた短編作品を加筆、修正した長編作品になります。 ※ほっこり・じんわり大賞の応募について、運営様より許可をいただいております。

十年目の結婚記念日

あさの紅茶
ライト文芸
結婚して十年目。 特別なことはなにもしない。 だけどふと思い立った妻は手紙をしたためることに……。 妻と夫の愛する気持ち。 短編です。 ********** このお話は他のサイトにも掲載しています

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...