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番外編 ローガン
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あれから5年の月日が経った。
第一騎士団副団長だった俺は昨年から団長になり、多忙な日々を送っている。
忙しくしている方が自分にとっても余計なことを考えなくていいので、最近では屋敷には帰らずに騎士団に泊まり込む日が増えていた。
正直、屋敷で過ごすのは辛すぎた。
ジャスミンとの思い出がありすぎて。
それは5年経った今でも、変わらなかった。
あの日、ジャスミンを公園からウォーカー伯爵家へ送り届けて屋敷へ帰ると、使用人にくしゃくしゃになった手紙を渡された。
その手紙は男爵令嬢がジャスミンへ送った、嘘ばかりを並べたてた悍ましいものだった。
あんな女と関係なんて持っていないのに、ベッドの中での様子に、嘘ばかりの吐きそうな内容に怒りが込み上げると同時に、ジャスミンがこれを読んだと思うと胸が締め付けられそうになった。
そういえば・・・・・・
執務室で、ジャスミンは何かを握りしめていた。
あれは、この手紙だったのか。
この手紙を持って、あのお腹の大きなあの女に会ってしまったのか。
ジャスミンをどれたけ傷つけたのか。
この時、初めて理解した。
遊びなんて言って、軽く女性と関係を持っていた。
俺は何をしていた?
そして、ジャスミンは何を見た?
そこに気持ちはなくても、本当にまったくそんなものなくても、あの男爵令嬢の書いた手紙と似たようなことを他の女性としたことに変わりはない。
愛する女性を裏切って、傷つけた・・・・・・。
マックスから渡されていた離婚届に署名をして提出した。
その後の、ジャスミンのいない世界は、すべてが色を失って、ぽっかりと心に穴が空いたような虚しさに襲われた。
それからは、仕事に打ち込んでいる。
ずっとだ。
悪びれもせずに女性と関係を持っていたのに、今では嘘のように女性と話すらしていない。
遠征や小競り合い、戦いの場に身を置くことも増えていた。
「団長!弓矢の攻撃です!」
今回は長期で国境地帯へ赴いた。
信じられないことに戦力を失った隣国は、まだ10代半ばの少年を兵士として前線に立たせている。
「一旦撤退!」
彼らの保護が、目的でもある。
「団長!少年兵です!」
「彼らを傷つけるな!」
藪から一斉に飛び出してきた中には、まだあどけない顔をしている者もいる。
剣術の心得もない少年が切り掛かってくるのを避けながら、気絶させる。
怪我をさせないように、一人の少年を手刀で気を失わせた時だったーー
小柄で細身の少年が向かってくるーー
・・・・・・ジャスミン・・・
顎の長さの黒髪を揺らしながら、剣を構えてーー
・・・・・・ジャスミン・・・・・・
『ローガン、行くよ!』
・・・・・・ジャスミン・・・・・・
「 ・・・・・・ジャスミン・・・」
ああ、どこからでも来い!
俺は、剣から手を離した・・・・・・
左目のあたりが熱くなり、何かが流れてくる。
そこで、意識が途絶えたーー
5年後ーー
「・・・・・・こんな愚かな男がいたんだ」
アンダーソン伯爵家には跡取りがいないので、今から5年前に当時12歳だった兄上であるプライス侯爵の次男カーターを養子に迎えた。
「その人ってさぁ、僕の目の前に居る人の話でしょ」
そのカーターも今では17歳。
学園の騎士科で優秀な成績をおさめ、ここ2年間は剣術大会で二連覇を達成した。
「さあね」
カーターは、見た目がかなりいい。
間違いなくモテるだろう。
それは、いい。
ただ、カーターには婚約者がいる。
幼馴染の子爵令嬢で、お互いに両思いだ。
そして、最近カーターはよく出掛けていると聞く。
17歳の男だ。
何をしているかなんて、簡単に想像がつく。
だから、後悔しないように、俺みたいに遊び慣れてしまわないように、お節介を焼いている。
5年前に左目の光を失った俺は、指導者として主に騎士の育成をしている。
以前よりも仕事に余裕もあり、今では王都から1時間ほどの静かな土地に小さな屋敷を建て、そこで過ごすことが多い。
むこうの屋敷にはなかなか足を運べずにいる。
そのせいもあり、使用人も半数以上がこちらに移ってきた。
朝は、毎日必ず鍛錬を続けている。
ジャスミンの姿を想像して剣を振るう癖は直らない。
『ローガン、行くよ!』
いつでも、君の声が聞こえてくる。
君も、何処かで剣を振っているのかい?
今でも・・・
ジャスミン、
君に逢いたくてしかたがないよ。
第一騎士団副団長だった俺は昨年から団長になり、多忙な日々を送っている。
忙しくしている方が自分にとっても余計なことを考えなくていいので、最近では屋敷には帰らずに騎士団に泊まり込む日が増えていた。
正直、屋敷で過ごすのは辛すぎた。
ジャスミンとの思い出がありすぎて。
それは5年経った今でも、変わらなかった。
あの日、ジャスミンを公園からウォーカー伯爵家へ送り届けて屋敷へ帰ると、使用人にくしゃくしゃになった手紙を渡された。
その手紙は男爵令嬢がジャスミンへ送った、嘘ばかりを並べたてた悍ましいものだった。
あんな女と関係なんて持っていないのに、ベッドの中での様子に、嘘ばかりの吐きそうな内容に怒りが込み上げると同時に、ジャスミンがこれを読んだと思うと胸が締め付けられそうになった。
そういえば・・・・・・
執務室で、ジャスミンは何かを握りしめていた。
あれは、この手紙だったのか。
この手紙を持って、あのお腹の大きなあの女に会ってしまったのか。
ジャスミンをどれたけ傷つけたのか。
この時、初めて理解した。
遊びなんて言って、軽く女性と関係を持っていた。
俺は何をしていた?
そして、ジャスミンは何を見た?
そこに気持ちはなくても、本当にまったくそんなものなくても、あの男爵令嬢の書いた手紙と似たようなことを他の女性としたことに変わりはない。
愛する女性を裏切って、傷つけた・・・・・・。
マックスから渡されていた離婚届に署名をして提出した。
その後の、ジャスミンのいない世界は、すべてが色を失って、ぽっかりと心に穴が空いたような虚しさに襲われた。
それからは、仕事に打ち込んでいる。
ずっとだ。
悪びれもせずに女性と関係を持っていたのに、今では嘘のように女性と話すらしていない。
遠征や小競り合い、戦いの場に身を置くことも増えていた。
「団長!弓矢の攻撃です!」
今回は長期で国境地帯へ赴いた。
信じられないことに戦力を失った隣国は、まだ10代半ばの少年を兵士として前線に立たせている。
「一旦撤退!」
彼らの保護が、目的でもある。
「団長!少年兵です!」
「彼らを傷つけるな!」
藪から一斉に飛び出してきた中には、まだあどけない顔をしている者もいる。
剣術の心得もない少年が切り掛かってくるのを避けながら、気絶させる。
怪我をさせないように、一人の少年を手刀で気を失わせた時だったーー
小柄で細身の少年が向かってくるーー
・・・・・・ジャスミン・・・
顎の長さの黒髪を揺らしながら、剣を構えてーー
・・・・・・ジャスミン・・・・・・
『ローガン、行くよ!』
・・・・・・ジャスミン・・・・・・
「 ・・・・・・ジャスミン・・・」
ああ、どこからでも来い!
俺は、剣から手を離した・・・・・・
左目のあたりが熱くなり、何かが流れてくる。
そこで、意識が途絶えたーー
5年後ーー
「・・・・・・こんな愚かな男がいたんだ」
アンダーソン伯爵家には跡取りがいないので、今から5年前に当時12歳だった兄上であるプライス侯爵の次男カーターを養子に迎えた。
「その人ってさぁ、僕の目の前に居る人の話でしょ」
そのカーターも今では17歳。
学園の騎士科で優秀な成績をおさめ、ここ2年間は剣術大会で二連覇を達成した。
「さあね」
カーターは、見た目がかなりいい。
間違いなくモテるだろう。
それは、いい。
ただ、カーターには婚約者がいる。
幼馴染の子爵令嬢で、お互いに両思いだ。
そして、最近カーターはよく出掛けていると聞く。
17歳の男だ。
何をしているかなんて、簡単に想像がつく。
だから、後悔しないように、俺みたいに遊び慣れてしまわないように、お節介を焼いている。
5年前に左目の光を失った俺は、指導者として主に騎士の育成をしている。
以前よりも仕事に余裕もあり、今では王都から1時間ほどの静かな土地に小さな屋敷を建て、そこで過ごすことが多い。
むこうの屋敷にはなかなか足を運べずにいる。
そのせいもあり、使用人も半数以上がこちらに移ってきた。
朝は、毎日必ず鍛錬を続けている。
ジャスミンの姿を想像して剣を振るう癖は直らない。
『ローガン、行くよ!』
いつでも、君の声が聞こえてくる。
君も、何処かで剣を振っているのかい?
今でも・・・
ジャスミン、
君に逢いたくてしかたがないよ。
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