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第21話
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「ウォーカー!お嬢様がお呼びだぞ」
「わかった」
離婚が成立してから早いもので半年になる。
あの後、私はいつまでも兄さんのお世話にはなっていられないと、騎士関係の仕事を探しつつ日々鍛練に励んでいた。
10日程経った頃だったろうか。
兄からの話は、パウエル公爵家が末のお嬢様に女性の護衛騎士を探しているというものだった。
身元がしっかりしていて腕の立つ者を探しているけれど、なかなか見つからないらしい。
パウエル公爵家といえば王都から南に位置し、この国一の広大な領地を治めている。
そして、公爵家直属の騎士団を所有していることでも有名だった。
公爵家の騎士団には凄腕の騎士がゴロゴロいるって誰かが言ってたようなーー
私が興味を見せると、すでに公爵家には話が通っているらしく『いつから行っても構わないらしいぞ』と兄に言われた。
ただ、ブランクが長いので、数ヶ月実力を見てから判断されるとのことだった。
それから3日後にはここ、パウエル公爵領へやって来た。
しばらくは騎士団で騎士に混じっての訓練、護衛騎士見習いとしての実務を経て、パウエル公爵家末娘であるスカーレット・パウエル様の正式な護衛騎士になったのは、公爵領へ来て4か月が過ぎた頃だった。
「ジャスミン、マリンをお散歩させようと思って」
「かしこまりました。
では、お庭へ参りましょう」
こくっと頷くスカーレット様は、侍女が連れてきた小さな白い子犬を見ると顔をぱっと輝かせて、マリンと名付けられているその子犬に駆け寄った。
・・・・・・可愛い。
スカーレット様は12歳になったばかりのパウエル公爵夫妻が愛してやまない末娘で、プラチナブロンドの髪にグリーンの瞳の妖精のような美少女で、初めてお会いした時にはそれはもう驚いた。
しかも、優しい性格をされている。
ただ、スカーレット様は生まれつき人見知りが激しく、特に家族以外の男性を怖がるようで、本来なら学園へ入学する年齢だがそれは難しいと判断され、公爵領のお屋敷で家庭教師から学んでいる。
公爵家の騎士は噂通りに凄腕が多く、朝からそんな彼らと打ち合いをすることから1日が始まる。
タイプの違う騎士からは学ぶことも多く充実した日々のはずなのにーー
どうしても、あの人のことを思い出してしまう。
『さぁ、どこからでもかかってこい』
銀髪を耳の辺りで揺らしながら、紫の瞳はじっと私を見つめて、口角をほんの少し上げる。
私の力いっぱいの剣を軽々避けていたと思ったら、右からもの凄いスピードの剣が飛んでくる。
相手はあの人ではないのに、あの人の次の動きを攻撃を待っている自分がいる。
公爵領へ来る前日、兄に呼ばれて離婚の慰謝料の金額を聞いて驚いた。
『アイツのほぼ全財産だろう』ボソッと兄が呟いていた。
それ以外にも、伯爵家に残した私のドレスや宝飾品を売却した分が加算されると言っていた。
あの時のーー
お腹の大きかったあの人は、きっともう出産しているだろう。
そして、あの人と一緒に屋敷で暮らしているんだろう。
この公爵家のお屋敷で、ブロンドの華奢な女性を見かけるたびに胸がギュッと苦しくなる。
考えてみれば、舞台女優も過去の恋人だった女性もブロンドの華奢な人だった・・・・・・。
・・・・・・私は、
・・・・・・私は、・・・黒髪で、
細身ではあるけれど・・・・・・
華奢とは違う。
そんな自分が、嫌だった。
いつまでも、思い出してしまう、考えてしまう自分が、嫌だった。
あの日、あの人に『さようなら』が言えなかった。
離婚は成立されたけど、自分はきちんと別れを告げていないから、
終わらせないといけない。
だから、休日になると街で美味しい物を買い込んでは訪れる、公爵領の街並みを見渡せる小高い丘にやって来た。
大きく息を吸い込んで、あの人の名前をしばらく振りに呼んだ。
「ローガン!」
・・・・・・今までの、色んなローガンが思い出される・・・・・・。
私が名前を呼ぶと、
嬉しそうに目を細めて、
『ジャスミン』と呼ぶ姿ーー
夜会で、ダンスを踊りながら私を熱っぽく見つめる姿ーー
たくさん食べる私を見て、楽しそうに笑う姿ーー
初めて話して、私が女性だと知って驚いた姿ーー
あの日、洞窟で、私を愛おしそうに見つめた紫の瞳の、ローガンの姿をーー
「さよなら!」
大好きだった、
愛していた人に、
私は別れを告げた。
「わかった」
離婚が成立してから早いもので半年になる。
あの後、私はいつまでも兄さんのお世話にはなっていられないと、騎士関係の仕事を探しつつ日々鍛練に励んでいた。
10日程経った頃だったろうか。
兄からの話は、パウエル公爵家が末のお嬢様に女性の護衛騎士を探しているというものだった。
身元がしっかりしていて腕の立つ者を探しているけれど、なかなか見つからないらしい。
パウエル公爵家といえば王都から南に位置し、この国一の広大な領地を治めている。
そして、公爵家直属の騎士団を所有していることでも有名だった。
公爵家の騎士団には凄腕の騎士がゴロゴロいるって誰かが言ってたようなーー
私が興味を見せると、すでに公爵家には話が通っているらしく『いつから行っても構わないらしいぞ』と兄に言われた。
ただ、ブランクが長いので、数ヶ月実力を見てから判断されるとのことだった。
それから3日後にはここ、パウエル公爵領へやって来た。
しばらくは騎士団で騎士に混じっての訓練、護衛騎士見習いとしての実務を経て、パウエル公爵家末娘であるスカーレット・パウエル様の正式な護衛騎士になったのは、公爵領へ来て4か月が過ぎた頃だった。
「ジャスミン、マリンをお散歩させようと思って」
「かしこまりました。
では、お庭へ参りましょう」
こくっと頷くスカーレット様は、侍女が連れてきた小さな白い子犬を見ると顔をぱっと輝かせて、マリンと名付けられているその子犬に駆け寄った。
・・・・・・可愛い。
スカーレット様は12歳になったばかりのパウエル公爵夫妻が愛してやまない末娘で、プラチナブロンドの髪にグリーンの瞳の妖精のような美少女で、初めてお会いした時にはそれはもう驚いた。
しかも、優しい性格をされている。
ただ、スカーレット様は生まれつき人見知りが激しく、特に家族以外の男性を怖がるようで、本来なら学園へ入学する年齢だがそれは難しいと判断され、公爵領のお屋敷で家庭教師から学んでいる。
公爵家の騎士は噂通りに凄腕が多く、朝からそんな彼らと打ち合いをすることから1日が始まる。
タイプの違う騎士からは学ぶことも多く充実した日々のはずなのにーー
どうしても、あの人のことを思い出してしまう。
『さぁ、どこからでもかかってこい』
銀髪を耳の辺りで揺らしながら、紫の瞳はじっと私を見つめて、口角をほんの少し上げる。
私の力いっぱいの剣を軽々避けていたと思ったら、右からもの凄いスピードの剣が飛んでくる。
相手はあの人ではないのに、あの人の次の動きを攻撃を待っている自分がいる。
公爵領へ来る前日、兄に呼ばれて離婚の慰謝料の金額を聞いて驚いた。
『アイツのほぼ全財産だろう』ボソッと兄が呟いていた。
それ以外にも、伯爵家に残した私のドレスや宝飾品を売却した分が加算されると言っていた。
あの時のーー
お腹の大きかったあの人は、きっともう出産しているだろう。
そして、あの人と一緒に屋敷で暮らしているんだろう。
この公爵家のお屋敷で、ブロンドの華奢な女性を見かけるたびに胸がギュッと苦しくなる。
考えてみれば、舞台女優も過去の恋人だった女性もブロンドの華奢な人だった・・・・・・。
・・・・・・私は、
・・・・・・私は、・・・黒髪で、
細身ではあるけれど・・・・・・
華奢とは違う。
そんな自分が、嫌だった。
いつまでも、思い出してしまう、考えてしまう自分が、嫌だった。
あの日、あの人に『さようなら』が言えなかった。
離婚は成立されたけど、自分はきちんと別れを告げていないから、
終わらせないといけない。
だから、休日になると街で美味しい物を買い込んでは訪れる、公爵領の街並みを見渡せる小高い丘にやって来た。
大きく息を吸い込んで、あの人の名前をしばらく振りに呼んだ。
「ローガン!」
・・・・・・今までの、色んなローガンが思い出される・・・・・・。
私が名前を呼ぶと、
嬉しそうに目を細めて、
『ジャスミン』と呼ぶ姿ーー
夜会で、ダンスを踊りながら私を熱っぽく見つめる姿ーー
たくさん食べる私を見て、楽しそうに笑う姿ーー
初めて話して、私が女性だと知って驚いた姿ーー
あの日、洞窟で、私を愛おしそうに見つめた紫の瞳の、ローガンの姿をーー
「さよなら!」
大好きだった、
愛していた人に、
私は別れを告げた。
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