愛しのあなたにさよならを

MOMO-tank

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第13話 ローガン

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ジャスミンは男性騎士にも負けない体力を持ち、ウォーカー家独特の型破りな剣術で周りに衝撃的を与えた。

誰よりも木のぼりが上手で、足が速く、そしてよく食べる。
朝から山盛りのソーセージやベーコンを平らげ、その細い体のどこにはいるんだと毎度言いたくなった。

冗談を言えば口をめいっぱい開けて笑い、人の話は真剣に聞く。
表情を変えるたびに、宝石のようなブルーの瞳も可憐に美しく輝きを変化させるので、そんな時は目が離せなかった。


ジャスミンへの恋心を自覚したものの、行動に移すつもりはなかった。
いや、移せなかった。
他の令嬢とのあんな場面を見られたんだ。

完全にアウトだろう。


しかも、マックスの妹だ。

手なんか出した日には抹殺されかねない。


俺は表向きは、いつも通りの気のいい副隊長を演じていた・・・・・・つもりだった。

「副隊長~、酷すぎますよ~
いつもいつもウォーカーの近くであんな周りに牽制してたら、俺達ぜんっぜん近寄れないっすよ~」

夜会で酔った若い騎士に軽く絡まれた。
男爵家嫡男のなかなか見どころのあるリッキー、確かこの男はジャスミンと同時期に入団していたはずだった。

「・・・そうか?」

「あ~、やっと第三王子から離れたと思ったら副隊長なんて・・・・・・。
二人ともハイスペックすぎなんですよ~」

第三王子殿下ーー
陛下が愛した美しい側妃との間に誕生した見目麗しき王子。
でも、元子爵令嬢だった側妃は後ろ盾もなく立場は弱く、第三王子は夜会以外はほとんど姿を見せない。

リッキーの話によると、学園では当時腕の立つ第三王子殿下と互角に打ち合える相手がいなかったところに、12歳のジャスミンが入学してきた。

相手が王族でも全力で、しかも腕も良いジャスミンを珍しく気に入ったようで、それから練習相手にしていたらしい。

「副隊長なんて・・・・・・選り取り見取りじゃないですか。
今夜だってあんな美女をエスコートしてーー」

「おい、その辺にしとけよ。
副隊長、こいつは回収していきますね」
 
ごちゃごちゃ言い合いながら連れて行かれるリッキーをぼんやり見ていると、薔薇の香りと共に細っそりしたものが俺の腕に手をかけてきた。

今夜エスコートしたまだ年若い未亡人だった。
意味ありげな表情でこちらを見つめてくる。
いつもならこのままバルコニーか庭園へ移動して、最終的には休憩室へ向かう流れだった。

ただ、今夜はそんな気分になれなかった。
上手い言い訳を口にして馬車で送ると言えば、踊り足りないから結構よ。と返される。
きっと、今夜の相手を探すんだろう。


俺もこの未亡人も似たもの同士だ。
満たされない何かを紛らわすように、異性と簡単に関係を持つ。

『それで満足か』
自問自答したくなる。

この夜は、酒を1杯飲んで会場を後にした。


あの夜会以降、自分でもよく分からなかったが、女性と関係を持つことから遠ざかっていた。


ジャスミンが入団して三年が経った頃、遠征先で運悪くトラブルに巻き込まれる事態が起こった。
逃げ場を失った俺とジャスミンは選びようがない状況に追い込まれ、激流の中へ飛び込んだ。

でも、泳ぎは得意のはずのジャスミンの様子がおかしいことに気づいて岸へ上がると、気を失っていた。
水は飲んでないし、怪我も無く安心したものの、辺りは薄暗くなってきていて季節的にもまだ夜は冷える。
しかも、全身濡れている。
ジャスミンを抱き上げ暖を取れる場所を探していると、しばらくして洞窟を見つけた。

幸運なことに、洞窟の中には焚き火の跡があり、使えそうな薪や毛布らしき物まであった。
急いで火をおこし、火が薪に着火すると徐々に暖かさを感じた。

ジャスミンを見ると、ブルブル震えている。
慌てて服を脱がし自分も脱ぐと、毛布の上にジャスミンを運んで抱きしめた。

ジャスミンの体は驚くほどに冷え切っていて、俺はただ、ただ、ジャスミンの名前を呼びながら抱きしめた。


・・・・・・何かが、動いている。
・・・何だ?
ん?

俺の隣でモゾモゾしているのは・・・・・・

目を開けると、困惑したブルーの瞳のジャスミンが目に入り、瞬時にすべてを思い出して、彼女を抱きしめた。

「良かった・・・、ジャスミン」
「ジャスミン・・・・・・」

その存在を確認するように髪を撫でて、顔を、ジャスミンを見つめ続けた。

困っているジャスミンに説明すると、毛布を体に巻いて服の濡れ具合や外の様子をウロウロしながら確認している。

引き締まった白い脚が目の前を横切るのを必死で見ないようにした。



その後ーー


二人で少し離れて座っていると、

ジャスミンの少し濡れた美しい、いつも焦がれるその瞳と目が合って、

指先が触れ合って、

顔が見えなくなくなるほど距離が近づき、

ジャスミンの花のような石けんのような香りを感じながら、

二人の唇が重なった。



愛している・・・。

どうしようもなく、


愛してる。




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