愛しのあなたにさよならを

MOMO-tank

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第9話

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「ジャスミン、これが結婚式に書いた例のやつだ」

兄に見せられた黄ばんだ紙には、ヨレヨレの字で文章が書かれていた。

【不貞は絶対にしない。
その事実が認められる。又は、それが原因でジャスミンに離婚の意思がある場合には必ず従う。
ローガン・プライス】

「まぁ、読みにくいよな。
アイツもかなり酔ってたからな」

「こんなものが正式に認められるの?」

「ここを見てみろ」

兄が指差した部分には何か模様のようなものが見えた。

「これが、何?」

「これはシグネットリングで押したプライス侯爵家の家紋だな。
普通は後継者のみが身につける物だが、結婚式とあって父である侯爵から一日限定で託されたらしい。
だから一見こんな紙切れでも、正式文書として扱われる」

「・・・そうなんだ」

「ジャスミン・・・・・・
お前、昨日の夜会で何があった。
話しにくいだろうが、円滑に離婚を進めるには把握しておきたい」

「・・・・・・」

「この紙切れだけでも離婚に持っていけるだろうが、相手がどう出るかにもよるしな。
それに、どうもアイツが簡単に離婚を承諾するとは思えないし・・・」 

「わかった・・・・・・」

私は夜会での出来事を、かいつまんで話した。

「・・・・・・それでダンの拘束を解いて走ったら、第三王子殿下に偶然会ったの」

「・・・っの野郎」

兄は静かに立ち上がると壁際へ向かっていきなり拳で一撃を放ち、「わかった」と低い声で答えた。
壁には穴が空いていた。

兄からは昨夜の話しか聞かれなかったから、男爵令嬢からの手紙の話はしなかった。


そして、1週間後に話し合いの場が設けられることとなり、私は兄と共にアンダーソン伯爵邸へ向かった。



馬車が到着すると、アンダーソン伯爵家の使用人一同がまるで私を待っていたかのように並んでいた。

「・・・っ、奥様・・・・・・、
か・・・髪はどうなさったんですか?
・・・お召し物も・・・・・・。
どうぞ、ドレスにお召し替え下さい。
・・・すぐに準備いたしますので」 

マヤが私を見た途端に慌てだした。
無理もない。
私は顎のラインで切り揃えられた髪型に、ジャケットにスラックスという男性の正装スタイルだった。

「ありがとう、マヤ。
でもね、これでいいの」

そんな私を見て、マヤは泣き出してしまった。

「・・・っ、・・・おく・・・奥様ぁ・・・・・・、
嘘ですよねぇ・・・。
またっ・・・っ、・・・また・・・お屋敷に、
戻られますよねぇ・・・・・・」   

私は首を横に振って、マヤを抱きしめた。

ここに居るみんなは、3年前に私がローガンと結婚してからずっと私を支え続けてくれた。
言葉遣いも振る舞いも伯爵令嬢には到底見えない私に、呆れることなく寄り添ってくれた。

あの夜、逃げ出そうとした私はブルーノの『本当に逃げたいのか?後悔しないと言い切れるか?』あの言葉を聞いて頭に浮かんだのは、屋敷のみんなだった。

離婚が受理されるまでは、まだ一応は伯爵夫人だ。
逃げてなんていられない。
そう思った。

私は訳あってもう伯爵夫人ではなくなることを告げて、ひとりひとりと話してお礼を言った。



兄は先にローガンと話し合いをすると言っていた。
私は自室へ行き男爵令嬢からの手紙を手にして、二人のいる応接室へ向かっていた。

「・・・ジャスミン」

後ろから私を呼ぶ声がした。
この声を聞くと、胸がギュッと苦しくなる。

「二人で話したいんだ」

振り返ると、ローガンが居た。



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