愛しのあなたにさよならを

MOMO-tank

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第6話

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ローガンと結婚して、幸せだった。
二人で早朝鍛錬をして、たっぷりの朝食を食べて、ローガンが仕事へ行ってる間は孤児院で子ども達と遊んだり初歩的な剣術を教えて過ごし、夜は毎晩愛された。
愛を囁かれ情熱的に、明るくなるまで眠らせてもらえない日も多かった。

使用人も楽しい人達ばかりで、料理人は肉好きの私を喜ばせるために新しい肉料理のレシピを次々と編み出してくれた。

不満があるとすれば、体を動かし足りないことだった。
ローガンは孤児院の子ども達相手の剣の指導は許可してくれたものの、屋敷の護衛騎士との打ち合いや元騎士仲間との稽古も禁止した。

侍女のマヤには『愛されてますね~』なんて言われたけど、愛してくれてるなら私が望む稽古を何故ことごとく禁止するのか謎だった。

仕方がなく、ひとりで剣の素振りや走りこみ、架空の敵をイメージした訓練を行うと、使用人のみんなから拍手が起こった。


夜会に出席すれば二人で何曲もダンスを踊り、休日にはローガンがあちこちに連れ出してくれた。
ほかの女性の影なんか微塵も感じなかった。
いつも私と一緒にいたから。


結婚して1年が経った頃、隣国との国境地帯に残党が勢力を拡大し大問題となった。
両国は連合軍を編成、第一騎士団の隊長になっていたローガンも連合軍の一員として戦地に赴いた。

この約半年間の戦いで、ローガンは残党の親玉を討つという武勲を立てて、英雄なんて呼ぶ人も出てきた。
長い戦いで少しやつれ、伸びきった銀髪と髭を蓄えたローガンは精悍さと説明できない色気が増していて私はドキドキしてしまったが、いつもの笑顔で私を抱きしめ何度も彼に愛された。

その後、ローガンは陛下から褒賞として伯爵位を叙爵されアンダーソン伯爵となり、同時に第一騎士団副団長となった。

伯爵になったことで夜会やお茶会の誘いが一気に増え、私の生活は一変した。

ローガンは侯爵家の次男だったので、今まではいち騎士の妻として然程マナーも気にせずに生活していたが、伯爵夫人となった今はそうも行かなくなっていた。
私は渋々兄嫁に伯爵夫人に相応しい言葉遣い、心得、マナーを習い始めた。

苦手な貴族独特の言葉遣いも次第に板についてきた半年前、私の元に一通の手紙が届いた。
差出人名が“騎士の友”と書かれていたその手紙は、女性騎士として騎士団に所属する、私とは面識のない男爵令嬢からのものだった。 
いい知れない胸のざわつきを感じながら封を開いた手紙は、予想通りの内容だった。

ローガン副団長に情熱的に愛された。
と書かれたその手紙には、こと細かにベッドの中での内容が記されていた。
ローガンが自分のどこを触れ、撫でて、荒々しく求めてきたか・・・・・・。
彼の子が宿ってしまったら夫人の席はいただきますね。
彼から贈られたアメジストの耳飾りを見て、いつも彼との情事を思い出す。と締め括られていた。

ぐちゃぐちゃにした手紙を私は放り投げた。

確かにローガンは伯爵になると同時に副団長にもなり、以前に比べて遅く帰る日も増えていた。
それでも、私はほぼ毎晩愛され、朝は結婚から一日も欠かさずふたりで鍛練を続けている。


でも、
でも・・・・・・、
どんなに遅く戻っても、ベッドに入って来て私を抱きしめるローガンから、微かに香水の匂いがしていたことが何度かあったのを、私は知っている。

ただ、匂いが移ってしまっただけ。
そう思い、信じる事で、その事に蓋をした。

 
兄嫁は言っていた。

『伯爵は英雄なんて呼ばれてあの容姿でしょ。
女性は黙っていないと思うの。
もちろん伯爵はジャスミンに首ったけよ。
でも、女性は時に悪意ある行動に出るの。
困った時は必ず頼ってね』


私はぐちゃぐちゃになった手紙をしまい、この出来事に蓋をした。
兄嫁には頼らなかった。


変わらずに、とびっきりの笑顔で『ジャスミン』と私を愛おしく呼ぶローガンを信じたかった。
楽しい使用人達の前でも、笑って明るい自分でいたかった。


程なくして、お茶会で話題の舞台の話を耳にするようになった。
カサンドラ・コックスという女優の美しく気高い演技を聞き、私は興味を持ちローガンにその話をした。
半年先まで予約でいっぱいのはずのチケットをローガンはいとも簡単に入手し、二人で出かけた。


どうして簡単にチケットが手に入ったのか、今なら分かる。

舞台終了後興奮冷めやらぬ状態の私は、はしゃいで彼女に花束を渡して、もらったサインを大喜びで寝室に飾った。

ふたりは、そんな私をどんな目で見ていたんだろう。
嘲笑っていたのかな。




すでに温かくなってしまったタオルで鼻を拭いて座席に置くと、馬車がガタンと停車した。
幾分早い到着を不思議に感じていると、話し声と馬が停止する音が聞こえた。

身構えると同時に、馬車の扉が開かれた。

「・・・ジャスミン」

そこには、息を切らした泣きそうな顔のローガンがいた。


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