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第5話
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私は躊躇ったもののルイス王子の方へ手を伸ばした。
「あ・・・」
回廊の灯に自分の手が照らされると、黒っぽく薄汚れているうえに、薄っすら血が滲んでいた。
さっき塀に飛び乗ったはいいけど、ドレスが裂けた音がしたような。
一応ドレスのきれいそうな部分で擦って汚れを落とそうとしていると、クツクツと吹き出すの必死に堪えているルイス王子が視界に入った。
「アハハハハ~
相変わらずだねぇ」
その声に私は、手を戻して立ち上がった。
そうだ、このルイス王子は見た目は美しいが口が悪い人だった。
12歳まで領地から出たことのない田舎者の私はよく揶揄われた記憶がある。
「ひとりで立てますので」
「こっちに来て。
お湯を準備させるから」
「・・・いえ、あの・・・」
「そんな格好でいる方が怪しいけど。
現に護衛騎士にも警戒されたの分かってる?」
「・・・・・・」
「それにね、さっき塀に登った不審者の情報がはいったんだ。
まだ不審者は庭園に潜んでるおそれもあるから、そのまま戻るのは危険だよ。
今護衛が血眼になって探しているけど、見つかるなかぁ」
不審者ってーー
この方はその不審者が私と知っていて言ってるんだろう。
そういう人だった気がする。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ここには侍女は居ないから、自分でやってね」
ルイス王子は年配の男性に指図すると、私は別室へ案内された。
侍女が居ないって珍しい。
でも、助かったかも。
血の滲んだ手足や裾の裂けたドレスを見られたら誤解されかねない。
私はお湯で手足を拭き、用意されたシャツとズボンに着替えて部屋を後にした。
「靴は大きいと思うけど我慢して」
「充分でございます。
その、何から何までありがとうございます。
助かりました」
「どう致しまして。
本当なら、久しぶりに会った友人にお茶でも誘いたいところだけど、誰かに見られれば要らぬ噂が立つからね。
裏口から馬車を出すよ」
「そこまでして頂く訳には」
「アンダーソン夫人は目立つからそのままウロウロするのは控えるべきだよ」
兄の伯爵家までは馬車で30分。
急いで走ってもかなりかかるし、ローガンがもし私を探していたら・・・。
「あの、馬を貸していただければ助かるのですが」
「馬は貸してもいいけど賛成できないな。
詮索するわけじゃないけど、見つかりたくない相手がいるなら馬はおすすめしない。
さっきも話したけど夫人は目立つからね。
馬車は一般的なもので家紋も入ってないし、裏口から出発すればすぐに大通りに出るから他の馬車にも紛れるよ」
結局私は馬車でウォーカー伯爵家まで送ってもらうことにした。
ルイス王子にお礼を言うと、『じゃあ、今度夜会でダンス踊ってよ』と言われた。
一応頷いたが、多分私はもう夜会には出席しないだろう。
ドレスを着ることだって、もうない。
ルイス王子にもらったタオルで目を冷やす。
何も言われなかったけど、泣いてたってわかったのかな。
ひとりになると、先程の出来事が思い出される。
“この人を好きになってはいけない”
“本当に信じられるの”
「大好きだった・・・。
愛していたし・・・心のどこかで信じてたよ」
馬車の窓から遠くに、夜会会場だった公爵家が見えた。
「さようなら、ローガン」
私は彼から離れる決意を固めた。
「あ・・・」
回廊の灯に自分の手が照らされると、黒っぽく薄汚れているうえに、薄っすら血が滲んでいた。
さっき塀に飛び乗ったはいいけど、ドレスが裂けた音がしたような。
一応ドレスのきれいそうな部分で擦って汚れを落とそうとしていると、クツクツと吹き出すの必死に堪えているルイス王子が視界に入った。
「アハハハハ~
相変わらずだねぇ」
その声に私は、手を戻して立ち上がった。
そうだ、このルイス王子は見た目は美しいが口が悪い人だった。
12歳まで領地から出たことのない田舎者の私はよく揶揄われた記憶がある。
「ひとりで立てますので」
「こっちに来て。
お湯を準備させるから」
「・・・いえ、あの・・・」
「そんな格好でいる方が怪しいけど。
現に護衛騎士にも警戒されたの分かってる?」
「・・・・・・」
「それにね、さっき塀に登った不審者の情報がはいったんだ。
まだ不審者は庭園に潜んでるおそれもあるから、そのまま戻るのは危険だよ。
今護衛が血眼になって探しているけど、見つかるなかぁ」
不審者ってーー
この方はその不審者が私と知っていて言ってるんだろう。
そういう人だった気がする。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ここには侍女は居ないから、自分でやってね」
ルイス王子は年配の男性に指図すると、私は別室へ案内された。
侍女が居ないって珍しい。
でも、助かったかも。
血の滲んだ手足や裾の裂けたドレスを見られたら誤解されかねない。
私はお湯で手足を拭き、用意されたシャツとズボンに着替えて部屋を後にした。
「靴は大きいと思うけど我慢して」
「充分でございます。
その、何から何までありがとうございます。
助かりました」
「どう致しまして。
本当なら、久しぶりに会った友人にお茶でも誘いたいところだけど、誰かに見られれば要らぬ噂が立つからね。
裏口から馬車を出すよ」
「そこまでして頂く訳には」
「アンダーソン夫人は目立つからそのままウロウロするのは控えるべきだよ」
兄の伯爵家までは馬車で30分。
急いで走ってもかなりかかるし、ローガンがもし私を探していたら・・・。
「あの、馬を貸していただければ助かるのですが」
「馬は貸してもいいけど賛成できないな。
詮索するわけじゃないけど、見つかりたくない相手がいるなら馬はおすすめしない。
さっきも話したけど夫人は目立つからね。
馬車は一般的なもので家紋も入ってないし、裏口から出発すればすぐに大通りに出るから他の馬車にも紛れるよ」
結局私は馬車でウォーカー伯爵家まで送ってもらうことにした。
ルイス王子にお礼を言うと、『じゃあ、今度夜会でダンス踊ってよ』と言われた。
一応頷いたが、多分私はもう夜会には出席しないだろう。
ドレスを着ることだって、もうない。
ルイス王子にもらったタオルで目を冷やす。
何も言われなかったけど、泣いてたってわかったのかな。
ひとりになると、先程の出来事が思い出される。
“この人を好きになってはいけない”
“本当に信じられるの”
「大好きだった・・・。
愛していたし・・・心のどこかで信じてたよ」
馬車の窓から遠くに、夜会会場だった公爵家が見えた。
「さようなら、ローガン」
私は彼から離れる決意を固めた。
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