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第15話
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「ジュリアナっていったら、もしかして貴族のお嬢様かい?」
「まぁ、一応今のところは。
事情があって、近いうちには平民になるけど」
連れ去り事件は捕まった男二人の自白により、四名の女性も無事に保護された。
主犯はなんと異常なほど若い女性好きの、私を買う予定だった六十過ぎの元男爵だった。
義弟によって、四十以上も年の離れた令嬢をモノにしようとした愚かな企みが露見し、苦しい立場に追い込まれたものの、時間が経てば我慢しきれなくなり、王都の若い女性を集めてハーレムを作る計画を立てたらしい。
とんでもない老人だ。
こんな最低な人間に私を売ろうとした義弟に、あらためて苛立ちを覚えた。
金鉱山を所有する元男爵はお金だけは持っているので、金銭をチラつかせれば腕の立つならず者を探すのは容易だった。
が、計画は失敗。
しかも、調べると過去にも若い女性を何人も攫っていたことが判明。
元男爵は金鉱山を没収のうえ、炭鉱での石炭掘りの強制労働が決定、女性を連れ去った男達計五名も同じく炭鉱へ移送された。
「ジュリアナ、これを見ておくれ」
「これは・・・」
【この人を探しています。
ジュリアナ・アッシュフィールド。
十八才。女性。金髪のロングヘア。ブルーとヘーゼルのオッドアイ。身長176センチ。細身。
服装 シャツにパンツ、黒の編み上げブーツ姿。又はワンピース姿。
お心当たりのある方は、下記までご連絡ください。
ブルース又はジェームズまで】
お父様とジェームズだわ。
そういえば、病院を脱走して私を探したって団長が話してた。
ジェームズは年老いたご両親と暮らしているはずなのに。
手紙の一つも残さず居なくなって、二人に心配をかけたんだ。
その紙の半分には似顔絵らしきものが描かれていた。
顔も目も鼻も口もまん丸で、なぜか眉毛だけは太く、筆圧が異常に強い。
こんなに筆圧が強い人物といえば、サインする度に紙を破いていたお父様しか知らない。
これは・・・わたし?
「アッシュ、じゃなくってジュリアナだったね、あんたが劇場のスカウトマンとお店に来た三日後位だったかねぇ。
体の大っきくて立派な方が、『娘が行方不明になった!』って、血相を変えてこの貼り紙を持って来たんだよ。
これを見れば、オッドアイに身長もアッシュにピッタリじゃないか。
でも、この絵を見て違うな。って。
あの立派な方はお父さんだったんだね。
申し訳ないことしたよ」
「いいえ、私の方こそ親切にしてくれたダリアさんに嘘をついてごめんなさい」
「そんなのいいんだよ!
ジュリアナは、あの人攫いの色ボケ爺いと伯爵から逃げてたんだろ。
ほんと大変な目に遭ったねぇ。
私もだけど。
だけどさぁ、デイジーは最初からジュリアナを女の子だって分かってたみたいなんだよ」
デイジーちゃんは、ダリアさんにピッタリくっついて笑っている。
ダリアさんいわく、無事に戻ってから甘えん坊になっているらしい。
その後は、ダリアさんから劇場では舞台には立ったのか、生アントニオは見たのか、あれこれ質問された。
「ほら、あのスカウトマンに貰ったんだよ!
スゴイだろ!」
またもやアントニオの話が止まらなくなったダリアさんに渡されたのは、何十回と観た舞台のパンフレットだった。
【ダリア嬢へ
アントニオ】
見覚えのある美しい綴りだった。
私の単独行動は危険極まりない。と、団長から直々にお叱りを受けたものの、あの行動が解決に繋がったのも事実ではあるので、厳重注意で終わった。
ホーキンス先輩には勝手な行動を謝罪した。
嫌味の一つでも言われるのを覚悟していたが、帰ってきた言葉は意外なものだった。
『連れ去られた女性、知り合いだったんだろう。
気持ちは分からなくもないが、騎士団にはルールがあるのを頭の片隅にしっかり入れて、今後忘れないように』
しかも、『もしかしたら俺の態度が素っ気ないと感じているかも知れないが、回し蹴りを受けたのを根に持ってる訳じゃない。
言いにくいんだが、婚約者にペアが女性騎士だと伝えたらヤキモチを妬かれてしまい、必要最低限の会話のみにしていた』
ホーキンス先輩は婚約者想いの良い人だった。
「ジュリアナ、タイミングがズレている」
「はい!」
連れ去り事件以降、一番の変化といえば師匠が頻繁に相手をしてくれるようになったことだ。
勝手な行動は取る、怪我は無かったものの敵に刺されるような未熟な隊員には、隊長自らが教育しろと、団長に命じられた可能性が高い。
理由はどうあれ、間近で素晴らしい技術を見て、なおかつ的確な指導を受けられるのは夢のようで、私の毎日は充実していた。
「昼休憩だ。ジュリアナ、混む前に食堂へ行こう」
「はい、師匠」
「隊長だ」
「はい、隊長」
そして、当たり前のように一緒にランチを食べるのが日課になっていった。
「まぁ、一応今のところは。
事情があって、近いうちには平民になるけど」
連れ去り事件は捕まった男二人の自白により、四名の女性も無事に保護された。
主犯はなんと異常なほど若い女性好きの、私を買う予定だった六十過ぎの元男爵だった。
義弟によって、四十以上も年の離れた令嬢をモノにしようとした愚かな企みが露見し、苦しい立場に追い込まれたものの、時間が経てば我慢しきれなくなり、王都の若い女性を集めてハーレムを作る計画を立てたらしい。
とんでもない老人だ。
こんな最低な人間に私を売ろうとした義弟に、あらためて苛立ちを覚えた。
金鉱山を所有する元男爵はお金だけは持っているので、金銭をチラつかせれば腕の立つならず者を探すのは容易だった。
が、計画は失敗。
しかも、調べると過去にも若い女性を何人も攫っていたことが判明。
元男爵は金鉱山を没収のうえ、炭鉱での石炭掘りの強制労働が決定、女性を連れ去った男達計五名も同じく炭鉱へ移送された。
「ジュリアナ、これを見ておくれ」
「これは・・・」
【この人を探しています。
ジュリアナ・アッシュフィールド。
十八才。女性。金髪のロングヘア。ブルーとヘーゼルのオッドアイ。身長176センチ。細身。
服装 シャツにパンツ、黒の編み上げブーツ姿。又はワンピース姿。
お心当たりのある方は、下記までご連絡ください。
ブルース又はジェームズまで】
お父様とジェームズだわ。
そういえば、病院を脱走して私を探したって団長が話してた。
ジェームズは年老いたご両親と暮らしているはずなのに。
手紙の一つも残さず居なくなって、二人に心配をかけたんだ。
その紙の半分には似顔絵らしきものが描かれていた。
顔も目も鼻も口もまん丸で、なぜか眉毛だけは太く、筆圧が異常に強い。
こんなに筆圧が強い人物といえば、サインする度に紙を破いていたお父様しか知らない。
これは・・・わたし?
「アッシュ、じゃなくってジュリアナだったね、あんたが劇場のスカウトマンとお店に来た三日後位だったかねぇ。
体の大っきくて立派な方が、『娘が行方不明になった!』って、血相を変えてこの貼り紙を持って来たんだよ。
これを見れば、オッドアイに身長もアッシュにピッタリじゃないか。
でも、この絵を見て違うな。って。
あの立派な方はお父さんだったんだね。
申し訳ないことしたよ」
「いいえ、私の方こそ親切にしてくれたダリアさんに嘘をついてごめんなさい」
「そんなのいいんだよ!
ジュリアナは、あの人攫いの色ボケ爺いと伯爵から逃げてたんだろ。
ほんと大変な目に遭ったねぇ。
私もだけど。
だけどさぁ、デイジーは最初からジュリアナを女の子だって分かってたみたいなんだよ」
デイジーちゃんは、ダリアさんにピッタリくっついて笑っている。
ダリアさんいわく、無事に戻ってから甘えん坊になっているらしい。
その後は、ダリアさんから劇場では舞台には立ったのか、生アントニオは見たのか、あれこれ質問された。
「ほら、あのスカウトマンに貰ったんだよ!
スゴイだろ!」
またもやアントニオの話が止まらなくなったダリアさんに渡されたのは、何十回と観た舞台のパンフレットだった。
【ダリア嬢へ
アントニオ】
見覚えのある美しい綴りだった。
私の単独行動は危険極まりない。と、団長から直々にお叱りを受けたものの、あの行動が解決に繋がったのも事実ではあるので、厳重注意で終わった。
ホーキンス先輩には勝手な行動を謝罪した。
嫌味の一つでも言われるのを覚悟していたが、帰ってきた言葉は意外なものだった。
『連れ去られた女性、知り合いだったんだろう。
気持ちは分からなくもないが、騎士団にはルールがあるのを頭の片隅にしっかり入れて、今後忘れないように』
しかも、『もしかしたら俺の態度が素っ気ないと感じているかも知れないが、回し蹴りを受けたのを根に持ってる訳じゃない。
言いにくいんだが、婚約者にペアが女性騎士だと伝えたらヤキモチを妬かれてしまい、必要最低限の会話のみにしていた』
ホーキンス先輩は婚約者想いの良い人だった。
「ジュリアナ、タイミングがズレている」
「はい!」
連れ去り事件以降、一番の変化といえば師匠が頻繁に相手をしてくれるようになったことだ。
勝手な行動は取る、怪我は無かったものの敵に刺されるような未熟な隊員には、隊長自らが教育しろと、団長に命じられた可能性が高い。
理由はどうあれ、間近で素晴らしい技術を見て、なおかつ的確な指導を受けられるのは夢のようで、私の毎日は充実していた。
「昼休憩だ。ジュリアナ、混む前に食堂へ行こう」
「はい、師匠」
「隊長だ」
「はい、隊長」
そして、当たり前のように一緒にランチを食べるのが日課になっていった。
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