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第13話
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「アッシュフィールド伯爵邸で亡霊騒ぎがあった。って聞いたんですけど?」
隣同士に座って、ただ黙って食事しても気まずいので、いっそ気になっていることを聞いてみることにした。
「その話、聞いたんだ。
確か、ひと月前だったかな。
いきなり、『亡霊が出た』って大騒ぎになって、夫人はこんな所に居られない。と、子供達を連れて実家へ帰ったんだ。
伯爵は屋敷に残ったものの、日に日におかしな言動をとるようになったと聞いた」
「それって、どんな?」
団長は、私を高く売ろうとした事を懺悔したとか話してた。
「君を知り合いの、六十過ぎの引退した男爵に売り飛ばそうとした事を謝罪し続けてるって・・・」
やっぱり・・・そうなんだ。
でも、私がずっと暮らしたあの明るい雰囲気の屋敷に亡霊がでるなんて、どうしても考えられなかった。
しかも、あの義弟が懺悔。
「婚約を解消したばかりに、こんな事になって・・・
本当に申し訳なく思っている」
「それは、違いますよ。
婚約解消は正しい判断だったし、それとこれは、また別問題ですから」
うちは醜聞まみれだったし、今申し訳なさそうにされても・・・もう済んだ事だ。
私は残りのチキンとパンをスープで流し込んで、寮へ戻った。
『シュガー、さぁ行こう』
『俺のサインは、こんなミミズのはったような字じゃないぞ』
ついこの間までは、面倒くさい人の側に居て、多少厄介な仕事をこなしつつも、気楽に過ごしていた。
『あの方のことは話せないんだ。察して欲しい』
もう関わるな。という事だろうか。
クローゼットにはギラついたシャツがハンガーに掛かっている。
また声が聞こえるかも。そう思って騎士服の胸ポケットに入れていた耳飾りを取り出す。
今は、舞台に立ってる時間だけど、まぁいいか。
「アントニオ?一ヶ月分給金が多いんだけど。
聞こえてる?」
勿論、返事は無かった。
騎士団見習いとなり、一週間が経った。
ホーキンス先輩は私のことを“アッシュフィールド”と呼び、相変わらず素っ気ないけれど、こんな人だと思えばどうって事はなかった。
でも律儀な師匠は『ホーキンスとは上手くやってるか?』よく気にかけてくれる。
「一昨日から王都で、相次いで若い女性の連れ去り事件が起こっている。
行方不明者は四名。
犯人の目撃情報はなし。
決して気を抜かないように」
朝の訓練も切り上げ、師匠率いる第三隊も王都の街へと向かった。
許せない事件だ。
私は先日の休みに買った、護身用の短剣二本を仕込んだ脚と腰を再度確認、胸元を触ると、ホーキンス先輩の後に続いた。
進んでいくと、人通りの多い繁華街が目に入った。
あの日、ここでダリアさんとデイジーちゃんに会ったんだっけ。
考えたら、あの後アントニオとサンドイッチ店を訪れてから、ずっと顔を出していなかった。
二人とも、元気にしてるだろうか。
アントニオの話に適当に相槌をうったのを懐かしく思っていると、先輩から声がかかった。
「アッシュフィールド、行くぞ」
「はい」
通りの先では人だかりができて、何やら騒がしい。
人混みを縫うように進んで行くと、小さな女の子を取り囲むように人だかりができていた。
その女の子の髪についている髪飾りを見て、一瞬体が凍りつく。
あの髪飾りは、ダリアさんとアイビーちゃんに・・・
私は女の子の元に駆け寄って、膝をついた。
「アイビーちゃん!」
「・・・っ、・・・うっ、・・・さんが、
・・・お母さんがっ、・・・うっ」
アイビーちゃんは、泣きじゃくっている。
「知り合いか?」
「はい。
アイビーちゃん!
何があったの?お母さんが、ダリアさんがどうしたの?」
お母さんの名前が聞こえたからか、アイビーちゃんは涙を拭きながら顔を上げてくれた。
「アイビーちゃん、アッシュだよ。
覚えてるかな?」
「アッシュ!・・・うっ、・・・うっ」
アイビーちゃんは私に抱きついてきた。
「・・・さんが、お母さんがっ、男の人達に連れて行かれて・・・」
お母さんと男の人達はどっちの方角へ行ったか聞いて、デイジーちゃんの頭を優しく撫でると、
「アイビーちゃん?
お母さんを連れてくるから、待ってて!」
私は猛スピードで駆け出した。
「アッシュフィールド!待て!」
ダリアさん、待ってて。
必ず、助けるから。
見習い騎士になって、この辺りの地図は全て頭に叩き込んだから、細い路地も手に取るように分かる。
私は字以外は優秀だと、幼い頃から褒められていた。
ダリアさんを連れ出すなら、目立たない細い路地を抜けて、荷馬車か何かに乗せる。
もしくは気を失わせて、一旦どこかに閉じ込める?
迷ってる暇はない。
直感で前者と判断、私は細い路地を走り抜けた。
ここを進んで左に曲がれば、少し広い通りに出る。
荷馬車が待機するには丁度いい。
左手に曲がると、男二人と荷馬車が目に入る。
荷台に何かを乗せている?
私は走って走って、勢いをつけて加速しだした荷台に飛び乗った。
隣同士に座って、ただ黙って食事しても気まずいので、いっそ気になっていることを聞いてみることにした。
「その話、聞いたんだ。
確か、ひと月前だったかな。
いきなり、『亡霊が出た』って大騒ぎになって、夫人はこんな所に居られない。と、子供達を連れて実家へ帰ったんだ。
伯爵は屋敷に残ったものの、日に日におかしな言動をとるようになったと聞いた」
「それって、どんな?」
団長は、私を高く売ろうとした事を懺悔したとか話してた。
「君を知り合いの、六十過ぎの引退した男爵に売り飛ばそうとした事を謝罪し続けてるって・・・」
やっぱり・・・そうなんだ。
でも、私がずっと暮らしたあの明るい雰囲気の屋敷に亡霊がでるなんて、どうしても考えられなかった。
しかも、あの義弟が懺悔。
「婚約を解消したばかりに、こんな事になって・・・
本当に申し訳なく思っている」
「それは、違いますよ。
婚約解消は正しい判断だったし、それとこれは、また別問題ですから」
うちは醜聞まみれだったし、今申し訳なさそうにされても・・・もう済んだ事だ。
私は残りのチキンとパンをスープで流し込んで、寮へ戻った。
『シュガー、さぁ行こう』
『俺のサインは、こんなミミズのはったような字じゃないぞ』
ついこの間までは、面倒くさい人の側に居て、多少厄介な仕事をこなしつつも、気楽に過ごしていた。
『あの方のことは話せないんだ。察して欲しい』
もう関わるな。という事だろうか。
クローゼットにはギラついたシャツがハンガーに掛かっている。
また声が聞こえるかも。そう思って騎士服の胸ポケットに入れていた耳飾りを取り出す。
今は、舞台に立ってる時間だけど、まぁいいか。
「アントニオ?一ヶ月分給金が多いんだけど。
聞こえてる?」
勿論、返事は無かった。
騎士団見習いとなり、一週間が経った。
ホーキンス先輩は私のことを“アッシュフィールド”と呼び、相変わらず素っ気ないけれど、こんな人だと思えばどうって事はなかった。
でも律儀な師匠は『ホーキンスとは上手くやってるか?』よく気にかけてくれる。
「一昨日から王都で、相次いで若い女性の連れ去り事件が起こっている。
行方不明者は四名。
犯人の目撃情報はなし。
決して気を抜かないように」
朝の訓練も切り上げ、師匠率いる第三隊も王都の街へと向かった。
許せない事件だ。
私は先日の休みに買った、護身用の短剣二本を仕込んだ脚と腰を再度確認、胸元を触ると、ホーキンス先輩の後に続いた。
進んでいくと、人通りの多い繁華街が目に入った。
あの日、ここでダリアさんとデイジーちゃんに会ったんだっけ。
考えたら、あの後アントニオとサンドイッチ店を訪れてから、ずっと顔を出していなかった。
二人とも、元気にしてるだろうか。
アントニオの話に適当に相槌をうったのを懐かしく思っていると、先輩から声がかかった。
「アッシュフィールド、行くぞ」
「はい」
通りの先では人だかりができて、何やら騒がしい。
人混みを縫うように進んで行くと、小さな女の子を取り囲むように人だかりができていた。
その女の子の髪についている髪飾りを見て、一瞬体が凍りつく。
あの髪飾りは、ダリアさんとアイビーちゃんに・・・
私は女の子の元に駆け寄って、膝をついた。
「アイビーちゃん!」
「・・・っ、・・・うっ、・・・さんが、
・・・お母さんがっ、・・・うっ」
アイビーちゃんは、泣きじゃくっている。
「知り合いか?」
「はい。
アイビーちゃん!
何があったの?お母さんが、ダリアさんがどうしたの?」
お母さんの名前が聞こえたからか、アイビーちゃんは涙を拭きながら顔を上げてくれた。
「アイビーちゃん、アッシュだよ。
覚えてるかな?」
「アッシュ!・・・うっ、・・・うっ」
アイビーちゃんは私に抱きついてきた。
「・・・さんが、お母さんがっ、男の人達に連れて行かれて・・・」
お母さんと男の人達はどっちの方角へ行ったか聞いて、デイジーちゃんの頭を優しく撫でると、
「アイビーちゃん?
お母さんを連れてくるから、待ってて!」
私は猛スピードで駆け出した。
「アッシュフィールド!待て!」
ダリアさん、待ってて。
必ず、助けるから。
見習い騎士になって、この辺りの地図は全て頭に叩き込んだから、細い路地も手に取るように分かる。
私は字以外は優秀だと、幼い頃から褒められていた。
ダリアさんを連れ出すなら、目立たない細い路地を抜けて、荷馬車か何かに乗せる。
もしくは気を失わせて、一旦どこかに閉じ込める?
迷ってる暇はない。
直感で前者と判断、私は細い路地を走り抜けた。
ここを進んで左に曲がれば、少し広い通りに出る。
荷馬車が待機するには丁度いい。
左手に曲がると、男二人と荷馬車が目に入る。
荷台に何かを乗せている?
私は走って走って、勢いをつけて加速しだした荷台に飛び乗った。
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