13 / 19
第12話
しおりを挟む
「本日から第一騎士団第三隊に配属されたジュリアナだ。
訳あってその身を隠し、保護されていたが無事に戻った」
朝、騎士団長の元を訪れると、俺の話に合わせてくれと言われた。
『アッシュフィールド伯爵が君を売ろうとしていたのは、今や大抵の貴族の知るところだ。
彼自身が屋敷の亡霊騒ぎにより、あちこちで自分の罪を、特に君を高く売ろうとした話を懺悔していた。
君は伯爵から逃げ、短剣は紛失。
我が身を隠し、途中怪我を負い、保護されていた』
「ジュリアナです。
よろしくお願いします」
すぐに貴族ではなくなるので、ただのジュリアナで紹介してくれとお願いした。
「ジュリアナ、第三隊隊長のマイヤーズだ。
よろしく頼む。
あと、彼はホーキンス。
ジュリアナはホーキンスとペアを組む。
分からない事があれば、ホーキンスに聞くといい」
「はい、師匠!」
「・・・ししょう?」
「あ、失礼しました。
マイヤーズ隊長」
師匠が隊長と聞いて、つい心の声が漏れてしまう。
正直、いきなり変化した状況に頭がついて行かなかった。
昨日まではアントニオの動きを観察して、なりきっていたのが、今はこうして騎士団の制服に身を包んでいる。
団長にアントニオのことを聞いてみると、『あの方のことは話せないんだ。
察して欲しい』困った顔をされた。
「ホーキンス先輩、よろしくお願いします」
「・・・ああ」
「おい、ホーキンス、昨夜のことは団長が仕組んだんだ。
間違えてもジュリアナに当たるなよ」
「分かってますよ」
とは言ってるものの、ホーキンス先輩は一日を通して素っ気なかった。
こんな新人の蹴りを受けたんだから、そりゃそうかも知れない。
『何?回し蹴りした騎士へ謝罪?
気が緩んでるでいる騎士への処置だから必要ないぞ』
団長も謝罪は必要ないと言ってた。
まぁ、そのうち忘れるだろう。
ホーキンス先輩には一日の流れを聞き、打ち合い、基礎体力作り、午後からは街への見回りを終え、初日の仕事を終えた。
師匠との手合わせは叶わなかったけれど、間近で数々の技を目にした。
体も動かして、満ち足りた気持ちで食堂へ向かっていると、正面から走ってくる騎士の姿が目に入った。
「ジュリアナ!ジュリアナ!」
近衛騎士の制服に身を包んだ、よく知る人物は走ったまま私に突進するように抱きついてきた。
ゔっ・・・
「良かった、ジュリアナ・・・
無事で良かった」
なんて馬鹿力・・・
ライアン様はギュウギュウと人を締め付けてくる。
「・・・ライアン様、その馬鹿力、どうにかしてもらえます?」
「・・・あ、ああ、済まない」
ライアン様は謝ると同時に、慌てて手と体を離してくれた。
「はぁ~、楽になった」
「本当に、ジュリアナなんだな?」
「ええ、この通り」
つい癖で、大袈裟に両手を広げて眩しそうに微笑んでしまう。
口角を上げかけているのを戻すと、心配そうにライアン様が見つめていた。
婚約者であった頃にすら、抱きしめられた記憶なんて無いというのに。
きっと、余程心配をかけたに違いない。
本人は行方不明。
自分が贈った短剣が、よりによって血の付いた状態で見つかれば、悪い方に考えてもおかしくはない。
元はといえば、もう婚約者でもないのにあの使い勝手がいい短剣を持ち歩いていた配慮のない行動が原因。
といえば、もう婚約者でもないのに、ついライアン様なんて呼んでしまった事に気がついた。
ライアン様、ハーバード伯爵令息には婚約者がいるかも知れないのに、デリカシーに欠ける行動を取ってしまった。
気をつけなきゃ。
今だって、誰が見てるが分からない。
「ハーバード伯爵令息、私は大丈夫ですよ。
使い勝手が良いからと、もう婚約者でもないのに短剣を持ち歩いていて、ご心配をかけました」
「・・・いや、アッシュフィールド伯爵令嬢。
私の方こそ、その・・・いきなり抱きしめてしまい申し訳なかった」
その後、お互い話が続かなくなったので、私は食堂へ行くことを告げ、歩き出した。
すると、ハーバード伯爵令息も食堂に行くと言い、後をついてくる。
婚約者は?と聞けば、いない。と言う。
結局、私達は隣同士で食事をすることになった。
長年親しく接した相手と、余所余所しく話すのは気を使い疲れるものがあった。
「アッシュフィールド伯爵令嬢、私も丁度今から食堂へ行くんだ。
一緒に食べよう」
食堂へ行く途中でばったりと会う。
そして、なぜか翌日もハーバード伯爵令息と食事をすることになった。
訳あってその身を隠し、保護されていたが無事に戻った」
朝、騎士団長の元を訪れると、俺の話に合わせてくれと言われた。
『アッシュフィールド伯爵が君を売ろうとしていたのは、今や大抵の貴族の知るところだ。
彼自身が屋敷の亡霊騒ぎにより、あちこちで自分の罪を、特に君を高く売ろうとした話を懺悔していた。
君は伯爵から逃げ、短剣は紛失。
我が身を隠し、途中怪我を負い、保護されていた』
「ジュリアナです。
よろしくお願いします」
すぐに貴族ではなくなるので、ただのジュリアナで紹介してくれとお願いした。
「ジュリアナ、第三隊隊長のマイヤーズだ。
よろしく頼む。
あと、彼はホーキンス。
ジュリアナはホーキンスとペアを組む。
分からない事があれば、ホーキンスに聞くといい」
「はい、師匠!」
「・・・ししょう?」
「あ、失礼しました。
マイヤーズ隊長」
師匠が隊長と聞いて、つい心の声が漏れてしまう。
正直、いきなり変化した状況に頭がついて行かなかった。
昨日まではアントニオの動きを観察して、なりきっていたのが、今はこうして騎士団の制服に身を包んでいる。
団長にアントニオのことを聞いてみると、『あの方のことは話せないんだ。
察して欲しい』困った顔をされた。
「ホーキンス先輩、よろしくお願いします」
「・・・ああ」
「おい、ホーキンス、昨夜のことは団長が仕組んだんだ。
間違えてもジュリアナに当たるなよ」
「分かってますよ」
とは言ってるものの、ホーキンス先輩は一日を通して素っ気なかった。
こんな新人の蹴りを受けたんだから、そりゃそうかも知れない。
『何?回し蹴りした騎士へ謝罪?
気が緩んでるでいる騎士への処置だから必要ないぞ』
団長も謝罪は必要ないと言ってた。
まぁ、そのうち忘れるだろう。
ホーキンス先輩には一日の流れを聞き、打ち合い、基礎体力作り、午後からは街への見回りを終え、初日の仕事を終えた。
師匠との手合わせは叶わなかったけれど、間近で数々の技を目にした。
体も動かして、満ち足りた気持ちで食堂へ向かっていると、正面から走ってくる騎士の姿が目に入った。
「ジュリアナ!ジュリアナ!」
近衛騎士の制服に身を包んだ、よく知る人物は走ったまま私に突進するように抱きついてきた。
ゔっ・・・
「良かった、ジュリアナ・・・
無事で良かった」
なんて馬鹿力・・・
ライアン様はギュウギュウと人を締め付けてくる。
「・・・ライアン様、その馬鹿力、どうにかしてもらえます?」
「・・・あ、ああ、済まない」
ライアン様は謝ると同時に、慌てて手と体を離してくれた。
「はぁ~、楽になった」
「本当に、ジュリアナなんだな?」
「ええ、この通り」
つい癖で、大袈裟に両手を広げて眩しそうに微笑んでしまう。
口角を上げかけているのを戻すと、心配そうにライアン様が見つめていた。
婚約者であった頃にすら、抱きしめられた記憶なんて無いというのに。
きっと、余程心配をかけたに違いない。
本人は行方不明。
自分が贈った短剣が、よりによって血の付いた状態で見つかれば、悪い方に考えてもおかしくはない。
元はといえば、もう婚約者でもないのにあの使い勝手がいい短剣を持ち歩いていた配慮のない行動が原因。
といえば、もう婚約者でもないのに、ついライアン様なんて呼んでしまった事に気がついた。
ライアン様、ハーバード伯爵令息には婚約者がいるかも知れないのに、デリカシーに欠ける行動を取ってしまった。
気をつけなきゃ。
今だって、誰が見てるが分からない。
「ハーバード伯爵令息、私は大丈夫ですよ。
使い勝手が良いからと、もう婚約者でもないのに短剣を持ち歩いていて、ご心配をかけました」
「・・・いや、アッシュフィールド伯爵令嬢。
私の方こそ、その・・・いきなり抱きしめてしまい申し訳なかった」
その後、お互い話が続かなくなったので、私は食堂へ行くことを告げ、歩き出した。
すると、ハーバード伯爵令息も食堂に行くと言い、後をついてくる。
婚約者は?と聞けば、いない。と言う。
結局、私達は隣同士で食事をすることになった。
長年親しく接した相手と、余所余所しく話すのは気を使い疲れるものがあった。
「アッシュフィールド伯爵令嬢、私も丁度今から食堂へ行くんだ。
一緒に食べよう」
食堂へ行く途中でばったりと会う。
そして、なぜか翌日もハーバード伯爵令息と食事をすることになった。
4
お気に入りに追加
582
あなたにおすすめの小説
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
恋人が聖女のものになりました
キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」
聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。
それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。
聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。
多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。
ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……?
慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。
従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。
菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
酷いことをしたのはあなたの方です
風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。
あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。
ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。
聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。
※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。
※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。
※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。
忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる