災難続きのその後で

MOMO-tank

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第11話

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ーープロローグ後


バレてる? どうして?
もしかして、カツラが外れた?
慌てて頭を触り確認するも、少しゴワッとしたこの感触は間違いなくカツラだ。
髭もついてる。
ならどうして・・・?

師匠はこちらを見て、いまだに私の足をがっしり固定しているが、はっとしように足から手を離した。

「・・・ああ、強く掴んでしまい、申し訳ない」

申し訳ない ・・・?

「ちょっと、隊長!
そいつ、丸腰の俺達にいきなり回し蹴りしてきたんですよ!
何離してるんですか?」

「そうですよ!」

耳が痛かった。
騎士にいきなり回し蹴りを入れたんだ。
彼等の言う通り、これは連行される案件で間違いない。
騎士を目指していたのに、どうしてあんな事をしたのか。
もう取り返しがつかない。
・・・大人しく連行されよう。

「お前達、少し黙ってろ」

強めの口調で騎士に告げると、師匠は再び私に向き合った。

「アッシュフィールド伯爵令嬢、捜しましたよ。
団長のところまでお連れします」

私は手荒く扱われることもなく、馬車に乗せられた。
隣には師匠が座っている。
さっきの『捜しましたよ』とは一体どういう意味なのか気になった。
私に捜索願いが出されていたとしても、二ヶ月も経っていれば、とっくに中止されているはず。
それとも、別の案件で追っていた?
耳飾りにそっと触れてみる。
こんな通信機を持ってるなんて、アントニオは何かしらの犯罪に手を染めているんだろうか。
そうじゃなきゃ、あんな指示出さないはず。
まぁ、結果的に従った私が悪いんだけど。

そんなことを考えていると、馬車は停車。
騎士団に到着したようだった。



「アッシュフィールド伯爵令嬢、無事で何よりだ。
・・・それにしても、よく似ている。
うちの妻と娘が見たら大騒ぎだな」

どんなお咎めを受けるのかと思いきや、第一騎士団長の和やかな雰囲気に拍子抜けしてしまう。
騎士団長は私を上から下まで眺めては次から次に質問してきた。

「身長はどうしてるんだ?」
「この胸板はどうなってる?」
「瞳は?」

それに一つ一つ答えれば、「すごいな」と関心しているようだった。

「いやぁ、あまりに見事なもので。
質問攻めにして済まない」

「・・・いえ」

「ところで、君はどうしてここに来たのか知っているか?」

「騎士二名に暴力を振るった罰を受ける為です・・・」

思いの外小さな声で答えると、騎士団長は急に笑い出した。

「あれは私があの方に頼んでいたものだから、問題ないんだ。
見事な回し蹴りだったみたいだから、これから楽しみだよ」

あの方に頼んだ?
それに、楽しみって。

「ああ、君には明日から第一騎士団の見習い騎士として仕事に就いてもらう」

第一騎士団の見習い騎士?

あの日、いつまで経っても寮に戻らず、実家である伯爵家にも姿がない私には、捜索願いが出された。
騎士団が王都を探すも手がかりなし。
が、翌朝騎士が血痕のついた短剣を発見。
私の私物であると判明すると、事件性があると考えられ、捜索は拡大する。
短剣の送り主であるライアン様は、ものすごく心配したらしい。

あの時はまだ知らされていなかったが、私は学園を卒業後、第一騎士団に所属が決まっていた。
これから入団予定だった者の事件性も考えられる失踪。
この二ヶ月間、第一騎士団はずっと私の捜索を続けていた。
師匠の『捜しましたよ』は、こういう意味だったのか・・・。

当然この話は入院中のお父様の耳にも入った。
お父様は私を心配し病院を脱走。
騎士団を辞職、国中を探し回った。

そして、事態は進展しないまま、三日前にある人物から私を保護していると連絡が入り、指定された場所へ行くと私が居た。
という話だった。

「君が逃げ出す原因を作ったブルースお父様の義弟である伯爵は、屋敷の亡霊騒ぎで幻覚幻聴に悩まされて伯爵であることを放棄した。
ひたすら謝罪を続け、人格が変わったようになり、とても伯爵を続けられる状態じゃないらしい。
まだ一応伯爵ではあるが、手続きが済み次第アッシュフィールド伯爵領は王家預かりになる」

あの屋敷で亡霊騒ぎ?
義弟の人格が変わる?

「あの、お父様は?」

「ブルースは君が保護されている話を聞き、辺境へ向かった。
どうやら傭兵になるらしい。
私が思うに、娘に迷惑をかけて合わせる顔が無いのかも知れないな」

辺境で傭兵。
お父様らしいかも知れない。
会いたかったけど、元気でいるならまぁ、いいか。

騎士団長は、ああ、そうだった。何か思い出したように、デスクの上にあった袋を私に手渡した。

「これを君にと預かった」

「これは・・・?」

それは、ずっしりとした袋だった。

「詳しくは言えないが、あの方は“私達側”の人間だ」


『あの方に頼んだ』
『あの方は“私達側”の人間』

侯爵である騎士団長が“あの方”と呼ぶアントニオは・・・


寮へと案内され袋を開けると、中にはお金と小さなメモが入っていた。

【影武者の仕事は終了。
約束の五百万だ。
シュガー、騎士としてがんばれ】

私は耳飾りを引っ張った。

「アントニオ!アントニオ!
聞こえてる?
アントニオ!」

部屋には自分の声だけが響いた。





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