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第44話
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結婚式の後、私とディラン様は二週間に渡ってボルコフ王国を旅行した。
東側は異国情緒漂う街並みが広がり、海沿いの街では温泉という入浴施設でリラックス。
もちろん隣には、旦那様であり愛するディラン様が居る。
「リリー、言葉では表せないほど愛してる」
「君が隣にいるだけで幸せでしょうがないよ」
「リリー、今すぐ抱きしめて口づけがしたい」
婚約者になってからディラン様の手紙には愛の言葉が綴られていたけれど、実際のディラン様は大人の魅力が溢れ、その数十倍の破壊力で恥ずかし気もなく甘い言葉を繰り返す。
「毎日だから、そのうち慣れるよ。
ま、慣れなくても大歓迎だけど」
そう言ってクツクツ笑う姿は健在だ。
毎日って・・・。
それに、いちいちウィンクするのをやめてほしい。
ディラン様のそばにいると、心臓がいくつあっても足りない気がした。
《リリー、そんなに泣かないで頂戴。
私まで、移ってしま・・・。
ここを第二の故郷だと思って、いつでも来てね》
《・・・っ、またっ、また来ます。
本当にっ、ありがとう・・・ございました》
そして、旅を終えて王都へ戻り、パウリー様とナタリア様に涙でお別れを告げて、約一年間を過ごしたボルコフ王国を後にした。
向かった先は、ルボア王国の元カミンスキー公爵領。
現在ディラン様はこの地を立て直す為に生活の場を移していた。
お屋敷は領地で一番大きな街にある。
「旦那様、奥様、お待ちいたしておりました」
見るからに教育の行き届いた立派な使用人は、ディラン様の王都のお屋敷から移動して来たとのこと。
そして、驚くほどの広さの敷地内には美しい庭園があり、季節の花が咲いていている。
そう。ここは“ストーリーズ”に似ていた。
「屋敷の中も案内するよ」
続いてディラン様に連れられ向かった部屋には、あらゆる言語の専門書、小説が棚に並び、窓際には大きなデスクが鎮座していた。
窓からは先程の庭園が見渡せる。
すごい本の量!
しかも、“ストーリーズ”でさえ目にしなかったグレッソン語のミステリー小説が!
ウズウズしていると、お馴染みになったクツクツ笑う声がした。
「ここから庭園に出られる」
カチャ
ディラン様を見れば、ガラス戸を開けているところだった。
駆け寄って外を眺めてみれば、真っ白なガゼボが目に入った。
ガゼボの中央には丸いテーブルがあり、それを囲むように周りは椅子になっている。
「すごいわ!」
「リリーの部屋だよ。
気に入ってくれたようで良かった。
気分転換にガゼボでも翻訳活動ができる。
多少の雨なら凌げるはずだ」
信じられなかった。
こんな素晴らしい場所が自分の部屋だなんて。
しかも、素敵な庭園を見渡せる部屋に、ガゼボに、この本の数といったら。
本棚の方を振り返り、息を呑む。
ディラン様にお礼を言うと、「私が好きでやっただけだ」いきなり横向きに抱え、慌てる私に少し意地悪そうな目を向けてくる。
そういえば、ディラン様は翻訳活動なんて話していたけど、あれはボルコフ王国に暮らす間の話。
そんな疑問が頭を過ぎるも、ディラン様はスタスタと歩き出し、壁際の扉を開き、「ここは私の執務室と繋がっている」と言うと、部屋を出て私を抱き上げたまま二階へと進んで行った。
「ここが夫婦の寝室になる」
そして、扉を開けると部屋へ入り、大きな天蓋付きのベッドに私をそっと下ろした。
「・・・リリー、愛してる」
大きな手が頬を包み、ブルーの瞳に見つめられると、ディラン様への想いが溢れてくる。
そっと唇が重なるも、まだ日が高く部屋も明るい事が気になってしまうと、ディラン様は天蓋を下ろした。
私達はそのま口づけを繰り返して、愛し合った。
「ディラン様、愛しています」
名前を呼ばれるたびに、瞳が合うたびに、肌が触れ合うたびに胸がいっぱいになって、何度もディラン様の名前を呼んだ。
「リリー、私の方がずっと愛してる」
ディラン様は、そんな私を強く抱きしめた。
「え!?会社を設立?」
「そうだよ」
どうやらディラン様は、翻訳を主とした出版社を作ったらしい。
外国で話題になって舞台化されている恋愛小説や、私が最近好んで読んでいるミステリー小説は男性を中心に人気があり、翻訳が求められているという。
「五作品のオファーが来ているけど、どうする?」
その日から翻訳活動が始まった。
本に囲まれた素晴らしい部屋で、庭園を眺めながらペンを走らせ、気分転換でガゼボへ向かう。
もちろん翻訳活動ばかりしているわけではなく、公爵夫人としての仕事も行っている。
ただし社交は除いて。
ディラン様は二ヶ月に一度、王都に数日滞在するもの、それ以外は領地で仕事をしている。
隣同士の部屋で仕事をしていると部屋を結ぶ扉が開き、美しい笑顔でディラン様が現れて、いつも私の心臓は音を立てる。
《夕食まで待ちきれなくて、会いに来てしまったよ》
《つい二時間前もそう言っては・・・》
私の言葉は、大抵ディラン様の邪魔が入り続くことはない。
二人で庭園を歩き、ガゼボでお茶を飲んでボルコフ語で会話し、常に甘いディラン様に抱きしめられ、口づけをする。
そんな日々が続き半年が過ぎた頃、私は体調を崩す。
心配したディラン様は国中の医師を呼ぶ勢いの中、
「ご懐妊ですな」
医師の言葉に、目に涙を溜めて喜んでくれた。
自分の体にディラン様との赤ちゃんが、命が宿っていると思うと嬉しかった。
ディラン様は今までに輪をかけて過保護になり、仕事で王都へ行くのも放棄、私のそばを離れなくなった。
『おはよう』から『おやすみ』まで、毎日ディラン様と一緒にお腹に向かって話しかけた。
目立たなかったお腹は少しずつ大きくなり、初めて動いた時には、心配したディラン様が医師を呼ぶ騒ぎを起こした。
そしてーー
私は、ディラン様にそっくりな金の髪の男の子と女の子、二人の天使を出産した。
小さな小さな、温かい存在に、
涙が溢れた。
ディラン様は部屋へ入ってくるなり、私を優しく抱きしめた。
「リリーの苦しそうな声が聞こえてきて、気が気じゃなかった・・・」
震えているディラン様に大丈夫ですよ。と伝えて、小さな小さな天使達に目を向けると、ディラン様はハッとして固まった。
「抱いてみられますか?」
ディラン様は両腕に小さな天使を抱くと、二人を交互にじっと見つめて、目に涙を浮かべていた。
「リリー、ありがとう・・・」
微笑み合って、私達は抱き合った。
四人で抱き合って、私は今までに感じた事のない幸せを噛み締めた。
東側は異国情緒漂う街並みが広がり、海沿いの街では温泉という入浴施設でリラックス。
もちろん隣には、旦那様であり愛するディラン様が居る。
「リリー、言葉では表せないほど愛してる」
「君が隣にいるだけで幸せでしょうがないよ」
「リリー、今すぐ抱きしめて口づけがしたい」
婚約者になってからディラン様の手紙には愛の言葉が綴られていたけれど、実際のディラン様は大人の魅力が溢れ、その数十倍の破壊力で恥ずかし気もなく甘い言葉を繰り返す。
「毎日だから、そのうち慣れるよ。
ま、慣れなくても大歓迎だけど」
そう言ってクツクツ笑う姿は健在だ。
毎日って・・・。
それに、いちいちウィンクするのをやめてほしい。
ディラン様のそばにいると、心臓がいくつあっても足りない気がした。
《リリー、そんなに泣かないで頂戴。
私まで、移ってしま・・・。
ここを第二の故郷だと思って、いつでも来てね》
《・・・っ、またっ、また来ます。
本当にっ、ありがとう・・・ございました》
そして、旅を終えて王都へ戻り、パウリー様とナタリア様に涙でお別れを告げて、約一年間を過ごしたボルコフ王国を後にした。
向かった先は、ルボア王国の元カミンスキー公爵領。
現在ディラン様はこの地を立て直す為に生活の場を移していた。
お屋敷は領地で一番大きな街にある。
「旦那様、奥様、お待ちいたしておりました」
見るからに教育の行き届いた立派な使用人は、ディラン様の王都のお屋敷から移動して来たとのこと。
そして、驚くほどの広さの敷地内には美しい庭園があり、季節の花が咲いていている。
そう。ここは“ストーリーズ”に似ていた。
「屋敷の中も案内するよ」
続いてディラン様に連れられ向かった部屋には、あらゆる言語の専門書、小説が棚に並び、窓際には大きなデスクが鎮座していた。
窓からは先程の庭園が見渡せる。
すごい本の量!
しかも、“ストーリーズ”でさえ目にしなかったグレッソン語のミステリー小説が!
ウズウズしていると、お馴染みになったクツクツ笑う声がした。
「ここから庭園に出られる」
カチャ
ディラン様を見れば、ガラス戸を開けているところだった。
駆け寄って外を眺めてみれば、真っ白なガゼボが目に入った。
ガゼボの中央には丸いテーブルがあり、それを囲むように周りは椅子になっている。
「すごいわ!」
「リリーの部屋だよ。
気に入ってくれたようで良かった。
気分転換にガゼボでも翻訳活動ができる。
多少の雨なら凌げるはずだ」
信じられなかった。
こんな素晴らしい場所が自分の部屋だなんて。
しかも、素敵な庭園を見渡せる部屋に、ガゼボに、この本の数といったら。
本棚の方を振り返り、息を呑む。
ディラン様にお礼を言うと、「私が好きでやっただけだ」いきなり横向きに抱え、慌てる私に少し意地悪そうな目を向けてくる。
そういえば、ディラン様は翻訳活動なんて話していたけど、あれはボルコフ王国に暮らす間の話。
そんな疑問が頭を過ぎるも、ディラン様はスタスタと歩き出し、壁際の扉を開き、「ここは私の執務室と繋がっている」と言うと、部屋を出て私を抱き上げたまま二階へと進んで行った。
「ここが夫婦の寝室になる」
そして、扉を開けると部屋へ入り、大きな天蓋付きのベッドに私をそっと下ろした。
「・・・リリー、愛してる」
大きな手が頬を包み、ブルーの瞳に見つめられると、ディラン様への想いが溢れてくる。
そっと唇が重なるも、まだ日が高く部屋も明るい事が気になってしまうと、ディラン様は天蓋を下ろした。
私達はそのま口づけを繰り返して、愛し合った。
「ディラン様、愛しています」
名前を呼ばれるたびに、瞳が合うたびに、肌が触れ合うたびに胸がいっぱいになって、何度もディラン様の名前を呼んだ。
「リリー、私の方がずっと愛してる」
ディラン様は、そんな私を強く抱きしめた。
「え!?会社を設立?」
「そうだよ」
どうやらディラン様は、翻訳を主とした出版社を作ったらしい。
外国で話題になって舞台化されている恋愛小説や、私が最近好んで読んでいるミステリー小説は男性を中心に人気があり、翻訳が求められているという。
「五作品のオファーが来ているけど、どうする?」
その日から翻訳活動が始まった。
本に囲まれた素晴らしい部屋で、庭園を眺めながらペンを走らせ、気分転換でガゼボへ向かう。
もちろん翻訳活動ばかりしているわけではなく、公爵夫人としての仕事も行っている。
ただし社交は除いて。
ディラン様は二ヶ月に一度、王都に数日滞在するもの、それ以外は領地で仕事をしている。
隣同士の部屋で仕事をしていると部屋を結ぶ扉が開き、美しい笑顔でディラン様が現れて、いつも私の心臓は音を立てる。
《夕食まで待ちきれなくて、会いに来てしまったよ》
《つい二時間前もそう言っては・・・》
私の言葉は、大抵ディラン様の邪魔が入り続くことはない。
二人で庭園を歩き、ガゼボでお茶を飲んでボルコフ語で会話し、常に甘いディラン様に抱きしめられ、口づけをする。
そんな日々が続き半年が過ぎた頃、私は体調を崩す。
心配したディラン様は国中の医師を呼ぶ勢いの中、
「ご懐妊ですな」
医師の言葉に、目に涙を溜めて喜んでくれた。
自分の体にディラン様との赤ちゃんが、命が宿っていると思うと嬉しかった。
ディラン様は今までに輪をかけて過保護になり、仕事で王都へ行くのも放棄、私のそばを離れなくなった。
『おはよう』から『おやすみ』まで、毎日ディラン様と一緒にお腹に向かって話しかけた。
目立たなかったお腹は少しずつ大きくなり、初めて動いた時には、心配したディラン様が医師を呼ぶ騒ぎを起こした。
そしてーー
私は、ディラン様にそっくりな金の髪の男の子と女の子、二人の天使を出産した。
小さな小さな、温かい存在に、
涙が溢れた。
ディラン様は部屋へ入ってくるなり、私を優しく抱きしめた。
「リリーの苦しそうな声が聞こえてきて、気が気じゃなかった・・・」
震えているディラン様に大丈夫ですよ。と伝えて、小さな小さな天使達に目を向けると、ディラン様はハッとして固まった。
「抱いてみられますか?」
ディラン様は両腕に小さな天使を抱くと、二人を交互にじっと見つめて、目に涙を浮かべていた。
「リリー、ありがとう・・・」
微笑み合って、私達は抱き合った。
四人で抱き合って、私は今までに感じた事のない幸せを噛み締めた。
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