彼女があなたを思い出したから

MOMO-tank

文字の大きさ
上 下
41 / 46

第41話 フランチェスカ

しおりを挟む
「フランチェスカ、王宮に部屋をもらえるなんて、陛下に愛されているんだね」

お父様に褒められると嬉しかった。
エリオット様は夜会の途中に抜け出して、私とダンスも踊ってくれる。
最近は抱き合ったり、口づけをするようになった。
エリオット様は優しくて、一緒に居ると幸せで・・・
そのはずなのに、いつも胸がチクリと痛んでしまう。

お父様にそのことを話すと、「フランチェスカ、大丈夫だよ。きっと事故の後遺症で、まだ混乱してるだけさ」いつも安心させてくれる。
公爵家に戻ると不安は消えて、王宮に帰る。

ある日公爵家へ帰ると、マディソンという若い女性を紹介された。
マディソンは最近公爵家の養女となり、将来はエリオット様の側妃になるらしい。

「マディソンは執務を中心に、フランチェスカは陛下の寵愛を受けるんだ」

お父様や侍女は、王妃様はエリオット様に愛されていないと言う。
その通りだったみたいで、エリオット様に愛されている私にヤキモチを妬き、私付きの侍女が嫌がらせを受けていた。
震えている侍女を抱きしめた。


最近、エリオットがあまり姿を見せない。
すると、侍女は離宮に居るから行ってみてはどうかと言う。
でも・・・確か離宮は、エリオットに行ってはいけないと話をされていた。
分かってはいるものの、近頃お父様もマディソンも忙しそうで退屈していた私は、侍女の案内で離宮の奥へ向かった。
寂しそうな所だった。

『・・・こちらにはお通しできません』

『でも、エリオットが来ているでしょう?』

『パルディール前侯爵夫人、只今陛下は・・・・・・』

“パルディール前侯爵夫人”と呼ばれると、胸がチクリと痛む。

『エリオット!』

『ここへ来てはいけないと話したよね』

扉の向こうから現れたエリオットの姿を見ると、胸の痛みは飛んでいった。


◇◇◇

その日、王宮内がずいぶんと騒がしかった。

バンッ!
ノックも無しにいきなり扉が勢いよく開いたかと思うと、「ご同行願います」私と侍女は騎士によって連れ出された。
そして、向かった先の部屋で予想だにしないことを告げられる。

「フリオ・カミンスキー公爵が捕まった。
違法賭博場への出資、違法薬物売買・・・」

私は、道しるべを失ってしまった。


お父様は数年前から悪事を働いて、多くの貴族を食い物にしていた。
そして、王妃様の暗殺未遂。

信じられなかったし、信じたくなかった。
侍女はお父様と共謀し、王妃様を陥れようと悪い噂を流し、数々の嘘を吐いていた。
侍女は戻っては来なかった。
お父様は死罪が決定、カミンスキー公爵家は無くなると聞いた。

この頃から、頭の中に色々な記憶が流れて混乱し、訳が分からなくなることが増えていった。
不安でエリオットに会いたかったけれど、それも叶わずパルディール侯爵家へ帰された。
パルディール侯爵家を見ると、涙が溢れた。
混乱する頭の中に、ルパート様とアンリの姿が浮かんだ。
やがて家令が現れて・・・

気づいた時には手紙を手にして佇んでいた。


後悔している。
あらゆる事に。
でも、どうしてあの時、エリオットに修道院行きを勧められたのを断ってしまったのか。

お父様という、道しるべとなる人を失った私には、エリオットしか頼る人物がいなかったからなのか。
王宮を出されて、小さな家に使用人とひっそり暮らしていた。
不安に襲われる度にエリオットに手紙を書いては、たまに様子を見に来る側近に渡した。
この人まで失ったら・・・
一人になるのが怖かった。

そんなある日ーー 
側近以外は誰一人として訪れない場所に、来客が現れた。

「王女殿下がお呼びで御座います」

王妃様が病気になりエリオットと離婚。
その後、スパンディア王国の王女様がエリオットの婚約者になったのは知っていた。
馬車で揺られ、しばらく振りの王宮に降り立った。
まだ婚約者だった頃の、あの思い出の庭園に王女様は座っていた。
そして、愚かな私は自分の立場も弁えずに、可憐な王女様からの提案に頷いた。

なぜだろう。
捨てられるのが、怖かったから・・・?
もう、自分でもよく分からなかった。

約束の日、王宮へ向かった。
湯浴みを済ませてブルーの夜着に着替える。
部屋には甘い香が焚かれ、頭が少しぼんやりとしてくると、ベッドに眠るエリオットが目を覚ました。 
ハッとする表情のエリオットを見ていると、懐かしい日々が蘇る。

学園でいつも一緒に過ごした。
いつも私の喜びそうな贈り物を贈ってくれて。
夜会でダンスを踊った。
私を見つめる瞳は優しくて、大好きだった。
これからだったのに・・・。
まだ口づけだってしていなかった。
あの時の気持ちが溢れてくる。
 
「愛しているの・・・・・・」

やがて口づけをして・・・・・・

エリオットの口から『リリー』という言葉が囁かれ、私は部屋を出た。


すでに離宮には部屋が用意されていて、私は愛妾という立場になっていた。
エリオット様とはあれから会っていない。
今更ながら、どうしてこんな話に頷いてしまったのか後悔していた。

ここへ来て一週間を過ぎた辺りから、今までのように混乱することはほぼ無くなり、頭の中がずいぶんと整理されていた。
自分の浅ましさ、愚かさはよくわかっている。
でも、それと同時に違和感を感じていた。

事故に遭って、過去の記憶が戻ったからなのか。
また混乱は繰り返すのか。
医師の診察を受ける機会があったので、尋ねてみることにした。

すると翌日、ある人物が訪ねて来た。
エリオット様のお父様、前国王様だった。

そして、前国王様の口から、私がお父様によって薬物を摂取させられていたことが語られる。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

処理中です...