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第41話 フランチェスカ
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「フランチェスカ、王宮に部屋をもらえるなんて、陛下に愛されているんだね」
お父様に褒められると嬉しかった。
エリオット様は夜会の途中に抜け出して、私とダンスも踊ってくれる。
最近は抱き合ったり、口づけをするようになった。
エリオット様は優しくて、一緒に居ると幸せで・・・
そのはずなのに、いつも胸がチクリと痛んでしまう。
お父様にそのことを話すと、「フランチェスカ、大丈夫だよ。きっと事故の後遺症で、まだ混乱してるだけさ」いつも安心させてくれる。
公爵家に戻ると不安は消えて、王宮に帰る。
ある日公爵家へ帰ると、マディソンという若い女性を紹介された。
マディソンは最近公爵家の養女となり、将来はエリオット様の側妃になるらしい。
「マディソンは執務を中心に、フランチェスカは陛下の寵愛を受けるんだ」
お父様や侍女は、王妃様はエリオット様に愛されていないと言う。
その通りだったみたいで、エリオット様に愛されている私にヤキモチを妬き、私付きの侍女が嫌がらせを受けていた。
震えている侍女を抱きしめた。
最近、エリオットがあまり姿を見せない。
すると、侍女は離宮に居るから行ってみてはどうかと言う。
でも・・・確か離宮は、エリオットに行ってはいけないと話をされていた。
分かってはいるものの、近頃お父様もマディソンも忙しそうで退屈していた私は、侍女の案内で離宮の奥へ向かった。
寂しそうな所だった。
『・・・こちらにはお通しできません』
『でも、エリオットが来ているでしょう?』
『パルディール前侯爵夫人、只今陛下は・・・・・・』
“パルディール前侯爵夫人”と呼ばれると、胸がチクリと痛む。
『エリオット!』
『ここへ来てはいけないと話したよね』
扉の向こうから現れたエリオットの姿を見ると、胸の痛みは飛んでいった。
◇◇◇
その日、王宮内がずいぶんと騒がしかった。
バンッ!
ノックも無しにいきなり扉が勢いよく開いたかと思うと、「ご同行願います」私と侍女は騎士によって連れ出された。
そして、向かった先の部屋で予想だにしないことを告げられる。
「フリオ・カミンスキー公爵が捕まった。
違法賭博場への出資、違法薬物売買・・・」
私は、道しるべを失ってしまった。
お父様は数年前から悪事を働いて、多くの貴族を食い物にしていた。
そして、王妃様の暗殺未遂。
信じられなかったし、信じたくなかった。
侍女はお父様と共謀し、王妃様を陥れようと悪い噂を流し、数々の嘘を吐いていた。
侍女は戻っては来なかった。
お父様は死罪が決定、カミンスキー公爵家は無くなると聞いた。
この頃から、頭の中に色々な記憶が流れて混乱し、訳が分からなくなることが増えていった。
不安でエリオットに会いたかったけれど、それも叶わずパルディール侯爵家へ帰された。
パルディール侯爵家を見ると、涙が溢れた。
混乱する頭の中に、ルパート様とアンリの姿が浮かんだ。
やがて家令が現れて・・・
気づいた時には手紙を手にして佇んでいた。
後悔している。
あらゆる事に。
でも、どうしてあの時、エリオットに修道院行きを勧められたのを断ってしまったのか。
お父様という、道しるべとなる人を失った私には、エリオットしか頼る人物がいなかったからなのか。
王宮を出されて、小さな家に使用人とひっそり暮らしていた。
不安に襲われる度にエリオットに手紙を書いては、たまに様子を見に来る側近に渡した。
この人まで失ったら・・・
一人になるのが怖かった。
そんなある日ーー
側近以外は誰一人として訪れない場所に、来客が現れた。
「王女殿下がお呼びで御座います」
王妃様が病気になりエリオットと離婚。
その後、スパンディア王国の王女様がエリオットの婚約者になったのは知っていた。
馬車で揺られ、しばらく振りの王宮に降り立った。
まだ婚約者だった頃の、あの思い出の庭園に王女様は座っていた。
そして、愚かな私は自分の立場も弁えずに、可憐な王女様からの提案に頷いた。
なぜだろう。
捨てられるのが、怖かったから・・・?
もう、自分でもよく分からなかった。
約束の日、王宮へ向かった。
湯浴みを済ませてブルーの夜着に着替える。
部屋には甘い香が焚かれ、頭が少しぼんやりとしてくると、ベッドに眠るエリオットが目を覚ました。
ハッとする表情のエリオットを見ていると、懐かしい日々が蘇る。
学園でいつも一緒に過ごした。
いつも私の喜びそうな贈り物を贈ってくれて。
夜会でダンスを踊った。
私を見つめる瞳は優しくて、大好きだった。
これからだったのに・・・。
まだ口づけだってしていなかった。
あの時の気持ちが溢れてくる。
「愛しているの・・・・・・」
やがて口づけをして・・・・・・
エリオットの口から『リリー』という言葉が囁かれ、私は部屋を出た。
すでに離宮には部屋が用意されていて、私は愛妾という立場になっていた。
エリオット様とはあれから会っていない。
今更ながら、どうしてこんな話に頷いてしまったのか後悔していた。
ここへ来て一週間を過ぎた辺りから、今までのように混乱することはほぼ無くなり、頭の中がずいぶんと整理されていた。
自分の浅ましさ、愚かさはよくわかっている。
でも、それと同時に違和感を感じていた。
事故に遭って、過去の記憶が戻ったからなのか。
また混乱は繰り返すのか。
医師の診察を受ける機会があったので、尋ねてみることにした。
すると翌日、ある人物が訪ねて来た。
エリオット様のお父様、前国王様だった。
そして、前国王様の口から、私がお父様によって薬物を摂取させられていたことが語られる。
お父様に褒められると嬉しかった。
エリオット様は夜会の途中に抜け出して、私とダンスも踊ってくれる。
最近は抱き合ったり、口づけをするようになった。
エリオット様は優しくて、一緒に居ると幸せで・・・
そのはずなのに、いつも胸がチクリと痛んでしまう。
お父様にそのことを話すと、「フランチェスカ、大丈夫だよ。きっと事故の後遺症で、まだ混乱してるだけさ」いつも安心させてくれる。
公爵家に戻ると不安は消えて、王宮に帰る。
ある日公爵家へ帰ると、マディソンという若い女性を紹介された。
マディソンは最近公爵家の養女となり、将来はエリオット様の側妃になるらしい。
「マディソンは執務を中心に、フランチェスカは陛下の寵愛を受けるんだ」
お父様や侍女は、王妃様はエリオット様に愛されていないと言う。
その通りだったみたいで、エリオット様に愛されている私にヤキモチを妬き、私付きの侍女が嫌がらせを受けていた。
震えている侍女を抱きしめた。
最近、エリオットがあまり姿を見せない。
すると、侍女は離宮に居るから行ってみてはどうかと言う。
でも・・・確か離宮は、エリオットに行ってはいけないと話をされていた。
分かってはいるものの、近頃お父様もマディソンも忙しそうで退屈していた私は、侍女の案内で離宮の奥へ向かった。
寂しそうな所だった。
『・・・こちらにはお通しできません』
『でも、エリオットが来ているでしょう?』
『パルディール前侯爵夫人、只今陛下は・・・・・・』
“パルディール前侯爵夫人”と呼ばれると、胸がチクリと痛む。
『エリオット!』
『ここへ来てはいけないと話したよね』
扉の向こうから現れたエリオットの姿を見ると、胸の痛みは飛んでいった。
◇◇◇
その日、王宮内がずいぶんと騒がしかった。
バンッ!
ノックも無しにいきなり扉が勢いよく開いたかと思うと、「ご同行願います」私と侍女は騎士によって連れ出された。
そして、向かった先の部屋で予想だにしないことを告げられる。
「フリオ・カミンスキー公爵が捕まった。
違法賭博場への出資、違法薬物売買・・・」
私は、道しるべを失ってしまった。
お父様は数年前から悪事を働いて、多くの貴族を食い物にしていた。
そして、王妃様の暗殺未遂。
信じられなかったし、信じたくなかった。
侍女はお父様と共謀し、王妃様を陥れようと悪い噂を流し、数々の嘘を吐いていた。
侍女は戻っては来なかった。
お父様は死罪が決定、カミンスキー公爵家は無くなると聞いた。
この頃から、頭の中に色々な記憶が流れて混乱し、訳が分からなくなることが増えていった。
不安でエリオットに会いたかったけれど、それも叶わずパルディール侯爵家へ帰された。
パルディール侯爵家を見ると、涙が溢れた。
混乱する頭の中に、ルパート様とアンリの姿が浮かんだ。
やがて家令が現れて・・・
気づいた時には手紙を手にして佇んでいた。
後悔している。
あらゆる事に。
でも、どうしてあの時、エリオットに修道院行きを勧められたのを断ってしまったのか。
お父様という、道しるべとなる人を失った私には、エリオットしか頼る人物がいなかったからなのか。
王宮を出されて、小さな家に使用人とひっそり暮らしていた。
不安に襲われる度にエリオットに手紙を書いては、たまに様子を見に来る側近に渡した。
この人まで失ったら・・・
一人になるのが怖かった。
そんなある日ーー
側近以外は誰一人として訪れない場所に、来客が現れた。
「王女殿下がお呼びで御座います」
王妃様が病気になりエリオットと離婚。
その後、スパンディア王国の王女様がエリオットの婚約者になったのは知っていた。
馬車で揺られ、しばらく振りの王宮に降り立った。
まだ婚約者だった頃の、あの思い出の庭園に王女様は座っていた。
そして、愚かな私は自分の立場も弁えずに、可憐な王女様からの提案に頷いた。
なぜだろう。
捨てられるのが、怖かったから・・・?
もう、自分でもよく分からなかった。
約束の日、王宮へ向かった。
湯浴みを済ませてブルーの夜着に着替える。
部屋には甘い香が焚かれ、頭が少しぼんやりとしてくると、ベッドに眠るエリオットが目を覚ました。
ハッとする表情のエリオットを見ていると、懐かしい日々が蘇る。
学園でいつも一緒に過ごした。
いつも私の喜びそうな贈り物を贈ってくれて。
夜会でダンスを踊った。
私を見つめる瞳は優しくて、大好きだった。
これからだったのに・・・。
まだ口づけだってしていなかった。
あの時の気持ちが溢れてくる。
「愛しているの・・・・・・」
やがて口づけをして・・・・・・
エリオットの口から『リリー』という言葉が囁かれ、私は部屋を出た。
すでに離宮には部屋が用意されていて、私は愛妾という立場になっていた。
エリオット様とはあれから会っていない。
今更ながら、どうしてこんな話に頷いてしまったのか後悔していた。
ここへ来て一週間を過ぎた辺りから、今までのように混乱することはほぼ無くなり、頭の中がずいぶんと整理されていた。
自分の浅ましさ、愚かさはよくわかっている。
でも、それと同時に違和感を感じていた。
事故に遭って、過去の記憶が戻ったからなのか。
また混乱は繰り返すのか。
医師の診察を受ける機会があったので、尋ねてみることにした。
すると翌日、ある人物が訪ねて来た。
エリオット様のお父様、前国王様だった。
そして、前国王様の口から、私がお父様によって薬物を摂取させられていたことが語られる。
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