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第39話 エリオット
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「愛妾様に使用された毒物は大変刺激の強いものです。
口にしたのが少量だったので、お命に別状ありません。
ただ・・・声を失ってしまう可能性が大きいかと」
見舞いに行くと、顔色は悪く少し窶れていた。
声を出せないので、紙とペンを渡して筆談を試みるも、[大丈夫]と一言しか返してくれない。
フランに毒を盛った護衛騎士の婚約者は捕らえられたものの、『婚約者のいる護衛騎士を誘惑する女が悪い』『婚約者はむしろ被害者』と同情の声があまりに多く集まり、罪を問われる代わりに修道院行きが決定した。
「いや、おかしいだろう。
フランは、毒を盛られたんだ。
それに、二人が不貞をしていたのは事実とは言えない。ただの噂だ」
抗議するも、誰一人として目を合わせる者はなかった。
宰相までもが、気まずそうにしている。
そして、聞こえてきたのは、私達の噂話だった。
『自分達は不貞から始まって、前王妃様に酷い扱いをしておいて』
『あの二人が前王妃様に残り物の食事を出して、体調を崩されたのよ』
『バチが当たったんだ。
あの愛妾が修道院へ行けばいい』
耳が痛かった。
その通りだったから。
リリーに酷いことをした・・・・・・。
リリーはずっと悪意ある噂話をされて、今の自分とは比べものにならない位に辛かったはず。
フランはここで過ごすより、修道院の方がゆっくり過ごせるかも知れない。
でも、そんな提案は王妃のひと言で言葉になることはなかった。
「真実の愛で結ばれている二人を離れ離れになんて出来ないわ」
◇◇◇
「カートライト様、カートライト様、酷いわ。
どうして、あの女性のところへ行くの?」
「わたくし、二人が口づけしているのを見たの」
「なぜあの女性が、あなたを愛称で呼んでるの?」
寝室では、カートライトになり切って返事をしないと、このような話がずっと続く。
「ごめん、リリ」
「リリ、済まなかった。
本当に愛しているのは君なんだ」
カートライトと自分が重なり、自分がしてきたリリーへの数々の行いを思い出すと、後悔の念に苛まれる。
「カートライト様、あなたの真実の愛のお相手の女性、声が出せなくなったの?
可哀想に・・・」
「カートライト様、今度は平民女性と宿屋という所へ行かれたの?
どうして?
私だけを愛してると仰ってたのに」
王妃は、公務先で私と挨拶を交わした平民女性を愛妾として迎え入れた。
周りに異を唱えても、王妃が『陛下が見初められたから・・・。真実のお相手に無理はさせられないから、仕方がないですわ』涙目で訴えればそれが真実になる。
女性と関係を持つつもりなんて無かった。
でも、女性は「抱いてもらわないと困るんです!お願いします!この通りです!」床に頭をつけて頼みこみ、両親や兄妹の名前をしきりに呼んでいる。
脅されているのは明らかだった。
震えている女性が落ち着くと、優しく抱きしめた。
「カートライト様!夜会でわたくしの目を盗んで、伯爵令嬢と逢瀬を重ねていらっしゃいますね。
わたくしが大人になるまで、他の女性には指一本触れないと何度も囁かれていたのに!」
「リリ、違うんだ。あれは・・・」
「済まない・・・本当に、済まない」
カートライトになり切って返事をしないと、『あの平民は、どうして居なくなってしまったのだったかしら・・・?』そう言って見つめてくる。
その色の無い瞳が語っている。
『お前がしっかりしないと、あいつらがどうなると思う?』
数日後、夜会で知り合いの令息の妹君に会釈した。
たったそれだけだ。
十日後には、王妃は伯爵令嬢を側室として迎えた。
「陛下は以前から令嬢を素敵だ。と何度も話しておりまして・・・。
わたくし・・・本当は・・・っ」
誰もが王妃の味方で、既に私は好色な国王に成り下がっていた。
“カートライト”から離れられる執務の時間が唯一の息抜きだった。
「陛下、執務ですが、王妃様とご一緒に処理されれば時間も短縮されるかと?」
「まぁ、素晴らしい考えね。
さすが宰相だわ!」
それすら無くなり、常に王妃に監視される日々が始まる。
『ねぇ、カートライト様!』
『カートライト様が・・・』
『カートライト様、どうして・・・』
カートライト、カートライト、
頭がおかしくなりそうだった。
次第に集中力が欠けてくる。
そんな私の分まで執務をこなす王妃に、誰もが称賛する。
リリーが恋しかった。
リリー、ごめん。
君を愛していたのに・・・本当にごめん。
リリーと過ごした、ひだまりのような穏やかな日々を思い出す。
リリー・・・君に会いたいよ。
「・・・・・・ライト様!カートライト様!
わたくしのお話、聞いてくださいまし!」
「・・・ああ、済まない。リリー」
「リリー?」
「リリ、申し訳ない。その・・・」
「わたくしという者がありながら、他の女の名前を呼ぶなんて!
その女、今すぐに消して「リリ、リリ、それだけは、それだけは。何でも君の言う通りにするから、頼むから、それだけはやめてくれ」」
「ふ~ん・・・何でもするのね。
それじゃあ・・・・・・」
・・・そういえば、いつだったか叔父上に言われた言葉が頭をよぎる。
『お前を、お前を一生許さない』
『せいぜい上手く演じろ』
この怪物と一生・・・・・・
「カートライト様!
遠征先で女騎士と何度も夜を過ごしたと聞いて、でも、わたくしはカートライト様を信じておりました。
・・・なのに、本当だったんですね」
あれから王妃は、私が女騎士と接触するのをじっと待っている。
そんな時、護衛の一人が怪我をした。
その代わりの騎士が真っ直ぐ歩いて来る。
美しい銀髪をまとめた騎士に思わず眉を顰める。
「陛下、妃殿下、本日はよろしくお願いいたします」
頭を下げる女騎士を見て、王妃は誰も気づかない程度に口角をほんの少し上げて微笑んだ。
口にしたのが少量だったので、お命に別状ありません。
ただ・・・声を失ってしまう可能性が大きいかと」
見舞いに行くと、顔色は悪く少し窶れていた。
声を出せないので、紙とペンを渡して筆談を試みるも、[大丈夫]と一言しか返してくれない。
フランに毒を盛った護衛騎士の婚約者は捕らえられたものの、『婚約者のいる護衛騎士を誘惑する女が悪い』『婚約者はむしろ被害者』と同情の声があまりに多く集まり、罪を問われる代わりに修道院行きが決定した。
「いや、おかしいだろう。
フランは、毒を盛られたんだ。
それに、二人が不貞をしていたのは事実とは言えない。ただの噂だ」
抗議するも、誰一人として目を合わせる者はなかった。
宰相までもが、気まずそうにしている。
そして、聞こえてきたのは、私達の噂話だった。
『自分達は不貞から始まって、前王妃様に酷い扱いをしておいて』
『あの二人が前王妃様に残り物の食事を出して、体調を崩されたのよ』
『バチが当たったんだ。
あの愛妾が修道院へ行けばいい』
耳が痛かった。
その通りだったから。
リリーに酷いことをした・・・・・・。
リリーはずっと悪意ある噂話をされて、今の自分とは比べものにならない位に辛かったはず。
フランはここで過ごすより、修道院の方がゆっくり過ごせるかも知れない。
でも、そんな提案は王妃のひと言で言葉になることはなかった。
「真実の愛で結ばれている二人を離れ離れになんて出来ないわ」
◇◇◇
「カートライト様、カートライト様、酷いわ。
どうして、あの女性のところへ行くの?」
「わたくし、二人が口づけしているのを見たの」
「なぜあの女性が、あなたを愛称で呼んでるの?」
寝室では、カートライトになり切って返事をしないと、このような話がずっと続く。
「ごめん、リリ」
「リリ、済まなかった。
本当に愛しているのは君なんだ」
カートライトと自分が重なり、自分がしてきたリリーへの数々の行いを思い出すと、後悔の念に苛まれる。
「カートライト様、あなたの真実の愛のお相手の女性、声が出せなくなったの?
可哀想に・・・」
「カートライト様、今度は平民女性と宿屋という所へ行かれたの?
どうして?
私だけを愛してると仰ってたのに」
王妃は、公務先で私と挨拶を交わした平民女性を愛妾として迎え入れた。
周りに異を唱えても、王妃が『陛下が見初められたから・・・。真実のお相手に無理はさせられないから、仕方がないですわ』涙目で訴えればそれが真実になる。
女性と関係を持つつもりなんて無かった。
でも、女性は「抱いてもらわないと困るんです!お願いします!この通りです!」床に頭をつけて頼みこみ、両親や兄妹の名前をしきりに呼んでいる。
脅されているのは明らかだった。
震えている女性が落ち着くと、優しく抱きしめた。
「カートライト様!夜会でわたくしの目を盗んで、伯爵令嬢と逢瀬を重ねていらっしゃいますね。
わたくしが大人になるまで、他の女性には指一本触れないと何度も囁かれていたのに!」
「リリ、違うんだ。あれは・・・」
「済まない・・・本当に、済まない」
カートライトになり切って返事をしないと、『あの平民は、どうして居なくなってしまったのだったかしら・・・?』そう言って見つめてくる。
その色の無い瞳が語っている。
『お前がしっかりしないと、あいつらがどうなると思う?』
数日後、夜会で知り合いの令息の妹君に会釈した。
たったそれだけだ。
十日後には、王妃は伯爵令嬢を側室として迎えた。
「陛下は以前から令嬢を素敵だ。と何度も話しておりまして・・・。
わたくし・・・本当は・・・っ」
誰もが王妃の味方で、既に私は好色な国王に成り下がっていた。
“カートライト”から離れられる執務の時間が唯一の息抜きだった。
「陛下、執務ですが、王妃様とご一緒に処理されれば時間も短縮されるかと?」
「まぁ、素晴らしい考えね。
さすが宰相だわ!」
それすら無くなり、常に王妃に監視される日々が始まる。
『ねぇ、カートライト様!』
『カートライト様が・・・』
『カートライト様、どうして・・・』
カートライト、カートライト、
頭がおかしくなりそうだった。
次第に集中力が欠けてくる。
そんな私の分まで執務をこなす王妃に、誰もが称賛する。
リリーが恋しかった。
リリー、ごめん。
君を愛していたのに・・・本当にごめん。
リリーと過ごした、ひだまりのような穏やかな日々を思い出す。
リリー・・・君に会いたいよ。
「・・・・・・ライト様!カートライト様!
わたくしのお話、聞いてくださいまし!」
「・・・ああ、済まない。リリー」
「リリー?」
「リリ、申し訳ない。その・・・」
「わたくしという者がありながら、他の女の名前を呼ぶなんて!
その女、今すぐに消して「リリ、リリ、それだけは、それだけは。何でも君の言う通りにするから、頼むから、それだけはやめてくれ」」
「ふ~ん・・・何でもするのね。
それじゃあ・・・・・・」
・・・そういえば、いつだったか叔父上に言われた言葉が頭をよぎる。
『お前を、お前を一生許さない』
『せいぜい上手く演じろ』
この怪物と一生・・・・・・
「カートライト様!
遠征先で女騎士と何度も夜を過ごしたと聞いて、でも、わたくしはカートライト様を信じておりました。
・・・なのに、本当だったんですね」
あれから王妃は、私が女騎士と接触するのをじっと待っている。
そんな時、護衛の一人が怪我をした。
その代わりの騎士が真っ直ぐ歩いて来る。
美しい銀髪をまとめた騎士に思わず眉を顰める。
「陛下、妃殿下、本日はよろしくお願いいたします」
頭を下げる女騎士を見て、王妃は誰も気づかない程度に口角をほんの少し上げて微笑んだ。
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