彼女があなたを思い出したから

MOMO-tank

文字の大きさ
上 下
37 / 46

第37話 エリオット

しおりを挟む
まだ二十歳のリリアージュ王女は笑顔を絶やさず、誰にでも気さくに振る舞う。
父上の話し通りに今回の三日間という訪問には侍女、護衛の姿は見当たらず、国境で待機していると聞いた。

「まぁ、素敵な庭園だわ」
「助かりますわ。ありがとう」 
「美味しいわ。わたくし、ルボア王国のお料理、特にデザートが大好き」

鈴を転がすように笑うリリアージュ王女が本当に“裏の顔”を持つのか、にわかに信じがたかった。
聞き上手で、表情や物腰が柔らかい。
そして、自分の考えもしっかり発言する。
夜会での身のこなし、ダンス、立ち振る舞いは美しく、誰もがリリアージュ王女に釘づけだった。

庭園でのお茶会、夜会、晩餐会を終え、リリアージュ王女は晴れやかで可憐な印象を残して国へ帰り、三ヶ月後には正式な婚約者としてやって来た。

「陛下、よろしくお願いいたします」

「王女、こちらこそよろしく頼む」

リリアージュ王女は婚約後このままこの国で生活をし、三ヶ月後に結婚となる。

フランは王都に用意した小さな屋敷で暮らしている。
あの日からは、ほぼ側近を通してのやり取りで、直接フランと顔を合わせたのは二度だけだ。
フランからはよく手紙が送られてくるが、もう会うつもりはなかった。
今まで恋人のように過ごしていて、いきなり態度を変えたことは悪いとは思っている。
でも、自分の今までの行いを悔い、国王として新たな王妃を迎える今、フランとの関係は終わらせるべきだと決断した。
フランにも直接伝えた。
涙を流していたが、手紙も受け取らないと。
居場所を失った彼女の支援は続けて行く予定だ。

恐らく知っていることを承知のうえで、婚約者である王女にフランの話をした。
身寄りのない元婚約者に支援は続けるが、もう決して会わないと。
すると、予想外の言葉が返ってきた。

「陛下、わたくしは真実の愛で結ばれている恋人同士を引き裂くなど出来ませんわ」

「いや、そんなものでは無い。
愚かな私が勘違いをして「陛下、否定なさらないでくださいまし。
頼りなく見えるかも知れませんが、わたくしは王女です。
陛下が愛妾を持つことにも、決して反対などいたしませんわ」」

「いや、本当に違うんだ」

この時から、王女と話が噛み合っていなかった。
それが形として現れたのは、王女とのお茶会の席でのことだ。

「今日は、素敵な方をお連れしましたの」

王女が手を引いていたのは、フランだった。
なぜフランがここに。
それに、どうやってフランの居場所を知ったのか・・・。
フランの屋敷を知る者は、側近のみ。

「・・・・・・エリオット」
 
「そんな顔なさらないで下さい。
フランチェスカさんが怯えてしまいますわ。
以前にもお話しましたが、わたくし、お二人を引き裂くようなことしたくありませんの」

「王女、引き裂くも何も私とフランチェスカ嬢はそういった関係ではないと伝えたはずだが」

「まぁ・・・そんな冷たいこと仰ったら、ああ、フランチェスカさんが泣いてしまわれそうですわ」

フランに目を向ければ、確かに目に涙を浮かべている。
王女は侍女に何か告げると、ハンカチを受け取ったフランが涙を拭き始めた。

「わたくし、フランチェスカさんに陛下へのお気持ちを聞きましたの。
そして、決心いたしました。
どうぞ、フランチェスカさんを愛妾として迎えてくださいまし」

「・・・・・・いや、だから違うんだ」

私の声など耳に入っていないようだった。

それからも愛妾は望んでいないと、フランとは真実の愛でも何でもないと王女に伝えたが、まるで聞く耳を持たない。
そして、知らないところで王女は宰相をも巻き込んでいた。

私がいくら説明しても過去の行動が真実とみなされ、周りは真実の愛を応援する健気な王女の味方になっていた。

「結婚前に愛妾を持つことに罪悪感を感じているのですね。
でも、わたくしは大丈夫です。
真実の愛のお相手、フランチェスカさんを安心させてあげて下さい。
・・・・・・このワインは、スパンディア王国では特別な夜に飲むワインでございます」

その夜、王女と夕食後にワインを飲んでいた。
そこまでは覚えている。


目を開けると、ベッドに寝ているようだった。
少し甘い香の香りに違和感を感じ体を起こすと、人の姿が目に入る。  

「・・・エリオット」

「フラン、なぜここに・・・」

「なぜって・・・、エリオット・・・」

ゆっくりとフランが近づいてくる。
プラチナブロンドの髪を下ろし、淡いブルーの夜着を身につけ、瞳は潤んでいる。

「愛しているの・・・・・・」

一度は失ったはずの女性が目の前にいる。
やがてフランの顔が近づき、唇が重なって、夜着越しに口づけを落としていく。


・・・愛してる。
君を愛してる。

・・・リリー
・・・・・・リリー


「リリー・・・愛してる」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

処理中です...