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第37話 エリオット
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まだ二十歳のリリアージュ王女は笑顔を絶やさず、誰にでも気さくに振る舞う。
父上の話し通りに今回の三日間という訪問には侍女、護衛の姿は見当たらず、国境で待機していると聞いた。
「まぁ、素敵な庭園だわ」
「助かりますわ。ありがとう」
「美味しいわ。わたくし、ルボア王国のお料理、特にデザートが大好き」
鈴を転がすように笑うリリアージュ王女が本当に“裏の顔”を持つのか、にわかに信じがたかった。
聞き上手で、表情や物腰が柔らかい。
そして、自分の考えもしっかり発言する。
夜会での身のこなし、ダンス、立ち振る舞いは美しく、誰もがリリアージュ王女に釘づけだった。
庭園でのお茶会、夜会、晩餐会を終え、リリアージュ王女は晴れやかで可憐な印象を残して国へ帰り、三ヶ月後には正式な婚約者としてやって来た。
「陛下、よろしくお願いいたします」
「王女、こちらこそよろしく頼む」
リリアージュ王女は婚約後このままこの国で生活をし、三ヶ月後に結婚となる。
フランは王都に用意した小さな屋敷で暮らしている。
あの日からは、ほぼ側近を通してのやり取りで、直接フランと顔を合わせたのは二度だけだ。
フランからはよく手紙が送られてくるが、もう会うつもりはなかった。
今まで恋人のように過ごしていて、いきなり態度を変えたことは悪いとは思っている。
でも、自分の今までの行いを悔い、国王として新たな王妃を迎える今、フランとの関係は終わらせるべきだと決断した。
フランにも直接伝えた。
涙を流していたが、手紙も受け取らないと。
居場所を失った彼女の支援は続けて行く予定だ。
恐らく知っていることを承知のうえで、婚約者である王女にフランの話をした。
身寄りのない元婚約者に支援は続けるが、もう決して会わないと。
すると、予想外の言葉が返ってきた。
「陛下、わたくしは真実の愛で結ばれている恋人同士を引き裂くなど出来ませんわ」
「いや、そんなものでは無い。
愚かな私が勘違いをして「陛下、否定なさらないでくださいまし。
頼りなく見えるかも知れませんが、わたくしは王女です。
陛下が愛妾を持つことにも、決して反対などいたしませんわ」」
「いや、本当に違うんだ」
この時から、王女と話が噛み合っていなかった。
それが形として現れたのは、王女とのお茶会の席でのことだ。
「今日は、素敵な方をお連れしましたの」
王女が手を引いていたのは、フランだった。
なぜフランがここに。
それに、どうやってフランの居場所を知ったのか・・・。
フランの屋敷を知る者は、側近のみ。
「・・・・・・エリオット」
「そんな顔なさらないで下さい。
フランチェスカさんが怯えてしまいますわ。
以前にもお話しましたが、わたくし、お二人を引き裂くようなことしたくありませんの」
「王女、引き裂くも何も私とフランチェスカ嬢はそういった関係ではないと伝えたはずだが」
「まぁ・・・そんな冷たいこと仰ったら、ああ、フランチェスカさんが泣いてしまわれそうですわ」
フランに目を向ければ、確かに目に涙を浮かべている。
王女は侍女に何か告げると、ハンカチを受け取ったフランが涙を拭き始めた。
「わたくし、フランチェスカさんに陛下へのお気持ちを聞きましたの。
そして、決心いたしました。
どうぞ、フランチェスカさんを愛妾として迎えてくださいまし」
「・・・・・・いや、だから違うんだ」
私の声など耳に入っていないようだった。
それからも愛妾は望んでいないと、フランとは真実の愛でも何でもないと王女に伝えたが、まるで聞く耳を持たない。
そして、知らないところで王女は宰相をも巻き込んでいた。
私がいくら説明しても過去の行動が真実とみなされ、周りは真実の愛を応援する健気な王女の味方になっていた。
「結婚前に愛妾を持つことに罪悪感を感じているのですね。
でも、わたくしは大丈夫です。
真実の愛のお相手、フランチェスカさんを安心させてあげて下さい。
・・・・・・このワインは、スパンディア王国では特別な夜に飲むワインでございます」
その夜、王女と夕食後にワインを飲んでいた。
そこまでは覚えている。
目を開けると、ベッドに寝ているようだった。
少し甘い香の香りに違和感を感じ体を起こすと、人の姿が目に入る。
「・・・エリオット」
「フラン、なぜここに・・・」
「なぜって・・・、エリオット・・・」
ゆっくりとフランが近づいてくる。
プラチナブロンドの髪を下ろし、淡いブルーの夜着を身につけ、瞳は潤んでいる。
「愛しているの・・・・・・」
一度は失ったはずの女性が目の前にいる。
やがてフランの顔が近づき、唇が重なって、夜着越しに口づけを落としていく。
・・・愛してる。
君を愛してる。
・・・リリー
・・・・・・リリー
「リリー・・・愛してる」
父上の話し通りに今回の三日間という訪問には侍女、護衛の姿は見当たらず、国境で待機していると聞いた。
「まぁ、素敵な庭園だわ」
「助かりますわ。ありがとう」
「美味しいわ。わたくし、ルボア王国のお料理、特にデザートが大好き」
鈴を転がすように笑うリリアージュ王女が本当に“裏の顔”を持つのか、にわかに信じがたかった。
聞き上手で、表情や物腰が柔らかい。
そして、自分の考えもしっかり発言する。
夜会での身のこなし、ダンス、立ち振る舞いは美しく、誰もがリリアージュ王女に釘づけだった。
庭園でのお茶会、夜会、晩餐会を終え、リリアージュ王女は晴れやかで可憐な印象を残して国へ帰り、三ヶ月後には正式な婚約者としてやって来た。
「陛下、よろしくお願いいたします」
「王女、こちらこそよろしく頼む」
リリアージュ王女は婚約後このままこの国で生活をし、三ヶ月後に結婚となる。
フランは王都に用意した小さな屋敷で暮らしている。
あの日からは、ほぼ側近を通してのやり取りで、直接フランと顔を合わせたのは二度だけだ。
フランからはよく手紙が送られてくるが、もう会うつもりはなかった。
今まで恋人のように過ごしていて、いきなり態度を変えたことは悪いとは思っている。
でも、自分の今までの行いを悔い、国王として新たな王妃を迎える今、フランとの関係は終わらせるべきだと決断した。
フランにも直接伝えた。
涙を流していたが、手紙も受け取らないと。
居場所を失った彼女の支援は続けて行く予定だ。
恐らく知っていることを承知のうえで、婚約者である王女にフランの話をした。
身寄りのない元婚約者に支援は続けるが、もう決して会わないと。
すると、予想外の言葉が返ってきた。
「陛下、わたくしは真実の愛で結ばれている恋人同士を引き裂くなど出来ませんわ」
「いや、そんなものでは無い。
愚かな私が勘違いをして「陛下、否定なさらないでくださいまし。
頼りなく見えるかも知れませんが、わたくしは王女です。
陛下が愛妾を持つことにも、決して反対などいたしませんわ」」
「いや、本当に違うんだ」
この時から、王女と話が噛み合っていなかった。
それが形として現れたのは、王女とのお茶会の席でのことだ。
「今日は、素敵な方をお連れしましたの」
王女が手を引いていたのは、フランだった。
なぜフランがここに。
それに、どうやってフランの居場所を知ったのか・・・。
フランの屋敷を知る者は、側近のみ。
「・・・・・・エリオット」
「そんな顔なさらないで下さい。
フランチェスカさんが怯えてしまいますわ。
以前にもお話しましたが、わたくし、お二人を引き裂くようなことしたくありませんの」
「王女、引き裂くも何も私とフランチェスカ嬢はそういった関係ではないと伝えたはずだが」
「まぁ・・・そんな冷たいこと仰ったら、ああ、フランチェスカさんが泣いてしまわれそうですわ」
フランに目を向ければ、確かに目に涙を浮かべている。
王女は侍女に何か告げると、ハンカチを受け取ったフランが涙を拭き始めた。
「わたくし、フランチェスカさんに陛下へのお気持ちを聞きましたの。
そして、決心いたしました。
どうぞ、フランチェスカさんを愛妾として迎えてくださいまし」
「・・・・・・いや、だから違うんだ」
私の声など耳に入っていないようだった。
それからも愛妾は望んでいないと、フランとは真実の愛でも何でもないと王女に伝えたが、まるで聞く耳を持たない。
そして、知らないところで王女は宰相をも巻き込んでいた。
私がいくら説明しても過去の行動が真実とみなされ、周りは真実の愛を応援する健気な王女の味方になっていた。
「結婚前に愛妾を持つことに罪悪感を感じているのですね。
でも、わたくしは大丈夫です。
真実の愛のお相手、フランチェスカさんを安心させてあげて下さい。
・・・・・・このワインは、スパンディア王国では特別な夜に飲むワインでございます」
その夜、王女と夕食後にワインを飲んでいた。
そこまでは覚えている。
目を開けると、ベッドに寝ているようだった。
少し甘い香の香りに違和感を感じ体を起こすと、人の姿が目に入る。
「・・・エリオット」
「フラン、なぜここに・・・」
「なぜって・・・、エリオット・・・」
ゆっくりとフランが近づいてくる。
プラチナブロンドの髪を下ろし、淡いブルーの夜着を身につけ、瞳は潤んでいる。
「愛しているの・・・・・・」
一度は失ったはずの女性が目の前にいる。
やがてフランの顔が近づき、唇が重なって、夜着越しに口づけを落としていく。
・・・愛してる。
君を愛してる。
・・・リリー
・・・・・・リリー
「リリー・・・愛してる」
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