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第35話 エリオット

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「父上!
ここから出して下さい!」

あれから父上に自室へと連れて行かれた。
父上直属の護衛四名に見張られているのは、うっすら感じていた。
しばらくの間放心状態が続いたが、我に帰り状況を思い出した。
今すぐ、あんな食事を王妃リリーに出した人間を炙り出さなくてはならない。

「お前はここにいるんだ!」

「そんなこと!
私は国王です!王妃の食事の件と、早急に襲った人間の特定を!」

「・・・ディランに任せるんだ」

父上は息を吐くと、叔父上の名前を出した。
叔父上にだって・・・?
叔父上にそんな権限は無い。
すると、私の心情を察したかのようにこちらを見た。

「私と現在の王位継承第一位のディランが同意すれば、国王を一時的に監視下に置けるのは知っているだろう」

監視下だって・・・?

「後で判る。
今は大人しく執務でもしておくんだ」

自分の行動がきっかけで、王妃リリーをあんな目に合わせてしまったのは理解している。
冷静に考えれば、フランのことも。

でも、それだけで監視下とは納得がいかなかったが、その理由を数時間後に知ることになる。

「カミンスキー公爵が捕えられた。
王妃暗殺を企てた首謀者、違法賭博場への出資、違法薬物売買。
罪状は追加される可能性が高い」

耳を疑った。
カミンスキー公爵が王妃リリーを・・・・・・ 。
親しくしていた、フランの父上である公爵が、王妃リリーを・・・。
しかも、違法賭博場への出資に違法薬物・・・?
 
自分はいったい、何を見ていたんだ。  


「王妃への食事に関与した者は地下牢だ。
食事は、泥水とネズミが齧ったパンのみを与えている。
カミンスキーの息のかかった侍女が中心に行ったらしい。
お前とパルディール前公爵夫人を応援し、噂も流していた。
この女は独房で自白剤を打たれている」

「父上!離宮のあの部屋に食事を運んでいた侍女は?
王妃リリーと約束したんです。
あの侍女を罪に問わないと」

「一応話してはみるが、それはお前と王妃の約束だろう。
ディラン次第だが、難しいだろうな。
厨房で剣を抜くほどだ。
カミンスキーは、取り調べ中。
死罪と、公爵家取り潰しは決定している」

地下牢、泥水、ネズミが齧ったパン、独房で自白剤、厨房で剣・・・

いきなり部屋へ入ってくるなり、叔父上に殴られたことを思い出す。
その時の冷たい視線。

それとは対照的ともいえる王妃リリーに向けられる優しげな眼差し。
離宮での姿。

普段からは想像出来ない行動と姿は、リリーを傷つけたから。 
叔父上は、リリーを・・・・・・。


それに引き換え、自分は罪人であるカミンスキー公爵と親しくしていた国王か・・・。

ーー退位
その二文字を頭に浮かべながら執務をひらすら行った。
今自分に出来るのは、これしかない。

なのに、父上からは予想外の話を聞く。

「カミンスキーによって多くの貴族が没落寸前に追いやられ、融資という言葉で奴の言いなりになっていた。
養女の側妃候補、マディソン嬢の実家、ホール伯爵家もその被害に遭った貴族のひとつだ。
カミンスキーは、側妃を養女、愛妾を実子とすることで、新たな権力を手に入れようとしていた」

自分はカミンスキーにとって傀儡にするには打って付けだったのか。
あまりの情けなさに、笑えてくる。

「そんな貴族の救済処置、制度、あとは国王と王妃の離婚に向けて動いている」

国王と王妃との離婚・・・?

「・・・私は退位するんじゃ?」

「国王を続ける。
あと、これを」

父上に渡されたのは、しわが寄ったカードだった。

[話をしたい。
エーデルワイスの間に来て欲しい。
エリオット]

筆跡は自分のものによく似ている。
それと同時に、カードに書かれた内容に心臓が音を立てる。

エーデルワイスの間でしていた事。
そして、このカードは誰宛てであったか。
容易に予想はつく。 

「これは恋人を盾にカミンスキーに脅されていた令息が書かされたものだ。
このカードを王妃に渡した侍女もカミンスキーに命じられていた」

王妃にーー
じゃあ、それじゃあ、リリーは見たのか?
エーデルワイスの間を・・・・・・。
胸に、重苦しいものが広がっていく。

「そんな顔をしても遅い。
側近にもディランにも苦言を呈されていただろう。
それに耳も貸さずに行動した結果だ。

離婚が成立すれば、お前は王妃を迎える。
記憶が戻った元婚約者を王宮に置くのは正しいか、自分でよく考えろ」

フランのことよりも、王妃リリーとの離婚。
その言葉で頭でいっぱいになる。

「・・・離婚は、離婚は成立すると、父上はお考えですか?」

「勿論だ。
カミンスキーが罪人となった今、寝返る貴族も多い。
それに、お前はディランを怒らせた」

少し昔話になるが聞きたいか?
父上の問いかけに頷くと、お茶を飲み、ひと息ついてから話し始めた。

「ディランは幼い頃から優秀で、父上からも目を掛けられていた。
でも、聡いディランは自分が目立つ事で生まれる火種を理解し、少しずつそれらを隠すようになった。
まぁ、ディランは父上を嫌っていたから反発心も大きかったのかも知れない。
父上は国王としては優秀だったが好色な人物で、側妃や愛妾を離宮に数人は置いていた。
そして、母上は辛い思いをしていた。

ある時、平民女性に入れ込んだ父上は女性を離宮に住まわせた。
たが、女性は何度も脱走を試みた。
きっと同意の上ではなかったのだろう。
父上は逃げられないように部屋に鉄格子を付け、内鍵を撤去した。
何年囲っていただろう。
時期に父上は病にかかり、女性に興味を示さなくなった。
でも父上が病にかかる前に、母上は心を壊していた。

ディランが離宮を、あの部屋を嫌うのにはそんな理由がある。
あの部屋に関しては父上亡き後取り壊す予定だったが、私の失態で残っていた。
そこに、王妃を閉じ込めたんだ。

髪を伸ばし、無精髭を生やしているのは、父上に似ている外見を嫌ってのこと。
少し軽く物腰が柔らかいが、あれは仮の姿だ。
本人も気づいていない可能性が高いが、その証拠に近隣諸国の国王トップはディランが国王になるのを警戒している。
上に立つ者には通じるものがあるらしい。

もう、いつものディランじゃないだろう? 
独房の侍女は正気を失う寸前だった。

エリオット、お前は国王だ。
もう間違いは許されない」




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