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第34話
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ディラン様は国へ帰り、私は本館的に小説の翻訳を始めた。
ボルコフ王国でベストセラーの恋愛小説を、ルボア語、グレッソン語、スパンディア語に翻訳する。
この小説は舞台化もされ、話題を呼び、現在もロングラン公演されている。
ディラン様と観た舞台がこの作品だ。
中編小説で、専門用語もほぼ見当たらないので、初めての翻訳にふさわしく順調に進んでいる。
あの日、結婚の申し込みを受けてからクィーンご夫妻のお屋敷へ帰ると、ディラン様が胸ポケットから婚約申請書を取り出した時には驚いた。
《ディラン、あなた婚約申請書って!?
そんな勝手を・・・。
まずはリリーのご両親にきちんと婚約の申し込みをして、了承を得て、段階を踏んでからの話ですよ》
ナタリア様がすかさず指摘をすると、
《リリーのご両親には了承を得ていていますし、この通り。ウィンチェスター伯爵の署名済みです》
見て下さい。ディラン様が指差したところには確かにお父様の署名があった。
あまりの用意周到さに、三人とも呆気に取られたのは言うまでもない。
そして、ディラン様が準備していたのはそれだけではなかった。
美しく輝くブルーの婚約指輪。
あまりの素晴らしさに息を飲んだ。
ブローチのお礼にと、密かにナタリア様の力を借りながら何年振りかに挑戦した刺繍入りのハンカチは残念な出来の為、渡せずじまいだった。
それを知っていたナタリア様に促されるように渡すと、ディラン様はことのほか喜んでくれ、気恥ずかしさを感じてしまった。
大人で余裕たっぷりの婚約者からの手紙は、赤面してしまうような愛の言葉で溢れている。
ディラン様から二通目の手紙を受け取る頃、ボルコフ王国は雪が散らつき出し、五通目の頃は雪景色が広がった。
十通目の手紙を受け取る頃に雪は溶け始め、翻訳した作品は書籍となった。
【ルボア王国、エリオット国王、リリアージュ王女殿下の結婚式がバレンシア大聖堂で行われる】
まだ所々雪が残る中、“ストーリーズ”まで慎重に歩いて行く。
裏庭のベンチはうっすら雪に覆われていた。
店内に入り、ゆっくり一周してから目的の小説を購入し店を出ると、
「少し早いが、我慢出来ずに来てしまったよ」
居るはずのない人がそこに居た。
「・・・・・・ディラン様」
「リリー・・・逢いたかった」
ズンズンと歩いて来るディラン様に抱きしめられた。
結婚式をするつもりは無かった。
ただ家族に祝ってもらえれば。
そう思っていた。
《リリー、見て頂戴。
あと少しで仕上がるの》
ナタリア様が見せてくれたのは、シンプルな純白のウェディングドレスだった。
細部に渡って美しく繊細な刺繍が施されている。
《ブーケはワシに任せてくれ》
私が恐縮すると思い、密かに計画を進めていたらしい。
《リリー、十日後に結婚式を挙げよう》
一週間後には、両親とアーチがやって来た。
お父様がこんな長旅を?不思議に感じていると、ひと月前に大臣を辞職したという。
急じゃないよ。ここ一年は引き継ぎをしていたんだ。
確かに。言われてみれば、納得できる話だった。
そして、十日後、私達は小さな教会で結婚式を挙げた。
純白のドレスに身を包み、白百合のブーケを手にした私は、ディラン様と永遠の愛を誓った。
嬉しくて、幸せで、涙が溢れた。
あまりに涙を流して、ハンカチを何枚も使った。
挙式の後にはパーティが催され、そこにはディラン様の高貴なご友人も現れた。
《結婚おめでとう。それにしても大切な女性に会わせてくれるのが結婚式なんてね。
ひどい友人だよ》
《おいおい》
《そう言えばさ、夫人が入国した時、あまりの護衛の数とその顔ぶれに、国境警備隊が騒いで問題になったんだよね。
攻め込まれたんじゃないか。って》
大変だったんだから。
呆れ顔でディラン様を見つめている。
その話に乗るよにうに、トリド男爵がワイングラスを片手に話し始めた。
《よく分かります。私は国で三日間の待機でした。
いえ、いいんですよ。夫人との旅は楽しかったですから》
《トリドの言いたい事はわかる。
この男が国王になんてなった暁には、近隣諸国は怯えておちおち寝てなんかいられないよ》
《その心配は無い》
仏頂面で答えるディラン様に、そうか。と呟いた国王様は、最後にお祝いを述べて去って行かれた。
護衛の顔ぶれを見て、感じるものはあった。
トリド男爵に迷惑をかけていたのも。
ディラン様をジッと見つめると、居心地悪そうにしている。
「心配だったんだ・・・」
その表情に、声に、あの日、離宮に閉じ込められていた時の記憶が蘇る。
「これからは、いつも君の隣に居る」
肩で息をして、あの部屋に現れた姿を思い出す。
泣きそうになるのを我慢して笑って頷くと、演奏が始まった。
《さぁ、さぁ、主役の二人、ダンスが始まりますよ!》
いつもは一曲しか踊ることが叶わなかった。
でも、今日からは堂々とダンスが出来る。
せいぜい二曲と思いきや、三曲連続のダンスに少しばかり息を切らしていると、クツクツと笑い声が聞こえてきた。
その後、お父様、アーチ、パウリー様とダンスを踊った。
お母様、ナタリア様と談笑し、みんなに祝福され、楽しく時間は過ぎていった。
パーティの最後に、ディラン様が「君のお陰だ。ありがとう」トリド男爵に抱きついて、困り果てる男爵の姿が印象的だった。
そして、その夜、私達は結ばれた。
ボルコフ王国でベストセラーの恋愛小説を、ルボア語、グレッソン語、スパンディア語に翻訳する。
この小説は舞台化もされ、話題を呼び、現在もロングラン公演されている。
ディラン様と観た舞台がこの作品だ。
中編小説で、専門用語もほぼ見当たらないので、初めての翻訳にふさわしく順調に進んでいる。
あの日、結婚の申し込みを受けてからクィーンご夫妻のお屋敷へ帰ると、ディラン様が胸ポケットから婚約申請書を取り出した時には驚いた。
《ディラン、あなた婚約申請書って!?
そんな勝手を・・・。
まずはリリーのご両親にきちんと婚約の申し込みをして、了承を得て、段階を踏んでからの話ですよ》
ナタリア様がすかさず指摘をすると、
《リリーのご両親には了承を得ていていますし、この通り。ウィンチェスター伯爵の署名済みです》
見て下さい。ディラン様が指差したところには確かにお父様の署名があった。
あまりの用意周到さに、三人とも呆気に取られたのは言うまでもない。
そして、ディラン様が準備していたのはそれだけではなかった。
美しく輝くブルーの婚約指輪。
あまりの素晴らしさに息を飲んだ。
ブローチのお礼にと、密かにナタリア様の力を借りながら何年振りかに挑戦した刺繍入りのハンカチは残念な出来の為、渡せずじまいだった。
それを知っていたナタリア様に促されるように渡すと、ディラン様はことのほか喜んでくれ、気恥ずかしさを感じてしまった。
大人で余裕たっぷりの婚約者からの手紙は、赤面してしまうような愛の言葉で溢れている。
ディラン様から二通目の手紙を受け取る頃、ボルコフ王国は雪が散らつき出し、五通目の頃は雪景色が広がった。
十通目の手紙を受け取る頃に雪は溶け始め、翻訳した作品は書籍となった。
【ルボア王国、エリオット国王、リリアージュ王女殿下の結婚式がバレンシア大聖堂で行われる】
まだ所々雪が残る中、“ストーリーズ”まで慎重に歩いて行く。
裏庭のベンチはうっすら雪に覆われていた。
店内に入り、ゆっくり一周してから目的の小説を購入し店を出ると、
「少し早いが、我慢出来ずに来てしまったよ」
居るはずのない人がそこに居た。
「・・・・・・ディラン様」
「リリー・・・逢いたかった」
ズンズンと歩いて来るディラン様に抱きしめられた。
結婚式をするつもりは無かった。
ただ家族に祝ってもらえれば。
そう思っていた。
《リリー、見て頂戴。
あと少しで仕上がるの》
ナタリア様が見せてくれたのは、シンプルな純白のウェディングドレスだった。
細部に渡って美しく繊細な刺繍が施されている。
《ブーケはワシに任せてくれ》
私が恐縮すると思い、密かに計画を進めていたらしい。
《リリー、十日後に結婚式を挙げよう》
一週間後には、両親とアーチがやって来た。
お父様がこんな長旅を?不思議に感じていると、ひと月前に大臣を辞職したという。
急じゃないよ。ここ一年は引き継ぎをしていたんだ。
確かに。言われてみれば、納得できる話だった。
そして、十日後、私達は小さな教会で結婚式を挙げた。
純白のドレスに身を包み、白百合のブーケを手にした私は、ディラン様と永遠の愛を誓った。
嬉しくて、幸せで、涙が溢れた。
あまりに涙を流して、ハンカチを何枚も使った。
挙式の後にはパーティが催され、そこにはディラン様の高貴なご友人も現れた。
《結婚おめでとう。それにしても大切な女性に会わせてくれるのが結婚式なんてね。
ひどい友人だよ》
《おいおい》
《そう言えばさ、夫人が入国した時、あまりの護衛の数とその顔ぶれに、国境警備隊が騒いで問題になったんだよね。
攻め込まれたんじゃないか。って》
大変だったんだから。
呆れ顔でディラン様を見つめている。
その話に乗るよにうに、トリド男爵がワイングラスを片手に話し始めた。
《よく分かります。私は国で三日間の待機でした。
いえ、いいんですよ。夫人との旅は楽しかったですから》
《トリドの言いたい事はわかる。
この男が国王になんてなった暁には、近隣諸国は怯えておちおち寝てなんかいられないよ》
《その心配は無い》
仏頂面で答えるディラン様に、そうか。と呟いた国王様は、最後にお祝いを述べて去って行かれた。
護衛の顔ぶれを見て、感じるものはあった。
トリド男爵に迷惑をかけていたのも。
ディラン様をジッと見つめると、居心地悪そうにしている。
「心配だったんだ・・・」
その表情に、声に、あの日、離宮に閉じ込められていた時の記憶が蘇る。
「これからは、いつも君の隣に居る」
肩で息をして、あの部屋に現れた姿を思い出す。
泣きそうになるのを我慢して笑って頷くと、演奏が始まった。
《さぁ、さぁ、主役の二人、ダンスが始まりますよ!》
いつもは一曲しか踊ることが叶わなかった。
でも、今日からは堂々とダンスが出来る。
せいぜい二曲と思いきや、三曲連続のダンスに少しばかり息を切らしていると、クツクツと笑い声が聞こえてきた。
その後、お父様、アーチ、パウリー様とダンスを踊った。
お母様、ナタリア様と談笑し、みんなに祝福され、楽しく時間は過ぎていった。
パーティの最後に、ディラン様が「君のお陰だ。ありがとう」トリド男爵に抱きついて、困り果てる男爵の姿が印象的だった。
そして、その夜、私達は結ばれた。
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