彼女があなたを思い出したから

MOMO-tank

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第28話

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『公爵閣下は、明日の午前中にここに来られるそうだ』

『ここに、ですか?』

『体調をご心配されているそうだよ。
それに、あまり王宮内を歩いて欲しくないと』

もうすぐ、公爵がやってくる時間だ。
カミンスキー公爵は捕まり、公爵家は取り潰し。
陛下は、前国王様と公爵から今回の行動を咎められ、厳しい監視のもと執務を行っていると聞く。

私は・・・このまま王妃としてやって行けるだろうか。
今まで通り、陛下の隣で微笑むことが出来るだろうか。

『側妃は必要無いと思うんだ』
陛下と向き合うなんて・・・・・・

ああ、駄目だわ。
気持ちを落ち着かせようと、立ち上がり、深呼吸しながら部屋の中をゆっくり歩いてみることにした。
窓際まで歩き、ソファに戻る動きを繰り返す。
ちょうど窓際まで歩みを進めた時だった。

コンコンーー

部屋をノックする音にビクッとして立ち止まると、扉が開く音がして、慌てて振り返った。

すると、部屋へ入るなりズンズンと歩いて来た公爵は、ふわりと私を抱きしめた。

「リリー」

これは、何が起こって・・・・・・
しかも、“リリー”って呼んだ?

驚きのあまり口がパクパクし、体が硬直した状態になっていると、侍女長の公爵を呼ぶ声がして、次第に公爵の体は離れていった。
最後に移動して肩に置かれていた手が離れていくと、今まで見たことがない柔らかい表情で微笑んでいた。

・・・・・・んっ

どこか落ち着かずソワソワしていると、公爵が口を開いた。

「顔色も良いし、食事も取れていると聞いたよ。良かった」

「・・・はい、すっかり回復しました。
遅れましたが、この度は本当にありがとうごさいました。
お陰様で、家族ともゆっくり過ごすことができました」

「私がもっとうまく立ち回っていれば・・・いや、今更だな。
とにかく元気そうな姿が見られて嬉しいよ。
本当ならば、このまま伯爵領でゆっくりしてもらう予定だったんだが、少しでも家族との時間を過ごせたなら良かった」

座ろうか。促されるままソファに腰を下ろしたが、なぜ公爵が私の隣に座っているんだろう。
チラッと見れば、満面の笑みを浮かべている。

「わたくし、あちら側に移動いたし「これで大丈夫」」

拳一つ分反対側に移動した公爵は本題に入ったように話し始めた。

「カミンスキー公爵家の取り潰しの話はすでに伯爵から聞いたとは思うが、少し詳しく説明させてもらうよ。

カミンスキーは、五年前から違法賭博場に出資、違法薬物は三年前からスパンディア王国から輸入。毎月多額の収入を得ていた。

また遠縁の下級貴族を中心に、賭博場で大金を失うように裏から手を回し没落の手間まで追い込み、あたかも善良な人間を装って融資を持ち掛けた。
側妃候補だったマディソン嬢、筆跡偽造を行ったランディ子息のホーン伯爵家や、カードを渡して翌日退職した侍女のグリーン子爵家がいい例だ。
その他にも、王宮で噂話を流した侍女も同じ経緯でカミンスキーから融資を受けた貴族であることが分かった。

最初は良い顔をして、徐々に態度を変え、支配下に置いていたようだ。
命令を断ったランディ子息に関しては、恋人を盾に脅されていた。 

反対意見も多かったが、これら貴族の救済制度がやっと整った。
ランディ子息や、その他脅されていた者には恩赦を受けることになると思う」

そして、息を吐いた後、少し話にくそうに再び口を開いた。

「王妃殿下を襲った男はスパンディア王国の元諜報部員で、カミンスキーが連れて来た。
この男の生き別れた娘がわが国にいるから会わせると、偽りの話をしていたらしい。
貴女を襲い、怖がらせ、表舞台から退いてもらい、養女であったマディソン嬢を側妃に、ゆくゆくは王妃にと画作していた。
元諜報部員は取り押さえられ、あらかじめ仕込んでいた毒薬で自害。
カミンスキーは死罪が決定しているが、貴女が気に病む必要は何一つない。

そしてーー
陛下については私と兄上の監視下のもと執務を行っている。
王妃殿下が襲われた話を知る者には箝口令を敷き、誓約書にまで署名させたうえで貴女を離宮に閉じ込めた。
王妃殿下は病気療養ということにして、王宮では喪に服しているパルディール前侯爵夫人を囲っている」

分かりきっていることなのに、改めて他の人の口から聞くと、自分が抱えている現実に押し潰されそうになる。

これを見て欲しい。  
公爵が私に資料のようなものを手渡した。

「これは・・・」

「兄上と、私、過半数の貴族の署名済み。
議会に提出すれば、国王と王妃の離婚が認められる」

離婚が・・・認められる。
そこで話をいったん切ると、公爵は私の方に体を向け、優しく手を取った。

「リリー、
今こんなことを言うべきじゃないのは分かっているが、言わせて欲しい。

君が襲われたと聞いた時、気が気じゃなかった。
そして、やっと見つけた君が離宮で倒れそうになっているのを見て、胸が張り裂けそうだった。

体面を気にして、君を守れなかったことを深く後悔している。

だから、もう間違えたくないんだ。

リリー、君が好きだ。
好きなんだ」

わずかに目を潤ませている公爵は、私の手にゆっくりと顔を近づけると、口づけを落とした。

手に柔らかな感触が伝わった。
頭がパンクしてしまいそうだった。

言葉を発せられずに、固まって手を確認している私を見て、公爵はクツクツと笑い出した。







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