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第24話 ディラン・スタインベック公爵

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「スタインベック公爵、探しましたよ。
つい先日の夜会では途中で帰られ、寂しい思いをしたんですから」

「周りが関係を誤解するような話ぶりだな、トリド男爵。
ちなみに君がどこぞのご夫人と会話が弾み、戻らなかった間違いだろ」

「じゃあ、私のことを待っていたと?」

「いや。喉は治ったのか?」

「感激ですねぇ。スタインベック公爵が心配して下さるなんて。
ええ、お陰様ですっかり良くなり、この通りですよ」

トリド男爵は腕を広げて、元気だとアピールしている。
とある伯爵家の夜会へ参加したが、元々気が進まなかったので正直帰ろうかと思っているところだった。
ホストにも挨拶したし、トリド男爵とも話した。
もういいだろう。
トリド男爵に挨拶をしようとすると、嫌な話が聞こえてきた。

「わたくしの従姉妹が王宮で侍女をやっておりますの。
王妃様は、この辺りに青筋を立ててパルディール前侯爵夫人を罵倒していると伺いましたわ」

「まぁ、なんて酷い・・・・・・。
引き裂かれてしまった運命のお相手だというのに」

「わたくしも聞きましたわ。
王妃様が・・・・・・」

何なんだ、この噂話は。
話には聞いていたが、余りにも酷すぎる。

「お顔が怖~くなっていますよ、スタインベック公爵」

トリド男爵なりに止めようとしてくれたのかも知れない。
けれど、自分の足は噂話をしていた連中の方に向かっていた。

「ご自分の目で見てもいないのに、あたかも真実のように話すのは感心できませんな」

出口に進んで行く途中、多くの視線を感じたが全く気にならなかった。
冷たい声が出た。
それに、言いたいことは言ったはずなのに、なぜか腹の虫が治まらなかった。


ーーカードの筆跡は、ランディ・ホール伯爵子息。二十一歳。王宮文官。
子どもの頃から絵画に親しみ、美術の道へ進むが、十七歳の頃父上である伯爵が多額の借金を抱える。
カミンスキー公爵が融資、没落は免れるが財政は現在も厳しい。
妹のマディソン・ホールは、カミンスキー公爵の養女となる。

ホール伯爵は、違法賭博場への出入りがあったはず。
もしや、カミンスキーが裏で手を引いている?
ランディ・ホールの筆跡偽造の罪は重いが、強要されている可能性も高そうだ。

ーーカミンスキー公爵は養女のマディソンを国王の側妃に、娘であるパルディール前侯爵夫人を愛妾に画作。
派閥の貴族に世継ぎ問題を不安視させ、側妃の重要性を発案。

側妃問題が出るとなれば・・・・・・

あれ以上の悪意ある噂話が広がると思うと、黙ってはいられなかった。


次の夜会でバルコニーへ行き、リリーに提案した。

《私は個人的に公爵に思うところがある。
甥っ子国王は好き勝手やり過ぎている。
私は現在独身。まぁ、過去に離婚歴はあるが・・・。
そこで、私と王妃様が恋仲になるっていうのはどうだい?》

『はぁ?』
驚きのあまり、口をあんぐり開けている姿には笑ってしまった。

考えてみれは強引なこじつけだ。 
でも向こうが不貞を美化して、運命などとほざいているんだから、こちらだって傷つく王妃を慰める公爵を見せつければいい。
御婦人方はこの手の話に弱いから、大いに利用、いや味方につける。

根本的な解決にはならないが、悪意ある噂話から君を守りたい。

ただ、問題は王妃であるリリーがどう考えるかだった。
晩餐会は迫っていた。



視線が僅かに泳いでいて、落ちつきがない。 
明らかに、エリオットの様子がおかしい。
影から私達がバルコニーで会話をしていると報告でも受けたのか、私のことも気にしているようだった。

今夜、答えを聞かせて欲しい。と話してはいたが、この様子だと難しいかも知れない。
周りと会話をしながら、リリーの方へ自然に顔を向けた。

すると、リリーと目が合ったことに驚くと共に、助けを求めるような表情を目にしてしまう。

何があったんだ?

リリーはすぐに王妃の表情に戻ると、
答えを教えてくれるかのように、ほんの少し頷いた。

・・・・・・リリー

エリオットが私達を見ているのは分かっていた。
沸々と腹に怒りが湧き上がってくる。
お前がリリーを見放したんだ。
今更そんな顔しても遅い。
遅いんだ。



 
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