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第21話 エリオット
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結局側妃の話は進められることになり、三名の側妃候補との交流が始まった。
そして、それと同時に叔父上が動き出した。
私が側妃候補とダンスを踊れば、
叔父上が現れ、リリーをダンスに誘う。
影からの報告では、叔父上は側妃候補とのお茶会時にもリリーを気にかけているという。
自分にはフランがいるというのに、何故ここまで気にするのか分からなかった。
ただ、晩餐会の夜に生まれた仄暗い感情は、日を追うごとに大きくなっているのを感じていた。
そんなある日、リリーが王宮内で襲われる事件が起こる。
倒れているリリーを見た時には、我を失ってリリーに縋りついていた。
「リリー、リリー、
お願いだから・・・
リリー、目を開けてくれ」
「陛下、医師に診てもらいましょう」
側近の言葉に気がつくまで、リリーから離れられずにいた。
やっと周りが見え、少し離れた場所に黒ずくめの男が泡を吹いて動かなくなっているのが目に入った。
息絶えている者に湧き上がる衝動を抑え、この自害したであろうリリーを襲った者の特定を急いだ。
王宮内で白昼、堂々と王妃が襲われるなど決してあってはならない。
いったい何の為に。
拳を握りしめて、息を吐き、いま行うべきことを頭で整理した。
リリーが気になって何度も意識のないリリーのもとへ足を運んだ。
そんな私の行動を、周りは驚きを隠せないでいることにまったく気がつくことはなかった。
リリーが吸い込んだ薬品に毒性は無く、医師からも安静に過ごせば問題ないと言われ、ほっとしてリリーの顔を眺めていた。
『陛下と王妃様のご関係をお見受けする限り、世継ぎは難しいとの判断は致し方ないかと』
すると、何処からともなく宰相の言葉が聞こえてきたような気がすると共に、自分の中にくすぶる仄暗い感情が一気に広がっていくのを感じた。
離宮には、過去に祖父が周りから反対された平民の愛人を囲っていたといわれる部屋がある。
何度も逃げ出そうとする愛人が逃げ出せないように、窓には鉄格子がつけられている。
叔父上が仕事で国を出ている今なら、邪魔が入らない。
それに、このまま王宮に過ごしたところで、また襲われないとも言い切れない。
だったら。
覆われてしまった
その感情に従うように、
私はリリーを、
離宮にあるその一室へ移すことにした。
王妃の仕事は、一時的にリリーの側近へ回す手筈を整えた。
リリーが襲われたことについては、決して漏らすことがないよう、目撃した者すべてに誓約書に署名させた。
“襲われた”などという言葉は、良からぬ出来事を憶測させる。
周囲には、王妃は体調が戻るまで静養するとだけ伝えた。
翌朝には目を覚ましたリリーは、私の心配をよそに仕事を気にして、王宮へ戻ると繰り返した。
食事を取っていない報告も受け、なぜこうも反抗するのかイライラが募った。
心配しているのに、優しくしたいのに、リリーの態度に口調がどんどん強くなってしまう。
なぜ、うまく行かないのだろう。
しかも、そんな時にフランが部屋の前までやって来てしまう。
『エリオット』
フランがそう口にした瞬間、リリーの完璧といえる王妃の表情が曇るのを目にした私は、予定よりは少し早いが行動に移すことを決意した。
翌日、早朝にリリーの部屋を訪れた。
本当ならば、もう少し離宮での生活に慣れた頃にと、私を陛下としてではなく再びエリオットとして見てくれるようになってからと考えていた。
「側妃は必要ないと思うんだ」
でも、思い返してみれば、君のもとから離れたのは私で、君の前でエリオットでいることを放棄したのは私だったんだ。
侍女が運んできた朝食を見た時、言葉を失った。
その料理は昨夜振る舞われたもので、ステーキは明らかに誰かが残したものだった。
ソースのついたナイフとフォーク・・・・・・。
パンには歯形が残っている。
『食事は食べられものをお願い・・・』
『あれを食べろと?』
それに対して、私は何と答えた?
血相を変えた姿で走ってくる叔父上を力無く引き留めるが、父上の姿を見て体から力が完全に抜けていった。
『エリオット、リリー嬢は本来ならば父上であるウィンチェスター伯爵の後継者として大臣になるべく人物で、学園卒業後は王宮文官の仕事も決まっていたんだ。
まぁ、私が無理を言って今に至る訳になるが。
最初はどうなるかと思ったが、二人が向き合ってくれて嬉しく思う。
エリオット、
リリー嬢を幸せにするんだぞ』
『もちろんです、父上。
リリーを必ず幸せにします』
結婚式の前夜、父上とお酒を飲み交わした時に誓った。
それなのに、
私は・・・・・・
柔らかそうな栗色の髪を、灰色がかった緑色の瞳を、自分の目に焼き付けるように見つめ、
やがて叔父上の腕の中で小さくなっていく姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くした。
そして、それと同時に叔父上が動き出した。
私が側妃候補とダンスを踊れば、
叔父上が現れ、リリーをダンスに誘う。
影からの報告では、叔父上は側妃候補とのお茶会時にもリリーを気にかけているという。
自分にはフランがいるというのに、何故ここまで気にするのか分からなかった。
ただ、晩餐会の夜に生まれた仄暗い感情は、日を追うごとに大きくなっているのを感じていた。
そんなある日、リリーが王宮内で襲われる事件が起こる。
倒れているリリーを見た時には、我を失ってリリーに縋りついていた。
「リリー、リリー、
お願いだから・・・
リリー、目を開けてくれ」
「陛下、医師に診てもらいましょう」
側近の言葉に気がつくまで、リリーから離れられずにいた。
やっと周りが見え、少し離れた場所に黒ずくめの男が泡を吹いて動かなくなっているのが目に入った。
息絶えている者に湧き上がる衝動を抑え、この自害したであろうリリーを襲った者の特定を急いだ。
王宮内で白昼、堂々と王妃が襲われるなど決してあってはならない。
いったい何の為に。
拳を握りしめて、息を吐き、いま行うべきことを頭で整理した。
リリーが気になって何度も意識のないリリーのもとへ足を運んだ。
そんな私の行動を、周りは驚きを隠せないでいることにまったく気がつくことはなかった。
リリーが吸い込んだ薬品に毒性は無く、医師からも安静に過ごせば問題ないと言われ、ほっとしてリリーの顔を眺めていた。
『陛下と王妃様のご関係をお見受けする限り、世継ぎは難しいとの判断は致し方ないかと』
すると、何処からともなく宰相の言葉が聞こえてきたような気がすると共に、自分の中にくすぶる仄暗い感情が一気に広がっていくのを感じた。
離宮には、過去に祖父が周りから反対された平民の愛人を囲っていたといわれる部屋がある。
何度も逃げ出そうとする愛人が逃げ出せないように、窓には鉄格子がつけられている。
叔父上が仕事で国を出ている今なら、邪魔が入らない。
それに、このまま王宮に過ごしたところで、また襲われないとも言い切れない。
だったら。
覆われてしまった
その感情に従うように、
私はリリーを、
離宮にあるその一室へ移すことにした。
王妃の仕事は、一時的にリリーの側近へ回す手筈を整えた。
リリーが襲われたことについては、決して漏らすことがないよう、目撃した者すべてに誓約書に署名させた。
“襲われた”などという言葉は、良からぬ出来事を憶測させる。
周囲には、王妃は体調が戻るまで静養するとだけ伝えた。
翌朝には目を覚ましたリリーは、私の心配をよそに仕事を気にして、王宮へ戻ると繰り返した。
食事を取っていない報告も受け、なぜこうも反抗するのかイライラが募った。
心配しているのに、優しくしたいのに、リリーの態度に口調がどんどん強くなってしまう。
なぜ、うまく行かないのだろう。
しかも、そんな時にフランが部屋の前までやって来てしまう。
『エリオット』
フランがそう口にした瞬間、リリーの完璧といえる王妃の表情が曇るのを目にした私は、予定よりは少し早いが行動に移すことを決意した。
翌日、早朝にリリーの部屋を訪れた。
本当ならば、もう少し離宮での生活に慣れた頃にと、私を陛下としてではなく再びエリオットとして見てくれるようになってからと考えていた。
「側妃は必要ないと思うんだ」
でも、思い返してみれば、君のもとから離れたのは私で、君の前でエリオットでいることを放棄したのは私だったんだ。
侍女が運んできた朝食を見た時、言葉を失った。
その料理は昨夜振る舞われたもので、ステーキは明らかに誰かが残したものだった。
ソースのついたナイフとフォーク・・・・・・。
パンには歯形が残っている。
『食事は食べられものをお願い・・・』
『あれを食べろと?』
それに対して、私は何と答えた?
血相を変えた姿で走ってくる叔父上を力無く引き留めるが、父上の姿を見て体から力が完全に抜けていった。
『エリオット、リリー嬢は本来ならば父上であるウィンチェスター伯爵の後継者として大臣になるべく人物で、学園卒業後は王宮文官の仕事も決まっていたんだ。
まぁ、私が無理を言って今に至る訳になるが。
最初はどうなるかと思ったが、二人が向き合ってくれて嬉しく思う。
エリオット、
リリー嬢を幸せにするんだぞ』
『もちろんです、父上。
リリーを必ず幸せにします』
結婚式の前夜、父上とお酒を飲み交わした時に誓った。
それなのに、
私は・・・・・・
柔らかそうな栗色の髪を、灰色がかった緑色の瞳を、自分の目に焼き付けるように見つめ、
やがて叔父上の腕の中で小さくなっていく姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くした。
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