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第19話 エリオット
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「陛下、最近のあなたの行動はとても見過ごす事ができませんよ」
・・・叔父上か。
側近といい、周りは過剰に反応し過ぎて困る。
「叔父上、何の話でしょうか?」
「自分の胸に手を当てれば分かる筈だ」
急に口調が変わった。
こうなった時には、大抵いい思い出がない。
「彼女は友人ですよ」
「あれが友人か・・・随分と友人との距離が近いんだな」
「体調が優れない友人をエスコートするのは、何らおかしい話ではないでしょう」
「体調が優れないならば、本来外出は控えるべきだろう」
自分が若い頃はかなり遊んで、来るもの拒まずだったというのに。
今だって夜会では女性達が列をなしていて、お持ち帰りしていると聞く。
そんな叔父上にとやかく言われたくはなかった。
それに、フランとは・・・・・・口づけしかしていない。
「私は独身だった。現在もだが。
でも、お前は違うんだ。
決して忘れるな」
「・・・・・・」
「顔に出ていたぞ。
私だから良かったものの、油断して足元をすくわれないように気をつけるんだな」
そんな事分かっている。
普段はのらりくらりしているように見えて、偶にこうして正論を唱える叔父上が苦手だった。
・・・リリーとの婚約期間にも、『態度を改めるべき』『贈り物を贈っていない?嘘だろ』何度も小言を言われた。
王宮に設けた部屋は庭園に面しているので、庭でお茶を飲んだり、散歩をするくらいのものだ。
偶に体調が優れないと公爵家へ帰らずに、王宮に泊まることはある。
そんな時は『寂しい』と不安がるが、勿論私は別室で休んでいる。
確かに、口づけはした。
だが、それだけだ。
一線は越えていない。
それにフランはパルディール前侯爵夫人で、私には王妃が、リリーがいる。
友人と呼ぶことに違和感を感じつつも、そう呼ぶことが正しいと、自分自身で納得するように、友人と口にした。
「エリオット様、よろしいでしょうか」
執務室にリリーが現れた時には驚いた。
そして、自分の口から『君』と、思いのほか冷たい声が出てしまったことも。
リリーの話は叔父上と同じ正論で、私はフランを友人だと諭した。
それでも食い下がるリリーに、苛立ちのようなものが生まれていくのを感じた。
『パルディール侯爵家ですが、二年前に領地が災害に見舞われ、かなりの負債を抱え我が家が全額融資させて頂いております。
私共は支援するつもりでしたが、前侯爵が甘えられないとの事でして。
今回このようにフランチェスカが侯爵家に馴染めないので、残りの融資分を支援という形にしました。
あちらも当主を亡くしたばかり、まだ学生の弟君には荷が重く、大変深刻な状況ですからな』
パルディール侯爵家は問題ないんだ。
公爵の話を思い出して、リリーとの話を終わらせた。
自分の言動を後悔しなかった訳じゃない。
だからその夜、リリーが倒れたと聞いた時には寝室まで走った。
「王妃様は・・・ここ数ヶ月食事の量が減って、昨夜はデザートしか召し上がりませんでした」
「疲労ですな。あと、栄養不足の症状が見られますので・・・・・・」
侍女長と医師の言葉に凍りついた。
翌朝リリーが起き上がる際、手を貸した時に触れた背中の感触が忘れられない。
以前はもっと、柔らかかった。
顔だって、もっとふっくらしていた。
夜会でダンスを踊っていながら、エスコートしていながら、気がづきもしなかった自分を恥じた。
もう繰り返してはいけない。
リリーと、歩み寄ろう。
顔色が悪く、輝きを失った緑色の瞳のリリーを見て、そう心に決めたはずだった。
それなのに、
『王妃様の所へ行ってしまうの・・・?』
寂しそうに言われてしまえば。
十七歳の頃に諦めるしかなかった大切な女性が、目の前にいれば。
無理だった。
リリーとの時間を作れるはずなのに、
フランのもとへ向かい、
ダンスを踊り、抱きしめて、口づけをした。
・・・叔父上か。
側近といい、周りは過剰に反応し過ぎて困る。
「叔父上、何の話でしょうか?」
「自分の胸に手を当てれば分かる筈だ」
急に口調が変わった。
こうなった時には、大抵いい思い出がない。
「彼女は友人ですよ」
「あれが友人か・・・随分と友人との距離が近いんだな」
「体調が優れない友人をエスコートするのは、何らおかしい話ではないでしょう」
「体調が優れないならば、本来外出は控えるべきだろう」
自分が若い頃はかなり遊んで、来るもの拒まずだったというのに。
今だって夜会では女性達が列をなしていて、お持ち帰りしていると聞く。
そんな叔父上にとやかく言われたくはなかった。
それに、フランとは・・・・・・口づけしかしていない。
「私は独身だった。現在もだが。
でも、お前は違うんだ。
決して忘れるな」
「・・・・・・」
「顔に出ていたぞ。
私だから良かったものの、油断して足元をすくわれないように気をつけるんだな」
そんな事分かっている。
普段はのらりくらりしているように見えて、偶にこうして正論を唱える叔父上が苦手だった。
・・・リリーとの婚約期間にも、『態度を改めるべき』『贈り物を贈っていない?嘘だろ』何度も小言を言われた。
王宮に設けた部屋は庭園に面しているので、庭でお茶を飲んだり、散歩をするくらいのものだ。
偶に体調が優れないと公爵家へ帰らずに、王宮に泊まることはある。
そんな時は『寂しい』と不安がるが、勿論私は別室で休んでいる。
確かに、口づけはした。
だが、それだけだ。
一線は越えていない。
それにフランはパルディール前侯爵夫人で、私には王妃が、リリーがいる。
友人と呼ぶことに違和感を感じつつも、そう呼ぶことが正しいと、自分自身で納得するように、友人と口にした。
「エリオット様、よろしいでしょうか」
執務室にリリーが現れた時には驚いた。
そして、自分の口から『君』と、思いのほか冷たい声が出てしまったことも。
リリーの話は叔父上と同じ正論で、私はフランを友人だと諭した。
それでも食い下がるリリーに、苛立ちのようなものが生まれていくのを感じた。
『パルディール侯爵家ですが、二年前に領地が災害に見舞われ、かなりの負債を抱え我が家が全額融資させて頂いております。
私共は支援するつもりでしたが、前侯爵が甘えられないとの事でして。
今回このようにフランチェスカが侯爵家に馴染めないので、残りの融資分を支援という形にしました。
あちらも当主を亡くしたばかり、まだ学生の弟君には荷が重く、大変深刻な状況ですからな』
パルディール侯爵家は問題ないんだ。
公爵の話を思い出して、リリーとの話を終わらせた。
自分の言動を後悔しなかった訳じゃない。
だからその夜、リリーが倒れたと聞いた時には寝室まで走った。
「王妃様は・・・ここ数ヶ月食事の量が減って、昨夜はデザートしか召し上がりませんでした」
「疲労ですな。あと、栄養不足の症状が見られますので・・・・・・」
侍女長と医師の言葉に凍りついた。
翌朝リリーが起き上がる際、手を貸した時に触れた背中の感触が忘れられない。
以前はもっと、柔らかかった。
顔だって、もっとふっくらしていた。
夜会でダンスを踊っていながら、エスコートしていながら、気がづきもしなかった自分を恥じた。
もう繰り返してはいけない。
リリーと、歩み寄ろう。
顔色が悪く、輝きを失った緑色の瞳のリリーを見て、そう心に決めたはずだった。
それなのに、
『王妃様の所へ行ってしまうの・・・?』
寂しそうに言われてしまえば。
十七歳の頃に諦めるしかなかった大切な女性が、目の前にいれば。
無理だった。
リリーとの時間を作れるはずなのに、
フランのもとへ向かい、
ダンスを踊り、抱きしめて、口づけをした。
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