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第18話 エリオット
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侯爵領から王都へ向かう途中、馬車の事故に遭い、夫であるパルディール侯爵はフランを庇うようにして亡くなり、フランは命を取り留めた。
フランは頭を打ち、怪我を負うも軽症。意識は混濁。
そして、私の名前を口にしている。
一人息子であるニコラス・パルディール子息、一歳は祖父母である前侯爵夫妻と領地に滞在。
カミンスキー公爵家へ向かう馬車で側近から話を聞いて、
自分の両手を握り締めた。
到着後、公爵に案内された部屋のベッドには、頭と腕に包帯が巻かれたフランの姿があった。
懐かしいプラチナブロンドが目に入ると胸に何かが込み上げ、七年前、落馬事故に遭ったフランを見舞いに来た日々が蘇った。
「・・・・ハァ、・・・・・・ハァ・・・、
・・・・・・エリオット、エリオットさま・・・・・・」
「フランチェスカはああして、うわ言のように陛下の名前を何度も呼ぶんです・・・」
フランの自分を呼ぶ弱々しい声に胸が詰まって、今すぐに駆け寄りたい衝動に駆られるが、あの頃とは変わってしまった現実に足が動かなかった。
ーーパルディール侯爵はフランを庇うように亡くなり、
一人息子であるニコラス・パルディール子息、一歳は・・・・・・
フランには、家族がある。
私にも。
「陛下、もしよろしければ、フランチェスカに声をかけては頂けないでしょうか」
フランの手が、まるで誰かの存在を探しているかのように彷徨っている。
「・・・・・・ああ」
足をゆっくりとベッドの傍へと進めると、頭の中にリリーの姿が思い出された。
それなのに、目の前にあるフランの手を優しく包み込むように握ると、七年振りに呼びかけた。
「・・・フラン。
ここにいるよ。
フラン」
「・・・・・・んっ・・・」
すると、まるでその声に反応したかのように、今まで閉じられていた瞼がゆっくりと開き、あの頃恋してやまなかった空色の瞳が私を視界に捉えた。
「・・・エリオット様」
七年前に落馬事故で記憶を失ってから、いつか思い出してくれる。ずっと心待ちにしていた。
「フラン・・・・・・」
私達は見つめ合って、何度も名前を呼び合った。
その後医師による診察が行われた。
フランは馬車の事故により七年前に失われた記憶が戻ったが、過去の記憶が色濃く、最近の出来事やパルディール侯爵家に嫁いだことは断片的にしか覚えていない。
「全く覚えていない訳ではないので、じきに安定してくるとは思いますが、今は刺激を与えないように、ゆっくりと過ごしてもらいましょう」
その日は安心出来るように、フランが眠りにつくまでそばに付き添った。
途中側近が何か言いたそうにしていたのは、何だったのだろう。
夜が更ける頃、王宮へ戻った。
リリーはすでに眠っているようだったので、私は静かにベッドに入り、フランとの約束を思い出して目を閉じた。
『明日も会いに来て下さい。
約束ですよ』
翌朝、リリーには昨日の出来事を伝えると、朝食を取り執務室へと急いだ。
溜まってしまった仕事を黙々と片付け、フランが好きだったピンク色の薔薇と有名菓子店から話題のデザートを取り寄せ、フランのもとへ駆けつけた。
それからというもの、私はフランが記憶を失った頃をやり直すように、毎日公爵家へ通いフランと語らい笑い合った。
フランは今も私を婚約者と思っている節があるのか、王妃であるリリーにヤキモチを妬く。
『王妃様のもとへ帰ってしまうのね』
『私以外の女性と・・・・・・』
その言葉がきっかけという訳ではないが、私は次第にリリーと寝室を共にすることが減っていった。
ひと月半が過ぎる頃にはフランの怪我も完治し、一度パルディール侯爵家へ帰省したが、いまだ侯爵家へ嫁いだことを断片的にしか思い出せないので、打ち解けることもままならず辛い思いをして公爵家へ戻った。
子息を思えば胸が痛んだが、苦しむフランを目にすれば仕方がないとしか思えなかった。
元気がないフランをなんとか励ましたいと思っていた時、『王宮の思い出の場所へ二人で行きたい』とお願いされた。
側近には反対されたが、王宮内のあの場所なら人目につかない。
私とフランは、寄り添って思い出の庭園を歩いた。
一度王宮へ足を運ぶと、それが当たり前になるのは時間の問題だった。
そして、遂には王宮の片隅にフランの部屋を設けるに至った。
フランは頭を打ち、怪我を負うも軽症。意識は混濁。
そして、私の名前を口にしている。
一人息子であるニコラス・パルディール子息、一歳は祖父母である前侯爵夫妻と領地に滞在。
カミンスキー公爵家へ向かう馬車で側近から話を聞いて、
自分の両手を握り締めた。
到着後、公爵に案内された部屋のベッドには、頭と腕に包帯が巻かれたフランの姿があった。
懐かしいプラチナブロンドが目に入ると胸に何かが込み上げ、七年前、落馬事故に遭ったフランを見舞いに来た日々が蘇った。
「・・・・ハァ、・・・・・・ハァ・・・、
・・・・・・エリオット、エリオットさま・・・・・・」
「フランチェスカはああして、うわ言のように陛下の名前を何度も呼ぶんです・・・」
フランの自分を呼ぶ弱々しい声に胸が詰まって、今すぐに駆け寄りたい衝動に駆られるが、あの頃とは変わってしまった現実に足が動かなかった。
ーーパルディール侯爵はフランを庇うように亡くなり、
一人息子であるニコラス・パルディール子息、一歳は・・・・・・
フランには、家族がある。
私にも。
「陛下、もしよろしければ、フランチェスカに声をかけては頂けないでしょうか」
フランの手が、まるで誰かの存在を探しているかのように彷徨っている。
「・・・・・・ああ」
足をゆっくりとベッドの傍へと進めると、頭の中にリリーの姿が思い出された。
それなのに、目の前にあるフランの手を優しく包み込むように握ると、七年振りに呼びかけた。
「・・・フラン。
ここにいるよ。
フラン」
「・・・・・・んっ・・・」
すると、まるでその声に反応したかのように、今まで閉じられていた瞼がゆっくりと開き、あの頃恋してやまなかった空色の瞳が私を視界に捉えた。
「・・・エリオット様」
七年前に落馬事故で記憶を失ってから、いつか思い出してくれる。ずっと心待ちにしていた。
「フラン・・・・・・」
私達は見つめ合って、何度も名前を呼び合った。
その後医師による診察が行われた。
フランは馬車の事故により七年前に失われた記憶が戻ったが、過去の記憶が色濃く、最近の出来事やパルディール侯爵家に嫁いだことは断片的にしか覚えていない。
「全く覚えていない訳ではないので、じきに安定してくるとは思いますが、今は刺激を与えないように、ゆっくりと過ごしてもらいましょう」
その日は安心出来るように、フランが眠りにつくまでそばに付き添った。
途中側近が何か言いたそうにしていたのは、何だったのだろう。
夜が更ける頃、王宮へ戻った。
リリーはすでに眠っているようだったので、私は静かにベッドに入り、フランとの約束を思い出して目を閉じた。
『明日も会いに来て下さい。
約束ですよ』
翌朝、リリーには昨日の出来事を伝えると、朝食を取り執務室へと急いだ。
溜まってしまった仕事を黙々と片付け、フランが好きだったピンク色の薔薇と有名菓子店から話題のデザートを取り寄せ、フランのもとへ駆けつけた。
それからというもの、私はフランが記憶を失った頃をやり直すように、毎日公爵家へ通いフランと語らい笑い合った。
フランは今も私を婚約者と思っている節があるのか、王妃であるリリーにヤキモチを妬く。
『王妃様のもとへ帰ってしまうのね』
『私以外の女性と・・・・・・』
その言葉がきっかけという訳ではないが、私は次第にリリーと寝室を共にすることが減っていった。
ひと月半が過ぎる頃にはフランの怪我も完治し、一度パルディール侯爵家へ帰省したが、いまだ侯爵家へ嫁いだことを断片的にしか思い出せないので、打ち解けることもままならず辛い思いをして公爵家へ戻った。
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元気がないフランをなんとか励ましたいと思っていた時、『王宮の思い出の場所へ二人で行きたい』とお願いされた。
側近には反対されたが、王宮内のあの場所なら人目につかない。
私とフランは、寄り添って思い出の庭園を歩いた。
一度王宮へ足を運ぶと、それが当たり前になるのは時間の問題だった。
そして、遂には王宮の片隅にフランの部屋を設けるに至った。
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