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第17話 エリオット
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婚約者との交流を深める為にお茶会の場が設けられたが、私は約束をすっぽかすことが多かった。
父上と母上に叱責されてからようやく重い腰を上げて参加したが、婚約者は文句の一つ言わないので謝ることもしなかった。
どうしても、フラン以外の女性と親しくするなんて無理だった。
だから、相手の顔を見ることもなく、話を振られても無言で通した。
フランは間もなくパルディール侯爵と結婚する。
婚約した段階で分かっていたはずなのに、苦しくて堪らなかった。
もうすぐ結婚するのは私達だったのに。
あの笑顔が他の男に向けられると思うと、今夜その男のものになってしまうと思うと胸が張り裂けそうで、浴びるように酒を飲んだ。
朦朧としていると、カーテンを閉め切り薄暗いはずの部屋に光が差し込んだ。
誰かが間違えて入室したのかは分からないが、また光が入るのはごめんだった。
「・・・・・・そのままでいい」
侍女なら酒の追加を頼もうか。ぼんやり考えていると、水を差し出された。
そこには、婚約者の姿があった。
驚いたように開かれた緑色の瞳は、心配そうな面持ちで私の目をじっと見つめた後、落ち着かないかのように瞬きを繰り返した。
なぜ彼女の腕を引いたのか分からない。
気づいた時には、慌てる彼女を抱きしめていた。
「・・・・・・少しの間、このままでいさせてくれ」
あたたかい温もりに、涙が出そうだった。
やがて背中に置かれた手が優しく動きだすと、一瞬頭の中にフランではなく彼女の姿が浮かんだ。
決して楽しくないであろう私とのお茶会で、お菓子を摘み、お茶を飲む姿。
『無駄話は時間の浪費でしてよ』
夜会でフランの噂話をする令嬢達を、諌める姿。
「リリー」
大きな緑色の瞳に吸い寄せられるように、唇が重なった。
彼女が気になった。
側近に予定を調べさせ、苦戦しているらしいダンスレッスンでパートナーをつとめることにした。
『四ヶ国語を話し、学園を首席で卒業した才女だ』
父上は非の打ち所がない女性のように話していたが、お世辞にもダンスは上手いとは言えなかった。
それと同時に、今までに夜会で踊っていたにもかかわらず、まったく記憶がない自分を恥じた。
ダンスに苦手意識があったようだが、回を重ねるうちに自然で優雅に踊れるようになり、ダンス講師から褒められると、笑顔で喜ぶ姿を好ましく思った。
私達は親交を深めていき、父上と母上も安心しているようだった。
リリーと名前で呼ぶようになったのも自然な流れだった。
リリーと一緒にいると、優しさに包まれたような平和で穏やかな時間が流れる。
いつからか、私はぽつりぽつりとフランの話をするようになっていった。
そして、一年間の婚約期間を終え、私達は結婚した。
リリーの真っ白な体を抱きしめて、私達は愛し合った。
潤んでいる大きな緑色の瞳を見つめると愛おしさが込み上げて、何度もリリーの名前を呼んだ。
結婚を機に、リリーは私のことを『エリオット様』と呼んでくれるようになった。
「エリオット様!ありがとうございます!」
婚約期間に婚約者らしいことを満足に出来なかったので、今更ながら理由を付けてはリリーに贈り物をするのが趣味のような楽しみの一つになっていた。
ただリリーは、フランが好んでいた宝石やドレスにはあまり興味がないらしく、外国で出版されている小説、詩集、専門書といったものを贈ると喜んだ。
結婚二年目には、王妃である母上が肺を患い、病に適した環境での生活を医師に勧められ、父上が退位。
国王となった。
王妃となったリリーは淑女の鑑といわれるほど、美しさと気品に溢れ、若い女性の憧れとなっていた。
全ては、リリーの努力の結晶だった。
本来興味のない苦手な社交、美意識を高めるために数多くの努力をしたと侍女長が話していた。
そんな彼女と、この先人生を共に歩んで行けることに幸せを感じていた。
“リリー、君が話していたアイリーン・デヴォンのグレッソン語で書かれた詩集を見つけたよ。
気に入ってくれると嬉しい。
いつも君のことを想っている。
愛を込めて エリオット”
なのにーー
「陛下、カミンスキー公爵から連絡が。
フランチェスカ・パルディール侯爵夫人が事故に遭われて、陛下の名前を呼んでいると」
私は書類を放って、執務室を飛び出した。
父上と母上に叱責されてからようやく重い腰を上げて参加したが、婚約者は文句の一つ言わないので謝ることもしなかった。
どうしても、フラン以外の女性と親しくするなんて無理だった。
だから、相手の顔を見ることもなく、話を振られても無言で通した。
フランは間もなくパルディール侯爵と結婚する。
婚約した段階で分かっていたはずなのに、苦しくて堪らなかった。
もうすぐ結婚するのは私達だったのに。
あの笑顔が他の男に向けられると思うと、今夜その男のものになってしまうと思うと胸が張り裂けそうで、浴びるように酒を飲んだ。
朦朧としていると、カーテンを閉め切り薄暗いはずの部屋に光が差し込んだ。
誰かが間違えて入室したのかは分からないが、また光が入るのはごめんだった。
「・・・・・・そのままでいい」
侍女なら酒の追加を頼もうか。ぼんやり考えていると、水を差し出された。
そこには、婚約者の姿があった。
驚いたように開かれた緑色の瞳は、心配そうな面持ちで私の目をじっと見つめた後、落ち着かないかのように瞬きを繰り返した。
なぜ彼女の腕を引いたのか分からない。
気づいた時には、慌てる彼女を抱きしめていた。
「・・・・・・少しの間、このままでいさせてくれ」
あたたかい温もりに、涙が出そうだった。
やがて背中に置かれた手が優しく動きだすと、一瞬頭の中にフランではなく彼女の姿が浮かんだ。
決して楽しくないであろう私とのお茶会で、お菓子を摘み、お茶を飲む姿。
『無駄話は時間の浪費でしてよ』
夜会でフランの噂話をする令嬢達を、諌める姿。
「リリー」
大きな緑色の瞳に吸い寄せられるように、唇が重なった。
彼女が気になった。
側近に予定を調べさせ、苦戦しているらしいダンスレッスンでパートナーをつとめることにした。
『四ヶ国語を話し、学園を首席で卒業した才女だ』
父上は非の打ち所がない女性のように話していたが、お世辞にもダンスは上手いとは言えなかった。
それと同時に、今までに夜会で踊っていたにもかかわらず、まったく記憶がない自分を恥じた。
ダンスに苦手意識があったようだが、回を重ねるうちに自然で優雅に踊れるようになり、ダンス講師から褒められると、笑顔で喜ぶ姿を好ましく思った。
私達は親交を深めていき、父上と母上も安心しているようだった。
リリーと名前で呼ぶようになったのも自然な流れだった。
リリーと一緒にいると、優しさに包まれたような平和で穏やかな時間が流れる。
いつからか、私はぽつりぽつりとフランの話をするようになっていった。
そして、一年間の婚約期間を終え、私達は結婚した。
リリーの真っ白な体を抱きしめて、私達は愛し合った。
潤んでいる大きな緑色の瞳を見つめると愛おしさが込み上げて、何度もリリーの名前を呼んだ。
結婚を機に、リリーは私のことを『エリオット様』と呼んでくれるようになった。
「エリオット様!ありがとうございます!」
婚約期間に婚約者らしいことを満足に出来なかったので、今更ながら理由を付けてはリリーに贈り物をするのが趣味のような楽しみの一つになっていた。
ただリリーは、フランが好んでいた宝石やドレスにはあまり興味がないらしく、外国で出版されている小説、詩集、専門書といったものを贈ると喜んだ。
結婚二年目には、王妃である母上が肺を患い、病に適した環境での生活を医師に勧められ、父上が退位。
国王となった。
王妃となったリリーは淑女の鑑といわれるほど、美しさと気品に溢れ、若い女性の憧れとなっていた。
全ては、リリーの努力の結晶だった。
本来興味のない苦手な社交、美意識を高めるために数多くの努力をしたと侍女長が話していた。
そんな彼女と、この先人生を共に歩んで行けることに幸せを感じていた。
“リリー、君が話していたアイリーン・デヴォンのグレッソン語で書かれた詩集を見つけたよ。
気に入ってくれると嬉しい。
いつも君のことを想っている。
愛を込めて エリオット”
なのにーー
「陛下、カミンスキー公爵から連絡が。
フランチェスカ・パルディール侯爵夫人が事故に遭われて、陛下の名前を呼んでいると」
私は書類を放って、執務室を飛び出した。
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